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第45話 ローゼ視点 アルル姫との出会い
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王都の式典 ― ローゼ視点
王都に着いた時から、わたしの胸は小さな鼓動を繰り返していた。
今夜は弟君――エリオット殿下が王太子として人々の前に立つ、大切な式典。彼の婚約者として並び立つのは名誉であり、責務でもある。それなのに、どうしても心の奥が静まらなかった。
理由はひとつ。
かつての婚約者――アルベルト殿下。
断罪されたあの日から、わたしたちは言葉を交わしていない。あの夜、殿下の声は冷たく、容赦なかった。冤罪と知りながら、わたしを切り捨てた彼の瞳を、今も忘れられずにいる。
だが、聞こえてくる噂は奇妙なものばかりだった。
「殿下は姿を消した」
「去勢され、女として生きることになった」――。
信じがたい話に眉をひそめながらも、どこかで納得してしまう自分がいた。あの人の誇り高さと頑なさは、きっと自分の在り方を変えてでも貫こうとするものだったから。
◆
王宮の大広間は、まばゆいほどの光で満ちていた。
シャンデリアの輝き、磨かれた大理石の床、華やかな音楽。そして視線のすべては、エリオット殿下に注がれていた。
彼の凛とした姿を見て、思わず息を呑む。
いつの間にか少年らしさを脱ぎ捨て、堂々とした王太子の風格を身にまとっていた。わたしは自然と微笑み、胸を張って隣に立つ。――そう、もう隣にいるのはアルベルト殿下ではなく、弟のエリオット。
……そう思い込もうとした、その時。
「――続いて、王女殿下のご入場です」
宰相の声に、会場中がざわめいた。
王女? この国に、王女など存在しないはず。
誰もが怪訝な顔をする中、扉が開かれた瞬間、空気が凍りついた。
黄金の髪を柔らかく巻き、淡い薔薇色のドレスを纏った女性が、静かに歩み出てきたのだ。
優美な所作、気品ある微笑み。けれど――わたしは一目でわかってしまった。
「まさか……兄上?」
エリオットの声が震える。
わたしもまた、驚きに瞳を見開いていた。
だって、その人は……かつてわたしの婚約者だったアルベルト殿下だったから。
◆
信じられなかった。
けれど、その歩み、その微笑み、その凛とした瞳を見つめるうちに、否応なく理解させられた。
彼はもうアルベルトではない。
彼は――アルル姫として生まれ変わったのだ。
胸の奥が強く揺れた。
戸惑いと同時に、懐かしい頃の風景が浮かんだ。不思議な安堵感が押し寄せてくる。
◆
玉座の前で国王陛下に向かうアルル姫の言葉を、わたしは夢の中のように聞いていた。
「今、我が国に必要なのは二人の王子ではありません。……帝国の圧力に対して協力できる同盟国が必要です。それには、王女が必要なのではないでしょうか?」
――昔のアルベルト殿下の眼差しに戻っている。。
かつて、わたしに優しい未来を語っていたあの正義に満ちていた頃。
断罪の時のような冷たい目ではなく、ずっと澄んだ瞳をしていた。
そして振り返り、わたしを見つめて言った。
「あなたたちの未来を守りたいの。エリオットと共に歩む、あなたの道を」
その瞬間、胸の奥に溜まっていた重石がほどけた気がした。
驚きと、悲しみと、そして……喜び。
彼が昔の素敵な姿に戻ったことへの驚き。
もう彼とわたしは婚約者ではない、それでも彼からの別れの言葉が悲しく感じた。
けれど、かつて愛した人からの祝福の言葉は嬉しかった。
◆
式典は拍手と歓声の渦に包まれた。
人々は新たに現れた王女を讃え、未来の王太子を祝福する。
その中で、わたしは胸に手を当て、小さく祈った。
――アルル姫。
あなたが自分で選んだその道が、幸せでありますように。
かつての婚約者としてではなく、幼馴染として、ひとりの女性として。
わたしは、アルル姫の新しい生を祝福するのだった。
◆
後日、わたしは今まで疑問に思ったことを国王に訊ねてみた。
「そういえば、断罪されたアーサー、マッスルにアルル姫の3人の刑が重かったのに対して、ミーア嬢の刑が軽かったのには理由があるのですか?」
わたしの言葉に、国王は難しい表情を浮かべながら答えた。
「ミーア嬢を断罪すれば、それを口実にルーレット帝国はすぐにでも攻めてくるだろう」
「それはどういう意味ですか?」
「彼女はルーレット帝国の第二王女だ」
思いもよらない答えに、わたしは返す言葉が思い浮かばなかった。
王都に着いた時から、わたしの胸は小さな鼓動を繰り返していた。
今夜は弟君――エリオット殿下が王太子として人々の前に立つ、大切な式典。彼の婚約者として並び立つのは名誉であり、責務でもある。それなのに、どうしても心の奥が静まらなかった。
理由はひとつ。
かつての婚約者――アルベルト殿下。
断罪されたあの日から、わたしたちは言葉を交わしていない。あの夜、殿下の声は冷たく、容赦なかった。冤罪と知りながら、わたしを切り捨てた彼の瞳を、今も忘れられずにいる。
だが、聞こえてくる噂は奇妙なものばかりだった。
「殿下は姿を消した」
「去勢され、女として生きることになった」――。
信じがたい話に眉をひそめながらも、どこかで納得してしまう自分がいた。あの人の誇り高さと頑なさは、きっと自分の在り方を変えてでも貫こうとするものだったから。
◆
王宮の大広間は、まばゆいほどの光で満ちていた。
シャンデリアの輝き、磨かれた大理石の床、華やかな音楽。そして視線のすべては、エリオット殿下に注がれていた。
彼の凛とした姿を見て、思わず息を呑む。
いつの間にか少年らしさを脱ぎ捨て、堂々とした王太子の風格を身にまとっていた。わたしは自然と微笑み、胸を張って隣に立つ。――そう、もう隣にいるのはアルベルト殿下ではなく、弟のエリオット。
……そう思い込もうとした、その時。
「――続いて、王女殿下のご入場です」
宰相の声に、会場中がざわめいた。
王女? この国に、王女など存在しないはず。
誰もが怪訝な顔をする中、扉が開かれた瞬間、空気が凍りついた。
黄金の髪を柔らかく巻き、淡い薔薇色のドレスを纏った女性が、静かに歩み出てきたのだ。
優美な所作、気品ある微笑み。けれど――わたしは一目でわかってしまった。
「まさか……兄上?」
エリオットの声が震える。
わたしもまた、驚きに瞳を見開いていた。
だって、その人は……かつてわたしの婚約者だったアルベルト殿下だったから。
◆
信じられなかった。
けれど、その歩み、その微笑み、その凛とした瞳を見つめるうちに、否応なく理解させられた。
彼はもうアルベルトではない。
彼は――アルル姫として生まれ変わったのだ。
胸の奥が強く揺れた。
戸惑いと同時に、懐かしい頃の風景が浮かんだ。不思議な安堵感が押し寄せてくる。
◆
玉座の前で国王陛下に向かうアルル姫の言葉を、わたしは夢の中のように聞いていた。
「今、我が国に必要なのは二人の王子ではありません。……帝国の圧力に対して協力できる同盟国が必要です。それには、王女が必要なのではないでしょうか?」
――昔のアルベルト殿下の眼差しに戻っている。。
かつて、わたしに優しい未来を語っていたあの正義に満ちていた頃。
断罪の時のような冷たい目ではなく、ずっと澄んだ瞳をしていた。
そして振り返り、わたしを見つめて言った。
「あなたたちの未来を守りたいの。エリオットと共に歩む、あなたの道を」
その瞬間、胸の奥に溜まっていた重石がほどけた気がした。
驚きと、悲しみと、そして……喜び。
彼が昔の素敵な姿に戻ったことへの驚き。
もう彼とわたしは婚約者ではない、それでも彼からの別れの言葉が悲しく感じた。
けれど、かつて愛した人からの祝福の言葉は嬉しかった。
◆
式典は拍手と歓声の渦に包まれた。
人々は新たに現れた王女を讃え、未来の王太子を祝福する。
その中で、わたしは胸に手を当て、小さく祈った。
――アルル姫。
あなたが自分で選んだその道が、幸せでありますように。
かつての婚約者としてではなく、幼馴染として、ひとりの女性として。
わたしは、アルル姫の新しい生を祝福するのだった。
◆
後日、わたしは今まで疑問に思ったことを国王に訊ねてみた。
「そういえば、断罪されたアーサー、マッスルにアルル姫の3人の刑が重かったのに対して、ミーア嬢の刑が軽かったのには理由があるのですか?」
わたしの言葉に、国王は難しい表情を浮かべながら答えた。
「ミーア嬢を断罪すれば、それを口実にルーレット帝国はすぐにでも攻めてくるだろう」
「それはどういう意味ですか?」
「彼女はルーレット帝国の第二王女だ」
思いもよらない答えに、わたしは返す言葉が思い浮かばなかった。
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