婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

文字の大きさ
14 / 179

第14話 アリスター・テオドリック婚約破棄される。

しおりを挟む
 アリスター・テオドリック婚約破棄劇

 玉座の間には、どこか冷えた空気が漂っていた。
 広大な赤絨毯が敷かれたその中央に、アリスター・テオドリックは一人、晒し者さらしもののように立たされていた。

 幾重にも重なる石造りの壁、高い天井からは燭台しょくだいが垂れ下がり、黄金に輝く光を放っている。
 だが、その光は今のアリスターには、ただ無慈悲な監視の目にしか思えなかった。

 玉座に腰掛ける王、グレィ・テオドリックが重々しく口を開いた。

「アリスター・テオドリック」

 その声は低く、抑えきれない嫌悪感を滲ませにじまていた。

「貴様には、婚約者アイラ・ド・ランヴェール嬢への、著しい不誠実があったと認める」

 その宣言に、玉座の間はざわめいた。
 重臣たち、貴族たちがひそひそと耳打ちを交わし、あからさまにアリスターを侮蔑する視線を向けてきた。

 アリスターは眉をひそめ、首を振る。

「……不誠実? 馬鹿な」

 こんな告発、荒唐無稽こうとうむけいだ。
 自分は婚約者を冷遇した覚えも、恥をかかせた覚えもない。

 だが、すぐにそれをかき消すように、王の隣に控えていた第二王子――ユリウス・テオドリックが、一歩前に出た。

 その顔には、あからさまな勝ち誇りの笑み。

「兄上。あなたは、アイラを顧みず、下賤げせんな女たちと戯れたわむれ、婚約者を冷遇した。それは王家にとって、まさしく恥辱そのものだ」

 ユリウスの声は、あくまで冷ややかで、容赦がなかった。

「なっ……! そんな事実はない!」

 アリスターは声を荒げた。
 だが、彼の叫びは、あまりにも虚しく玉座の間に響くばかりだった。

「証拠なら、いくらでもありますわ」

 しなやかな足取りで、アイラ・ド・ランヴェールが進み出る。
 その顔には、作り物の涙が浮かび、まるでこの世の悲劇を一身に背負ったかのような演技だった。

「アリスター様……わたくし、ずっと耐えてまいりました。ですが、もう、限界なのです……!」

「アイラ……?」

 アリスターは思わず声を漏らす。
 信じた相手に、裏切られたような痛みが胸を刺した。

「あなた様は、わたくしに暴力を振るい、侮辱し、愛の言葉ひとつかけてくださいませんでした……!」

 アイラは絞り出すように言った。
 その声音は悲痛に満ちていたが、目元には薄ら笑いが張り付いていた。

「――嘘だ!!」

 アリスターは叫んだ。
 それは必死の否定だった。
 心からの、魂の底からの叫びだった。

「ボクは、そんなこと一度たりともしていない!」

 だが、その言葉に応じたのは、冷笑だった。

「嘘つきはそちらだ、兄上」

 ユリウスが、心底軽蔑するような目でアリスターを見下ろした。

「この場には、アイラだけではない。重臣たち、侍女たち、多くの者たちが、あなたの非道を目撃している」

 アリスターが顔を上げると、周囲の者たちは一斉に目を逸らした。
 かつて彼に忠誠を誓ったはずの貴族たちも、使用人たちも、まるで腫れ物を見るような目で彼を避けていた。

(……まさか、買収されたのか)

 アリスターは奥歯を噛み締めた。

 これがユリウスの仕組んだ罠だと気づいたときには、すでにすべてが遅かった。

「アリスター・テオドリック」

 王が再び呼びかけた。

「この場をもって、アイラ嬢との婚約を破棄する」

 静まり返る空間に、その声だけが鋭く突き刺さる。

「そんな……」

 アリスターは絶句した。

 婚約破棄。それは、単なる一私人の破局ではない。
 王家の長子たる自分にとって、それは即ち、政治的な死刑宣告と同義だった。

 だが、王はさらに容赦なく告げる。

「そして!」

 玉座に響く、憎悪すらにじむ声。

「王位継承権を剥奪し、国外追放とする!」

 その宣告に、玉座の間はざわめきに包まれた。
 多くの者たちが笑みを隠しきれずにいた。
 王太子失脚の瞬間を見届けられることに、悦びすら覚えているのだ。

「っ……!」

 アリスターは拳を震わせた。
 屈辱と怒りで、今にも膝をつきそうだった。

「なぜだ……ボクは王家の長子だぞ……なぜ、こんな茶番で……!」

 叫びは誰にも届かない。

 ユリウスが、ゆっくりと近づいてきた。

「すべては、兄上の自業自得です」

 唇の端に、あからさまな嘲笑を浮かべながら。

「兄上がいなくなれば、この王国は清らかになりますよ。……どうぞ、安心してお去りください」

 続けざまに、アイラも涼しげな微笑みで言い放った。

「そうですわ、アリスター様。あなた様のような穢れけがは、王国には不要。どうぞ、どこか遠い異国で……無様に朽ち果ててくださいませ」

 悪意に満ちた言葉の刃が、アリスターの胸を突き刺す。
 彼の中で何かが、静かに音を立てて壊れていった。

 だが、それでもアリスターは、頭を垂れることはなかった。
 この場で泣き喚き、膝をつくことだけは、絶対に許せなかった。

「……いいだろう」

 アリスターは、低く、静かな声で言った。

「くだらない国だ。……そんなものに、しがみつくつもりはない」

 くるりと踵を返す。

 誰も止めない。
 誰も声をかけない。

 その背中に、嘲りの笑い声だけが浴びせられる。

(必ずだ……)

 心の中で、燃えさかる炎を押し殺しながら。

(必ず後悔させてやる)

 胸に宿った怒りの火は、まだ小さい。
 だがそれは、やがて全てを焼き尽くすだろう。

 この地を去った王子が、いずれ歴史を揺るがす存在となることを、
 このとき、誰一人として予想していなかった――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...