婚約破棄された上に、追放された伯爵家三男カールは、実は剣聖だった!これからしっかり復讐します!婚約破棄から始まる追放生活!!

山田 バルス

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第88話 『真夏の浜辺に誓いの声を ― 夜の花火編 ―』

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『真夏の浜辺に誓いの声を ― 夜の花火編 ―』


 日が沈み、海辺は夜の静寂に包まれていた。

 波の音は昼間よりも穏やかで、星の瞬きと月の光が白砂を照らしている。虫の音は遠く、風が髪を撫でるだけの心地よい涼しさがあった。

 その中で、浜辺には小さな灯りの輪ができていた。

「うわぁ~……夜の海もすっごくきれいだね」

 ルゥがふさふさの尻尾を揺らして、きらめく波を見つめる。

「うん。波に映る月が、まるで空にもうひとつ浮かんでるみたい」

 そう呟いたのはセリア。白いワンピースの上に薄手のパーカーを羽織り、頬にそっと風を受けていた。

「ふふ、ほんとに幻想的だわ」

 リアナは手に持っていた提灯をそっと置き、小さな打ち上げ花火を取り出す。

「さぁ、今夜のメインイベント――花火、始めましょう?」

 その声に皆の顔がほころんだ。

「じゃあ、カール! 火、つけて!」

 セリアがはしゃぐように手持ち花火を差し出し、カールは火種を取り出して慎重に火を灯す。

 ジジッ……と音を立てて、細い炎がぱっと広がり、光の粒をまき散らした。

「わぁ……!」

 手元に咲いた光の花に、セリアが目を輝かせた。

「綺麗……。なんだか、こうしてみんなで花火するなんて、本当に夢みたいだな」

 セリアの横でリアナもまた、火花を見つめながらふと口を開いた。

「夢じゃないわよ。現実よ、カール。私たちが一緒に歩んできた現実」

「……そうだな」

「ボクもやるー! ねぇ、リアナ、これどう持つの?」

「はいはい。焦げないように気をつけてね、ルゥ」

 リアナがルゥの手元をそっと取って、手持ち花火を持たせてあげる。ルゥは嬉しそうに尻尾を振りながら、火花の軌跡を空に描いた。

 その後ろから、ひときわ艶やかな笑みが覗く。

「さっすがにこれはロマンチックね~。カール、ひとつ付き合ってもらえる?」

 そう言ってエミリーゼが取り出したのは――線香花火。

「……お前がそれを選ぶとは意外だな。もっと派手なのが好きかと」

「ふふっ、こういうのは“二人で静かに”ってのが、いいのよ」

 エミリーゼがにこりと笑い、隣に腰を下ろした。

 二人並んで火をつける。細い火球が、かすかに揺れながら光を放つ。

「……カールは、こういう時間、好き?」

「そうだな……最近は、こういう静けさのほうが落ち着くようになったかもしれん」

「へぇ、ちょっと大人になったのね?」

「……お前の言う“ちょっと”が怖い」

 エミリーゼは楽しげに笑いながら、火花の終わり際にそっと呟く。

「この花火みたいに、一瞬でも強く光れたら……私はそれで、十分かもしれないわ」

「……」

「なんてね。冗談よ?」

 火が落ちた線香花火が、砂に静かに沈んだ。

 その背後で、ルゥが空を見上げて叫ぶ。

「いくよーーー! 打ち上げ花火、発射ーー!!」

 ひゅるるるっ……と夜空へ舞い上がった火球が、どんっ! と大きな音を立てて、空に赤と金の大輪を咲かせた。

 海面に映る花火が、まるで別世界の光景のように揺れていた。

「きれい……!」

「うん! すごいよ、これ! もっとやろう!」

 打ち上げ花火が次々と夜空に弾け、空を彩っていく。

 その光の下で、カールの隣にそっと座ったのは、セリアだった。

 彼女は膝を抱えて、ちらりとカールを見る。

「カール……少しだけ、このまま一緒にいてくれる?」

「ああ、もちろんだ」

「……ありがとう。今日、すごく楽しかった。こういう日が、ずっと続いたらいいのにって思っちゃうくらいに」

「それなら、願えばいい。虹の貝、見つけたんだろ?」

「……うん。でも、カールが隣にいてくれなきゃ、意味ないんだよ」

 その言葉に、カールは少しだけ目を細めた。

「お前は、もう俺の隣にいるじゃないか」

「そっか……そうだよね……」

 セリアの頬が赤く染まり、波音がふたりの間に静かに流れた。

 その隙間に、ふとルゥが入ってくる。

「ねぇカール。今日って、ほんとに幸せな日だったね」

「そうだな、ルゥ。……俺も、そう思うよ」

 カールはルゥの頭を撫で、獣の毛に指を通した。

 最後の一発が夜空を彩り、すべてが静寂に戻った。

 ――けれど、心には静かな余韻が残っていた。

 誰もが胸に秘めた願いとともに、夏の夜が、やさしく終わっていった。

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