婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

文字の大きさ
61 / 97

第59話  セリア視点 カールという男

しおりを挟む
◆カールという男◆セリア視点


初めて彼に出会った時、私は“何も感じなかった”――そう言うつもりだった。
けれど、本当は、最初の一閃で心を揺さぶられていた。

黒衣に身を包み、まるで影のように静かなその男は、剣を抜いた瞬間に風景を変えた。
研ぎ澄まされた刃。重ねた修羅の道。その背にあるのは、名誉でも、義務でもない。
ただ「生き抜くため」に振るわれる、本物の剣。

私は、試した。
試さずにはいられなかった。

自分が失った“何か”を、彼が持っている気がしたから。

それが「羨望」なのか「嫉妬」なのか――それとも、ただ「憧れ」だったのか。
その時の私は、まだわからなかった。

あの夜、焚き火を囲んで二人で過ごした時、彼が黙って外套を肩にかけてくれた。
その手の温もりに、私は戸惑った。

戦場で交わす剣は、冷たいのに。
彼の手は、驚くほど、あたたかかった。

「……あなたって、本当は優しいの?」

思わず口にしたその言葉に、彼は少しだけ笑った。
私は、彼の笑顔を初めて見た気がした。

カールという男は、言葉が少ない。
感情をあまり顔に出さないし、何を考えているのかも分からない。
けれど、彼の背中を見ていると――わかる。

この人は、誰よりも不器用で、誰よりも真っ直ぐだと。

裏切られて、捨てられて、それでも歩き続けている。
剣を握り続けている。
誰かを守るために。

それが、誰かのためではなく、自分自身の誇りのためだと、私は知っている。

だから、私は彼についていこうと決めた。
その先が地獄でも構わない。
彼がいるなら、私はそこに意味を見出せる。

時折、彼は私を見て、小さく息を吐く。
きっと、まだ私を“仲間”とは呼べていないのだろう。
それでもいい。
いずれ、呼ばれる日が来るなら――それでいい。

カールの剣は、鋭く、美しい。
その中に、彼の生き様がある。
人の弱さ、哀しみ、怒り、そして……誰かを守りたいという願い。

それらすべてが交わって、あの剣は振るわれている。

私も、いつかそうなりたい。
誰かを守れる剣になりたい。
彼と肩を並べて戦えるように。

そのためなら、私は何度でも立ち上がる。
何度でも、自分の心と向き合う。

カール。
あなたは、私の“剣”を目覚めさせた人。
そして――私の“心”を溶かし始めた人。

もし、これが“恋”というものなら――
私はきっと、生まれて初めて、人を愛し始めているのかもしれない。

けれど、まだ言葉にはできない。
不器用なあなたに似て、私もまた、不器用だから。

いつか、あなたが誰かに心を開く時。
その隣に私がいられるように。

そう願って、今日も剣を磨く。
あなたに、恥じない自分であるために。


◆ルゥの日記:あの人の背中◆


ボクは、ルゥ。フェンリル族の末裔で、まだまだ子ども。森の奥で一人で生きてたんだけど、ある日「カール」っていう人間に出会ったんだ。

最初は、怖かった。

黒いマントに鋭い目、まるで闇そのものみたいな雰囲気だったから。でも、不思議だった。殺気も、敵意も……ない。むしろ、静かで優しい空気が流れていた。

「お前……怪我してるのか?」

カールは、倒れていたボクを見て、そう言った。

普通なら、フェンリル族なんて見つけたら、真っ先に狩られる。母さんがそう言ってたから。だけど、カールは違った。そっと膝をついて、ボクに手を差し伸べた。

「動くな。薬草を使う。」

怖かったのに……その手は、温かかった。

それから、ボクは彼と一緒に旅をすることになった。いや、正確に言うと、勝手について行ったんだけどね。

彼は強かった。剣を抜いた瞬間、空気が変わる。魔獣だって、敵の騎士だって、みんな震える。でも、カールは決して無駄に剣を振らない。

それが、ボクにはすごく不思議だった。

「ねぇ、なんで戦うの? 強いなら、全部倒しちゃえばいいじゃん。」

そう聞いた時、カールは少しだけ遠くを見た。

「……それじゃ、“あいつら”と変わらないからな。」

“あいつら”。たぶん、カールが昔、信じて裏切られた人たちのことだ。

彼の目はときどき、すごく遠くて……悲しい色になる。

だけどね、ボクにはわかるんだ。

カールは、本当はとっても優しい。

傷ついた村人を見捨てないし、困ってる子どもにパンを分けてくれるし。セリアさんが疲れてると、何も言わずに焚き火を起こして、あったかいスープを作る。

「言葉にしない優しさ」って、たぶんカールのことだと思う。

でも、ボクにはその優しさが……ちょっとだけ、寂しく見える。

ある晩、みんなが寝静まったころ、ボクはこっそり起きて、カールのそばに行った。

彼は、剣を手入れしてた。月明かりに照らされた横顔は、いつもの無表情で、でもどこか……壊れそうだった。

「ねぇ、カール」

「……起きてたのか。どうした、ルゥ?」

「ボクさ、あんたのこと、だいすきだよ。」

その言葉に、カールは少しだけ驚いた顔をした。ほんの一瞬だけ。

「……そうか。」

それだけ言って、頭をポンポンってしてくれた。その手が、あったかくて、ボクはちょっと泣きそうになった。

ボクにとって、カールはただの“剣聖”じゃない。

父親でもなく、兄でもない。だけど、世界で一番信じられる背中。

その背中に、何があってもついていきたいって、心から思ってる。

いつかボクも、大きくなって、彼のように強くなりたい。

でも、ただ強いだけじゃなくて、人の痛みがわかる強さ――

それを教えてくれたのは、カールなんだ。

だから、誓うよ。

この命が尽きるその時まで、ボクはあの人の隣を走る。

氷の剣士セリアがいても、王国が敵に回っても、世界が滅びようとしても。

ボクの“牙”は、あの人のためにある。

ボクの“心”は、あの人の剣の隣にある。

それが、ボク――フェンリルの子・ルゥの誇りだ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

処理中です...