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閑話22 皇帝の決断と使節団の派遣
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皇帝の決断と使節団の派遣
帝都に吹く風はまだ冷たかった。季節は春を迎えているはずなのに、玉座の間を包む空気は張り詰めたままだった。
アンドリアが父帝に頭を下げてから数日。
その後の宮廷では、皇子の願いをめぐってさまざまな議論が巻き起こっていた。
「アルル姫との縁談など危険だ!」
強硬派の宰相が声を荒げる。
「王国は信用ならぬ。あの国の王女を皇子妃として迎えれば、帝国の威信が損なわれる恐れがある」
「しかし、王国は今や西方諸侯と抗争を抱えている。ここで手を差し伸べれば、確かな同盟となるやもしれぬ」
老練な外務卿が静かに言葉を返す。
意見は二分していた。
だが、最終的にその場を収めたのは皇帝ルドルフ自身だった。
「我が決断は変わらぬ。帝国の名において、王国に縁談を申し入れる」
玉座から放たれたその一言に、誰も逆らうことはできなかった。
――こうして、帝国から王国へ、正式な使節団が派遣されることとなった。
***
出発の日、白銀の宮殿の前庭には、豪奢な馬車と護衛騎士たちが整列していた。
帝国の紋章が描かれた旗がはためき、その荘厳な姿は、ただの外交ではなく一大行事であることを示していた。
アンドリアは馬上にいた。
重厚な黒の軍装に身を包み、背筋を伸ばしている。
その横顔は硬い決意に満ちていた。
「殿下……」
副官のカリスが声をかける。
「本当に、この道を選ばれるのですね」
「もちろんだ」
アンドリアは静かにうなずく。
「帝国の未来のため、そして……自分の心のために」
そう言い切ると、彼は馬の手綱を強く握った。
――アルル姫しかいない。
その想いが、胸の奥で燃えている。
***
数日後、王国の首都ヴェルナシアに、帝国使節団が到着した。
王宮の門前はざわめきに包まれる。
豪華な馬車から次々と降り立つ帝国の使者たち。
外務卿を筆頭に、近衛騎士、そして皇子アンドリアの姿。
「帝国の……皇子だ」
「ついに来たのか」
街の人々は驚きと好奇の視線を向ける。
噂はすでに広まっていた。
「皇子がアルル姫に求婚した」という一報は、王都全体を揺るがしていたからだ。
王宮の大広間に通された使節団は、王と王妃、そして王国の重臣たちの前に進み出た。
玉座に座る王は険しい顔で彼らを見据え、その隣で王妃は静かに微笑んでいる。
「皇帝陛下よりの親書をお届けに参りました」
外務卿が文書を差し出す。その声は堂々と響き渡った。
王がそれを受け取り、ゆっくりと封を切る。
広間に緊張が走る。
読み進める王の表情は厳しいままだったが、やがて沈黙を破るように口を開いた。
「……なるほど。帝国は、我が王国のアルルを皇子妃として迎えたいと申すか」
広間にざわめきが広がる。重臣の中には顔をしかめる者もいれば、驚きに口をあける者もいた。
「父上!」
その時、声が響いた。
扉の向こうから現れたのは、薄青のドレスに身を包んだアルル姫だった。
彼女の表情は穏やかだが、どこか緊張を隠しきれていない。
大広間の視線が一斉に彼女へ注がれる。
「アルル……」
王は娘を見やる。
その瞳には父としての迷いと、王としての責務が入り混じっていた。
アルルは一歩前に進み、アンドリアをまっすぐ見つめた。
彼女の瞳は揺れていたが、同時に凛とした強さを宿していた。
「わたくしの婚姻は……王家が決めることです」
再び、その言葉が告げられる。
アンドリアの胸に鋭い痛みが走った。
だが彼は、逃げるように視線を逸らすことはしなかった。
「承知しています」
彼は毅然と答える。
「ですが、どうか知ってください。私は――アルル姫、あなたを心からお慕いしております」
広間が静まり返った。誰も言葉を発しない。
王の顔に苦渋の影が浮かぶ。重臣たちもまた、どう反応すべきか迷っている様子だった。
その時、一人の貴族が声を上げた。
「陛下! この縁談は危険ですぞ! 帝国は強大ですが、あまりに一方的だ。姫を差し出すなど、王国の独立を危うくする!」
反対派の声が上がり、別の重臣が反論する。
「いや、逆だ! この縁談を受け入れれば、王国は帝国に守られる。むしろ我が国にとって好機!」
広間はたちまち喧噪に包まれた。
賛成と反対の声が飛び交い、王の頭を悩ませる。
――それでも、アンドリアの瞳はアルルだけを見つめ続けていた。
(どれほど反対されても構わない。私は、諦めない)
彼の胸に燃える想いは、少しの揺らぎもなかった。
***
会議は結論を出せぬまま終わった。
だが確かに、帝国からの縁談は王国の中枢を揺さぶり始めていた。
翌朝、王宮の中庭を歩いていたアルルは、ひとり静かに空を見上げていた。
青空は晴れ渡っているのに、胸の中には重苦しい影が広がっている。
(わたくしの婚姻が、国を左右する……。アンドリア殿下の気持ちは真実かもしれない。でも……)
彼女は小さく唇をかんだ。
まだ答えを出すことはできない。けれど――逃げることもできない。
そんな彼女の姿を、遠くからアンドリアは見つめていた。
強く、そして静かに。
――帝国の使節団が到着したことで、二つの国の運命は新たな局面を迎えたのだった。
そして、アルル姫の決断は如何に~
帝都に吹く風はまだ冷たかった。季節は春を迎えているはずなのに、玉座の間を包む空気は張り詰めたままだった。
アンドリアが父帝に頭を下げてから数日。
その後の宮廷では、皇子の願いをめぐってさまざまな議論が巻き起こっていた。
「アルル姫との縁談など危険だ!」
強硬派の宰相が声を荒げる。
「王国は信用ならぬ。あの国の王女を皇子妃として迎えれば、帝国の威信が損なわれる恐れがある」
「しかし、王国は今や西方諸侯と抗争を抱えている。ここで手を差し伸べれば、確かな同盟となるやもしれぬ」
老練な外務卿が静かに言葉を返す。
意見は二分していた。
だが、最終的にその場を収めたのは皇帝ルドルフ自身だった。
「我が決断は変わらぬ。帝国の名において、王国に縁談を申し入れる」
玉座から放たれたその一言に、誰も逆らうことはできなかった。
――こうして、帝国から王国へ、正式な使節団が派遣されることとなった。
***
出発の日、白銀の宮殿の前庭には、豪奢な馬車と護衛騎士たちが整列していた。
帝国の紋章が描かれた旗がはためき、その荘厳な姿は、ただの外交ではなく一大行事であることを示していた。
アンドリアは馬上にいた。
重厚な黒の軍装に身を包み、背筋を伸ばしている。
その横顔は硬い決意に満ちていた。
「殿下……」
副官のカリスが声をかける。
「本当に、この道を選ばれるのですね」
「もちろんだ」
アンドリアは静かにうなずく。
「帝国の未来のため、そして……自分の心のために」
そう言い切ると、彼は馬の手綱を強く握った。
――アルル姫しかいない。
その想いが、胸の奥で燃えている。
***
数日後、王国の首都ヴェルナシアに、帝国使節団が到着した。
王宮の門前はざわめきに包まれる。
豪華な馬車から次々と降り立つ帝国の使者たち。
外務卿を筆頭に、近衛騎士、そして皇子アンドリアの姿。
「帝国の……皇子だ」
「ついに来たのか」
街の人々は驚きと好奇の視線を向ける。
噂はすでに広まっていた。
「皇子がアルル姫に求婚した」という一報は、王都全体を揺るがしていたからだ。
王宮の大広間に通された使節団は、王と王妃、そして王国の重臣たちの前に進み出た。
玉座に座る王は険しい顔で彼らを見据え、その隣で王妃は静かに微笑んでいる。
「皇帝陛下よりの親書をお届けに参りました」
外務卿が文書を差し出す。その声は堂々と響き渡った。
王がそれを受け取り、ゆっくりと封を切る。
広間に緊張が走る。
読み進める王の表情は厳しいままだったが、やがて沈黙を破るように口を開いた。
「……なるほど。帝国は、我が王国のアルルを皇子妃として迎えたいと申すか」
広間にざわめきが広がる。重臣の中には顔をしかめる者もいれば、驚きに口をあける者もいた。
「父上!」
その時、声が響いた。
扉の向こうから現れたのは、薄青のドレスに身を包んだアルル姫だった。
彼女の表情は穏やかだが、どこか緊張を隠しきれていない。
大広間の視線が一斉に彼女へ注がれる。
「アルル……」
王は娘を見やる。
その瞳には父としての迷いと、王としての責務が入り混じっていた。
アルルは一歩前に進み、アンドリアをまっすぐ見つめた。
彼女の瞳は揺れていたが、同時に凛とした強さを宿していた。
「わたくしの婚姻は……王家が決めることです」
再び、その言葉が告げられる。
アンドリアの胸に鋭い痛みが走った。
だが彼は、逃げるように視線を逸らすことはしなかった。
「承知しています」
彼は毅然と答える。
「ですが、どうか知ってください。私は――アルル姫、あなたを心からお慕いしております」
広間が静まり返った。誰も言葉を発しない。
王の顔に苦渋の影が浮かぶ。重臣たちもまた、どう反応すべきか迷っている様子だった。
その時、一人の貴族が声を上げた。
「陛下! この縁談は危険ですぞ! 帝国は強大ですが、あまりに一方的だ。姫を差し出すなど、王国の独立を危うくする!」
反対派の声が上がり、別の重臣が反論する。
「いや、逆だ! この縁談を受け入れれば、王国は帝国に守られる。むしろ我が国にとって好機!」
広間はたちまち喧噪に包まれた。
賛成と反対の声が飛び交い、王の頭を悩ませる。
――それでも、アンドリアの瞳はアルルだけを見つめ続けていた。
(どれほど反対されても構わない。私は、諦めない)
彼の胸に燃える想いは、少しの揺らぎもなかった。
***
会議は結論を出せぬまま終わった。
だが確かに、帝国からの縁談は王国の中枢を揺さぶり始めていた。
翌朝、王宮の中庭を歩いていたアルルは、ひとり静かに空を見上げていた。
青空は晴れ渡っているのに、胸の中には重苦しい影が広がっている。
(わたくしの婚姻が、国を左右する……。アンドリア殿下の気持ちは真実かもしれない。でも……)
彼女は小さく唇をかんだ。
まだ答えを出すことはできない。けれど――逃げることもできない。
そんな彼女の姿を、遠くからアンドリアは見つめていた。
強く、そして静かに。
――帝国の使節団が到着したことで、二つの国の運命は新たな局面を迎えたのだった。
そして、アルル姫の決断は如何に~
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