婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第86話 港町編 ~海を照らす風~

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『港町編 ~海を照らす風~』


 俺の名はヤン。
 港町エスパーダで三十年、漁師をやってる。
 若い頃は命知らずで、沖合の岩場まで平気で網を張りに行ってたが、今じゃ孫に「じいじ」と呼ばれて竿を持たされる始末だ。

 そんな俺が、初めて本気で「海が怖い」と思ったのは、つい先週のことだった。

 魚の気配が消え、網には濁った海藻ばかり。
 何より、親友のドランが船ごと帰ってこなかった。
 ベテラン中のベテランだった。風読みも潮も読むやつが、突然ぷつりと消えた。
 町の連中も次第に港から離れて、今じゃ港は死んだように静かだ。

「シードラゴンだってよ。もうこの町も終わりだな」

 誰かが吐いたそんな言葉を、俺は否定できなかった。

 そんな時、町の門に現れたのが、あの四人と一頭だった。

 黒髪の青年。名はカール。
 金髪の魔導士ふたり。気品あふれるセリアと、ちょっと気の強そうなリアナ。
 それに、白銀のもふもふ。ルゥって名前のフェンリルの子らしい。

 最初に声をかけられたときは、正直「どこの世間知らずの観光客だ」と思った。

「港の魚が食べたいんです。できれば生で。炙りでもいいですけど」

 カールの目は本気だった。
 だが、それ以上に本気だったのが、傍らの少女——エミリーゼだ。

「わらわはずっと楽しみにしてたのじゃ。港町で、獲れたての海の幸を食べるのだ!」

 目を輝かせるその姿に、港の連中は言葉を失っていた。
 この絶望の港で、魚の話を真剣にするやつがいるとは思わなかった。

「……無理だよ。海にゃシードラゴンが出てる。死にたいなら止めないけどな」

 俺がそう言うと、カールは静かに笑ってこう言った。

「だったら、俺たちが倒します。それで、みんながまた魚を獲れるようになるなら」

 その夜、俺の家では娘のリサが不安げな顔をしていた。

「お父さん……あの人たち、本当に海に出るの? 魔物がいるんだよ?」

「ああ、でもな……たまにいるんだ。無茶と正義を履き違えた連中が」

「でも……どこか安心してる顔してるよ、お父さん」

「……そりゃ、ちょっと、な」

 息子のトムは、ルゥに夢中だった。
 「もっふもふ! 連れて帰っていい?」なんて聞く始末だ。

「こら、ルゥは勇者さまのお連れだぞ。狼じゃねえんだ、フェンリル様だ」

 ルゥが小さく「がう」と鳴いて、俺の膝に前足を乗せた時、妙に誇らしげな気持ちになった。
 こいつ、やってくれるかもしれねえ。

 翌朝、町の人間が見守る中、カールたちは小舟で沖へ出て行った。
 誰一人、止める者はいなかった。ただ、黙って手を振った。

 港から見える海の向こうで、波が割れた。
 空が鳴り、雷が落ちた。

 竜の咆哮と魔法の閃光。
 その全てが、俺たちの胸に焼き付いた。

 セリアとリアナの魔法は、まるで嵐そのもの。
 風が巻き、海が躍った。
 カールの剣が竜の喉元に食い込み、ルゥが咆哮して竜の動きを止める。

 港にいた誰もが、声を飲んだ。

 ……その日の夕方。

「倒したぞー!!」

 その叫びが上がった時、港は歓声に包まれた。
 まるで、長い嵐が明けたように。

 酒場では祝宴が開かれ、魚が戻ってくるという噂で町はざわついた。

 娘のリサは泣いてた。
 「よかった……これでトムの誕生日に魚を食べさせてあげられる……」ってな。

 俺は家の裏の古い干物棚を久しぶりに磨いた。
 これでまた、あの味を孫に教えられる。

 三日後。
 エミリーゼが港の小料理屋で、アジの塩焼きと刺身を口いっぱいに頬張っていた。

「んん~~~~! これよ、これっ!」

 町の女将が苦笑いして言った。

「……あんたたちのおかげで、また包丁が握れるようになったよ。ありがとね」

 カールが静かに笑い、セリアとリアナは礼を言って頭を下げた。

 ルゥがトムの頭にぴょこんと前足を乗せて「がう」と鳴いた時、子どもたちの笑い声が町中に響いた。

 その夜、俺は日記を開いた。

 『今日の漁、豊漁。カールたちのおかげで、また海が笑ってる。
  あの剣士と魔導士たち、そして小さな銀狼を、俺たちはずっと忘れない。』

 この町の風は、あの日から変わったんだ。
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