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第5話 黒き森の王
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今度は、鋭い毒牙を持つ《バジリスク》が、地を這うようにして迫る。
さらには、上空を旋回する《ワイバーン》の影。
魔物たちは、まるで彼に引き寄せられるかのように群がってきた。
しかし、恐れはなかった。
むしろ、それらとの戦いこそが、彼を“生かして”いた。
「狩る。狩って、生きる。剣が、俺の命だ」
剣を構えた瞬間、彼の動きに迷いはなかった。
魔物の足音、羽音、風の流れ、そのすべてを感じ取り、数手先の未来を読む。
“剣聖”というスキルは、ただの称号ではない。
それは、一瞬の選択の精度を極限まで研ぎ澄ませる、まさに“戦いの神域”への扉であった。
彼の斬撃は無駄がなく、静かで、そして凶悪だった。
切るよりも先に、斬られている。
魔物たちが反応する前に、すでに勝負はついている。
倒した魔物からは、素材や魔核を回収し、すべてアイテムボックスに収納。
時折、町に下りては商人ギルドを通じて売却し、貨幣を得る。
その金で、新たな装備を整え、鍛錬を重ねる。
時折、酒屋に立ち寄ってのんびりするゆとりも出てきた。
「魔獣王バルグロスの討伐に騎士団100人が出たらしいが、全滅したらしい」
「魔獣王、あいつがいる限り、あの周辺は、人は近づけないな」
「あれを討伐できたら、まー、国の英雄だよ。そんな奴いないだろうが」
「魔獣王は、無理だな。あれは人間でどうこうできる存在じゃない」
冒険者たちの噂話を流し聞きながら、カールは薄く笑みを浮かべた。
魔獣王か、面白そうな相手だ!
さらなる目標ができた彼の剣は、日々進化していた。
そして誰も知らぬうちに、《グレンディアの森の奥に、魔物を狩る“黒衣の剣士”がいる》という噂が、静かに広がり始めていた。
だがその男が、かつてキリト伯爵家の三男であり、追放された若者だと知る者は、まだ誰一人としていなかった——。
◇
毒牙の刃、死を招く影
霧深きグレンディアの森。
腐葉土の匂いが濃く漂う岩場の小道に、異様な緊張が走っていた。
風が止まった。
空気そのものが毒を孕んだような、粘りつくような静寂。
カールは、手にした剣をそっと構える。
目の前の茂みから、低く湿った唸り声が響いた。
――ザッ。ザッ。
音もなく這い出てきたそれは、全身を鱗に覆われた巨大な蛇――《バジリスク》だった。
だが、ただの蛇ではない。
頭部には龍を思わせる鋭角の冠状骨が突き出し、目は紫に光り、口には鋭く長い毒牙。
その毒は、一滴でも血中に入れば即死するとも言われる猛毒。
そして何より恐ろしいのは――その視線だ。
「石化」のスキルを持つ眼。目が合った瞬間、肉体を鉛のように硬化させ、動きを奪う。
「……視線を外す、斬るは一閃。遅れれば即死」
冷静に状況を分析しながら、カールは腰を落とした。
《剣聖》のスキルが静かに脈打つ。身体中の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされ、指先から毛先までが戦いの道具に変わっていく。
バジリスクが牙をむいた瞬間、カールは真横に跳躍。
「っ──!」
地面が砕けた。
バジリスクの尾が大地を薙ぎ払い、石礫が吹き飛ぶ。
その攻撃の直後、カールは空中から《剣気・霞斬り》を繰り出した。
だが、バジリスクは素早く頭を引っ込め、胴をくねらせて回避。
――シュッ!
次の瞬間、バジリスクの毒牙が突き出された。
その速度は、まるで雷光。
「……遅い」
カールはその一撃を紙一重で避け、バジリスクの横腹に一閃を放つ。
ギン、と甲高い音が響く。
刃が弾かれた。
硬質な鱗。通常の武器では貫けない防御力。
「これじゃ効かないか……なら」
彼は背に差していたもう一本の剣を引き抜いた。
それは、漆黒の刀身に薄く青白い光を宿す魔剣《月喰い》。
魔獣の魔核から打たれた一本で、毒耐性と鱗貫通の特殊効果を持つ。
「第二刀、解放」
《剣聖》のスキルが、魔剣とカールを同調させる。
足元に魔方陣が浮かび上がり、身体の軌道が風のように軽くなる。
バジリスクがもう一度、牙を突き出す――しかしそのときには、カールの姿は視界から消えていた。
「上だ」
彼は木の幹を駆け上り、枝を踏み台にして宙から急降下。
──ズバンッ!
垂直の一閃が、バジリスクの頸に深々と食い込んだ。
悲鳴にも似た咆哮が上がり、バジリスクがのたうち回る。
しかしその毒牙も、もうカールには届かない。
「《連撃・影縫い》」
剣の光が、連続してバジリスクの動きを封じるように走る。
膝裏、尾の付け根、肩の付け根、眼窩の下。
正確無比な斬撃。
毒を避けつつ、急所のみを穿つ芸術的な技。
そしてついに、バジリスクの身体がぐらりと揺れ、どさりと地に伏した。
紫の眼から光が消え、猛毒の唸りも、もう響かない。
カールはゆっくりと呼吸を整える。
血の香りと、湿った草の匂いが入り混じる空気の中で、彼の呼吸だけが静かに響いた。
「……やれやれ、動きは悪くなかったが、毒の処理が面倒だな」
バジリスクの死骸から、慎重に魔核と毒腺を切り出す。
毒腺は下手に扱えば自爆の危険があるが、それだけに価値も高い。毒薬の素材として、王都の薬師ギルドが高値で買い取ってくれる。
すべての回収を終えた頃、カールは空を見上げた。
森の霧の向こう、かすかに光る月が見えた。
その柔らかな光を背に、彼はふと自嘲気味に笑う。
「……追放、か。あの家を出て、初めて本当に“生きている”気がする」
毒も、剣も、死もすべて。
カールの血を巡るのは、かつてないまでに鮮やかな“生”。
彼は再び森の奥へと歩を進めた。
そこにはさらなる魔獣が潜み、彼の剣を、魂を、磨き上げていくことになる。
そしてこの日、また一つ、グレンディアの森の奥地で倒されたバジリスクの骸が発見され、王都では静かな噂が広まっていった。
「最近、森の毒地帯からバジリスクが姿を消したって……」
「まさか、誰かが狩ってるのか? あんな化け物を?」
「“黒衣の剣士”って噂、本当なのか……?」
そう、誰も知らない。
かつて貴族社会に拒絶され、追われた少年が――
今、魔境の深淵にて、剣聖としての真価を開花させつつあることを。
黒き森の王、討たれる日
「……数が増えてきたな」
カールはステータスを確認する。
──
レベル:62
HP :2527
MP :1252
攻撃力 :1752
守備力 :872
素早さ :1872
幸運:82
スキル:アイテムボックス/燕迅/双閃/墜刃/影抜き剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族
カール=キリトは、グレンディアの森の中、血塗られた剣を静かに振り払った。
地に倒れた魔物の屍。それは今日だけで七体目。これまでよりも明らかに、魔物の出現数が増えていた。
「この森、近くに“巣”でもあるか……?」
鋭敏な気配察知能力が、何かを告げていた。
周囲に漂う空気が、かすかに濁っている。風の流れさえ淀んでいた。
——遥か北。
そこに、“それ”はいた。
まるで山のような巨体。四つ足で地を踏みしめるたびに、森が軋む。
黒煙のような瘴気が体から立ち昇り、木々は枯れ、動物は逃げ出す。
その名は、《魔獣王バルグロス》。
「……なるほど、貴様がこの森の異変の元凶か」
カールは森の奥地に踏み込み、その異形と対峙した。
バルグロスの目は、赤く輝きながら彼を見下ろす。そこには明らかに、“知性”が宿っていた。
「人間風情が……この我を狩る気か?」
その声音は地鳴りのようで、森を震わせる。
だが、カールの答えは短く、鋭かった。
「狩るんじゃない。——討つんだよ」
剣を抜いたその瞬間、空気が張り詰めた。
地の魔力が逆流し、風が荒れ狂う。
そして、カールは稲妻のごとく突進した。
バルグロスが咆哮を上げる。
大地を砕くような衝撃波が放たれるが、カールは紙一重でそれを回避。
影のような動きで魔獣王の懐に潜り込んだ。
「——《流星剣技・穿天ノ型》!」
剣が閃光と化し、幾重にも斬撃を重ねる。
その一撃一撃が、バルグロスの硬質な装甲を切り裂き、血飛沫が宙を舞った。
しかし魔獣王は容易く倒れぬ。尾を振るい、地を震わせ、全身から瘴気を爆発させて反撃する。
「グゥオオオオオォッッ!!」
瘴気の奔流が襲いかかる中、カールは剣を構え直した。
瞳が鋭く輝く。
「この一撃で……終わらせる!」
飛び上がったその一閃は、天を裂く斜線の如き斬撃。
真上から振り下ろされたその剣は、魔獣王の額に深々と突き立ち——
バルグロスの巨体が、呻きと共に崩れ落ちた。
森が静まる。
狂ったように騒いでいた魔力の波が、ゆっくりと収束していく。
カールは息を整えながら、バルグロスの胸部を斬り裂いた。
そこには、脈動する《高位魔核》があった。
光を帯びたその核を慎重に取り出し、アイテムボックスへと収める。
「……これで森も、少しは静かになるだろう」
そう呟いた彼の背後に、風が吹き抜ける。
葉の音、鳥のさえずり、そして……静けさ。
魔獣王の死と共に、森の均衡は取り戻された。
だが、その戦いは終わりではなかった。
この出来事を皮切りに、一つの“噂”が、じわじわと近隣の街へと広がり始めたのだ。
——「グレンディアの森に、“黒衣の剣士”が現れた」
——「一人で魔物を狩り続け、魔獣王すら討ち取ったという」
——「剣を抜くと風が止み、斬られた魔物は灰となる」
それは、誰も正体を知らぬ、無名の英雄の伝説。
ギルドに所属せず、報酬も名誉も求めない謎の剣士。
だが彼が持ち込む素材は極めて高品質で、貴族すら目を光らせるほどの品だった。
カール=キリトの名はまだ公に知られてはいない。
だが、いずれこの噂は、王都にも届くだろう。
そしてその日、運命が再び動き出す。
森の小高い丘に立ち、カールは夜空を見上げて剣を掲げた。
「俺を追放したこと……後悔させてやる」
その瞳には、もはや迷いはなかった。
燃えるような覚悟と共に、彼は再び剣を手に取る。
“次”こそは、自分のために。
世界を変えるために。
カール=キリトの逆転劇は、今なお静かに進行していた——。
レベル:74
HP :3251
MP :1721
攻撃力 :1752
守備力 :1215
素早さ :2357
幸運 :87
スキル:アイテムボックス/燕迅/双閃/墜刃/影抜き剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族 魔獣王を滅する者
さらには、上空を旋回する《ワイバーン》の影。
魔物たちは、まるで彼に引き寄せられるかのように群がってきた。
しかし、恐れはなかった。
むしろ、それらとの戦いこそが、彼を“生かして”いた。
「狩る。狩って、生きる。剣が、俺の命だ」
剣を構えた瞬間、彼の動きに迷いはなかった。
魔物の足音、羽音、風の流れ、そのすべてを感じ取り、数手先の未来を読む。
“剣聖”というスキルは、ただの称号ではない。
それは、一瞬の選択の精度を極限まで研ぎ澄ませる、まさに“戦いの神域”への扉であった。
彼の斬撃は無駄がなく、静かで、そして凶悪だった。
切るよりも先に、斬られている。
魔物たちが反応する前に、すでに勝負はついている。
倒した魔物からは、素材や魔核を回収し、すべてアイテムボックスに収納。
時折、町に下りては商人ギルドを通じて売却し、貨幣を得る。
その金で、新たな装備を整え、鍛錬を重ねる。
時折、酒屋に立ち寄ってのんびりするゆとりも出てきた。
「魔獣王バルグロスの討伐に騎士団100人が出たらしいが、全滅したらしい」
「魔獣王、あいつがいる限り、あの周辺は、人は近づけないな」
「あれを討伐できたら、まー、国の英雄だよ。そんな奴いないだろうが」
「魔獣王は、無理だな。あれは人間でどうこうできる存在じゃない」
冒険者たちの噂話を流し聞きながら、カールは薄く笑みを浮かべた。
魔獣王か、面白そうな相手だ!
さらなる目標ができた彼の剣は、日々進化していた。
そして誰も知らぬうちに、《グレンディアの森の奥に、魔物を狩る“黒衣の剣士”がいる》という噂が、静かに広がり始めていた。
だがその男が、かつてキリト伯爵家の三男であり、追放された若者だと知る者は、まだ誰一人としていなかった——。
◇
毒牙の刃、死を招く影
霧深きグレンディアの森。
腐葉土の匂いが濃く漂う岩場の小道に、異様な緊張が走っていた。
風が止まった。
空気そのものが毒を孕んだような、粘りつくような静寂。
カールは、手にした剣をそっと構える。
目の前の茂みから、低く湿った唸り声が響いた。
――ザッ。ザッ。
音もなく這い出てきたそれは、全身を鱗に覆われた巨大な蛇――《バジリスク》だった。
だが、ただの蛇ではない。
頭部には龍を思わせる鋭角の冠状骨が突き出し、目は紫に光り、口には鋭く長い毒牙。
その毒は、一滴でも血中に入れば即死するとも言われる猛毒。
そして何より恐ろしいのは――その視線だ。
「石化」のスキルを持つ眼。目が合った瞬間、肉体を鉛のように硬化させ、動きを奪う。
「……視線を外す、斬るは一閃。遅れれば即死」
冷静に状況を分析しながら、カールは腰を落とした。
《剣聖》のスキルが静かに脈打つ。身体中の感覚が鋭敏に研ぎ澄まされ、指先から毛先までが戦いの道具に変わっていく。
バジリスクが牙をむいた瞬間、カールは真横に跳躍。
「っ──!」
地面が砕けた。
バジリスクの尾が大地を薙ぎ払い、石礫が吹き飛ぶ。
その攻撃の直後、カールは空中から《剣気・霞斬り》を繰り出した。
だが、バジリスクは素早く頭を引っ込め、胴をくねらせて回避。
――シュッ!
次の瞬間、バジリスクの毒牙が突き出された。
その速度は、まるで雷光。
「……遅い」
カールはその一撃を紙一重で避け、バジリスクの横腹に一閃を放つ。
ギン、と甲高い音が響く。
刃が弾かれた。
硬質な鱗。通常の武器では貫けない防御力。
「これじゃ効かないか……なら」
彼は背に差していたもう一本の剣を引き抜いた。
それは、漆黒の刀身に薄く青白い光を宿す魔剣《月喰い》。
魔獣の魔核から打たれた一本で、毒耐性と鱗貫通の特殊効果を持つ。
「第二刀、解放」
《剣聖》のスキルが、魔剣とカールを同調させる。
足元に魔方陣が浮かび上がり、身体の軌道が風のように軽くなる。
バジリスクがもう一度、牙を突き出す――しかしそのときには、カールの姿は視界から消えていた。
「上だ」
彼は木の幹を駆け上り、枝を踏み台にして宙から急降下。
──ズバンッ!
垂直の一閃が、バジリスクの頸に深々と食い込んだ。
悲鳴にも似た咆哮が上がり、バジリスクがのたうち回る。
しかしその毒牙も、もうカールには届かない。
「《連撃・影縫い》」
剣の光が、連続してバジリスクの動きを封じるように走る。
膝裏、尾の付け根、肩の付け根、眼窩の下。
正確無比な斬撃。
毒を避けつつ、急所のみを穿つ芸術的な技。
そしてついに、バジリスクの身体がぐらりと揺れ、どさりと地に伏した。
紫の眼から光が消え、猛毒の唸りも、もう響かない。
カールはゆっくりと呼吸を整える。
血の香りと、湿った草の匂いが入り混じる空気の中で、彼の呼吸だけが静かに響いた。
「……やれやれ、動きは悪くなかったが、毒の処理が面倒だな」
バジリスクの死骸から、慎重に魔核と毒腺を切り出す。
毒腺は下手に扱えば自爆の危険があるが、それだけに価値も高い。毒薬の素材として、王都の薬師ギルドが高値で買い取ってくれる。
すべての回収を終えた頃、カールは空を見上げた。
森の霧の向こう、かすかに光る月が見えた。
その柔らかな光を背に、彼はふと自嘲気味に笑う。
「……追放、か。あの家を出て、初めて本当に“生きている”気がする」
毒も、剣も、死もすべて。
カールの血を巡るのは、かつてないまでに鮮やかな“生”。
彼は再び森の奥へと歩を進めた。
そこにはさらなる魔獣が潜み、彼の剣を、魂を、磨き上げていくことになる。
そしてこの日、また一つ、グレンディアの森の奥地で倒されたバジリスクの骸が発見され、王都では静かな噂が広まっていった。
「最近、森の毒地帯からバジリスクが姿を消したって……」
「まさか、誰かが狩ってるのか? あんな化け物を?」
「“黒衣の剣士”って噂、本当なのか……?」
そう、誰も知らない。
かつて貴族社会に拒絶され、追われた少年が――
今、魔境の深淵にて、剣聖としての真価を開花させつつあることを。
黒き森の王、討たれる日
「……数が増えてきたな」
カールはステータスを確認する。
──
レベル:62
HP :2527
MP :1252
攻撃力 :1752
守備力 :872
素早さ :1872
幸運:82
スキル:アイテムボックス/燕迅/双閃/墜刃/影抜き剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族
カール=キリトは、グレンディアの森の中、血塗られた剣を静かに振り払った。
地に倒れた魔物の屍。それは今日だけで七体目。これまでよりも明らかに、魔物の出現数が増えていた。
「この森、近くに“巣”でもあるか……?」
鋭敏な気配察知能力が、何かを告げていた。
周囲に漂う空気が、かすかに濁っている。風の流れさえ淀んでいた。
——遥か北。
そこに、“それ”はいた。
まるで山のような巨体。四つ足で地を踏みしめるたびに、森が軋む。
黒煙のような瘴気が体から立ち昇り、木々は枯れ、動物は逃げ出す。
その名は、《魔獣王バルグロス》。
「……なるほど、貴様がこの森の異変の元凶か」
カールは森の奥地に踏み込み、その異形と対峙した。
バルグロスの目は、赤く輝きながら彼を見下ろす。そこには明らかに、“知性”が宿っていた。
「人間風情が……この我を狩る気か?」
その声音は地鳴りのようで、森を震わせる。
だが、カールの答えは短く、鋭かった。
「狩るんじゃない。——討つんだよ」
剣を抜いたその瞬間、空気が張り詰めた。
地の魔力が逆流し、風が荒れ狂う。
そして、カールは稲妻のごとく突進した。
バルグロスが咆哮を上げる。
大地を砕くような衝撃波が放たれるが、カールは紙一重でそれを回避。
影のような動きで魔獣王の懐に潜り込んだ。
「——《流星剣技・穿天ノ型》!」
剣が閃光と化し、幾重にも斬撃を重ねる。
その一撃一撃が、バルグロスの硬質な装甲を切り裂き、血飛沫が宙を舞った。
しかし魔獣王は容易く倒れぬ。尾を振るい、地を震わせ、全身から瘴気を爆発させて反撃する。
「グゥオオオオオォッッ!!」
瘴気の奔流が襲いかかる中、カールは剣を構え直した。
瞳が鋭く輝く。
「この一撃で……終わらせる!」
飛び上がったその一閃は、天を裂く斜線の如き斬撃。
真上から振り下ろされたその剣は、魔獣王の額に深々と突き立ち——
バルグロスの巨体が、呻きと共に崩れ落ちた。
森が静まる。
狂ったように騒いでいた魔力の波が、ゆっくりと収束していく。
カールは息を整えながら、バルグロスの胸部を斬り裂いた。
そこには、脈動する《高位魔核》があった。
光を帯びたその核を慎重に取り出し、アイテムボックスへと収める。
「……これで森も、少しは静かになるだろう」
そう呟いた彼の背後に、風が吹き抜ける。
葉の音、鳥のさえずり、そして……静けさ。
魔獣王の死と共に、森の均衡は取り戻された。
だが、その戦いは終わりではなかった。
この出来事を皮切りに、一つの“噂”が、じわじわと近隣の街へと広がり始めたのだ。
——「グレンディアの森に、“黒衣の剣士”が現れた」
——「一人で魔物を狩り続け、魔獣王すら討ち取ったという」
——「剣を抜くと風が止み、斬られた魔物は灰となる」
それは、誰も正体を知らぬ、無名の英雄の伝説。
ギルドに所属せず、報酬も名誉も求めない謎の剣士。
だが彼が持ち込む素材は極めて高品質で、貴族すら目を光らせるほどの品だった。
カール=キリトの名はまだ公に知られてはいない。
だが、いずれこの噂は、王都にも届くだろう。
そしてその日、運命が再び動き出す。
森の小高い丘に立ち、カールは夜空を見上げて剣を掲げた。
「俺を追放したこと……後悔させてやる」
その瞳には、もはや迷いはなかった。
燃えるような覚悟と共に、彼は再び剣を手に取る。
“次”こそは、自分のために。
世界を変えるために。
カール=キリトの逆転劇は、今なお静かに進行していた——。
レベル:74
HP :3251
MP :1721
攻撃力 :1752
守備力 :1215
素早さ :2357
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スキル:アイテムボックス/燕迅/双閃/墜刃/影抜き剣聖・黒衣の剣士
称号 魔導国家の王族 魔獣王を滅する者
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