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閑話21 帝国に戻ったアンドリアと父帝との対峙
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帝国に戻ったアンドリアと父帝との対峙
白銀の都――帝都グランディア。
その中心にそびえるのは、
数百年の歴史を刻んできた大理石の宮殿だった。
陽光を受けて輝くその姿は荘厳で、帝国の栄華を象徴していたが、アンドリアの胸の奥に広がるのは誇らしさよりも重苦しい緊張だった。
――ここへ戻るのは、何度目になるだろうか。
戦場から凱旋した時でさえ、彼の足取りは軽くなかった。
父皇帝の視線は、いつだって冷たかったからだ。
大理石の廊下を歩む靴音が、高く反響する。
左右に控える近衛騎士たちが、無言で彼を見送っていく。
かつては憧れの眼差しを向けてくれていた彼らも、今ではどこか距離を置いたような表情だった。
――ベルガモでの一件。
あの「過去のスキャンダル」が、まだ完全には払拭されていない証だった。
「殿下、こちらへ」
案内役の執事に導かれ、重厚な扉の前で立ち止まる。
深紅の絨毯が敷かれた玉座の間。その奥に、父が待っている。
扉が静かに開かれた瞬間、冷たい空気が肌を刺した。
高い天井。
巨大なステンドグラスから差し込む光。
その光の下で、玉座に腰かけるのは――父、皇帝ルドルフ四世。
金色の髪には白いものが混じり始めていたが、鋭い眼光と威厳は揺るぎない。
彼の存在そのものが、この広間を支配しているようだった。
「……アンドリア」
低い声が響く。
威圧感に満ちたその一言で、胸の奥が締めつけられる。
「父上」
アンドリアは一礼し、真正面からその瞳を見返した。
ここで怯んではならない。
何度も自分にそう言い聞かせてきた。
「帝国の任務を果たし、王国との交渉を終えて戻りました」
「交渉、だと?」
ルドルフの眉がわずかに動いた。
「報告は受けている。おまえは……王国のアルル姫に婚姻を申し込んだそうだな」
広間に冷たい沈黙が落ちた。
近衛や侍従たちが息をのむ気配が伝わってくる。
「はい」
アンドリアは声を張る。
「わたしはアルル姫に求婚いたしました。しかし、姫は『婚姻は王家が決めること』と仰せになった。だからこそ――帝国として正式に、アルル姫との婚姻を打診していただきたいのです」
「ほう」
皇帝の瞳が細められる。
その視線は、鋭い刃のようにアンドリアの心を刺し貫いた。
「おまえは己の恋心のために、帝国を動かすというのか」
「……恋心だけではございません!」
アンドリアの声が反響する。
「王国との友好を深めるためにも、この縁談は必要です。帝国と王国の未来の架け橋となれるのは、アルル姫しかおられない。わたしはその伴侶となり、帝国と王国を繋ぐ覚悟があります」
言い切った瞬間、玉座の間の空気がさらに冷えた。
ルドルフの顔には、わずかな嘲笑の色が浮かんでいた。
「覚悟……か。おまえがベルガモで起こした醜聞を、まだ忘れてはおらぬぞ」
その言葉に、アンドリアの喉が詰まる。
胸に突き刺さる記憶――あの夜会、あの屈辱、帝国中を駆け巡った噂。
彼の努力はその一件で泥にまみれ、父の信頼も失った。
「わかっています」
苦しげに息をつきながら、アンドリアは答える。
「わたしは過去の過ちを忘れたことはありません。ですが――だからこそ、アルル姫との婚姻を通じて、必ず名誉を取り戻してみせます」
ルドルフは腕を組み、深く息を吐いた。
「名誉を取り戻す……ふん。そんなもの、己の剣と戦功で築くものだ。女にすがって得られるものではない」
「違います!」
思わず声を荒げる。
「アルル姫はただの駒ではない。わたしにとって――唯一無二の方なのです」
広間に、ざわめきが広がる。
近衛の一人が息をのんだ音さえ聞こえるほど、空気が張りつめていた。
ルドルフの瞳が、鋭く光る。
「唯一無二、だと……?」
「はい」
アンドリアは一歩、玉座へ近づいた。
「わたしにはアルル姫しかいません。父上がなんと仰ろうと、わたしの決意は揺るぎません」
重苦しい沈黙。皇帝の表情は読み取れない。
だが、その奥にわずかな苛立ちが見える気がした。
「愚か者め……」
低くつぶやく声。
「おまえは己の感情を国政に持ち込もうとしている。帝国の皇子としてあるまじきことだ」
アンドリアは拳を握りしめる。
「いいえ。これは国のためでもあります。王国との関係を深めることは、帝国の未来にとって欠かせません。そして、それを実現できるのは、アルル姫との婚姻なのです」
ルドルフの視線が彼を貫く。
だがアンドリアはもう逸らさなかった。
胸の奥からこみ上げる思いが、彼を支えていた。
「父上……どうか、帝国の名でこの婚姻を王国に打診してください。それがわたしの願いです」
再び静寂。玉座の間に響くのは、遠くの時計の音だけ。
ルドルフは長く目を閉じ、やがてゆっくりと開いた。
その瞳には、冷酷な光と――わずかな興味の色が混ざっていた。
「……よかろう」
低い声が落ちる。
「だが覚えておけ、アンドリア。この縁談が帝国に仇をなすことがあれば――その責はすべておまえが負うのだ」
アンドリアは深く頭を垂れる。
「承知しております」
胸の奥で、熱いものが沸き立つ。
たとえ父の冷たい言葉に縛られても、進むしかない。
――アルル姫しかいない。
その想いが、彼を突き動かしていた。
白銀の都――帝都グランディア。
その中心にそびえるのは、
数百年の歴史を刻んできた大理石の宮殿だった。
陽光を受けて輝くその姿は荘厳で、帝国の栄華を象徴していたが、アンドリアの胸の奥に広がるのは誇らしさよりも重苦しい緊張だった。
――ここへ戻るのは、何度目になるだろうか。
戦場から凱旋した時でさえ、彼の足取りは軽くなかった。
父皇帝の視線は、いつだって冷たかったからだ。
大理石の廊下を歩む靴音が、高く反響する。
左右に控える近衛騎士たちが、無言で彼を見送っていく。
かつては憧れの眼差しを向けてくれていた彼らも、今ではどこか距離を置いたような表情だった。
――ベルガモでの一件。
あの「過去のスキャンダル」が、まだ完全には払拭されていない証だった。
「殿下、こちらへ」
案内役の執事に導かれ、重厚な扉の前で立ち止まる。
深紅の絨毯が敷かれた玉座の間。その奥に、父が待っている。
扉が静かに開かれた瞬間、冷たい空気が肌を刺した。
高い天井。
巨大なステンドグラスから差し込む光。
その光の下で、玉座に腰かけるのは――父、皇帝ルドルフ四世。
金色の髪には白いものが混じり始めていたが、鋭い眼光と威厳は揺るぎない。
彼の存在そのものが、この広間を支配しているようだった。
「……アンドリア」
低い声が響く。
威圧感に満ちたその一言で、胸の奥が締めつけられる。
「父上」
アンドリアは一礼し、真正面からその瞳を見返した。
ここで怯んではならない。
何度も自分にそう言い聞かせてきた。
「帝国の任務を果たし、王国との交渉を終えて戻りました」
「交渉、だと?」
ルドルフの眉がわずかに動いた。
「報告は受けている。おまえは……王国のアルル姫に婚姻を申し込んだそうだな」
広間に冷たい沈黙が落ちた。
近衛や侍従たちが息をのむ気配が伝わってくる。
「はい」
アンドリアは声を張る。
「わたしはアルル姫に求婚いたしました。しかし、姫は『婚姻は王家が決めること』と仰せになった。だからこそ――帝国として正式に、アルル姫との婚姻を打診していただきたいのです」
「ほう」
皇帝の瞳が細められる。
その視線は、鋭い刃のようにアンドリアの心を刺し貫いた。
「おまえは己の恋心のために、帝国を動かすというのか」
「……恋心だけではございません!」
アンドリアの声が反響する。
「王国との友好を深めるためにも、この縁談は必要です。帝国と王国の未来の架け橋となれるのは、アルル姫しかおられない。わたしはその伴侶となり、帝国と王国を繋ぐ覚悟があります」
言い切った瞬間、玉座の間の空気がさらに冷えた。
ルドルフの顔には、わずかな嘲笑の色が浮かんでいた。
「覚悟……か。おまえがベルガモで起こした醜聞を、まだ忘れてはおらぬぞ」
その言葉に、アンドリアの喉が詰まる。
胸に突き刺さる記憶――あの夜会、あの屈辱、帝国中を駆け巡った噂。
彼の努力はその一件で泥にまみれ、父の信頼も失った。
「わかっています」
苦しげに息をつきながら、アンドリアは答える。
「わたしは過去の過ちを忘れたことはありません。ですが――だからこそ、アルル姫との婚姻を通じて、必ず名誉を取り戻してみせます」
ルドルフは腕を組み、深く息を吐いた。
「名誉を取り戻す……ふん。そんなもの、己の剣と戦功で築くものだ。女にすがって得られるものではない」
「違います!」
思わず声を荒げる。
「アルル姫はただの駒ではない。わたしにとって――唯一無二の方なのです」
広間に、ざわめきが広がる。
近衛の一人が息をのんだ音さえ聞こえるほど、空気が張りつめていた。
ルドルフの瞳が、鋭く光る。
「唯一無二、だと……?」
「はい」
アンドリアは一歩、玉座へ近づいた。
「わたしにはアルル姫しかいません。父上がなんと仰ろうと、わたしの決意は揺るぎません」
重苦しい沈黙。皇帝の表情は読み取れない。
だが、その奥にわずかな苛立ちが見える気がした。
「愚か者め……」
低くつぶやく声。
「おまえは己の感情を国政に持ち込もうとしている。帝国の皇子としてあるまじきことだ」
アンドリアは拳を握りしめる。
「いいえ。これは国のためでもあります。王国との関係を深めることは、帝国の未来にとって欠かせません。そして、それを実現できるのは、アルル姫との婚姻なのです」
ルドルフの視線が彼を貫く。
だがアンドリアはもう逸らさなかった。
胸の奥からこみ上げる思いが、彼を支えていた。
「父上……どうか、帝国の名でこの婚姻を王国に打診してください。それがわたしの願いです」
再び静寂。玉座の間に響くのは、遠くの時計の音だけ。
ルドルフは長く目を閉じ、やがてゆっくりと開いた。
その瞳には、冷酷な光と――わずかな興味の色が混ざっていた。
「……よかろう」
低い声が落ちる。
「だが覚えておけ、アンドリア。この縁談が帝国に仇をなすことがあれば――その責はすべておまえが負うのだ」
アンドリアは深く頭を垂れる。
「承知しております」
胸の奥で、熱いものが沸き立つ。
たとえ父の冷たい言葉に縛られても、進むしかない。
――アルル姫しかいない。
その想いが、彼を突き動かしていた。
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