婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第80話 竜を討ちし者

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「竜を討ちし者」


王都ルメリアの空が、祝福の鐘の音で震えていた。

グリーンドラゴン――東の大山脈を越えて現れ、数々の村や街を脅かした古き竜。その討伐の知らせは、すでに王都中を駆け巡っている。

広場には人、人、人。
「ドラゴンを倒した英雄が帰ってくる」
ただそれだけで、老若男女、全ての市民が足を運び、街の飾りつけは即席ながら、王都は祭りのような喧騒に包まれていた。

そして、その中心にいたのは――

「カール=キリト、セリア=ノルド、リアナ=クラウゼ。汝らの偉業、王国にこれ以上ない栄誉をもたらした」

王宮の謁見の間、厳かな声で王が言葉を告げた。

玉座の前に跪く三人の姿。カールの黒衣は戦いの傷を誇るように擦れており、セリアの剣には竜の鱗が飾られ、リアナのローブは新たな魔紋で輝きを帯びていた。

「よってカール=キリトを、我が王国の伯爵位へと叙任する。名誉、そして責務を、これより汝に授ける」

ざわめきが起きる。
しかし、それ以上の衝撃は――

「さらに、この場にて告げる。カール=キリトは、北方ノルド王国の正統なる王族の血を引く者。アリシア=ノルド王女の子である」

一瞬、場が静まり返った。

王族。しかも隣国ノルドの王家の血筋。

「ば、馬鹿な……平民の出ではなかったのか?」

「母親は……行方不明だったと……」

「じゃあ、彼の力は……剣聖の血だけでは……!」

王宮の一部の貴族たちが動揺するのも無理はなかった。

だが、すでに反対の声は出なかった。

彼が討ち倒したグリーンドラゴンは、王国の歴史でも数百年ぶりの快挙であり、その証拠たる竜の心核と頭骨は、王都の広場に堂々と飾られている。加えて、その血筋が王族であると告げられた今、カールに異を唱える者などいない。

「新たなるドラゴンスレイヤー……!」

「ノルド王家の末裔が、我らの国を救ってくれたのだ……!」

民衆の歓声が、遠くまで響いた。

「そして、カールの正室となるのは、我がフリューゲンの王女エミリーゼ=フリューゲン。二人の婚約を、ここに公にする!」

王の声が最後に響いた瞬間、扉が開かれ、ひときわ美しい純白のドレスをまとった少女が現れた。

エミリーゼ――金髪の髪を持つ令嬢。芯の強さと誇りをその瞳に宿し、堂々と歩を進める姿は、誰もが目を奪われるものだった。

彼女の手を取るカール。その瞬間、謁見の間には盛大な拍手と歓声が沸き起こった。

貴族たちはついに理解した。

カール=キリトは、もはやただの冒険者でも、田舎貴族でもない。
王家の血を引く伯爵であり、竜を討つ剣聖であり、王族の娘を娶る存在――すなわち、「次代の王国の中心人物」なのだと。

謁見後、王宮の大広間では盛大な祝賀の宴が開かれた。

「さすが、娘が選んだ我が婿、ドラゴンスレイヤーとなる男だ」

フリューゲン王は、酒杯を掲げ、誇らしげにカールの肩を叩いた。重たい一撃だったが、カールは苦笑しながらもそれを受け入れた。

「エミリーゼが、嬉しいような寂しいような」

「わらわたちは……みんなで精進しますわ」

「道はまだ半ばです」

一方、リアナはセリアと共に少し離れた場所で、グラスを傾けていた。

「なんか……お祝いムードすぎて、落ち着かないわね」

「ふふ、でもカールがここまで認められて、私は嬉しいよ」

「……私も、嬉しくないわけじゃないけど」

そう言いつつも、リアナの指先はワイングラスの縁をくるくると撫でていた。

その瞳は、祝賀の中心にいるカールとエミリーゼをじっと見つめていた。

祝賀の夜が明けて――

カールに与えられた領地は、かつてのトラオン伯爵が治めて土地である。エミリーゼを含めた王族が中心となって管理を引き受けることが決まった。

「貴族のしがらみからも、封建の腐敗からも自由な、理想の領地にするわ」

エミリーゼの強い意志を、カールは黙って受け止めた。

「……ありがとう。君がいれば、俺は戦いに集中できる」

「あなたは剣を、私は国を――お互いの役割を果たすのよ、カール」

正室としての強さと、未来への覚悟がそこにはあった。

そして、王国に新たな伝説が刻まれた。

かつて、すべてを失い、追放された青年がいた。

だが彼は剣を握り、真実を求め、竜を斬り、真の血と絆を手に入れた。

――黒衣の剣聖、カール=キリト。

その名は今や、王都ルメリアの空の下、誰もが口にする伝説となった。

そして物語は、さらなる運命の螺旋へと、静かに動き出していた。




「北方より来たる影」


「……馬鹿な。カールが“あの娘”と婚約だと?」

 王都ノルディア、氷に包まれた玉座の間に怒声が響いた。

それは、ノルド王国の第二王子――ユリウス6世=アルフレッド=ノルドの声だった。

銀の髪と蒼い瞳、整った顔立ちに冷ややかな気品をまとった男。その指には、ノルド王家の象徴たる蒼氷の指輪が煌いていた。

「フリューゲス王国の王女、エミリーゼ=フリューゲン。正室としての立場を得た――間違いない情報です」

そう報告したのは、ユリウス6世=アルフレッド=ノルドの側近の一人であり、諜報任務を担う〈影の眼〉だった。

ユリウス6世は目を伏せたまま、ゆっくりと椅子から立ち上がる。

「……カール=キリト。あの男が、ついにここまでのし上がったか。竜を倒し、フリューゲンの伯爵となり、しかも王族の正式な婿候補として扱われている……!そして、セリアが側室になるだと!」

声には怒気よりも、焦燥と焦りがにじんでいた。

それも当然だった。

 ユリウス6世=ノルドの兄の婚約者候補として、かつて“セリア=ノルド”がいた。従兄妹であり、本命だった、しかし、王弟の謀反疑惑により、セリアはノルドを去ることになった。あれは冤罪だったのだ。
 父が海外に外交に旅立っているときに、男爵令嬢に溺れた兄のエリオットが、学園の卒業式でセリアに冤罪をかけ断罪し追放したのだ。さらに、それに異を唱えた王弟である叔父の公爵家に、なんと兵を差し向けてだまし討ちにしたのだ。それが数年前の出来事である。

 王族として不名誉な事件だった。

 また、アリシア事件も似たような事件だったその時は、平民の自称聖女だったか。王家とは歴史を繰り返すものなのだろうか? だが、アリシアは生き延びて、その息子が生きていた。しかも、今やフリューゲン王国の貴族として、その国の王女と婚姻の絆まで結ぼうとしている。

「……このままでは、ノルド王国の威信が地に堕ちる」

ユリウス6世は低く言い放った。

「セリア=ノルドと、カール=キリト。二人はノルド王家の血を引く者。正式に、王族として認められている限り――奴らは“ノルドの財産”だ」

「王命により、フリューゲン王国へは正式な書状を送りました。ですが――」

「却下、か。王族であろうと、彼らはすでにフリューゲンの者だ、と」

 ユリウス6世の唇がわずかに歪む。
 怒りというより、見透かされた悔しさのようなものが滲んでいた。

「外交無視か……。それとも、自信があるのだな。竜を討つ英雄と、その血統に。」

 彼は深く椅子に腰を下ろすと、静かに手を組んだ。

 しばしの沈黙の後――

「……ならば俺が行こう。フリューゲン王国へ。外交団を率いてな」

「し、しかしユリウス殿下、危険すぎます。万が一、拘束や――」

「戯言だ。俺は王族として赴く。外交使節として、正当な理由と権限を持って。奴らも無下にはできまい」

「目的は……?」

「まず、カールとセリアを“ノルドへ連れ戻す”こと。そして……」

ユリウス6世の瞳が鋭く細められる。

「王女エミリーゼとの婚約を――無効にする」

側近たちがざわめいた。

「力で脅すのではない。言葉で交渉し、証拠を突きつけ、王家の威光をもって交渉の場へ引きずり出す」

「外交の名の下に、脅迫に等しい示威行動……」

「当然だ。我が王国の血筋が、他国の支配下に置かれようとしているのだぞ。黙って見過ごす理由があるか、それにあれの稼働に必要な人材だ!」

彼の言葉には、理屈以上の感情が込められていた。

ユリウス6世はかつて、従姉のセリアを慕っていた。

聡明で、穏やかで、時に強さを見せる従姉――だが、冤罪により、追放され国外へと姿を消した。
そして今、かつて断罪された王族の息子と他国で栄華を極めようとしている。

「俺は……許せない。あの者たちが、ノルドの誇りを捨て、他国に寝返るなどと」

「……ユリウス殿下。ですが、カール殿は、すでに民衆から“英雄”と見なされております。力で奪うなど――」

「力は使わん。“法”と“理”で封じる。それが外交の本質だ」

ユリウス6世はゆっくりと立ち上がり、壁にかけられた黒い外套を身にまとった。
それは、ノルド王族の外交儀礼服――氷狼を象った紋章が胸に輝く、極寒をも拒む威厳の装いだった。

「……三日以内に、出立の準備を整えよ」

「かしこまりました」

扉が静かに閉まると、ユリウス6世は誰にも聞こえないほど小さくつぶやいた。

「カール。お前がどれほどの力を手に入れようと――俺は“王家”を取り戻す」

蒼氷の瞳が、南の地――フリューゲン王国を見据えていた。

そして、物語は動き出す。

――二つの王国。
――交錯する血筋と誇り。

北より来たる王族の使節団が、平和の仮面の下で、火種を抱えたまま王都ルメリアの門を叩く日も、そう遠くはなかった。
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