婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第51話 カールの妹レティーナの恋3

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◆君と歩む、偽りの誓い――“永遠を誓う日”◆
――レティーナの視点

 静かな午後。空は高く澄み、雲ひとつない青に染まっていた。

 王都ルメリアの郊外、小高い丘の上にある小さな展望公園。
 そこは、わたしたちふたりのお気に入りの場所だった。

 「……レティーナさん、今日は来てくれてありがとうございます」

 いつもより少し緊張した面持ちでリオンさんが笑う。
 その笑顔が、どこか照れくさそうで、でも、いつもよりまっすぐで。

 「いえ、誘ってくださって嬉しかったです。お天気もいいし、ここ……本当に気持ちいいですね」

 わたしは笑って応えながら、丘の上から見下ろす王都の街並みに目をやった。
 赤い屋根が連なり、遠くには白い城壁が陽の光を浴びて輝いている。

 「……レティーナさん」

 「はい?」

 名前を呼ばれて、わたしが振り向いた瞬間。

 リオンさんは、静かにひざをついた。

 「――えっ?」

 その手には、小さなベルベットの箱。

 開かれた箱の中には、淡く光る宝石がひとつ、優しく輝いていた。

 「……レティーナ・キリトさん。あなたと出会ってからの時間は、何よりも大切なものになりました」

 声が、震えていた。
 でも、言葉のひとつひとつに、真っ直ぐな想いが込められていた。

 「君と話すこと。笑い合うこと。手を繋いで歩くこと。――どんな瞬間も、僕にとって宝物です」

 胸の奥が、じんわりと熱くなっていく。

 「……正直、僕なんかでいいのか、何度も悩みました。君はカールの妹で、名家の令嬢で……それに、誰よりも素敵な人だから」

 「そんな……っ」

 「でも、それでも。僕は、君とこれからもずっと一緒にいたい。悲しいときも、楽しいときも、全部――君と分かち合って、生きていきたいんです」

 リオンさんの瞳が、真剣にわたしを見つめていた。

 「どうか、僕と――結婚してください」

 世界が、一瞬だけ止まったように感じた。

 風の音も、遠くの鳥の声も、今は何も聞こえない。

 ただ、わたしの胸の鼓動と、彼の言葉だけが、はっきりと響いていた。

 「……わたしで、いいんですか?」

 絞り出すように、そう問いかけた。

 「妹としてじゃなくて……誰かの影じゃなくて……ただの“レティーナ”として……?」

 「もちろんです。僕が愛したのは、君そのものです」

 涙が、頬を伝ってこぼれた。

 幸せとか、感動とか、そんな言葉では足りない。
 この胸いっぱいに広がっていく温かさは、たった一つの想いに変わっていた。

 「……はい」

 わたしは、笑いながら、涙を拭って頷いた。

 「よろしくお願いします、リオンさん。……わたしも、あなたと一緒に生きていきたいです」

 その瞬間、リオンさんは、ほっとしたように笑って、指輪をそっとわたしの左手薬指にはめてくれた。

 指輪はぴったりだった。まるで、最初からそこにあるべきだったように。

 立ち上がった彼の胸に、わたしは自然と身を預けた。

 「ありがとう……大好きです」

 「……僕も、ずっと君のそばにいます」

 ふたりの影が、夕日とともに長く伸びていく。

 その丘の上で、誰もいない空の下――わたしたちは、静かに口づけを交わした。

 やさしく、温かく、永遠を誓うように。

 それは、ふたりにとっての“始まりの口づけ”だった。

 レティーナ=キリトではなく、一人の女性として、リオンとともに歩んでいく未来。

 その一歩を、わたしは今、確かに踏み出した。

◆君と歩む、偽りの誓い――“家族への報告”◆
――レティーナの視点

 その日、わたしは朝からずっと緊張していた。

 リオンさんとの婚約を、家族に報告する。
 それは、嬉しくて誇らしいことのはずなのに、どうしてこんなにも胸がそわそわするんだろう。

 「……大丈夫、大丈夫……」

 自分にそう言い聞かせながら、キリト家の広間へと足を運んだ。

 そこには、すでに父のガロウス様、長兄のルジェン兄様、次兄のキリアン兄様、そして――カールお兄様が揃っていた。

 まっすぐな銀の髪。静かな瞳。
 わたしにとって、世界で一番大きな背中だった。

 「……みんな、急に呼び出してごめんなさい」

 わたしは立ち止まり、一礼した。

 「レティーナ、あらたまってどうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」と、ルジェン兄様。

 「いえ、あの……報告があります」

 心臓が、どくん、と音を立てる。

 「わたし……婚約しました」

 言った瞬間、広間に静寂が落ちた。

 誰も言葉を発さない。まるで時間が止まったみたいだった。

 「……リオン=グラッツさんと、です」

 さらに沈黙。

 でも、すぐに父がゆっくりと頷いた。

 「そうか……あのグラッツ家の三男か。カールの同級生だったな」

 「はい。学院時代から、よくしていただいて……最近、再会して」

 「ふむ……真面目な青年だったという噂は聞いている。だが、レティーナ。お前はまだ若い。覚悟がいるぞ」

 「はい。それでも、わたし……この人と生きていきたいって思ったんです」

 きっと、まっすぐな目で見返したつもりだった。

 そのとき、ずっと黙っていたカールお兄様が、ゆっくりと口を開いた。

 「リオン、か……」

 その声は、低くて、穏やかで――でも、どこか複雑な響きがあった。

 「……少し、ふたりきりで話せるか?」

 「えっ……あ、はい」

 わたしはお兄様に手招きされ、庭へと出た。

 白い薔薇が咲く中庭。春の風がやさしく吹き抜ける。

 「本当に……リオンを選んだんだな?」

 「はい。迷いはありません」

 お兄様は少し目を細めた。

 「……昔、お前が泣いてたとき、オレはただ剣を磨いていて、何もできなかった。だけど……リオンなら、お前の手を取って一緒に泣いてくれるかもしれないな」

 「お兄様……?」

 「オレは、不器用だからな。家族を守るのに必死で……気づいたら、お前がこんなに大人になってた」

 静かに、でも確かにそう言って、わたしの頭に手を置いてくれた。

 「――レティーナ。幸せになれ。……リオンが、ふたたびお前を泣かせるようなことがあったら、そのときは……オレがぶっ飛ばす」

 「……っ」

 涙が、ぽろりとこぼれた。

 嬉しくて、切なくて、胸がいっぱいになった。

 「ありがとう……お兄様。だいすきです」

 その言葉に、お兄様はちょっと照れくさそうに目を逸らした。

 「じゃあ、ちゃんと家族みんなで、リオンを迎えようか」

 「はいっ」

 家に戻ると、父も兄たちも温かく迎えてくれた。

 その日、リオンさんはキリト家へ挨拶に来て、父と兄たちにしっかりと頭を下げた。

 「――レティーナさんを、僕にください」

 その一言に、父はうなずき、兄たちは厳しくも頼もしげにリオンさんの肩を叩いた。

 カールお兄様は、背後で静かに微笑んでいた。

 (もう、大丈夫)

 わたしは、この家族に見守られながら、ひとつの節目を越えた。

 妹としてではなく、一人の女性として――リオンとともに歩いていく未来を、ここから始めていく。


◆君と歩む誓い――“たった一人の君へ”◆
――リオン=グラッツの視点

 最初に再会したときのことを、いまだに覚えている。

 夕暮れの小さな公園。誰もいないベンチに、ぽつんと座っていた少女――いや、もう少女なんて呼べないほど、大人びた表情をしていた彼女。
 レティーナ=キリト。

 学院時代、何度か話したことがあったけれど、まさかあの静かな面影がこんなふうに成長しているなんて、正直、驚いた。

 だけどそれよりも、彼女が抱えていた寂しさや不安の影が、心に引っかかった。

 ――守りたい。

 そんなことを、自然に思ったんだ。

 誰かを守りたいなんて、今までの人生で本気で思ったことはなかった。
 家名とか、義務とか、そういうものを果たすために生きてきたし、恋愛なんてものはどこか現実味がなかった。

 でも、あの日のレティーナを見たとき、何かが変わった。

 お腹を鳴らしたあとの恥ずかしそうな顔。
 それを隠すように俯いた仕草。
 そして、ビーフシチューをひと口食べたときの、幸せそうな笑顔。

 なんて、まっすぐで、あたたかい人なんだろうって思った。

 その後も、偶然が重なるように何度か出会って、話すたびにどんどん惹かれていった。

 彼女の言葉には嘘がなかった。
 どんなことでも一生懸命で、まっすぐで、優しくて。
 でも、自分のこととなると、どこか自信がなさそうに笑う。

 (自分には、カールお兄様のような立派な人と並ぶ資格がないかも……)

 そんなことを、彼女はぽつりと呟いていた。

 でも、僕は知っている。彼女がどれだけ人を思いやれるか。どれだけ誰かの支えになっているか。

 それを一番知っているのは、他でもない僕だった。

 だから、想いを伝えるときは震えた。
 あんなに緊張したのは、初めてだった。

 ――君を、僕にください。

 言葉にしたとき、彼女の目に涙が浮かんでいた。

 驚きと嬉しさと、少しの不安。いろんな感情が混ざったような瞳だった。

 でも、すぐに彼女は笑った。

 小さく、でも確かにうなずいてくれた。

 (ああ、この人となら、きっと――)

 そう思えた瞬間だった。

 それからは、いろんなことがあった。
 キリト家への挨拶は……正直、今でも胃が痛くなるくらい緊張した。
 剣聖カール=キリトを目の前にしたときは、「やっぱり俺、場違いなんじゃないか」って心の中で何度も思った。

 でも――彼は最後に言ってくれた。

 「お前が、あいつを守ると誓うなら、オレも背中を預ける」

 その言葉は、僕の心に深く刺さった。

 だから、もう迷いはない。

 これから先、レティーナと一緒にいろんな道を歩いていく。

 笑ったり、喧嘩したり、時には立ち止まることもあるかもしれない。
 でも、どんなときも、彼女の手を離さないと誓った。

 ――彼女が、誰かの妹としてじゃなくて
 ――“一人の女性”として生きていけるように。

 そして、彼女が僕の隣で「幸せだよ」と言える未来を、僕が作っていく。

 今はまだ、未熟なところもたくさんある。
 でも、それでも、彼女にふさわしい男になりたいと思う。

 「……レティーナ」

 名前を呼ぶと、隣で小さく「ん?」と返ってくる。

 その声が、今の僕には何よりも大切で、愛しいものだ。

 彼女が笑ってくれる限り、僕はきっと――何度でも立ち上がれる。

 これは、運命なんて言葉じゃなくて
 自分で選んだ「愛」の形なんだと、胸を張って言えるから。

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