47 / 66
第47話 リノが唄う、レオニスとのワルツ
しおりを挟む
「音の余韻と、ふたりのステップ」
音楽会が終わったその夜、ヴァルシュタイン公爵家の広間では、煌びやかな舞踏会が幕を開けていた。
シャンデリアの光が、天井のクリスタルをきらきらと反射し、貴族たちの笑い声とグラスの音が優雅に響いている。
けれど、リノはその華やかさに少しだけ圧倒されていた。
(舞踏会って、こんなに……目が回りそう)
白いドレスに身を包み、部屋の隅でひっそりとグラスを手にする。さっきまでの音楽会では堂々と歌えたのに、舞台を下りた瞬間から、なんだか自信がしぼんでしまった。
リノはそっとため息をついた。
「……あれ、もしかして緊張してる?」
ふと、耳元に優しい声が降ってきた。
振り向けば、そこにはレオニス。いつも通りの笑顔――だけど、今夜の彼はどこか違った。黒い正装に金のブローチ、そして静かな瞳。そのすべてが、“王子様”という言葉にぴったりだった。
「ちょっとだけ……。あんなに人がたくさんいる場所、慣れてなくて」
リノが小さな声で言うと、レオニスはふっと笑って手を差し出した。
「じゃあ、君が一番落ち着ける方法を教えるよ」
「え?」
「――僕と、踊ってみる?」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「お、踊るって……わたし、王宮の舞踏会でなんて踊ったことないよ?」
「平気。君は音を感じる人だから、きっとすぐわかる」
リノは迷った。けれど、その手を信じて、そっと自分の手を重ねる。
**
広間の中央へと進むと、レオニスが音楽士に小さく合図を送った。
流れ始めたのは、ゆったりとした三拍子のワルツ。
リノの耳に心地よく響いてくる。
「リードは任せて。君はただ、僕と一緒に流れに乗るだけでいい」
そう言って、レオニスはリノの腰に手を添えた。
最初の一歩。
靴音が床をやさしく叩く。
ひとつ、ふたつ、ゆっくりと円を描くように、ふたりの体が滑り始めた。
初めは戸惑っていたリノも、すぐに気づく。
(あ……レオの動き、音楽と同じ……)
心地よい風に包まれているようだった。
レオニスの腕の中で、まるで音に乗って舞っているような感覚。
「……どう?」
「うん。魔法みたい。音と風と……あなたの手で、どこまでも行けそう」
「それは最高の褒め言葉だな」
レオニスはくすっと笑って、リノの腰を少し引き寄せた。
瞬間、リノの頬がかあっと赤く染まる。
「こ、ここでそんなに近づかないでよ……みんな見てる……」
「見られて困る関係じゃないよ、僕たち」
そう言われて、リノは言葉を詰まらせた。
――たしかに、その通りだった。
この手を握ってくれる人は、王国の第三王子。
そして、彼の隣に立つのは、今や“公爵家の娘”として迎えられた自分。
(それでも……やっぱり、ドキドキする)
まるで自分が絵本の中にいるみたいで、現実味がない。
でも、レオニスの手のぬくもりが、それが“ほんとう”なのだと教えてくれる。
**
舞踏が終わると、ふたりはそっと中庭へ抜け出した。
夜風が静かに頬を撫で、星がまるで灯りのように空に瞬いている。
「ねえ、リノ」
レオニスがそっと、リノの肩を抱いた。
「……君があの歌を歌ってから、僕の心はずっと揺れてるんだ。言葉でうまく言えないけど、あの歌が、君そのもので……。すごく、好きだった」
リノは一瞬、目を見開いて、そして静かに微笑んだ。
「ありがとう、レオ。あの歌は、あなたと出会って、あなたを思って生まれた歌だよ」
ふたりの距離が、そっと近づく。
手を繋いで、同じ空を見上げる。
「ねえ、これからも、わたしが歌うときは、あなたが隣にいてくれる?」
「もちろん。僕の未来には、君の歌が必要なんだ」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
遠くからは、まだ舞踏会の音楽がかすかに聞こえてくる。
でも、ここにはふたりだけの静かな音が流れていた。
心の音、想いの旋律――
それは、誰よりもロマンチックなワルツだった。
**
その夜。リノの部屋には、ささやかな花束が届けられていた。
差出人は、もちろんレオニス。
添えられていた小さなメッセージには、こう書かれていた。
「君と踊った今夜のことを、一生忘れない。
次の舞踏会も、最初の一曲は、君と――レオニスより」
リノはそのカードを胸に抱きながら、そっと微笑んだ。
(わたしも……絶対に忘れない)
そう心に誓いながら、そっと瞳を閉じた。
音楽会の余韻と、踊った記憶が、優しい夢へと続いていく――。
音楽会が終わったその夜、ヴァルシュタイン公爵家の広間では、煌びやかな舞踏会が幕を開けていた。
シャンデリアの光が、天井のクリスタルをきらきらと反射し、貴族たちの笑い声とグラスの音が優雅に響いている。
けれど、リノはその華やかさに少しだけ圧倒されていた。
(舞踏会って、こんなに……目が回りそう)
白いドレスに身を包み、部屋の隅でひっそりとグラスを手にする。さっきまでの音楽会では堂々と歌えたのに、舞台を下りた瞬間から、なんだか自信がしぼんでしまった。
リノはそっとため息をついた。
「……あれ、もしかして緊張してる?」
ふと、耳元に優しい声が降ってきた。
振り向けば、そこにはレオニス。いつも通りの笑顔――だけど、今夜の彼はどこか違った。黒い正装に金のブローチ、そして静かな瞳。そのすべてが、“王子様”という言葉にぴったりだった。
「ちょっとだけ……。あんなに人がたくさんいる場所、慣れてなくて」
リノが小さな声で言うと、レオニスはふっと笑って手を差し出した。
「じゃあ、君が一番落ち着ける方法を教えるよ」
「え?」
「――僕と、踊ってみる?」
その言葉に、心臓が跳ねた。
「お、踊るって……わたし、王宮の舞踏会でなんて踊ったことないよ?」
「平気。君は音を感じる人だから、きっとすぐわかる」
リノは迷った。けれど、その手を信じて、そっと自分の手を重ねる。
**
広間の中央へと進むと、レオニスが音楽士に小さく合図を送った。
流れ始めたのは、ゆったりとした三拍子のワルツ。
リノの耳に心地よく響いてくる。
「リードは任せて。君はただ、僕と一緒に流れに乗るだけでいい」
そう言って、レオニスはリノの腰に手を添えた。
最初の一歩。
靴音が床をやさしく叩く。
ひとつ、ふたつ、ゆっくりと円を描くように、ふたりの体が滑り始めた。
初めは戸惑っていたリノも、すぐに気づく。
(あ……レオの動き、音楽と同じ……)
心地よい風に包まれているようだった。
レオニスの腕の中で、まるで音に乗って舞っているような感覚。
「……どう?」
「うん。魔法みたい。音と風と……あなたの手で、どこまでも行けそう」
「それは最高の褒め言葉だな」
レオニスはくすっと笑って、リノの腰を少し引き寄せた。
瞬間、リノの頬がかあっと赤く染まる。
「こ、ここでそんなに近づかないでよ……みんな見てる……」
「見られて困る関係じゃないよ、僕たち」
そう言われて、リノは言葉を詰まらせた。
――たしかに、その通りだった。
この手を握ってくれる人は、王国の第三王子。
そして、彼の隣に立つのは、今や“公爵家の娘”として迎えられた自分。
(それでも……やっぱり、ドキドキする)
まるで自分が絵本の中にいるみたいで、現実味がない。
でも、レオニスの手のぬくもりが、それが“ほんとう”なのだと教えてくれる。
**
舞踏が終わると、ふたりはそっと中庭へ抜け出した。
夜風が静かに頬を撫で、星がまるで灯りのように空に瞬いている。
「ねえ、リノ」
レオニスがそっと、リノの肩を抱いた。
「……君があの歌を歌ってから、僕の心はずっと揺れてるんだ。言葉でうまく言えないけど、あの歌が、君そのもので……。すごく、好きだった」
リノは一瞬、目を見開いて、そして静かに微笑んだ。
「ありがとう、レオ。あの歌は、あなたと出会って、あなたを思って生まれた歌だよ」
ふたりの距離が、そっと近づく。
手を繋いで、同じ空を見上げる。
「ねえ、これからも、わたしが歌うときは、あなたが隣にいてくれる?」
「もちろん。僕の未来には、君の歌が必要なんだ」
その言葉に、胸がいっぱいになった。
遠くからは、まだ舞踏会の音楽がかすかに聞こえてくる。
でも、ここにはふたりだけの静かな音が流れていた。
心の音、想いの旋律――
それは、誰よりもロマンチックなワルツだった。
**
その夜。リノの部屋には、ささやかな花束が届けられていた。
差出人は、もちろんレオニス。
添えられていた小さなメッセージには、こう書かれていた。
「君と踊った今夜のことを、一生忘れない。
次の舞踏会も、最初の一曲は、君と――レオニスより」
リノはそのカードを胸に抱きながら、そっと微笑んだ。
(わたしも……絶対に忘れない)
そう心に誓いながら、そっと瞳を閉じた。
音楽会の余韻と、踊った記憶が、優しい夢へと続いていく――。
95
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
やんちゃな公爵令嬢の駆け引き~不倫現場を目撃して~
岡暁舟
恋愛
名門公爵家の出身トスカーナと婚約することになった令嬢のエリザベート・キンダリーは、ある日トスカーナの不倫現場を目撃してしまう。怒り狂ったキンダリーはトスカーナに復讐をする?
もう我慢したくないので自由に生きます~一夫多妻の救済策~
岡暁舟
恋愛
第一王子ヘンデルの妻の一人である、かつての侯爵令嬢マリアは、自分がもはや好かれていないことを悟った。
「これからは自由に生きます」
そう言い張るマリアに対して、ヘンデルは、
「勝手にしろ」
と突き放した。
全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のセーラは、1人崖から海を見つめていた。大好きだった父は、2ヶ月前に事故死。愛していた婚約者、ワイアームは、公爵令嬢のレイリスに夢中。
さらにレイリスに酷い事をしたという噂まで流されたセーラは、貴族世界で完全に孤立していた。独りぼっちになってしまった彼女は、絶望の中海を見つめる。
“私さえいなくなれば、皆幸せになれる”
そう強く思ったセーラは、子供の頃から大好きだった歌を口ずさみながら、海に身を投げたのだった。
一方、婚約者でもあるワイアームもまた、一人孤独な戦いをしていた。それもこれも、愛するセーラを守るため。
そんなワイアームの気持ちなど全く知らないセーラは…
龍の血を受け継いだワイアームと、海神の娘の血を受け継いだセーラの恋の物語です。
ご都合主義全開、ファンタジー要素が強め?な作品です。
よろしくお願いいたします。
※カクヨム、小説家になろうでも同時配信しています。
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる