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第50話 私ね、アレクシス殿下の目が怖いの
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「あの目は、見たことがある…」
グランディア北部の村での公演を終え、リノとレオニスを乗せた馬車は、静かに王都への帰路についた。
けれど、リノの表情は冴えない。窓の外を見つめながら、彼女は口を開いた。
「レオ……私ね、アレクシス殿下の目が怖いの」
レオニスは驚いたようにリノを見つめた。
「怖い……? 彼は確かに厳しいけれど、君に敵意があるようには見えなかった」
「ううん、そうじゃないの。言葉じゃないの……“目”なの。冷たくて、何かを計算してるようで……。あの目、前にも見たことがある気がして、ずっと胸がざわついてる」
リノの声は小さく震えていた。まるで過去の影が、背後から忍び寄ってくるような不安が、その表情ににじんでいた。
「前にも……? それって、どういう……」
「前世の記憶の中で、あの目を見たの。私が“さつき”だった頃……圭太、っていう人がいた。職場の先輩だったの。最初は優しくて、でも途中から、目が変わった。冷たくて、打算的で、こっちの気持ちなんて一つも見てない目」
レオニスは息を飲んだ。
「その人は……君に、何をしたの?」
「振られたの。新人の若い子とデキ婚して、私のことを『重かった』って。でも、人生がうまくいかなくなったら、全部、私のせいにしたの。最後には……」
リノは言葉を詰まらせた。
「最後には、階段から突き飛ばされた。私……その時、死んだの」
馬車の中に、重苦しい沈黙が落ちた。
「……君の前世、そんなことが……」
レオニスの声には怒りと悲しみが混ざっていた。
「アレクシス殿下の目を見たとき、心が警告したの。『また、あの目だ』って……。彼は今は礼儀正しくて、立派に見えるかもしれない。でも、心の奥では、何か別のことを考えてる気がしてならないの」
リノは膝の上で手を握りしめた。
「私は……ただ利用されてるだけじゃないかって……。また“道具”にされるのかと思うと、怖い」
レオニスはそっとリノの手に自分の手を重ねた。
「君は道具なんかじゃない。君の歌は誰かを癒すものだし、君自身の意志で選んできた。……でも、不安があるなら、無理はしないでいい。僕が、君を守る」
その言葉に、リノは少しだけ笑顔を見せた。
しかし――その直後。
「っ!? 揺れた……?」
馬車が大きく傾いた。次の瞬間、激しい衝撃が車体を揺さぶり、外からは怒声と金属音が響いてきた。
「盗賊!? まさか、こんなところで――!」
護衛の騎士たちの叫び。馬の嘶き。馬車が横転する寸前で止まり、リノとレオニスは床に倒れ込んだ。
レオニスは即座に立ち上がり、剣を手にして外に飛び出す。
「リノ、馬車から出るな! 絶対に!」
騎士団の奮闘により、なんとか盗賊たちは追い払われたものの、馬車は車輪が壊れ、動けなくなっていた。
辺りは森。次の中継地までは数日かかる。
「……このままでは危険です。夜を越すのも難しい。姫君をこのままにはできません」
護衛の副官が冷静に告げた。
「やむを得ん。……近くにあるのは、グランディア王城だ」
レオニスの言葉に、リノの顔がこわばった。
「……戻るの? あそこに?」
「今は、それしか安全な場所がない。アレクシス殿下が君に何か企んでいるなら、僕がそばで止める。だから……信じて」
リノはゆっくりと頷いた。
けれど心の奥底で、あの琥珀色の瞳が、冷たく光る気がして――リノの不安は、消えることなく深まっていったのだった。
再び向かう、異国の王城。
その場所で待っているのは、歌姫に手を差し伸べる善意か、それとも――前世の悲劇をなぞる、静かな罠か。
夜風が、ざわりと森を揺らした。まるで未来を警告するように。
あとがき
最期まで読んでいただきありがとうございました。評価ポイントをいただけると今後の執筆の励みになります。嬉しいです。 新作始めました。
【婚約破棄された翌日、婚約破棄令嬢を拾った無能な伯爵家7男ハルトは、剣聖の力を手に入れたので、復讐します!】
【魔法学校の試験に落ちたら、伯爵家を追放された上に暗殺されかけたので、森の山小屋で出会った素敵なお姉さんにいろいろと教わり、メチャ強くなって復讐します!】
グランディア北部の村での公演を終え、リノとレオニスを乗せた馬車は、静かに王都への帰路についた。
けれど、リノの表情は冴えない。窓の外を見つめながら、彼女は口を開いた。
「レオ……私ね、アレクシス殿下の目が怖いの」
レオニスは驚いたようにリノを見つめた。
「怖い……? 彼は確かに厳しいけれど、君に敵意があるようには見えなかった」
「ううん、そうじゃないの。言葉じゃないの……“目”なの。冷たくて、何かを計算してるようで……。あの目、前にも見たことがある気がして、ずっと胸がざわついてる」
リノの声は小さく震えていた。まるで過去の影が、背後から忍び寄ってくるような不安が、その表情ににじんでいた。
「前にも……? それって、どういう……」
「前世の記憶の中で、あの目を見たの。私が“さつき”だった頃……圭太、っていう人がいた。職場の先輩だったの。最初は優しくて、でも途中から、目が変わった。冷たくて、打算的で、こっちの気持ちなんて一つも見てない目」
レオニスは息を飲んだ。
「その人は……君に、何をしたの?」
「振られたの。新人の若い子とデキ婚して、私のことを『重かった』って。でも、人生がうまくいかなくなったら、全部、私のせいにしたの。最後には……」
リノは言葉を詰まらせた。
「最後には、階段から突き飛ばされた。私……その時、死んだの」
馬車の中に、重苦しい沈黙が落ちた。
「……君の前世、そんなことが……」
レオニスの声には怒りと悲しみが混ざっていた。
「アレクシス殿下の目を見たとき、心が警告したの。『また、あの目だ』って……。彼は今は礼儀正しくて、立派に見えるかもしれない。でも、心の奥では、何か別のことを考えてる気がしてならないの」
リノは膝の上で手を握りしめた。
「私は……ただ利用されてるだけじゃないかって……。また“道具”にされるのかと思うと、怖い」
レオニスはそっとリノの手に自分の手を重ねた。
「君は道具なんかじゃない。君の歌は誰かを癒すものだし、君自身の意志で選んできた。……でも、不安があるなら、無理はしないでいい。僕が、君を守る」
その言葉に、リノは少しだけ笑顔を見せた。
しかし――その直後。
「っ!? 揺れた……?」
馬車が大きく傾いた。次の瞬間、激しい衝撃が車体を揺さぶり、外からは怒声と金属音が響いてきた。
「盗賊!? まさか、こんなところで――!」
護衛の騎士たちの叫び。馬の嘶き。馬車が横転する寸前で止まり、リノとレオニスは床に倒れ込んだ。
レオニスは即座に立ち上がり、剣を手にして外に飛び出す。
「リノ、馬車から出るな! 絶対に!」
騎士団の奮闘により、なんとか盗賊たちは追い払われたものの、馬車は車輪が壊れ、動けなくなっていた。
辺りは森。次の中継地までは数日かかる。
「……このままでは危険です。夜を越すのも難しい。姫君をこのままにはできません」
護衛の副官が冷静に告げた。
「やむを得ん。……近くにあるのは、グランディア王城だ」
レオニスの言葉に、リノの顔がこわばった。
「……戻るの? あそこに?」
「今は、それしか安全な場所がない。アレクシス殿下が君に何か企んでいるなら、僕がそばで止める。だから……信じて」
リノはゆっくりと頷いた。
けれど心の奥底で、あの琥珀色の瞳が、冷たく光る気がして――リノの不安は、消えることなく深まっていったのだった。
再び向かう、異国の王城。
その場所で待っているのは、歌姫に手を差し伸べる善意か、それとも――前世の悲劇をなぞる、静かな罠か。
夜風が、ざわりと森を揺らした。まるで未来を警告するように。
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