婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第85話 潮騒にまぎれて──セリアの日記より

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【潮騒にまぎれて──セリアの日記より】



 港町エスパーダに着いた日。
 潮の香りが、どこか懐かしくて、私はふと目を細めた。

「魚が食べたいなぁ」
 カールが呟いた一言から、すべてが始まった。

 リアナもエミリーゼも、なんだかんだ言いながら同行を承諾し、なぜかルゥまでが「ルゥも行くのだ!」と勢いよく吠える始末。
 こうして、私たちは揃って海へやってきたのだった。

 だけど、町は活気がない。
 原因はすぐに分かった。

 海に現れた巨大魔物「シードラゴン」。
 それが暴れているせいで、漁ができず、魚も獲れないらしい。

 ……なら、やることは一つ。
 カールは静かに剣に手をかけた。

「行こうか。みんな、準備はいいか?」

 私はうなずいた。風の精霊が、いつでも呼応するよう、心を澄ませて。

 翌朝、私たちは小舟で海へ出た。
 水面は嘘みたいに静かだったけれど、胸の奥にずっとひっかかる気配があった。

 ——重い。湿った魔力。
 それが、海の底からじっとこちらを見ていた。

「来るわ」リアナが言った、その瞬間だった。

 水柱が弾け、それは姿を現した。

 目の前に現れた巨体は、想像を遥かに超えていた。
 波の向こうにそびえる黒い影。
 鋭い眼光、軋むような咆哮。牙のひとつひとつが、まるで剣のよう。

 これが——シードラゴン。

「くるぞ!」カールが剣を抜いた。
 その気配に応じて、私の風も高鳴る。

「風よ、刃となりて我が敵を裂け──《翠刃乱舞(エア・ブレイド)》!」

 私は空を蹴った。跳躍し、風の剣をまとって竜の首元を斬り裂く。
 リアナの雷が、エミリーゼの炎が、それに続く。

 だけど——

「でかすぎるのだーっ!!」
 ルゥの叫びが聞こえた。
 そうよね、あなたにとっては山に等しい相手だもの。

 でも、彼は逃げなかった。

 小さな体で、カールの肩を蹴り、シードラゴンの顔面へ飛び込んだ。

「がうううっ!!」

 彼の小さな牙が、魔物の目元をかすめる。
 それだけなのに、魔物は一瞬ひるんだ。

「……やるじゃない、ルゥ」
 思わず笑みがこぼれる。

 だけど、そこからが本番だった。

 シードラゴンの咆哮が空を震わせた。

 高波が立ち、空が曇る。
 嵐のような暴風と共に、シードラゴンが渦を巻く。

「カール、あれ……来る!」
「わかってる!」

 全力の一撃が来る——その時だった。

 ルゥが前に出た。
 ちっぽけな体を張って、魔物に向かって吠えた。

 叫びじゃなかった。あれは、祈りに似ていた。

 風が揺れた。雷が轟き、炎が唸った。
 そしてカールの剣が、全てを貫いた。

 その刹那、静寂が訪れる。

 波が止み、風が凪ぎ、海が光に包まれた。

 ——私たちは、勝ったのだ。

 港に戻ると、町の人々が歓声をあげてくれた。
 笑顔、笑顔、笑顔。

 その夜、焚き火を囲んでみんなで魚を焼いた。
 カールが嬉しそうに魚を炙り、ルゥが目を輝かせていた。

「うまいのだっ!!」
「そりゃそうだろ、ルゥの働きのおかげでもあるからな」

 エミリーゼがふっと笑い、リアナが頷いた。

 私はその輪の中で、空を見上げた。

 今日の空は、少し泣きそうなくらい澄んでいた。

 私の日記に、こう書き残しておく。

 カールと過ごす日々は、確かに戦いに満ちているけれど。
 それでも私は——この時間が、かけがえなくてたまらない。

 そして、あの小さな狼。
 ルゥもまた、私たちの大切な仲間だって、心から思えた。

「ありがとう、ルゥ。あなた、今日……本当にかっこよかったわ」
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