婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス

文字の大きさ
97 / 97

第75話 最終回 アルル姫の旅立ち

しおりを挟む
運命の花嫁 ― アルル姫の嫁入りの日

 私とエリオットの結婚式から、ひと月ほどが過ぎた。
 王宮の慌ただしさも落ち着き、少しずつ新しい日常を取り戻していたけれど、今日はまた大きな節目の日だった。

 ――アルル姫の嫁入り。

 白百合のように気高く、同時に少女らしい繊細さを持つアルル姫が、ついにカサマーラ王国へと輿入れするのだ。
 彼女の婚約者は、マンハイム=ドレスデン公爵家の若き当主、マンハイム殿下。冷静沈着で知られるが、内には熱い理想を抱いている人物だと聞いている。



 朝早く、王宮の大広間は花々で彩られていた。
 薔薇や百合、チューリップ……春を告げる花々が一面に飾られ、香りが空気に溶けていく。今日ばかりは、王宮そのものが祝福の庭園のように思えた。

 その中央で、アルル姫は純白のドレスに身を包み、侍女たちに囲まれていた。
 宝石のような青い瞳は少し潤み、緊張で小さく震えている。それでも、彼女の姿は凛としていて、王女という立場を最後までまっとうしようとする意志が伝わってきた。

「ローゼ……」
 私に気づくと、アルル姫はふっと笑みを浮かべた。

「おはようございます、姫様」
「今日からはもう“姫様”ではなくなりますわ。……でも、あなたにそう呼ばれるのも、これで最後ね」

 その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
 アルル姫は自国を離れ、もう戻らないのだ。王族としての責務――国と国とを結ぶ懸け橋になるために。

「寂しいですか?」と私が問うと、彼女は小さく首を横に振った。
「いいえ。寂しくないといえば嘘になるけれど……私の未来は、私だけのものではありませんもの。父王のため、国のため、そして民のため。私は、嫁ぐのです」

 その横顔は、少女ではなく、未来を背負う女性のものだった。



 やがて出立の刻が訪れた。
 王宮の正門前には、豪奢な馬車と、カサマーラ王国からの使節団が待ち構えている。鎧に身を包んだ騎士たちの列、そして紋章を掲げた旗が風にたなびいていた。

 国王陛下は娘を前に立ち、ゆっくりとその手を取った。
「アルル。おまえは我が誇りだ。どうか異国にあっても、自らを忘れることなく生きよ」
「はい……お父様」

 アルル姫の瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。
 けれどその涙は、決して弱さの証ではない。むしろ、覚悟を込めた涙だと誰もが理解していた。

 続いて、エリオットと私も見送りの列に加わる。
 殿下は穏やかに笑みを浮かべて「どうか幸せに」と告げ、私はその隣で言葉を添えた。

「アルル姫。あなたの強さは、きっと新しい国でも花開きます。どうか、自分を信じて」
「ローゼ……ありがとう。あなたがいたから、ここまで歩いて来られたのだと思います」

 そう言って彼女は私を抱きしめた。温かな体温が伝わり、目頭が熱くなる。
 別れは苦しいけれど、それでも――彼女は前へ進むのだ。



 いよいよ馬車へと乗り込む時が来た。
 楽団が高らかに音楽を奏で、民衆が通りを埋め尽くして歓声を上げる。花びらが舞い、白馬がゆっくりと歩みを進めた。

 アルル姫は窓から顔を出し、笑顔で手を振った。
 その姿はまるで光そのもののようで、見送る者たちに勇気を与えていた。

「ありがとう……皆さん。必ず、幸せになります!」

 その声は広場中に響き渡り、人々の拍手がそれに応えた。



 馬車の列が遠ざかっていく。
 白いドレスの姿が小さくなり、やがて見えなくなるまで、私はずっと立ち尽くしていた。

 ――どうか、幸せになって。

 そう願わずにはいられなかった。

 彼女が嫁ぐ先、マンハイム=ドレスデン公爵家は、カサマーラ王国でも名門中の名門だという。
 その未来が困難であろうとも、アルル姫ならきっと乗り越えていける。私と同じように。



 夕暮れ。王宮のバルコニーで、私はエリオットと共に遠くの空を眺めていた。
 沈む陽が赤く空を染め、まるで新しい旅立ちを祝福しているようだった。

「アルル姫は……きっと大丈夫だよね」
「ええ。彼女は強いもの。私たちが思う以上に」

 殿下は静かにうなずき、私の手を握った。
「僕たちも、負けていられないね。共に国を支えていくって、誓ったんだから」
「……はい。アルル姫に恥じないように」

 私たちは固く手を繋ぎ、夕暮れの空に消えていった花嫁の姿を胸に刻んだ。

 それは別れであると同時に、新しい絆の始まりでもあった。

 そう18年後、4か国に分かれた者たちの子供たちが、再びフリューゲル王国の学び舎に集まり、わいわいするとは、この時の、ローゼはまったく想像していなかったのでした。
 【完】

 あとがき、最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。また感想、投票していただいたすべての方にこの場をもって深くお礼申し上げます。ありがとうございました。感謝です。
しおりを挟む
感想 122

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(122件)

votoms
2025.11.18 votoms

まだ第一話ですが、なんというか
「気に入らなければ、公爵家でさえ罠にかける王家」という評価がついたら国が終わるぜ
そして【男爵令嬢ごとき】に上位貴族が頭を下げるかどうか
それすら考えない王子と、その無能王子を放置する王…ダメだこりゃ、先はないよ

2025.11.19 山田 バルス

いらっしゃいませ、votoms様

ご来店ありがとうございます。

ようこそ、バルスカフェへ 

( ´,,•ω•)_旦~~

読書のお供にお飲み物はいかがですか?

 (っ´∀)っ🍵 **ブレンドコーヒー**になります

 ~(=^・ω・^)_旦 ありがとうございます。

またのご利用をお待ちしています♡

 (っ´ωc)💕

――店主 バルスより (。•ᴗ•。)☀

解除
一色
2025.10.31 一色

ファンタジー大賞読者賞おめでとうございます
数話読ませていただきましたが、とても面白い!
これからじっくり読ませていただきます✨😌✨

2025.10.31 山田 バルス

いらっしゃいませ、一色様

ご来店ありがとうございます。

ようこそ、バルスカフェへ 

( ´,,•ω•)_旦~~

読書のお供にお飲み物はいかがですか?

 (っ´∀)っ🍵 **キャラメルマキアート**になります

 ~(=^・ω・^)_旦 ありがとうございます。

またのご利用をお待ちしています♡

 (っ´ωc)💕

――店主 バルスより (。•ᴗ•。)☀

解除
おゆう
2025.09.30 おゆう

18年後のお話も読みたいかも(笑)。良かった、ローゼ達が幸せになって。

解除

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります! 🔶表紙はAI生成画像です🤖

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

騎士団長を追放した平和ボケ王国は、七日で滅びました

藤原遊
ファンタジー
長らく戦のなかった王国で、 騎士団長の父を病で失った令嬢は、その座を引き継いだ。 だが王城に呼び出された彼女に告げられたのは、 騎士団の解体と婚約破棄。 理由はただ一つ―― 「武力を持つ者は危険だから」。 平和ボケした王子は、 非力で可愛い令嬢を侍らせ、 彼女を“国の火種”として国外追放する。 しかし王国が攻められなかった本当の理由は、 騎士団長家が持つ“戦況を覆す力”への恐れだった。 追放された令嬢は、即座に隣国帝国へ迎えられ、 軍人として正当に評価され、安泰な地位を得る。 ――そして一週間後。 守りを捨てた王国は、あっけなく陥落した。 これは、 「守る力」を理解しなかった国の末路と、 追放された騎士団長令嬢のその後の物語。

時が巻き戻った悪役令嬢は、追放先で今度こそ幸せに暮らしたい

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【その断罪、待っていました!】 私は侯爵令嬢オフィーリア・ドヌーブ。王太子アシル・バスチエの婚約者だった。良い国母になる為、日々努力を怠らなかった。そんなある日、聖女を名乗る女性ソネットが現れ、あっという間にアシルは彼女に夢中になってしまう。妃の座を奪われることに危機感を抱いた私は、ありとあらゆる手段でソネットを陥れようとして失敗。逆に罰として侯爵家から除籍され、辺境の地へ幾人かの使用人達と共に追放されてしまう。追放先の村での暮らしは不便だったが、人々は皆親切だった。けれど元侯爵令嬢というプライドから最後まで私は素直になれなかった。そんな自分に後悔しながら長い時を孤独に過ごしていたある日。不思議な懐中時計の力によって、何故か断罪の真っ最中に時が巻き戻っていた。聖女への嫌がらせは無かったことに出来ない。それなら今世はおとなしく追放されて和やかに過ごそう。今度こそ幸せに暮らす為に—— ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。