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第71話 ローゼ視点 後日譚ルーレット帝国の最期
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ローゼと帝国崩壊の報せ
王宮の一室。
薄桃色のカーテンから差し込む午後の光に包まれて、私はふわりと笑みを浮かべていた。
目の前には三段重ねのケーキスタンド。
色鮮やかなマカロンに、しっとりとしたショートケーキ、香り高い焼き菓子たちが整列している。
「んーっ……引きこもり生活も良かったけど外の世界も最高だわ」
フォークでひとすくいした苺ショートを口に含む。
ふわふわのスポンジと、甘酸っぱい苺が溶け合って、思わず頬が緩んだ。
帝国工作員? 陰謀? そんなもの、私の世界には関係ない。
ここには紅茶とお菓子、そして静かな午後があるだけ。
――コン、コン。
「ローゼ様、失礼いたします」
扉の向こうから控えめな声。
執務官のルイーズだ。
あらたまった調子だったので、私は小首を傾げる。
「どうしたの? 新しい請求書なら机の上に置いておいて」
「い、いえ……そうではなく……実は緊急の報せが……」
ルイーズが珍しく動揺しているのを見て、私は紅茶を置いた。
「緊急? まさかまた帝国から攻め込まれるとか?」
「そ、それが……逆でして……」
ルイーズは一呼吸おき、信じられない言葉を口にした。
「ルーレット帝国……滅亡、でございます」
「……………………え?」
私は思わず、フォークを落とした。
カラン、と音を立てたそれを見下ろしながら、頭の中が真っ白になる。
「い、今なんて言ったの?」
「ルーレット帝国が……民衆の蜂起によって崩壊したと。皇帝陛下は拘束され、宰相も行方不明、帝国は完全に瓦解したそうです」
「……えぇぇぇぇぇっ!?」
思わず立ち上がった私の声が、部屋中に響き渡った。
あの巨大な帝国が、まさかこんな突然に――?
◇
「だ、だって……あそこって、フリューゲル王国を侵攻しようとしてたと噂で、それでお父様と国王様が海外に同盟を結びに外交してたのよね? 準備も整ってたって聞いてるし……」
「はい。しかし……どうやら“財政破綻”が原因のようでして」
「ざ、財政破綻?」
私はぽかんとした顔で繰り返した。
「……そんな理由で国が滅ぶわけ――」
――そのとき。
机の端に積み重ねられた分厚い封筒の山が、目に入った。
今まで届いた“請求書”たちだ。
「……あ」
私は凍りついた。
「ま、まさか……」
「はい。どうやらルーレット帝国から送られてきた工作員アーケンなる者が原因らしく……請求書が本国の財務局に強制的に送られ、支払いが行われ……」
ルイーズの言葉に合わせるように、私の脳裏に浮かんだ。
昨日食べた高級パフェ。
先週買った豪華寝具セット。
つい出来心で注文したシルクのドレス十着。
――全部、帝国の金貨で払われていた!?
「ひぃぃぃっ!」
私は思わず自分の頬を押さえた。
「じ、じゃあ私……国ひとつ潰しちゃったの!?」
「そ、そういうことに……なりますね」
ルイーズの答えに、頭がクラクラした。
◇
その後、宮廷の会議は大混乱となった。
王や大臣たちが「信じられん!」「請求書で帝国が崩壊しただと!?」と口々に叫ぶ中、私は小さく肩をすくめる。
「わ、私はただ……お菓子を食べてただけで……」
「ローゼ様……その“お菓子”が金貨数万枚に化けていたのです」
冷静なルイーズの突っ込みに、私は思わず顔を覆った。
「ど、どうしよう……歴史に残っちゃうよ……! “お菓子で帝国を滅ぼした姫君”とか呼ばれるの絶対嫌なんだけど!」
「安心なさってください、王太子妃様」
ルイーズはにやりと笑った。
「後世の歴史家たちは、誰も信じはしないでしょう」
「……それもそれで、なんか嫌ぁぁ!」
◇
こうして、ルーレット帝国は“請求書の連鎖”によって滅び去った。
その知らせを受けた王国の人々は、恐怖よりもむしろ呆気にとられ、最後には笑い出すしかなかったという。
――そして私は今も、窓辺で紅茶を飲みながら考える。
「……お菓子って、やっぱり恐ろしい」
カップを傾けるたびに、どこか遠くから「アーケンの断末魔」が聞こえた気がした。
王宮の一室。
薄桃色のカーテンから差し込む午後の光に包まれて、私はふわりと笑みを浮かべていた。
目の前には三段重ねのケーキスタンド。
色鮮やかなマカロンに、しっとりとしたショートケーキ、香り高い焼き菓子たちが整列している。
「んーっ……引きこもり生活も良かったけど外の世界も最高だわ」
フォークでひとすくいした苺ショートを口に含む。
ふわふわのスポンジと、甘酸っぱい苺が溶け合って、思わず頬が緩んだ。
帝国工作員? 陰謀? そんなもの、私の世界には関係ない。
ここには紅茶とお菓子、そして静かな午後があるだけ。
――コン、コン。
「ローゼ様、失礼いたします」
扉の向こうから控えめな声。
執務官のルイーズだ。
あらたまった調子だったので、私は小首を傾げる。
「どうしたの? 新しい請求書なら机の上に置いておいて」
「い、いえ……そうではなく……実は緊急の報せが……」
ルイーズが珍しく動揺しているのを見て、私は紅茶を置いた。
「緊急? まさかまた帝国から攻め込まれるとか?」
「そ、それが……逆でして……」
ルイーズは一呼吸おき、信じられない言葉を口にした。
「ルーレット帝国……滅亡、でございます」
「……………………え?」
私は思わず、フォークを落とした。
カラン、と音を立てたそれを見下ろしながら、頭の中が真っ白になる。
「い、今なんて言ったの?」
「ルーレット帝国が……民衆の蜂起によって崩壊したと。皇帝陛下は拘束され、宰相も行方不明、帝国は完全に瓦解したそうです」
「……えぇぇぇぇぇっ!?」
思わず立ち上がった私の声が、部屋中に響き渡った。
あの巨大な帝国が、まさかこんな突然に――?
◇
「だ、だって……あそこって、フリューゲル王国を侵攻しようとしてたと噂で、それでお父様と国王様が海外に同盟を結びに外交してたのよね? 準備も整ってたって聞いてるし……」
「はい。しかし……どうやら“財政破綻”が原因のようでして」
「ざ、財政破綻?」
私はぽかんとした顔で繰り返した。
「……そんな理由で国が滅ぶわけ――」
――そのとき。
机の端に積み重ねられた分厚い封筒の山が、目に入った。
今まで届いた“請求書”たちだ。
「……あ」
私は凍りついた。
「ま、まさか……」
「はい。どうやらルーレット帝国から送られてきた工作員アーケンなる者が原因らしく……請求書が本国の財務局に強制的に送られ、支払いが行われ……」
ルイーズの言葉に合わせるように、私の脳裏に浮かんだ。
昨日食べた高級パフェ。
先週買った豪華寝具セット。
つい出来心で注文したシルクのドレス十着。
――全部、帝国の金貨で払われていた!?
「ひぃぃぃっ!」
私は思わず自分の頬を押さえた。
「じ、じゃあ私……国ひとつ潰しちゃったの!?」
「そ、そういうことに……なりますね」
ルイーズの答えに、頭がクラクラした。
◇
その後、宮廷の会議は大混乱となった。
王や大臣たちが「信じられん!」「請求書で帝国が崩壊しただと!?」と口々に叫ぶ中、私は小さく肩をすくめる。
「わ、私はただ……お菓子を食べてただけで……」
「ローゼ様……その“お菓子”が金貨数万枚に化けていたのです」
冷静なルイーズの突っ込みに、私は思わず顔を覆った。
「ど、どうしよう……歴史に残っちゃうよ……! “お菓子で帝国を滅ぼした姫君”とか呼ばれるの絶対嫌なんだけど!」
「安心なさってください、王太子妃様」
ルイーズはにやりと笑った。
「後世の歴史家たちは、誰も信じはしないでしょう」
「……それもそれで、なんか嫌ぁぁ!」
◇
こうして、ルーレット帝国は“請求書の連鎖”によって滅び去った。
その知らせを受けた王国の人々は、恐怖よりもむしろ呆気にとられ、最後には笑い出すしかなかったという。
――そして私は今も、窓辺で紅茶を飲みながら考える。
「……お菓子って、やっぱり恐ろしい」
カップを傾けるたびに、どこか遠くから「アーケンの断末魔」が聞こえた気がした。
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