婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第44話 リリス断罪への始まり 

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◆君と歩む、偽りの誓い――それでも◆
――カール=キリトの視点

 朝の空気はまだ冷たく、王都の石畳はほんのりとした朝霧に包まれていた。

 俺は、ヴァレンタイン侯爵家の正門の前で馬の手綱を引きながら、ゆっくりと息を吐く。

 「……ふぅ」

 昨日、あの騒動のあと、リリスから手紙が届いた。

『明日、公爵家の茶会に招待されているの。護衛としてあなたに同行してほしいの。どうか、お願い』

 手紙には、あの繊細な筆跡でそう書かれていた。丁寧な言葉、微かに香る香水の匂い……ああ、これは“武器”だな、と、少しだけ思った。

 でも、俺は行くことに決めた。

 リリスは今、俺を信じてくれている。たとえ昨日の言葉が、本心かどうか見えなくても。信じるって決めたのは、俺自身だから。

 「――カール」

 背後から聞き慣れた声がした。

 振り返ると、セリアとリアナの姿があった。二人とも騎士の制服をきっちりと着込み、厳しい目で俺を見つめている。

 「公爵家の茶会に“あの女”と行くって、本気?」

 リアナが、呆れたように言った。

 「……ああ」

 「はぁ? 昨日の毒の影響、まだ残ってるんじゃないの?」

 「リアナ……」

 セリアが軽く彼女をたしなめる。でも、彼女の顔にも不満がにじんでいた。

 「でも……セリアも思ってるでしょ? あんな騒ぎの後で、平然と“公爵家のお茶会”って……怪しすぎる」

 「確かに、そうね」

 セリアは静かにうなずく。

 「ただの茶会にしては、警護が必要すぎる。普通は近衛騎士か、家の従者で十分。それを、わざわざ“黒衣の剣聖”カールに頼むなんて……目的があるのは、明らかよ」

 「……それでも、俺は行く」

 俺の言葉に、二人は少しだけ目を見張った。

 「それが、俺の役目だと思ってる」

 「……そう」

 セリアは、少しだけ寂しそうに目を伏せた。

 「だったら、私たちもついて行く。護衛っていう名目なら、問題ないわね?」

 「ええ、そうだね」

 俺は、二人の気持ちに感謝しながらも、何も言えなかった。

 門が開き、馬車が中庭へと入ってくる。

 リリスが現れた。光沢のある桜色のドレスに、白い羽根飾りを添えた帽子。まるで童話から抜け出したような気品に満ちていた。

 「カール。来てくれて、嬉しいわ」

 彼女は微笑んで、俺の腕にそっと手を添える。

 「さあ、行きましょう。お茶会には遅れられないもの」

 「……ああ」

 俺は無言でうなずいた。
 セリアとリアナは、わずかに眉をひそめながらも、何も言わず後ろに控える。

 こうして、俺たちは一つの馬車に乗り込んだ。
 ゆったりとした揺れの中、王都の石畳を踏みしめて馬車が進む。

 窓の外には、朝の光に染まる町並みが広がっていた。けれど、その美しさとは裏腹に、胸の奥に小さな不安が渦巻く。

 リリスは隣で微笑みながら、紅茶を飲んでいる。

 「カール。あなたとこうして並んで座っていられること……夢みたいだわ」

 俺は、その言葉にどう返せばいいか分からず、ただ曖昧に頷いた。

 けれど、気づいていた。

 セリアとリアナが黙っているのは、不満からだけじゃない。
 ――何かを、感じ取っているからだ。

 “この茶会には、何かがある”。

 それが、言葉にせずとも伝わってくる。

 やがて、馬車の外に重厚な門と、華やかな屋敷が見えてきた。
 堂々たる佇まい、公爵の名を冠する家にふさわしい気高さ――それが、今日の舞台だった。

 「――さあ、カール。行きましょう」

 リリスが笑う。

 その笑みの奥に、俺の知らない“何か”が見えた気がして、俺は思わず拳を握りしめる。

 何が起こるかは分からない。
 でも――きっと、これは始まりだ。

 “断罪劇・第二幕”が。

 俺の中で、何かが静かに動き出した。

◆君と歩む、偽りの誓い――それでも◆

――リリス=ヴァレンタインの視点

 白い薔薇が咲き誇る庭園。
 絹の日傘を差す淑女たちが、グラスを手にして、優雅に笑いさざめいていた。

 ここは、グルノーブル公爵家の邸宅。王都の中でも格式の高い一族であり、社交界の中心にある名家の一つ。その娘、アメリア=グルノーブルが主催するお茶会は、貴族の若き令嬢たちの間では“夢の舞台”と呼ばれている。

 その場所に、わたし――リリス=ヴァレンタインが、再び足を踏み入れた。

 そして。

 その隣には、あの男がいた。

 「――えっ?」「嘘でしょ!?」「ほんとに!?」

 到着と同時に、庭園はざわついた。
 うわさ話が一気に広がり、周囲の視線が一斉にこちらに集まる。

 そう――カール=キリトが、わたしの隣を歩いていたのだ。

 黒衣の剣聖。その名を知らぬ者など、この王都にはいない。
 かつて平民として学院を卒業し、辺境で数々の魔獣を討ち取ったという噂。最近では王宮でも噂される存在。彼の姿は、まるで異世界から現れた騎士のように神秘的で――だからこそ、今、この瞬間、誰もが息を呑んだのだった。

 「えっ、なに? あれ、本物?」「え、嘘でしょ!? リリス様と、カール=キリト!?」「あの二人……より戻したってこと?」

 ざわめく中、ひときわ目立つ姿があった。

 「まぁ、これはこれは……」
 涼やかな声とともに現れたのは、この会の主催者――アメリア=グルノーブル公爵令嬢。

 月光のような淡い金髪をまとめ、ラベンダー色のドレスに身を包んだ彼女は、まるでおとぎ話の王女のように優美だった。

 「リリス様、お久しぶりですわ。ご健在でなにより」
 「ええ、アメリア様も、変わらずお美しいですわ」

 お互いに優雅な言葉を交わしつつも、その瞳は静かに火花を散らしていた。
 社交界での優位を競う、貴族令嬢同士の無言の探り合い。そこに、わたしは勝ちに来たのだ。

 「ご紹介するわ。こちら、カール=キリト。わたしの――護衛よ」

 「……ほぉ」

 アメリアが目を細める。その後ろでは、他の令嬢たちが騒がしくささやき合っていた。

 「リリス様、やっぱり……本当にカール様と……?」
 「すごすぎる……あの剣聖が、こんな華やかな場に……!」

 聞こえてくる称賛の声。それだけで、胸の中に快感が湧き上がってくる。

 ――これよ。これがわたしの望んでいた世界。

 もう、誰からも見下されることはない。
 失敗続きだったヴァレンタイン家の令嬢、などとは呼ばせない。
 わたしには、剣聖カールがいる。それだけで、すべてが変わるのだ。

 庭園の中央、白い噴水の前に設けられた円卓へと招かれ、わたしは堂々と腰を下ろした。
 カールはその背後に立ち、騎士のように控えている。

 他の令嬢たちの視線が、彼に釘付けになっているのが分かった。

 「ねぇ、リリス様……本当に、彼と――?」

 誰かが、恐る恐る尋ねてきた。

 わたしは、静かに立ち上がる。そして、すべての注目を集めたその瞬間――

 「皆様、本日はお招きいただきありがとうございます。ここで、一つだけ――わたくしから、報告がございます」

 空気が、ぴんと張り詰めた。

 噴水の音だけが、静かに響いていた。

 「わたくし、リリス=ヴァレンタインは――再び、カール=キリトと寄りを戻しました。そして将来的に、結婚を予定しております」

 「――――っ!」

 その言葉は、雷鳴のように庭園を震わせた。

 「えっ!?」「ま、マジ!?」「あのカール様が!?」「嘘でしょ!?」

 誰もが目を見開き、声を上げる。

 その中心で、わたしは微笑んでいた。

 「彼となら、きっとどんな困難も乗り越えられる。そう確信しておりますの」

 まるで純愛を語るかのように、言葉を紡ぐ。
 でも、本当のところは――誰にも分からない。

 カールが立っている。
 わたしのそばに。誰にも奪わせない。

 これこそが、わたしの復活の舞台。

 そして、社交界の新たな“主役”となる第一歩なのだ。


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