53 / 97
第51話 カールの妹レティーナの恋3
しおりを挟む
◆君と歩む、偽りの誓い――“永遠を誓う日”◆
――レティーナの視点
静かな午後。空は高く澄み、雲ひとつない青に染まっていた。
王都ルメリアの郊外、小高い丘の上にある小さな展望公園。
そこは、わたしたちふたりのお気に入りの場所だった。
「……レティーナさん、今日は来てくれてありがとうございます」
いつもより少し緊張した面持ちでリオンさんが笑う。
その笑顔が、どこか照れくさそうで、でも、いつもよりまっすぐで。
「いえ、誘ってくださって嬉しかったです。お天気もいいし、ここ……本当に気持ちいいですね」
わたしは笑って応えながら、丘の上から見下ろす王都の街並みに目をやった。
赤い屋根が連なり、遠くには白い城壁が陽の光を浴びて輝いている。
「……レティーナさん」
「はい?」
名前を呼ばれて、わたしが振り向いた瞬間。
リオンさんは、静かにひざをついた。
「――えっ?」
その手には、小さなベルベットの箱。
開かれた箱の中には、淡く光る宝石がひとつ、優しく輝いていた。
「……レティーナ・キリトさん。あなたと出会ってからの時間は、何よりも大切なものになりました」
声が、震えていた。
でも、言葉のひとつひとつに、真っ直ぐな想いが込められていた。
「君と話すこと。笑い合うこと。手を繋いで歩くこと。――どんな瞬間も、僕にとって宝物です」
胸の奥が、じんわりと熱くなっていく。
「……正直、僕なんかでいいのか、何度も悩みました。君はカールの妹で、名家の令嬢で……それに、誰よりも素敵な人だから」
「そんな……っ」
「でも、それでも。僕は、君とこれからもずっと一緒にいたい。悲しいときも、楽しいときも、全部――君と分かち合って、生きていきたいんです」
リオンさんの瞳が、真剣にわたしを見つめていた。
「どうか、僕と――結婚してください」
世界が、一瞬だけ止まったように感じた。
風の音も、遠くの鳥の声も、今は何も聞こえない。
ただ、わたしの胸の鼓動と、彼の言葉だけが、はっきりと響いていた。
「……わたしで、いいんですか?」
絞り出すように、そう問いかけた。
「妹としてじゃなくて……誰かの影じゃなくて……ただの“レティーナ”として……?」
「もちろんです。僕が愛したのは、君そのものです」
涙が、頬を伝ってこぼれた。
幸せとか、感動とか、そんな言葉では足りない。
この胸いっぱいに広がっていく温かさは、たった一つの想いに変わっていた。
「……はい」
わたしは、笑いながら、涙を拭って頷いた。
「よろしくお願いします、リオンさん。……わたしも、あなたと一緒に生きていきたいです」
その瞬間、リオンさんは、ほっとしたように笑って、指輪をそっとわたしの左手薬指にはめてくれた。
指輪はぴったりだった。まるで、最初からそこにあるべきだったように。
立ち上がった彼の胸に、わたしは自然と身を預けた。
「ありがとう……大好きです」
「……僕も、ずっと君のそばにいます」
ふたりの影が、夕日とともに長く伸びていく。
その丘の上で、誰もいない空の下――わたしたちは、静かに口づけを交わした。
やさしく、温かく、永遠を誓うように。
それは、ふたりにとっての“始まりの口づけ”だった。
レティーナ=キリトではなく、一人の女性として、リオンとともに歩んでいく未来。
その一歩を、わたしは今、確かに踏み出した。
◆君と歩む、偽りの誓い――“家族への報告”◆
――レティーナの視点
その日、わたしは朝からずっと緊張していた。
リオンさんとの婚約を、家族に報告する。
それは、嬉しくて誇らしいことのはずなのに、どうしてこんなにも胸がそわそわするんだろう。
「……大丈夫、大丈夫……」
自分にそう言い聞かせながら、キリト家の広間へと足を運んだ。
そこには、すでに父のガロウス様、長兄のルジェン兄様、次兄のキリアン兄様、そして――カールお兄様が揃っていた。
まっすぐな銀の髪。静かな瞳。
わたしにとって、世界で一番大きな背中だった。
「……みんな、急に呼び出してごめんなさい」
わたしは立ち止まり、一礼した。
「レティーナ、あらたまってどうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」と、ルジェン兄様。
「いえ、あの……報告があります」
心臓が、どくん、と音を立てる。
「わたし……婚約しました」
言った瞬間、広間に静寂が落ちた。
誰も言葉を発さない。まるで時間が止まったみたいだった。
「……リオン=グラッツさんと、です」
さらに沈黙。
でも、すぐに父がゆっくりと頷いた。
「そうか……あのグラッツ家の三男か。カールの同級生だったな」
「はい。学院時代から、よくしていただいて……最近、再会して」
「ふむ……真面目な青年だったという噂は聞いている。だが、レティーナ。お前はまだ若い。覚悟がいるぞ」
「はい。それでも、わたし……この人と生きていきたいって思ったんです」
きっと、まっすぐな目で見返したつもりだった。
そのとき、ずっと黙っていたカールお兄様が、ゆっくりと口を開いた。
「リオン、か……」
その声は、低くて、穏やかで――でも、どこか複雑な響きがあった。
「……少し、ふたりきりで話せるか?」
「えっ……あ、はい」
わたしはお兄様に手招きされ、庭へと出た。
白い薔薇が咲く中庭。春の風がやさしく吹き抜ける。
「本当に……リオンを選んだんだな?」
「はい。迷いはありません」
お兄様は少し目を細めた。
「……昔、お前が泣いてたとき、オレはただ剣を磨いていて、何もできなかった。だけど……リオンなら、お前の手を取って一緒に泣いてくれるかもしれないな」
「お兄様……?」
「オレは、不器用だからな。家族を守るのに必死で……気づいたら、お前がこんなに大人になってた」
静かに、でも確かにそう言って、わたしの頭に手を置いてくれた。
「――レティーナ。幸せになれ。……リオンが、ふたたびお前を泣かせるようなことがあったら、そのときは……オレがぶっ飛ばす」
「……っ」
涙が、ぽろりとこぼれた。
嬉しくて、切なくて、胸がいっぱいになった。
「ありがとう……お兄様。だいすきです」
その言葉に、お兄様はちょっと照れくさそうに目を逸らした。
「じゃあ、ちゃんと家族みんなで、リオンを迎えようか」
「はいっ」
家に戻ると、父も兄たちも温かく迎えてくれた。
その日、リオンさんはキリト家へ挨拶に来て、父と兄たちにしっかりと頭を下げた。
「――レティーナさんを、僕にください」
その一言に、父はうなずき、兄たちは厳しくも頼もしげにリオンさんの肩を叩いた。
カールお兄様は、背後で静かに微笑んでいた。
(もう、大丈夫)
わたしは、この家族に見守られながら、ひとつの節目を越えた。
妹としてではなく、一人の女性として――リオンとともに歩いていく未来を、ここから始めていく。
◆君と歩む誓い――“たった一人の君へ”◆
――リオン=グラッツの視点
最初に再会したときのことを、いまだに覚えている。
夕暮れの小さな公園。誰もいないベンチに、ぽつんと座っていた少女――いや、もう少女なんて呼べないほど、大人びた表情をしていた彼女。
レティーナ=キリト。
学院時代、何度か話したことがあったけれど、まさかあの静かな面影がこんなふうに成長しているなんて、正直、驚いた。
だけどそれよりも、彼女が抱えていた寂しさや不安の影が、心に引っかかった。
――守りたい。
そんなことを、自然に思ったんだ。
誰かを守りたいなんて、今までの人生で本気で思ったことはなかった。
家名とか、義務とか、そういうものを果たすために生きてきたし、恋愛なんてものはどこか現実味がなかった。
でも、あの日のレティーナを見たとき、何かが変わった。
お腹を鳴らしたあとの恥ずかしそうな顔。
それを隠すように俯いた仕草。
そして、ビーフシチューをひと口食べたときの、幸せそうな笑顔。
なんて、まっすぐで、あたたかい人なんだろうって思った。
その後も、偶然が重なるように何度か出会って、話すたびにどんどん惹かれていった。
彼女の言葉には嘘がなかった。
どんなことでも一生懸命で、まっすぐで、優しくて。
でも、自分のこととなると、どこか自信がなさそうに笑う。
(自分には、カールお兄様のような立派な人と並ぶ資格がないかも……)
そんなことを、彼女はぽつりと呟いていた。
でも、僕は知っている。彼女がどれだけ人を思いやれるか。どれだけ誰かの支えになっているか。
それを一番知っているのは、他でもない僕だった。
だから、想いを伝えるときは震えた。
あんなに緊張したのは、初めてだった。
――君を、僕にください。
言葉にしたとき、彼女の目に涙が浮かんでいた。
驚きと嬉しさと、少しの不安。いろんな感情が混ざったような瞳だった。
でも、すぐに彼女は笑った。
小さく、でも確かにうなずいてくれた。
(ああ、この人となら、きっと――)
そう思えた瞬間だった。
それからは、いろんなことがあった。
キリト家への挨拶は……正直、今でも胃が痛くなるくらい緊張した。
剣聖カール=キリトを目の前にしたときは、「やっぱり俺、場違いなんじゃないか」って心の中で何度も思った。
でも――彼は最後に言ってくれた。
「お前が、あいつを守ると誓うなら、オレも背中を預ける」
その言葉は、僕の心に深く刺さった。
だから、もう迷いはない。
これから先、レティーナと一緒にいろんな道を歩いていく。
笑ったり、喧嘩したり、時には立ち止まることもあるかもしれない。
でも、どんなときも、彼女の手を離さないと誓った。
――彼女が、誰かの妹としてじゃなくて
――“一人の女性”として生きていけるように。
そして、彼女が僕の隣で「幸せだよ」と言える未来を、僕が作っていく。
今はまだ、未熟なところもたくさんある。
でも、それでも、彼女にふさわしい男になりたいと思う。
「……レティーナ」
名前を呼ぶと、隣で小さく「ん?」と返ってくる。
その声が、今の僕には何よりも大切で、愛しいものだ。
彼女が笑ってくれる限り、僕はきっと――何度でも立ち上がれる。
これは、運命なんて言葉じゃなくて
自分で選んだ「愛」の形なんだと、胸を張って言えるから。
――レティーナの視点
静かな午後。空は高く澄み、雲ひとつない青に染まっていた。
王都ルメリアの郊外、小高い丘の上にある小さな展望公園。
そこは、わたしたちふたりのお気に入りの場所だった。
「……レティーナさん、今日は来てくれてありがとうございます」
いつもより少し緊張した面持ちでリオンさんが笑う。
その笑顔が、どこか照れくさそうで、でも、いつもよりまっすぐで。
「いえ、誘ってくださって嬉しかったです。お天気もいいし、ここ……本当に気持ちいいですね」
わたしは笑って応えながら、丘の上から見下ろす王都の街並みに目をやった。
赤い屋根が連なり、遠くには白い城壁が陽の光を浴びて輝いている。
「……レティーナさん」
「はい?」
名前を呼ばれて、わたしが振り向いた瞬間。
リオンさんは、静かにひざをついた。
「――えっ?」
その手には、小さなベルベットの箱。
開かれた箱の中には、淡く光る宝石がひとつ、優しく輝いていた。
「……レティーナ・キリトさん。あなたと出会ってからの時間は、何よりも大切なものになりました」
声が、震えていた。
でも、言葉のひとつひとつに、真っ直ぐな想いが込められていた。
「君と話すこと。笑い合うこと。手を繋いで歩くこと。――どんな瞬間も、僕にとって宝物です」
胸の奥が、じんわりと熱くなっていく。
「……正直、僕なんかでいいのか、何度も悩みました。君はカールの妹で、名家の令嬢で……それに、誰よりも素敵な人だから」
「そんな……っ」
「でも、それでも。僕は、君とこれからもずっと一緒にいたい。悲しいときも、楽しいときも、全部――君と分かち合って、生きていきたいんです」
リオンさんの瞳が、真剣にわたしを見つめていた。
「どうか、僕と――結婚してください」
世界が、一瞬だけ止まったように感じた。
風の音も、遠くの鳥の声も、今は何も聞こえない。
ただ、わたしの胸の鼓動と、彼の言葉だけが、はっきりと響いていた。
「……わたしで、いいんですか?」
絞り出すように、そう問いかけた。
「妹としてじゃなくて……誰かの影じゃなくて……ただの“レティーナ”として……?」
「もちろんです。僕が愛したのは、君そのものです」
涙が、頬を伝ってこぼれた。
幸せとか、感動とか、そんな言葉では足りない。
この胸いっぱいに広がっていく温かさは、たった一つの想いに変わっていた。
「……はい」
わたしは、笑いながら、涙を拭って頷いた。
「よろしくお願いします、リオンさん。……わたしも、あなたと一緒に生きていきたいです」
その瞬間、リオンさんは、ほっとしたように笑って、指輪をそっとわたしの左手薬指にはめてくれた。
指輪はぴったりだった。まるで、最初からそこにあるべきだったように。
立ち上がった彼の胸に、わたしは自然と身を預けた。
「ありがとう……大好きです」
「……僕も、ずっと君のそばにいます」
ふたりの影が、夕日とともに長く伸びていく。
その丘の上で、誰もいない空の下――わたしたちは、静かに口づけを交わした。
やさしく、温かく、永遠を誓うように。
それは、ふたりにとっての“始まりの口づけ”だった。
レティーナ=キリトではなく、一人の女性として、リオンとともに歩んでいく未来。
その一歩を、わたしは今、確かに踏み出した。
◆君と歩む、偽りの誓い――“家族への報告”◆
――レティーナの視点
その日、わたしは朝からずっと緊張していた。
リオンさんとの婚約を、家族に報告する。
それは、嬉しくて誇らしいことのはずなのに、どうしてこんなにも胸がそわそわするんだろう。
「……大丈夫、大丈夫……」
自分にそう言い聞かせながら、キリト家の広間へと足を運んだ。
そこには、すでに父のガロウス様、長兄のルジェン兄様、次兄のキリアン兄様、そして――カールお兄様が揃っていた。
まっすぐな銀の髪。静かな瞳。
わたしにとって、世界で一番大きな背中だった。
「……みんな、急に呼び出してごめんなさい」
わたしは立ち止まり、一礼した。
「レティーナ、あらたまってどうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」と、ルジェン兄様。
「いえ、あの……報告があります」
心臓が、どくん、と音を立てる。
「わたし……婚約しました」
言った瞬間、広間に静寂が落ちた。
誰も言葉を発さない。まるで時間が止まったみたいだった。
「……リオン=グラッツさんと、です」
さらに沈黙。
でも、すぐに父がゆっくりと頷いた。
「そうか……あのグラッツ家の三男か。カールの同級生だったな」
「はい。学院時代から、よくしていただいて……最近、再会して」
「ふむ……真面目な青年だったという噂は聞いている。だが、レティーナ。お前はまだ若い。覚悟がいるぞ」
「はい。それでも、わたし……この人と生きていきたいって思ったんです」
きっと、まっすぐな目で見返したつもりだった。
そのとき、ずっと黙っていたカールお兄様が、ゆっくりと口を開いた。
「リオン、か……」
その声は、低くて、穏やかで――でも、どこか複雑な響きがあった。
「……少し、ふたりきりで話せるか?」
「えっ……あ、はい」
わたしはお兄様に手招きされ、庭へと出た。
白い薔薇が咲く中庭。春の風がやさしく吹き抜ける。
「本当に……リオンを選んだんだな?」
「はい。迷いはありません」
お兄様は少し目を細めた。
「……昔、お前が泣いてたとき、オレはただ剣を磨いていて、何もできなかった。だけど……リオンなら、お前の手を取って一緒に泣いてくれるかもしれないな」
「お兄様……?」
「オレは、不器用だからな。家族を守るのに必死で……気づいたら、お前がこんなに大人になってた」
静かに、でも確かにそう言って、わたしの頭に手を置いてくれた。
「――レティーナ。幸せになれ。……リオンが、ふたたびお前を泣かせるようなことがあったら、そのときは……オレがぶっ飛ばす」
「……っ」
涙が、ぽろりとこぼれた。
嬉しくて、切なくて、胸がいっぱいになった。
「ありがとう……お兄様。だいすきです」
その言葉に、お兄様はちょっと照れくさそうに目を逸らした。
「じゃあ、ちゃんと家族みんなで、リオンを迎えようか」
「はいっ」
家に戻ると、父も兄たちも温かく迎えてくれた。
その日、リオンさんはキリト家へ挨拶に来て、父と兄たちにしっかりと頭を下げた。
「――レティーナさんを、僕にください」
その一言に、父はうなずき、兄たちは厳しくも頼もしげにリオンさんの肩を叩いた。
カールお兄様は、背後で静かに微笑んでいた。
(もう、大丈夫)
わたしは、この家族に見守られながら、ひとつの節目を越えた。
妹としてではなく、一人の女性として――リオンとともに歩いていく未来を、ここから始めていく。
◆君と歩む誓い――“たった一人の君へ”◆
――リオン=グラッツの視点
最初に再会したときのことを、いまだに覚えている。
夕暮れの小さな公園。誰もいないベンチに、ぽつんと座っていた少女――いや、もう少女なんて呼べないほど、大人びた表情をしていた彼女。
レティーナ=キリト。
学院時代、何度か話したことがあったけれど、まさかあの静かな面影がこんなふうに成長しているなんて、正直、驚いた。
だけどそれよりも、彼女が抱えていた寂しさや不安の影が、心に引っかかった。
――守りたい。
そんなことを、自然に思ったんだ。
誰かを守りたいなんて、今までの人生で本気で思ったことはなかった。
家名とか、義務とか、そういうものを果たすために生きてきたし、恋愛なんてものはどこか現実味がなかった。
でも、あの日のレティーナを見たとき、何かが変わった。
お腹を鳴らしたあとの恥ずかしそうな顔。
それを隠すように俯いた仕草。
そして、ビーフシチューをひと口食べたときの、幸せそうな笑顔。
なんて、まっすぐで、あたたかい人なんだろうって思った。
その後も、偶然が重なるように何度か出会って、話すたびにどんどん惹かれていった。
彼女の言葉には嘘がなかった。
どんなことでも一生懸命で、まっすぐで、優しくて。
でも、自分のこととなると、どこか自信がなさそうに笑う。
(自分には、カールお兄様のような立派な人と並ぶ資格がないかも……)
そんなことを、彼女はぽつりと呟いていた。
でも、僕は知っている。彼女がどれだけ人を思いやれるか。どれだけ誰かの支えになっているか。
それを一番知っているのは、他でもない僕だった。
だから、想いを伝えるときは震えた。
あんなに緊張したのは、初めてだった。
――君を、僕にください。
言葉にしたとき、彼女の目に涙が浮かんでいた。
驚きと嬉しさと、少しの不安。いろんな感情が混ざったような瞳だった。
でも、すぐに彼女は笑った。
小さく、でも確かにうなずいてくれた。
(ああ、この人となら、きっと――)
そう思えた瞬間だった。
それからは、いろんなことがあった。
キリト家への挨拶は……正直、今でも胃が痛くなるくらい緊張した。
剣聖カール=キリトを目の前にしたときは、「やっぱり俺、場違いなんじゃないか」って心の中で何度も思った。
でも――彼は最後に言ってくれた。
「お前が、あいつを守ると誓うなら、オレも背中を預ける」
その言葉は、僕の心に深く刺さった。
だから、もう迷いはない。
これから先、レティーナと一緒にいろんな道を歩いていく。
笑ったり、喧嘩したり、時には立ち止まることもあるかもしれない。
でも、どんなときも、彼女の手を離さないと誓った。
――彼女が、誰かの妹としてじゃなくて
――“一人の女性”として生きていけるように。
そして、彼女が僕の隣で「幸せだよ」と言える未来を、僕が作っていく。
今はまだ、未熟なところもたくさんある。
でも、それでも、彼女にふさわしい男になりたいと思う。
「……レティーナ」
名前を呼ぶと、隣で小さく「ん?」と返ってくる。
その声が、今の僕には何よりも大切で、愛しいものだ。
彼女が笑ってくれる限り、僕はきっと――何度でも立ち上がれる。
これは、運命なんて言葉じゃなくて
自分で選んだ「愛」の形なんだと、胸を張って言えるから。
4
あなたにおすすめの小説
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる