91 / 97
第89話 真夏の夜に語ること ― 浜辺のささやき編 ―
しおりを挟む
『真夏の夜に語ること ― 浜辺のささやき編 ―』
花火が終わり、浜辺には静けさが戻っていた。
皆は小さな焚き火を囲むように、輪になって座っている。薪がパチパチと音を立て、赤い火がゆらゆらと揺れる。夜風は涼しく、海から届く潮の香りが、夏の終わりを静かに告げていた。
「……花火、すっごくきれいだったね」
セリアが小さく微笑む。
濡れた髪は乾き始めており、パーカーの袖口からは細い手が覗いている。すこし冷えたのか、カールの隣に身を寄せてきた。
「うん。ああいうのを見ると、思い出として心に焼きつくよね」
リアナが手を膝の上で組みながら、星空を見上げる。
風になびく銀髪が月光に照らされて、どこか儚げな美しさをまとっていた。
「今日という日を、忘れたくないな」
そのつぶやきに、エミリーゼがくすっと笑う。
「……ふふ、なんだか詩人みたいじゃない、リアナ」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「でも、わかるわよ。私だって、今日のことは胸に残しておきたい。……いろんな意味でね」
エミリーゼは意味深な笑みを浮かべて、カールの方をちらりと見る。
「ボクも、ボクも! こういう時間って、大事なんだよね!」
ルゥがふさふさの尻尾をぱたぱた揺らして、元気いっぱいに頷いた。
「夜の海って、昼間とはぜんぜん違うんだね。静かで、でも……なんだか、心がポカポカする」
「……ルゥ、いつの間にそんなに詩人になったんだ?」
カールの問いに、ルゥは得意げに胸を張る。
「えへんっ。ボクだって成長してるんだよ、カールの隣で、毎日いっぱい冒険してるからね!」
「……そうだな。お前も、立派な仲間だ」
カールがその頭を優しく撫でると、ルゥは満足そうに目を細めた。
しばらく、誰も喋らなかった。波音と焚き火の音だけが、ゆっくりと時間を刻む。
――それでも、不思議と心は満ちていた。
「ねえ、カール」
ぽつりとセリアが声を上げた。
「ん?」
「明日が来るの、ちょっとだけ、寂しいかも」
「……」
「だって、こんなに素敵な時間って、ずっとは続かないでしょ? 旅が進めば、また戦ったり、傷ついたりする日もあるんだもん」
セリアの声は小さく、焚き火のパチパチという音に紛れそうなほどだった。
けれど、カールにはその言葉の重さが、はっきりと伝わっていた。
「……確かに。俺たちの旅は、楽しいことばかりじゃない。でも、こういう時間があるから、進めるんだと思う」
「うん……。だから、もうちょっとだけ。もう少しだけ、こうしててもいいかな?」
「ああ、好きなだけ」
カールの答えに、セリアは静かに微笑んで、彼の肩にもたれた。
「カール」
今度はリアナが、少し真面目な声で話しかけてきた。
「……いつか、私たちの旅が終わったら、そのとき……あなたは、どんな未来を思い描いているの?」
「未来か……」
カールはしばらく沈黙してから、焚き火を見つめながら答える。
「誰かのために剣を振るって、誰かの隣で笑っていたい。それが、たったひとりの人のためだったとしても、俺は……それでいいと思う」
「……そっか」
リアナは目を伏せた。銀のまつ毛がちらりと揺れる。
その隣で、エミリーゼが冗談めかした声を出す。
「ふふ、まったく。罪な男ね、あんた」
「……何がだよ」
「全員が全員、あんたの“たったひとり”になりたがってるってことよ」
カールは少しだけ苦笑するしかなかった。
けれど、焚き火の光が映す彼女たちの表情は、決して軽くない。それぞれが、強い想いを抱えている。
それを受け止める覚悟が、自分にあるのか。
その答えを出すには、まだもう少し時間がかかるかもしれない。
「……でも」
ルゥがちょこんと前に出て、焚き火を見ながら言った。
「カールがカールでいてくれるだけで、ボクは嬉しいよ。ボクたち、ずっと一緒にいたいもんね!」
「……ああ。ルゥ。もちろんだ」
皆がふっと笑った。温かい笑み。優しさがにじむ、夜のぬくもりだった。
星は静かにまたたき、海はやさしく波を返す。
言葉は少しずつ減っていったけれど、焚き火を囲むその輪の中には、言葉以上の絆が確かに息づいていた。
――明日が来ても、きっとこの想いは消えない。
夏の夜に交わされた、静かで確かな約束。
花火が終わり、浜辺には静けさが戻っていた。
皆は小さな焚き火を囲むように、輪になって座っている。薪がパチパチと音を立て、赤い火がゆらゆらと揺れる。夜風は涼しく、海から届く潮の香りが、夏の終わりを静かに告げていた。
「……花火、すっごくきれいだったね」
セリアが小さく微笑む。
濡れた髪は乾き始めており、パーカーの袖口からは細い手が覗いている。すこし冷えたのか、カールの隣に身を寄せてきた。
「うん。ああいうのを見ると、思い出として心に焼きつくよね」
リアナが手を膝の上で組みながら、星空を見上げる。
風になびく銀髪が月光に照らされて、どこか儚げな美しさをまとっていた。
「今日という日を、忘れたくないな」
そのつぶやきに、エミリーゼがくすっと笑う。
「……ふふ、なんだか詩人みたいじゃない、リアナ」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「でも、わかるわよ。私だって、今日のことは胸に残しておきたい。……いろんな意味でね」
エミリーゼは意味深な笑みを浮かべて、カールの方をちらりと見る。
「ボクも、ボクも! こういう時間って、大事なんだよね!」
ルゥがふさふさの尻尾をぱたぱた揺らして、元気いっぱいに頷いた。
「夜の海って、昼間とはぜんぜん違うんだね。静かで、でも……なんだか、心がポカポカする」
「……ルゥ、いつの間にそんなに詩人になったんだ?」
カールの問いに、ルゥは得意げに胸を張る。
「えへんっ。ボクだって成長してるんだよ、カールの隣で、毎日いっぱい冒険してるからね!」
「……そうだな。お前も、立派な仲間だ」
カールがその頭を優しく撫でると、ルゥは満足そうに目を細めた。
しばらく、誰も喋らなかった。波音と焚き火の音だけが、ゆっくりと時間を刻む。
――それでも、不思議と心は満ちていた。
「ねえ、カール」
ぽつりとセリアが声を上げた。
「ん?」
「明日が来るの、ちょっとだけ、寂しいかも」
「……」
「だって、こんなに素敵な時間って、ずっとは続かないでしょ? 旅が進めば、また戦ったり、傷ついたりする日もあるんだもん」
セリアの声は小さく、焚き火のパチパチという音に紛れそうなほどだった。
けれど、カールにはその言葉の重さが、はっきりと伝わっていた。
「……確かに。俺たちの旅は、楽しいことばかりじゃない。でも、こういう時間があるから、進めるんだと思う」
「うん……。だから、もうちょっとだけ。もう少しだけ、こうしててもいいかな?」
「ああ、好きなだけ」
カールの答えに、セリアは静かに微笑んで、彼の肩にもたれた。
「カール」
今度はリアナが、少し真面目な声で話しかけてきた。
「……いつか、私たちの旅が終わったら、そのとき……あなたは、どんな未来を思い描いているの?」
「未来か……」
カールはしばらく沈黙してから、焚き火を見つめながら答える。
「誰かのために剣を振るって、誰かの隣で笑っていたい。それが、たったひとりの人のためだったとしても、俺は……それでいいと思う」
「……そっか」
リアナは目を伏せた。銀のまつ毛がちらりと揺れる。
その隣で、エミリーゼが冗談めかした声を出す。
「ふふ、まったく。罪な男ね、あんた」
「……何がだよ」
「全員が全員、あんたの“たったひとり”になりたがってるってことよ」
カールは少しだけ苦笑するしかなかった。
けれど、焚き火の光が映す彼女たちの表情は、決して軽くない。それぞれが、強い想いを抱えている。
それを受け止める覚悟が、自分にあるのか。
その答えを出すには、まだもう少し時間がかかるかもしれない。
「……でも」
ルゥがちょこんと前に出て、焚き火を見ながら言った。
「カールがカールでいてくれるだけで、ボクは嬉しいよ。ボクたち、ずっと一緒にいたいもんね!」
「……ああ。ルゥ。もちろんだ」
皆がふっと笑った。温かい笑み。優しさがにじむ、夜のぬくもりだった。
星は静かにまたたき、海はやさしく波を返す。
言葉は少しずつ減っていったけれど、焚き火を囲むその輪の中には、言葉以上の絆が確かに息づいていた。
――明日が来ても、きっとこの想いは消えない。
夏の夜に交わされた、静かで確かな約束。
1
あなたにおすすめの小説
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる