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第87話 海と言ったら海水浴
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『浜辺に誓いの声を』
潮騒と海鳥の声が響く、夏の海。
真っ青な空と海が地平線の彼方で溶け合い、白い砂浜がきらきらと輝いていた。
「うわあ……本当に海って、きれいなんだな……!」
真っ先に駆け出したのはルゥだった。もふもふの白銀の毛を風に揺らし、波打ち際に飛び込む。
彼はフェンリルの子供。見た目はまだ幼い獣だが、知性は高く、人語を話せる。今はカールのパーティーの一員として共に旅している、家族のような存在だ。
「カールー! 波がすごいよー! 見て見て! これ、つめたーいっ!」
「はしゃぎすぎるなよ、ルゥ! 流されたら助けらんねぇからな!」
カールの声に、ルゥはきゃははと笑って返す。
「大丈夫! ちゃんとカールのとこに戻ってくるもん!」
波を飛び越え、駆けまわるルゥ。その横を、二つの影が通り過ぎた。
「キャッ、冷たっ! でも気持ちいい~!」
飛び込んでいったのはセリア。白のビキニに小さな貝殻のチャームが揺れていた。騎士として鍛えられた身体には無駄な贅肉がなく、しかし女性らしい柔らかさも兼ね備えていた。
「セリア、泳ぎは得意なの?」
「得意ってほどじゃないけど、これくらいなら平気よ!」
もうひとりはリアナ。黒の水着に透ける布のパレオを巻いて、知的な美貌が海風に映えていた。
「ふふ、私は得意よ。水の魔法でね」
彼女は水を操って波の形を変え、ルゥの足元をくすぐるように遊ばせた。
「わーっ、くすぐったい~っ!」
「リアナ、ずるい!」
その声に、さらにひとり加わる。
「だったら、わたしも混ぜてもらおうかしら♪」
赤いショルダービキニをまとったエミリーゼが、色っぽく笑いながら近づいてきた。
腰のあたりの布が危うく、風が吹けば見えそうな勢いで、カールは思わず目を逸らす。
「エミリーゼ……お前、その格好はさすがに……」
「似合ってないかしら? せっかくのバカンスなんだから、楽しみましょ?」
「……目のやり場に困るだけだって」
「困ってるカールくんも、かわいいよ?」
エミリーゼがわざとくるっと回り、揺れる髪と水しぶきを散らした。
その様子を見ていたルゥが、こてんと首を傾げる。
「ねぇ、カール。どうしてエミリーゼって、こう、いつも『魅せる』感じなの? これって“大人の魅力”ってやつ?」
その言葉に、三人の少女たちが一斉に笑った。
「ルゥ、そんな言葉、どこで覚えたのよ!」
「えー、セリアがこの前、宿屋で言ってたの聞いちゃったー」
「わ、私そんなこと言ったっけ!?」
「言ったよー。『カールはきっと、大人の魅力に弱いんだから』って」
「る、ルゥ!!」
セリアの顔が真っ赤になり、カールはルゥの口を押さえようと近寄るが、
「えへへ、もう遅いよー」
ルゥは砂浜をすばやく逃げ回り、全員での追いかけっこが始まった。
***
日も高くなり、一行は木陰に敷物を広げて軽い昼食を取ることにした。
「……あー、うまい。やっぱり海辺で食うおにぎりは格別だな」
カールがそう呟くと、ルゥがわしゃわしゃと魚干しの入ったおにぎりをかじりながら頷いた。
「うん! ボク、この海ってとこ、すっごく好きかも。風は気持ちいいし、カールたちも笑ってるし……」
「お前も楽しんでるみたいで、なによりだ」
するとエミリーゼがにっこりと笑って、
「じゃあ、次はみんなで海に浮かぶ貝殻探しでもどう?」
「貝殻?」
「この浜には、虹色の貝っていう、光る貝殻が落ちてるらしいの。ひとつ見つけると、願いが叶うんですって」
「へえ、ロマンチックだな」
そう言って海に入っていく彼女たちを、カールとルゥも後から追いかける。
その途中で、ルゥがぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、カール。願いって、ひとつしかダメなの?」
「……普通はひとつって言うな。でも、願いがたくさんあっても悪いことじゃない」
ルゥは真剣な目で、カールの顔を見つめた。
「ボクね。いつか大きくなって、カールと一緒に、いろんな場所に行きたいなって思ってる。どんな遠くでも、どんな危ないとこでも」
「……ルゥ」
「それと……ボクがちゃんと“カールの役に立つ”存在になりたい。そうじゃないと、そばにいる資格、ない気がして」
その言葉に、カールはふっと微笑む。
「バカだな、お前」
「へ?」
「もう十分、そばにいる資格なんてあるさ。ルゥがそばにいてくれるだけで、俺は何度も救われた」
「……カール……」
言葉に詰まったルゥは、照れたようにしっぽを振った。
「……なら、今日もちゃんと、カールを守るよ。波が来ても、魚が跳ねても!」
「頼もしいな」
二人の会話の先で、セリアが歓声をあげた。
「カール! 見て、虹色の貝、見つけたよ!」
キラキラと光るそれを手にして、彼女は少し照れくさそうに言った。
「……願い、叶うかな?」
「きっとな。お前が願うなら」
カールが答え、リアナが微笑む。
「じゃあ、私も一個……見つけた。ふふっ、これで“あの願い”も近づくかしら」
「……“あの”って、どの願いですか?」
「それは、ヒミツ」
夕暮れが近づく浜辺。笑い声と波音のなかで、ルゥはぽつりとつぶやいた。
「ボクの願いも、ちゃんと叶いますように……ずっと、みんなと一緒にいられますように」
風が吹いた。
その願いを、波がやさしくさらっていった。
潮騒と海鳥の声が響く、夏の海。
真っ青な空と海が地平線の彼方で溶け合い、白い砂浜がきらきらと輝いていた。
「うわあ……本当に海って、きれいなんだな……!」
真っ先に駆け出したのはルゥだった。もふもふの白銀の毛を風に揺らし、波打ち際に飛び込む。
彼はフェンリルの子供。見た目はまだ幼い獣だが、知性は高く、人語を話せる。今はカールのパーティーの一員として共に旅している、家族のような存在だ。
「カールー! 波がすごいよー! 見て見て! これ、つめたーいっ!」
「はしゃぎすぎるなよ、ルゥ! 流されたら助けらんねぇからな!」
カールの声に、ルゥはきゃははと笑って返す。
「大丈夫! ちゃんとカールのとこに戻ってくるもん!」
波を飛び越え、駆けまわるルゥ。その横を、二つの影が通り過ぎた。
「キャッ、冷たっ! でも気持ちいい~!」
飛び込んでいったのはセリア。白のビキニに小さな貝殻のチャームが揺れていた。騎士として鍛えられた身体には無駄な贅肉がなく、しかし女性らしい柔らかさも兼ね備えていた。
「セリア、泳ぎは得意なの?」
「得意ってほどじゃないけど、これくらいなら平気よ!」
もうひとりはリアナ。黒の水着に透ける布のパレオを巻いて、知的な美貌が海風に映えていた。
「ふふ、私は得意よ。水の魔法でね」
彼女は水を操って波の形を変え、ルゥの足元をくすぐるように遊ばせた。
「わーっ、くすぐったい~っ!」
「リアナ、ずるい!」
その声に、さらにひとり加わる。
「だったら、わたしも混ぜてもらおうかしら♪」
赤いショルダービキニをまとったエミリーゼが、色っぽく笑いながら近づいてきた。
腰のあたりの布が危うく、風が吹けば見えそうな勢いで、カールは思わず目を逸らす。
「エミリーゼ……お前、その格好はさすがに……」
「似合ってないかしら? せっかくのバカンスなんだから、楽しみましょ?」
「……目のやり場に困るだけだって」
「困ってるカールくんも、かわいいよ?」
エミリーゼがわざとくるっと回り、揺れる髪と水しぶきを散らした。
その様子を見ていたルゥが、こてんと首を傾げる。
「ねぇ、カール。どうしてエミリーゼって、こう、いつも『魅せる』感じなの? これって“大人の魅力”ってやつ?」
その言葉に、三人の少女たちが一斉に笑った。
「ルゥ、そんな言葉、どこで覚えたのよ!」
「えー、セリアがこの前、宿屋で言ってたの聞いちゃったー」
「わ、私そんなこと言ったっけ!?」
「言ったよー。『カールはきっと、大人の魅力に弱いんだから』って」
「る、ルゥ!!」
セリアの顔が真っ赤になり、カールはルゥの口を押さえようと近寄るが、
「えへへ、もう遅いよー」
ルゥは砂浜をすばやく逃げ回り、全員での追いかけっこが始まった。
***
日も高くなり、一行は木陰に敷物を広げて軽い昼食を取ることにした。
「……あー、うまい。やっぱり海辺で食うおにぎりは格別だな」
カールがそう呟くと、ルゥがわしゃわしゃと魚干しの入ったおにぎりをかじりながら頷いた。
「うん! ボク、この海ってとこ、すっごく好きかも。風は気持ちいいし、カールたちも笑ってるし……」
「お前も楽しんでるみたいで、なによりだ」
するとエミリーゼがにっこりと笑って、
「じゃあ、次はみんなで海に浮かぶ貝殻探しでもどう?」
「貝殻?」
「この浜には、虹色の貝っていう、光る貝殻が落ちてるらしいの。ひとつ見つけると、願いが叶うんですって」
「へえ、ロマンチックだな」
そう言って海に入っていく彼女たちを、カールとルゥも後から追いかける。
その途中で、ルゥがぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、カール。願いって、ひとつしかダメなの?」
「……普通はひとつって言うな。でも、願いがたくさんあっても悪いことじゃない」
ルゥは真剣な目で、カールの顔を見つめた。
「ボクね。いつか大きくなって、カールと一緒に、いろんな場所に行きたいなって思ってる。どんな遠くでも、どんな危ないとこでも」
「……ルゥ」
「それと……ボクがちゃんと“カールの役に立つ”存在になりたい。そうじゃないと、そばにいる資格、ない気がして」
その言葉に、カールはふっと微笑む。
「バカだな、お前」
「へ?」
「もう十分、そばにいる資格なんてあるさ。ルゥがそばにいてくれるだけで、俺は何度も救われた」
「……カール……」
言葉に詰まったルゥは、照れたようにしっぽを振った。
「……なら、今日もちゃんと、カールを守るよ。波が来ても、魚が跳ねても!」
「頼もしいな」
二人の会話の先で、セリアが歓声をあげた。
「カール! 見て、虹色の貝、見つけたよ!」
キラキラと光るそれを手にして、彼女は少し照れくさそうに言った。
「……願い、叶うかな?」
「きっとな。お前が願うなら」
カールが答え、リアナが微笑む。
「じゃあ、私も一個……見つけた。ふふっ、これで“あの願い”も近づくかしら」
「……“あの”って、どの願いですか?」
「それは、ヒミツ」
夕暮れが近づく浜辺。笑い声と波音のなかで、ルゥはぽつりとつぶやいた。
「ボクの願いも、ちゃんと叶いますように……ずっと、みんなと一緒にいられますように」
風が吹いた。
その願いを、波がやさしくさらっていった。
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