婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第77話  グリーンドラゴンの咆哮

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「風の街メレウス」


乾いた風が街の石畳を撫で、遠くからラクダに似た交易獣が荷車を引いてくる。ここメレウスは東方の要衝として知られ、砂漠の縁に位置することから「風の街」とも呼ばれていた。王都のような整然とした街並みではないが、活気と多様性にあふれている。

カールたちは、城門近くの宿で荷を解くと、さっそく冒険者ギルド「風鳴の翼」へと足を運んだ。

ギルドは、レンガ造りの古い建物の中にあり、壁には様々な任務の掲示が並び、獣の毛皮や異国の武器が飾られている。

「よう、よく来たな。王都からの派遣ってのは、お前らか?」

カウンターの奥から現れたのは、褐色の肌に銀髪をなびかせたギルドマスター、バシル=ロカ。元冒険者で、今は街の治安と情報の要を担っている男だ。

「はい。カール=キリトと申します。こちらはセリア、リアナ。グリーンドラゴンに関する情報をお伺いしたく……」

「ふむ、やはりそっちが動いたか……。こっちでも調査隊を何度か出したが、行方不明や壊滅が続いてな。軽く見てると痛い目を見るぜ」

バシルはそう言って、壁から地図を一枚外し、テーブルの上に広げた。

「奴が目撃されたのは、このあたり……《シェルドの谷》だ。もともとは山岳民族の狩猟場だったが、最近は姿を見せなくなってな」

「……ドラゴンの影響で?」
リアナが眉をひそめた。

「ああ。風を裂くような咆哮、焼け野原のような谷底。見た者の話では、翼が青緑に輝く“成体”の個体らしい」

「成体……厄介ですね」
セリアが小声で呟く。

「俺たちの調査では、やつは《何か》を守っているようにも見える。巣か、卵か……あるいは宝だ」

「宝?」

カールが顔を上げると、バシルは頷いた。

「ドラゴンには“巣に財宝を集める習性”がある。もし奴がそれを守っているとしたら――強い警戒と執着があるはずだ」

「……つまり、単なる討伐ではなく、観察と分析も重要になる」

リアナが鋭くまとめると、バシルは満足げに笑った。

「その通りだ。……あんたら、只者じゃないな」

カールは軽く息をつき、仲間たちを見る。セリアの手には《氷結の細剣》、リアナはすでに《雷撃の杖》を握っている。彼らもまた、ただの旅人ではない。王都でも名を馳せる剣聖と天才魔術師、そして氷の戦姫だ。

「準備は整っている。……案内役を一人、お願いできるだろうか?」

「用意してある。ちょっとクセのある奴だが……腕は確かだ」

バシルが呼び出したのは、背に双剣を背負った黒髪の青年だった。名をアッシュ=ガルド。元は山岳の傭兵で、今はメレウスで流浪しているという。

「お前らが王都の剣聖か。フン、見た目よりはマシそうだな」

アッシュは不遜な態度ながらも、鋭い目で一行を見渡した。

「……気に食わん奴だが、信用できる。悪く思うな」バシルが苦笑する。

カールは静かに手を差し出した。「よろしく頼む」

アッシュはその手を一瞥し、笑みを浮かべた。

「面白くなりそうだな。グリーンドラゴンってやつ……俺の剣でも届くか試してやるさ」



翌朝、朝焼けの空の下、一行は《シェルドの谷》へと向かった。風がやけに静かだ。鳥の声もなく、木々もさざめかない。

「この沈黙……もう近いのかもしれない」

セリアがつぶやくと、谷の奥から、かすかに土を揺らすような重低音が響いた。

それは、世界の理を逸脱する存在の鼓動だった。

「……来るぞ」

カールが剣を抜いた瞬間、空が揺れた。

谷の上空に、青緑色の巨大な影が現れる。翼を広げたその姿は、まさに伝説に語られる《風の竜》――グリーンドラゴンそのものであった。

その咆哮が轟いた時、大地と空が震えた。


「グリーンドラゴンの咆哮」



咆哮と同時に、風が爆発した。

グリーンドラゴンの翼が一振りされただけで、空気が唸りを上げ、谷全体を吹き飛ばすかのような突風が襲いかかる。

「くっ――風の魔力か! 全員、岩陰に!」
カールの叫びに、セリアとリアナ、アッシュが即座に行動した。数十メートル先の岩場へ飛び込み、吹き荒れる風を防ぐ。

「これが……伝説の竜……!」
セリアの青い瞳が、竜の姿を見据える。青緑に輝く鱗、鋭い爪、そして尾にまで巻きついた風の力。全身から魔力が噴き出し、空すら歪ませている。

「逃げ場はない。戦うしかない……!」
カールは剣を抜き放ち、地を蹴った。その一閃は風を割り、ドラゴンの爪へと斬り込む。

ガンッ!!

金属をも凌ぐ硬さの鱗が火花を散らした。だが、ダメージは通らない。

「クソッ……!」
すぐさま後退。直後、竜の尾が地を薙ぎ払い、岩を粉砕した。

「リアナ、援護を頼む!」
「了解!」

リアナの杖が天を突く。雷の魔法陣が瞬時に展開され、次の瞬間、谷全体に轟音が響いた。

「雷精霊よ、我が声に応じて雷槍を――《ヴァル=クラスタ》!」

雷の槍が空を裂き、竜の頭上に直撃。火花と光の奔流が爆ぜる。

――だが、グリーンドラゴンは怯まない。

「効いてるけど……耐えやがっただと!?」リアナが顔をしかめた。

「氷で動きを止める!」
セリアが駆け出し、細剣に魔力を込める。魔法陣が地面に浮かび、冷気が辺りに広がっていく。

「《氷封結界・ブルーミルヴァ》!」

氷柱が地面から湧き上がり、グリーンドラゴンの右脚を包み込んだ。脚の動きが鈍くなる。

「今だ、アッシュ!」

「任せろ……!」
アッシュは二本の短剣を抜き、一気にドラゴンの腹部へ跳躍。連続斬撃が鱗の隙間を探りながら突き刺さる。

「おおおおおおっ!」

ズシャッ――!

腹部に浅く裂傷が刻まれ、竜の咆哮が谷にこだまする。血が、緑色の光を放ちながら地面を染めた。

「効いてる! このまま――」

だが、その瞬間。

「く……っ!? 風が……逆流してる!?」

セリアの叫びと同時に、グリーンドラゴンの全身から突風が吹き出した。まるで空気そのものが爆発したような衝撃波。

「――全員、伏せろッ!!」
カールが地に伏した瞬間、空気が弾け、岩が舞い、砂が吹き飛ぶ。

「うああああっ!」
リアナが後方に吹き飛ばされ、アッシュも空中でバランスを崩す。セリアの氷壁が防御の要となったが、砕け散るのに時間はかからなかった。

――そして、グリーンドラゴンの口元が、緑に光る。

「……まさか、ブレス……!」

カールが顔を上げた時、そこには竜の魔力が集束する光の奔流――《風雷混合の極大魔法ブレス》が展開されていた。

「避けきれん!」リアナが叫ぶ。

だが、その瞬間――

「……セリア! 連携するぞ!」

「ええ!」

カールはセリアと目を合わせ、叫んだ。

「《剣技・疾風雷閃》!」

カールが地を蹴った。空間が切り裂かれる。セリアの氷魔法と連携し、空気を冷却して風圧を抑制。カールの剣が風を切り裂く軌道を描きながら、ブレスの直前にドラゴンの口元へ跳躍――!

「これで終わりだあああああっ!!」

光と風の中、剣が閃く。

ドゴォォォォンッッッッ!!!

爆発。音と衝撃が空を割る。谷に轟音が響き、地が揺れ、砂が舞い上がった。

静寂が……訪れた。

谷の中心で、カールは膝をついていた。剣の先に、沈黙したグリーンドラゴンの巨体が横たわっている。

「……倒したのか?」アッシュが呟く。

「……ええ、でも、油断は禁物よ」セリアが慎重に様子を見ながら近づく。

リアナが魔力を集中し、竜の気配を探る。「魔力の流れ……止まってる。完全に沈黙したわ」

一同が息を吐いた瞬間、ようやく安堵が訪れた。

「……はぁ、まさか、本当に倒せるとはな」
アッシュが苦笑した。「ちょっと見直したぜ、剣聖さんよ」

カールは剣を鞘に納め、顔を上げる。「いや、皆のおかげだ。連携がなければ、倒せなかった」

セリアは微笑み、リアナは少しそっぽを向きながらも、口元は綻んでいた。

谷には、再び風が吹いた。

それは、静かな祝福の風だった。



その後、カールたちはグリーンドラゴンの死骸を調査し、巣の奥にあった《緑の宝珠》を発見する。そこには、古の風竜族の封印が関係している可能性があることが、リアナの鑑定で明らかになる。

「これは……ただの討伐じゃなかったのかもしれない」リアナが真剣な面持ちで言った。

「風竜の遺産……か」カールは、宝珠を手に取り、空を見上げた。

「この力、必ず……王国の未来に繋げてみせる」

こうして、彼らの“新たなる冒険”は、一つの終わりと、次の始まりを迎えたのだった。


アッシュ視点:「あいつらは、やっぱり――特別だ」
谷に再び静けさが戻ったころ、アッシュは一本の短剣を地面に突き立て、深く息を吐いた。
火照った体を冷やすように、風が頬を撫でる。けれど、それでも胸の奥は熱を持っていた。

「……ったく。命懸けにも程があるぜ、まったく」

小さく笑って呟きながら、アッシュは仲間たちの姿を見やった。

剣を鞘に納めたカールは、あいかわらず落ち着いた顔をしていた。
いや、本心はどうだか知らない。けれど――

「本当に、どこまでも背中を預けられる奴だな。お前ってやつは」

戦いの最中、竜の咆哮にも怯まず、仲間に的確に指示を飛ばし、最前線で斬り込んだ男。
一見冷静で寡黙な剣士。でも、命を懸けてでも守ろうとするものがある時、その瞳は――燃える。

「……本物の“剣聖”ってのは、こういう奴なんだな」

そう、心から思った。
ただ強いだけじゃない。誰よりも信頼できる剣の使い手。それが、カール=キリトだった。

そして――

「セリア=フォン=ルゼリア、か……」

彼女の戦い方は、華やかで、美しくて、それでいて、冷静だった。
氷魔法と連携のセンス、そしてなにより、あの場で恐怖を超えて突き進む勇気。

「お姫様ってのは、もっと守られるもんかと思ってたが……お前、誰よりも戦ってたな」

氷封の魔法陣を展開しながらも、カールの剣を信じて走る姿は、まさに“戦う貴族令嬢”。
正直、あの瞬間――惚れそうになった。

いや、惚れたかもしれない。
けど、あの視線の先にいたのは……間違いなく、カールだった。

「はは……手強いな、お前らの関係」

そう呟きながら、もう一人の少女を見た。

リアナ=クラウゼ。天才魔術師と呼ばれた少女。
雷精霊の力を一手に扱い、あの竜の頭上に雷槍を叩き込んだ魔導士。

「最初は、ちょっと近寄りがたかったけどな……」

口は悪いし、態度もつっけんどんだ。
けれど、それでも、あの風の逆流に巻き込まれた後、誰よりも早く立ち上がろうとしていたのは彼女だった。

「“あいつのために戦いたい”って気持ち、隠してるつもりでも……見えてるぜ、リアナ」

そう――
彼女もまた、カールを見ていた。セリアと同じように。けれど少し違う形で。

「あーあ。三角関係ってやつか……」

アッシュは頭をかきながら、苦笑した。
けれど、不思議と羨ましいとは思わなかった。むしろ、見ていて、ただ心が温かくなった。

「……お前らと一緒にいてよかったよ、マジで」

誰もが自分の力を尽くして、誰かを信じて、共に戦った。
それは、アッシュがこれまで経験してきたどんな戦いよりも、ずっと「信じ合う強さ」に満ちていた。

谷に残る風の音が、静かに鼓膜をくすぐる。
アッシュは短剣を抜き取り、それを鞘に納めながら、笑った。

「さあて、剣聖様。次はどんな騒ぎに巻き込んでくれるんだ?」

そう呟いて、仲間たちの背を追った。
風が、再び彼のマントを揺らした。

それは、まるで新たな旅の始まりを祝福するように――。
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