婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス

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第20話 短い銀髪の少年ルカから見たリノ

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『旅立ちの旋律 ―音の呼吸、笛の声―』
王都リュシオンの朝は、賑やかだった。

街路には行商の呼び声、広場には吟遊詩人の歌声、そしてそこに重なるように響くのは――笛の音。

涼やかで、芯のある音色。聞き覚えのあるその響きを追って、リノは中庭に出た。

そこにいたのは、短い銀髪の少年――ルカ。

「……ルカ?」

「……あ、リノ」

ルカは笛を口元から外し、少しだけ表情を緩めた。

「……早起きだね」

「うん。なんだか目が覚めちゃって……。それより、すごく綺麗な音だった」

「……ありがとう」

そう答えながらも、ルカの視線は少し泳いでいる。言葉よりも音で語ることを好む彼にしては、いつも通りだった。

「練習してたの?」

「……うん。明日の舞台、合わせる箇所がまだ甘くて。リノの歌、すごく繊細だから……少しでもズレると濁る」

「……そんなことないよ。わたしの方こそ、ルカの音があると歌いやすい。昨日の練習、すごく助けられたの」

その言葉に、ルカの指が一瞬止まった。

「……ほんとに?」

「ほんと。……ねえ、少しだけ、一緒に合わせてみない?」

リノの提案に、ルカは静かに頷いた。

彼は再び笛を構え、リノは胸に手を置く。そして、リノが静かに歌い始めると、ルカの笛が寄り添うように旋律を重ねた。

朝靄の中、二人の音が重なっていく――まるで会話のように。

リノが息継ぎのタイミングを微妙に遅らせれば、ルカの笛もふっと間を空けて応じる。強く響くサビの部分では、笛の高音がリノの声を押し上げるように寄り添った。

(すごい……言葉じゃないのに、ちゃんと気持ちが通じてる)

音楽隊に入ってから何度も感じてきたことだったが、ルカとの演奏にはまた特別な静けさと緊張感があった。

歌い終えると、ルカがゆっくりと笛を下ろした。

「……やっぱり、リノの歌、好きだ」

「えっ?」

不意にそう言われて、リノは思わず目を見開いた。

「……いや、あの、音が……すごく、心地いいというか……。響きが好きって意味で」

珍しく早口で補足を加えるルカに、リノは小さく笑った。

「ありがとう、ルカ。でも嬉しいよ。そう言ってもらえると」

「……昔さ。笛、誰にも聴いてもらえなかったんだ。“地味”だとか、“声がないからつまらない”って」

「……そんなこと、ないよ」

リノははっきりと言った。

「ルカの笛、ちゃんと語ってる。さっきだって……言葉みたいに、伝わってきた」

ルカの目が、ほんの少し揺れる。照れたように顔をそらしながら、彼は小さく呟いた。

「……じゃあ、今度、笛で返事してもいい?」

「え?」

「……言葉じゃなくて、音で。リノが歌ったら、僕の笛で、答える。そういうの、やってみたい」

リノはしばらく考えた末、笑顔で頷いた。

「うん。わたし、そういうの……好き」

その日の夕方、舞台前の音合わせ。

メンバーが一通り音を確認している中、ルカがリノにそっとメモを渡してきた。

「……これ。さっき話してたやつ。即興の笛ソロ、最後のサビに合わせて吹いてみる」

リノが目を通すと、そこには簡単な音符と、タイミングの指示が書かれていた。

「……これ、すごい。歌にぴったり」

「即興だけど……リノの歌が、そう吹けって言ってる気がしたから」

「……本番でやってみよう?」

「……うん」

音合わせの最後、二人は試しにそのパートを合わせてみた。

リノの高音に、ルカの笛がそっと寄り添い、そして――一瞬、風が吹いたように旋律が舞い上がった。

周囲が息を飲んだ。

「……なにあれ……」

「笛と歌、話してた……みたい……」

誰かがそう呟いた。

音楽は、言葉を超える――その瞬間だった。

夜。宿の廊下、リノが寝る前に水を取りに行こうと扉を開けると、ルカが廊下に立っていた。

「あ……ごめん、起こした?」

「ううん、こっちこそ。……明日、楽しみにしてる」

「……僕も」

少しの沈黙。けれどそれは、気まずさではなく、音の余韻のような間だった。

「……リノ。明日、うまくいったらさ」

「うん?」

「……もう少し、難しい即興にも挑戦してみよう。もっと……一緒に、語り合いたい」

リノは目を細めて微笑んだ。

「うん。わたしも、もっとあなたの音を聞きたい」

ルカはそれを聞いて、静かに頷いた。

そして、何も言わずに指先で小さく笛を叩いた。――それは、彼なりの「約束」だった。

リノはそれに、そっと手を重ねて応えた。

音の中で語り合う――それが、ふたりの言葉だった。
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