婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

文字の大きさ
9 / 97

第9話 冒険者ギルド本部にて

しおりを挟む
◆冒険者ギルド本部にて◆

 王都ルメリアの中心部、その壮麗な大通りを抜けた先にある建物。それが、帝国最大規模を誇る冒険者ギルド本部だった。

 正面の大扉を開け放つと、喧騒と熱気が一気に押し寄せてくる。剣を携えた冒険者たち、情報を求める商人、依頼を張る文官たちの声が飛び交い、まさに「生きた戦場」のような雰囲気を醸し出していた。

 そんな中、ひとりの男が受付カウンターの前に静かに立つ。

 漆黒のコート、獣革の胸当て、腰には煌めく銀の柄――聖剣ロウ・セリオスを帯びたその姿は、まるで夜の王を思わせる威圧感を放っていた。

「討伐証明と、魔物素材だ。」

 低く抑えた声とともに、男――カールは重たい布袋をカウンターに置いた。受付嬢は目を丸くしながら袋の中を覗き込み、次の瞬間、息を飲んだ。

「ま、まさか……これ……!?」

 青白く光を放つ巨大な魔石。濃縮された魔力の波動は、袋越しであってもギルドの奥まで震わせるほどだった。

「……これ、魔獣王の魔石じゃありませんか!? Sランク級魔獣……こんなもの、一人で!? し、少々お待ちください! ギルドマスターをお呼びします!」

 嬢の声が響いた瞬間、ギルド内のざわめきが一変した。

 無数の視線がカールに集中する。

「あいつが……“黒衣の剣聖”か?」

「信じられん……あの魔獣王を、独りで……」

「どこの国の英雄だ? 見たこともない顔だが……」

 冒険者たちがざわめく中、やがてギルドの奥から重々しい足音が響く。

 現れたのは、銀髪混じりの長髪を後ろで結んだ壮年の男。鋭い目つきに、威厳ある佇まい――ギルドマスター、バルド=グランダスである。

「……お前が、“黒衣の剣聖”か。」

 バルドは鋭く問いかける。だが、カールは表情を崩さず、わずかに口元を緩めた。

「名乗るほどの者じゃないさ。だが……そろそろ名前を返してもらおうと思ってな。」

 ギルドマスターの眉が動く。

「名前……だと?」

 カールは一歩前へと踏み出した。その動作一つに、冒険者たちは息を呑んだ。目の前の男が、ただ者ではないことは、もはや誰の目にも明らかだった。

「元・キリト伯爵家三男、カール=キリトだ。」

 静かに放たれたその言葉は、場を一瞬で凍りつかせた。

 カール=キリト。

 数年前、平民の血を引くことを理由に家を追放され、婚約を破棄され、すべてを失った“落ちこぼれの貴族”。だがその名は、今や“黒衣の剣聖”として、王都の噂にまでなっていた。

 ギルド内の空気が、重く、粘つくように変わる。

「……まさか、本当に……」

「伯爵家を追われたって聞いたけど……信じられん……」

 冒険者たちは戸惑い、驚愕し、そして次第にその姿に畏敬の念を抱き始めていた。

 バルドはしばらく沈黙した後、ゆっくりと頷いた。

「そうか……ならば、正式な再登録といこうか。“黒衣の剣聖”カール=キリトとしてな。」

 そして、彼は重ねて言った。

「歓迎しよう、剣聖よ。お前がこの世界の秩序を変えるなら……ギルドはそれを見届ける覚悟がある。」

 カールは微笑を浮かべたまま、手を差し出した。

「まずはダンガー子爵を調べてくれ!……腐った貴族を正すために」

 その瞬間、ギルド内にいた誰もが直感した。

 ――この男は、ただの冒険者ではない。

 ――やがて、王都の中心に立つ者だと。

「悪徳ダンガー子爵の情報なら山ほどある」

 バルトは楽しそうに笑みを浮かべた。

「連絡先を教えてくれ」

「南通りにある黄昏の旅人亭に宿泊している」

 カールはそう告げると、ギルトを後にした。
 貴族黒衣の剣聖、カール=キリト。王都ルメリアに、その名が再び響き渡る時が来たのだった。



◆黄昏の旅人亭――看板娘が見た“黒衣の人”◆

 ここは王都ルメリア、南通りの外れにある小さな宿屋――《黄昏の旅人亭》。

 店の名に違わず、夕陽が差し込む時間がいちばん美しい。石畳に映るオレンジ色の光と、古ぼけた木のカウンター。静かで、少し寂しくて、それでも温かい――そんな場所。

 私は、そこの看板娘。名はティナ。十六歳。お客様のグラスを拭いたり、夕食を運んだり、母が焼いたパンを売ったりするのが毎日のお仕事。

 そんな私の前に、“あの人”が現れたのは、ほんの三日前のこと。

 夕食の準備で厨房と客席を行き来しているとき、古びたドアがギィと音を立てて開いた。

「一部屋、空いているか」

 低く落ち着いた声だった。振り向くと、そこに立っていたのは黒衣の男。

 長いコートの裾が揺れ、旅の砂をまとったその姿は、まるで物語の剣士そのもの。だけど、ただの“かっこいいお客様”というのとは、どこか違っていた。

 ひと目見たとき、背筋にふっと冷たい風が吹いたような感覚を覚えた。怖い、というのとはちょっと違う。でも――“この人は、普通じゃない”と、体が先に理解していた。

「は、はいっ。上の階に一部屋、ございます!」

 思わず声が上ずったのを、後でちょっと恥ずかしく思った。

 名前を聞かれて、「ティナです」と名乗ると、彼はほんの少しだけ口元を緩めた。

「……ティナか。よろしく頼む」

 その笑みが、とても淡くて――でも、なぜだか優しかった。

 お名前を伺うと、「カール」とだけ名乗った。姓は言わなかったけれど、私はその夜、常連の冒険者さんから全部聞いてしまった。

 “黒衣の剣士”。“森の処刑人”。“魔獣王バルグロスを一人で斬った男”。そして――「カール=キリト」という名を持つ、かつての貴族。

 「うそ、そんなすごい人が、あの静かなカールさん……!?」

 厨房の裏で、私は息を呑んだ。けれど、確かにそうだった。

 彼が手にしていた鞘の黒剣。その柄に刻まれていた鷹の双翼の紋章は、ルメリアの上流階級でも知られた、キリト伯爵家のものだったから。

 でも、カールさんは決して威張ったりしない。

 ご飯のときも静かに座って、よく焼けたパンとシチューを、黙ってゆっくり食べてくれる。どれも綺麗に食べて、「ごちそうさま」と一言だけ言ってくれる。

 ……すごく嬉しいけど、ちょっとだけ寂しい人。

 そんな風に感じた。

 ある夜、私がグラスを拭いていると、ふいに彼がカウンターにやってきた。

「……この宿、静かでいいな」

 不意に声をかけられて、私は手を止めた。

「は、はい! うちは冒険者さんも泊まりますけど、騒ぐ人はあまり来ませんから……静かで落ち着けるって、よく言われます」

「……静けさは、時に剣より貴重だ」

 その言葉に、私はちょっとだけ笑ってしまった。

「カールさん、詩人みたいなこと言いますね」

 すると彼は、わずかに目を伏せて――でも、ほんの少しだけ笑ってくれた。

「……そんなことを言ったのは、妹だったよ」

 そのとき初めて、彼の口から“家族”の話を聞いた。

 妹がいること。もう何年も会っていなかったこと。最近、久しぶりに顔を見たこと。

「可愛かったよ、昔はな。よく俺の後をついてきて……いつの間にか、俺よりもずっと大人になってた」

 その言葉に、ほんの少しだけ、寂しさがにじんでいた。

 ……私は思った。カールさんは、きっと傷ついてきた人だ。誰かに裏切られたり、大切な何かを失ったり、それでもなお前を向こうとしている。

 だから――強いだけじゃない。優しいのだ。

 翌朝、カールさんは部屋を出るときに、私に声をかけた。

「……この素材を預かってくれないか。妹に渡してもらいたい」

 渡されたのは、小さな革袋。中には、信じられないほど貴重な魔物の素材がぎっしりと詰まっていた。

「え、ええっ!? これ、換金すれば……屋根が十枚張り替えられるくらい……!」

 私は混乱したけれど、カールさんは落ち着いた声で言った。

「ギルドに持っていって換金してくれ、半分は手数料に受け取ってくれ、宿の屋根の修理に使うといい。残りは妹に渡してくれ……俺から預かったとだけ伝えればいい」

「でも……それじゃあ、カールさんの取り分は……」

「俺は自分の分がまだまだあるから、大丈夫だ」

 そう言って、彼は踵を返し、夕陽の中へ歩いていった。

 背中越しに振り返ることもなく、その姿はやがて石畳の彼方に消えていった。

 ――あの人は、やっぱり“帰ってきた”んじゃなくて、“何かを終わらせに来た”んだ。

 そう思った。

 旅人のように、剣士のように、時には兄のように――

 でも、本当はきっと、誰よりも“優しい”人。

 だから私は思うのだ。

 《黒衣の剣聖》という言葉では、あの人のすべては表せない。

 この宿にほんの数日だけ現れた、静かで強くて、そして――悲しみを知る優しい旅人。

 それが、私が知るカール=キリトの姿。

 ……また、いつか戻ってきてくれるかな。

 パンを焼きながら、私は今日もそう願っている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...