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第65話 ラシアン皇帝視点 ルーレット帝国
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ルーレット帝国 ― 二十万枚の消失と皇帝の怒り
ルーレット帝国首都、黒曜石の尖塔がそびえ立つ宮殿の奥。
皇帝ラシアンは、宰相バーンズを前に険しい顔をしていた。
「……もう一度言え。金貨が、いくら消えたと?」
低く響く声に、バーンズは思わず背筋を震わせた。
手にしている書状を握りしめ、言葉を選びながら口を開く。
「はっ……金貨、二十万枚でございます」
広間に沈黙が落ちた。
燃えるような赤い絨毯の上で、ラシアン皇帝の瞳がぎらりと光る。
「二十万……? 桁を間違えてはいないだろうな」
「まさしく、その額にございます。帝国の宝物庫――遠征用に備蓄していた黄金から、一夜にして消え去ったのです。そして……こちらが残されたものです」
バーンズが差し出したのは、一枚の封筒。
そこには丁寧な筆致でこう記されていた。
《請求書》
《領収済》
中には明細がずらりと並んでいる。
・国宝級ダイヤモンド結婚指輪(ペア)……金貨20,000枚
・王宮御用達エメラルドネックレス……金貨10,000枚
・宝飾品オプション一式……金貨170,000枚
――合計:金貨200,000枚
ラシアン皇帝の眉間に深い皺が刻まれた。
「……指輪? ネックレス? 宝飾品?」
バーンズは青ざめた顔でうなずく。
「はい……どうやら、王国で活動していた工作員アーケンの名義で発行された請求書のようです。彼が現地で支払えなかったため、強制的に本国の財庫から引き落とされたと」
「馬鹿なッ!」
皇帝は玉座の肘掛けを叩いた。
轟音が広間に響き渡る。
「誰がそのような道化じみた契約を許可した! 帝国の宝を……婚約祝いだの、宝飾だのに費やすとは! ふざけるな!」
怒号に兵士たちが震え上がる。
だがバーンズは必死に言葉を絞り出した。
「お、おそらくは……アーケンの持つ《スキル》によるものかと。彼は王国に潜伏しており、諜報活動の過程で、何らかの……その、不可解な契約魔術に巻き込まれた可能性が」
「スキルだと? そんなもので金貨二十万枚が消えるのか!?」
ラシアンは目を剥き、拳を強く握りしめた。
「二十万枚だぞ! その金で三万の兵を装備できる。十万の民を養える。フリューゲル王国を攻め落とすために積み上げてきた財が、一夜にして……!」
怒りに震える声が宮殿を揺るがす。
バーンズは額の汗をぬぐいながら、声を潜めた。
「……このままでは、遠征の資金が枯渇いたします。補填できる財源は限られておりますゆえ……予定していた三か月後の王国侵攻、難しいかと」
「馬鹿な」
皇帝は低く唸った。
「王国の内乱が広がり、宮廷が揺らいでいる今こそ、我らが突き崩す好機。三か月後を逃せば、王国は再び立て直すだろう。そうなれば、数十年は機を失う」
「……左様にございます。ですが、財が尽きれば兵は動きませぬ。陛下、今一度ご決断を」
バーンズの言葉は冷酷な現実だった。
軍は金で動く。
食料も武具も輸送も、すべて黄金がなければ成立しない。
皇帝はしばし沈黙し、やがて立ち上がった。
漆黒のマントが大きく揺れる。
「……アーケンを呼び戻せ」
バーンズが目を見開く。
「陛下、それは……」
「奴自身に説明させろ! 何をどうやって二十万枚を浪費したのか、この耳で聞かねば気が済まぬ。帝国の財を失わせた大罪人……いや、裏切り者かもしれぬ!」
皇帝の声は怒りに満ち、広間の空気を凍りつかせた。
「ただちに密命を下せ。アーケンを拘束し、城へ連行せよ。奴の口からすべてを聞き出す。必要とあらば……処断も辞さぬ」
バーンズは深々と頭を垂れた。
「御意」
だが彼の心中にもまた暗い影が広がっていた。
――アーケンが本当に裏切ったのか、それとも未知の力に巻き込まれたのか。
いずれにせよ、このままでは帝国の未来が危うい。
燃えさかる燭台の炎が、玉座の影を揺らす。
三か月後の遠征計画は、すでに全軍に周知され、準備も進んでいる。
だが資金の枯渇は致命的。
もし計画が狂えば、帝国の威信そのものが失墜しかねない。
ラシアン皇帝は窓辺に立ち、遠く王国の方向をにらみつけた。
「フリューゲル王国……必ずや飲み込んでくれる……! そのために二十万を失ったのではない。だが……」
拳を握りしめる。
「アーケン……貴様の愚行、必ず明らかにしてくれよう」
その夜、帝都を駆け抜ける密命の使者たち。
そして、王国で甘美な引きこもり生活を送るローゼの耳に、その報せが届くことはまだなかった――。
ルーレット帝国首都、黒曜石の尖塔がそびえ立つ宮殿の奥。
皇帝ラシアンは、宰相バーンズを前に険しい顔をしていた。
「……もう一度言え。金貨が、いくら消えたと?」
低く響く声に、バーンズは思わず背筋を震わせた。
手にしている書状を握りしめ、言葉を選びながら口を開く。
「はっ……金貨、二十万枚でございます」
広間に沈黙が落ちた。
燃えるような赤い絨毯の上で、ラシアン皇帝の瞳がぎらりと光る。
「二十万……? 桁を間違えてはいないだろうな」
「まさしく、その額にございます。帝国の宝物庫――遠征用に備蓄していた黄金から、一夜にして消え去ったのです。そして……こちらが残されたものです」
バーンズが差し出したのは、一枚の封筒。
そこには丁寧な筆致でこう記されていた。
《請求書》
《領収済》
中には明細がずらりと並んでいる。
・国宝級ダイヤモンド結婚指輪(ペア)……金貨20,000枚
・王宮御用達エメラルドネックレス……金貨10,000枚
・宝飾品オプション一式……金貨170,000枚
――合計:金貨200,000枚
ラシアン皇帝の眉間に深い皺が刻まれた。
「……指輪? ネックレス? 宝飾品?」
バーンズは青ざめた顔でうなずく。
「はい……どうやら、王国で活動していた工作員アーケンの名義で発行された請求書のようです。彼が現地で支払えなかったため、強制的に本国の財庫から引き落とされたと」
「馬鹿なッ!」
皇帝は玉座の肘掛けを叩いた。
轟音が広間に響き渡る。
「誰がそのような道化じみた契約を許可した! 帝国の宝を……婚約祝いだの、宝飾だのに費やすとは! ふざけるな!」
怒号に兵士たちが震え上がる。
だがバーンズは必死に言葉を絞り出した。
「お、おそらくは……アーケンの持つ《スキル》によるものかと。彼は王国に潜伏しており、諜報活動の過程で、何らかの……その、不可解な契約魔術に巻き込まれた可能性が」
「スキルだと? そんなもので金貨二十万枚が消えるのか!?」
ラシアンは目を剥き、拳を強く握りしめた。
「二十万枚だぞ! その金で三万の兵を装備できる。十万の民を養える。フリューゲル王国を攻め落とすために積み上げてきた財が、一夜にして……!」
怒りに震える声が宮殿を揺るがす。
バーンズは額の汗をぬぐいながら、声を潜めた。
「……このままでは、遠征の資金が枯渇いたします。補填できる財源は限られておりますゆえ……予定していた三か月後の王国侵攻、難しいかと」
「馬鹿な」
皇帝は低く唸った。
「王国の内乱が広がり、宮廷が揺らいでいる今こそ、我らが突き崩す好機。三か月後を逃せば、王国は再び立て直すだろう。そうなれば、数十年は機を失う」
「……左様にございます。ですが、財が尽きれば兵は動きませぬ。陛下、今一度ご決断を」
バーンズの言葉は冷酷な現実だった。
軍は金で動く。
食料も武具も輸送も、すべて黄金がなければ成立しない。
皇帝はしばし沈黙し、やがて立ち上がった。
漆黒のマントが大きく揺れる。
「……アーケンを呼び戻せ」
バーンズが目を見開く。
「陛下、それは……」
「奴自身に説明させろ! 何をどうやって二十万枚を浪費したのか、この耳で聞かねば気が済まぬ。帝国の財を失わせた大罪人……いや、裏切り者かもしれぬ!」
皇帝の声は怒りに満ち、広間の空気を凍りつかせた。
「ただちに密命を下せ。アーケンを拘束し、城へ連行せよ。奴の口からすべてを聞き出す。必要とあらば……処断も辞さぬ」
バーンズは深々と頭を垂れた。
「御意」
だが彼の心中にもまた暗い影が広がっていた。
――アーケンが本当に裏切ったのか、それとも未知の力に巻き込まれたのか。
いずれにせよ、このままでは帝国の未来が危うい。
燃えさかる燭台の炎が、玉座の影を揺らす。
三か月後の遠征計画は、すでに全軍に周知され、準備も進んでいる。
だが資金の枯渇は致命的。
もし計画が狂えば、帝国の威信そのものが失墜しかねない。
ラシアン皇帝は窓辺に立ち、遠く王国の方向をにらみつけた。
「フリューゲル王国……必ずや飲み込んでくれる……! そのために二十万を失ったのではない。だが……」
拳を握りしめる。
「アーケン……貴様の愚行、必ず明らかにしてくれよう」
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そして、王国で甘美な引きこもり生活を送るローゼの耳に、その報せが届くことはまだなかった――。
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