婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス

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第27話 リノとレオニスのデート

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『旅立ちの旋律 ―ふたりだけの時間―』
「――明日の昼、またあの噴水で会わない?」

夕暮れの帰り道。レオニスが、ほんの少し恥ずかしそうに言った。

リノは目を瞬き、笑顔でうなずいた。

「うん。……楽しみにしてるね」

それは、はっきり“デート”とは言わなかったけれど、ふたりともなんとなくわかっていた。

**

翌日、王都は晴れわたっていた。青空が高く、街は人々の活気に満ちている。

リノは、音楽隊の稽古が午前で終わるのを待って、鏡の前でそわそわと髪を整えていた。

(別に、特別なことじゃないし。……ただ、ちょっと街を歩くだけ)

そう自分に言い聞かせながらも、顔はほんのり赤い。

旅用の服ではなく、隊の予備衣装の中からシンプルなワンピースを選び、ちょっとだけ頬に紅を差した。

(こんな気持ち、いつ以来だろ……)

そんな自問を胸に、彼女は街へ向かった。

**

一方、王子であることを隠して王宮を抜け出したレオニスも、噴水の広場でひとりリノを待っていた。

普段の王子の装いではなく、シンプルなシャツとベストに、くすんだ色のズボン。髪も軽く束ねてある。

王宮の者が見たら絶句するような格好だが、今日は“彼女の前の自分”でいたかった。

「待った?」

「ううん、こっちこそ早く来ちゃったかも」

リノの姿を見て、レオニスはほんの少し、言葉を失った。

光に透けるようなワンピース。風に揺れる髪。いつもより少しだけ飾られた彼女に、見惚れてしまったのだ。

「似合ってる。その……すごく、綺麗」

「えっ……あ、ありがと……」

リノの耳まで真っ赤になった。

「じゃ、行こっか」

「うんっ」

ふたりは、肩を並べて歩き出した。

**

まず向かったのは、王都の東にある《青空市場》。野菜や果物、手作りの雑貨まで何でも揃う活気あるエリアだ。

「見て見て! このりんご、ハートの形してる!」

「ほんとだ。作った人、芸術家かもね」

店の人に試食をもらい、ふたりでひとつの果実を分け合う。なんでもないことが、やけに楽しくて、笑いが止まらなかった。

「これも見てみようよ!」

リノが手を引く。レオニスは、その指先のぬくもりに一瞬ドキッとするが、顔には出さないように努めた。

その後は、路地裏のパン屋で焼きたてのクロワッサンを食べ、手作りのブローチをお互いに選んだ。

リノは、音符の形をした銀の小さな飾りを。レオニスは、風の模様が彫られた青い石のペンダントを。

「……似合ってる」

そう言い合ったとき、ふたりの視線がふと重なり、照れくさそうに笑い合った。

**

午後は少しだけ足を伸ばし、郊外の小高い丘へ。

「ここ、昔よく来てたんだ。風が気持ちよくて」

レオニスがそう言った場所は、花が揺れる静かな草原だった。

街を一望できるその場所に、ふたりは並んで腰を下ろした。

「……ねぇ、レオ」

「ん?」

「あなたって、なんだか不思議な人だよね」

「どこが?」

「王都に住んでるのに、音楽とか旅人の気持ちにすごく詳しい。それに……時々、すごく孤独そうな目をする」

レオニスは、少しだけ驚いたように笑った。

「そう見える?」

「うん。ごめん、変なこと言って」

「……いや、合ってるかも。僕には“見せられない自分”があるんだ。ずっとそれが、重かった。でも――」

「でも?」

「君と会ってから、少しずつ軽くなってきた。君の歌も、笑顔も、全部……本物だから」

リノは、そっとレオニスの横顔を見つめた。

ふたりの間に、風が優しく吹く。

「リノも、君も不思議だよ。強くて、でもどこか寂しそうで。だから、気になる。もっと知りたいって思う」

「……そっか。じゃあ……これからも、ちょっとずつ知っていってね」

「うん。約束する」

**

夕暮れが近づき、丘の上に金色の光が差す。

リノは、そっと歌い出した。風に乗せるように、短い一節だけ。

♪――君と過ごす、この日が

 宝物になるように――♪

レオニスは、静かに聴き入っていた。

最後の一音が風に溶けたとき、彼は言った。

「ありがとう、リノ」

「こちらこそ。……今日、すごく楽しかった」

ふたりは並んで座りながら、空が赤く染まるのをただ眺めていた。

お互いの正体をまだ知らずに。

でも、心の距離は少しずつ、確かに近づいていた。

**

その夜、リノは宿のベッドで、今日の出来事を何度も思い返していた。

レオの笑顔、言葉、風の匂い――どれもが胸の奥に残って、なかなか眠れなかった。

そして、レオニスもまた、王宮の静かな部屋で窓の外を見ながら、同じ空気を思い出していた。

(君のこと、もっと知りたい)

ふたりの思いは、まだ名前も知らぬまま、そっと重なりはじめていた。

旅は、まだ続く。

でも、心のどこかに確かに芽生えた“想い”は――いつか、旋律になるのかもしれない。
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