冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!

山田 バルス

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第34話 ロベルトとリース

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小さな出来事の積み重ね

 ◇

 リースと一緒に買い物へ出かけた日のことが、ロベルトの胸の奥で何度も蘇る。
 ――俺は、リースさんが好きだ。
 自覚してからというもの、彼女の笑顔や仕草ひとつひとつが気になって仕方がなかった。

 けれど、その想いを口にする勇気はまだない。彼女に気づかれないように、自然に距離を縮めるしかないのだ。

 ◇

 ある日の昼休み。騎士団の食堂。
 いつも通り団員たちで賑わう中、リースが食事を運んでいるのが見えた。

「ロベルト、こっち空いてるよ」

 彼女が手を振った。ロベルトは心臓が跳ねるのを感じながらも、平然を装ってその席に座った。

「今日のスープ、ちょっと味が濃いかな」
「……うん、でも疲れてる時にはちょうどいいかも」

 軽く笑い合う。ほんのそれだけなのに、ロベルトには嬉しくて仕方がなかった。周りから見ればただの雑談でも、自分にとっては宝物のように思える。

「そういえばロベルト、昨日の模擬戦、すごかったですよ。相手の動きを一瞬で読んで……」
「そ、そんな大したことじゃないよ」

 褒められると、思わず耳まで赤くなる。リースは不思議そうに首をかしげたが、やがて優しく笑った。

「謙虚だね」

 その一言で、また心臓がドクンと高鳴る。
 彼女に認めてもらえるだけで、こんなにも嬉しいのかと自分でも驚いた。

 ◇

 また別の日。

 王都の外れまで貴族の護衛任務に出かけることになった。
 団長の判断で、リースも記録係として同行することになり、ロベルトの胸は期待と緊張でいっぱいだった。

 馬車の中で、リースは窓の外を見ながら書き物をしている。横顔は真剣そのもので、銀髪がさらさらと肩に流れる。

「……リース、酔ってない?」
「大丈夫だよ。お気遣いありがとうね」

 彼女は笑ってそう答えたが、少しだけ頬の色が悪い。ロベルトはとっさに自分の水筒を差し出した。

「よければ、これ。少し飲むと楽になるぞ」
「……ありがとうね」

 小さなやり取り。でも、受け取った彼女の指が一瞬自分の手に触れただけで、胸の奥が熱くなる。

 任務中、貴族の屋敷で予想外のトラブルが起きたときもそうだ。門前で騒ぎがあり、護衛の団員が慌てる中、リースが書類を抱えて不安げに立っていた。

「リース、下がって!」

 ロベルトはとっさに彼女の前に立ち、木剣を抜いて周囲を見渡した。結果的に大事には至らなかったが、その時の彼女の安堵した表情が忘れられなかった。

「……守ってくれて、ありがとう」
「当たり前だろ。俺は騎士団員だから」

 そう答えながらも、心の中では――「騎士団員だから」だけじゃない。
 リースだから、守りたいんだ――そう叫んでいた。

 ◇

 任務を終えて帰った夜。

 リースは疲れ切って事務所の机に突っ伏していた。
 残務処理がまだ残っているらしい。

「大丈夫? もう遅いし、続きは明日でも」
「でも、今日中にやっておかないと……」

 眉を寄せるリースを見て、ロベルトはそっとペンを手に取った。

「じゃあ、俺も手伝うよ。数字とか表くらいなら見れるし」
「え、でも……」
「遠慮しないで。俺だって仲間だから」

 その一言で、リースは少し驚いたように彼を見つめた。
 やがてふっと笑って、ペンを預けてきた。

「……ありがとうございます」

 並んで書類を片づける。
 小さなランプの灯りの下で、紙をめくる音と、二人の静かな呼吸だけが響く。

 そのひとときが、ロベルトにはたまらなく幸せに思えた。

 ◇

 そして夜更け。

 事務所を出て寮へ戻る途中、ふいにリースが立ち止まった。

「ロベルトって……本当に、頼りになるよね」

 そう言って柔らかく笑う。その笑顔に、ロベルトは息を呑んだ。

 (ああ、やっぱり俺は……この人が好きだ)

 恋心を隠そうとすればするほど、膨らんでいく。けれど打ち明ける勇気はまだない。

 だからせめて――もっと近くで、彼女を支えたい。

 そう強く願いながら、ロベルトは歩き出すリースの後ろ姿を追いかけた。
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