婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス

文字の大きさ
17 / 179

第17話 エリーゼからみたアリスターのナルシスト度

しおりを挟む
 ナルシストのアリスターとは?


 ――本当に、なんなのこの人。

 エリーゼはため息をつきながら、金髪の青年――アリスターをちらりと見やった。

 水面に映る自分の顔を何度も確認し、髪の流れや襟の乱れを整えているその姿は、戦士というよりキラキラ王子様の肖像画そのものだった。否、本人はそのつもりなのだろう。だが彼女からすれば、それはただの「鏡を離せないナルシスト」にしか見えない。

(鏡がなくても、水面で顔を確認できるって発想、もう末期では……?)

 つい先ほど出会ったばかりなのに、エリーゼはすでにアリスターに対して、強烈な警戒と困惑、そしてほんの少しの諦念を覚えていた。

「エリーゼ君、どうだい。やはりボクのこの横顔、なかなか芸術的だろう?」

「……ええ、まあ、そうですね」

 精一杯の愛想笑いでかわす。

(うん、確かに美形。それは否定しない。ていうか、そこまで言うほど自分を客観的に美しいって思えるの、逆にすごい)

 しかし、エリーゼの内心は冷えきっていた。

 彼女がこの男と出会ったのは、森を抜けたすぐ先の小さな池のほとりだった。神秘的な雰囲気の水辺で、一人の青年がうっとりとした表情で池の中を見つめていた――珍しい魚か水生植物でもいるのかしらと、エリーゼは思った。だが、違った。見惚れていたのは池の中ではなく、自分自身だったのだ。

(「ボクの美しさに見惚れていたのだよ」って、普通初対面の相手に言う!?)

 その言葉を聞いたときの衝撃は、いまだに脳裏に焼き付いている。まさかこんなキャラクターが現れるとは思ってもいなかった。しかも、元王子らしい。

(……第一王子だった、らしいけど)

 その話を聞いたときも、思わず「だった?」と聞き返してしまった。すると、彼はとつとつと――いや、芝居がかった大仰な仕草で語り出した。

 曰く、自分は婚約者と弟に嫉妬され、陰謀に嵌められて玉座を追われたのだという。

「婚約者が心変わりして弟に走ったのさ。ボクがあまりに美しかったから嫉妬して……全ては美の呪いだね!」

(何その呪い、初耳すぎる……)

 どこまで本当なのか、あるいは彼の中では全て真実なのかすら分からない。

 ただ一つ確かなのは、アリスターが「自分の容姿と存在」に、異常なまでの誇りと自信を抱いていることだ。

「ボクと一緒に旅をしないかい?」

 その誘いを受けたとき、エリーゼは反射的に「考えておきますね!」と笑顔で答えた。

 嘘ではなかった。本当に考えてはいる。戦力として頼もしいなら、一緒に行動するのも悪くはない。だが――

(その前にこの人の性格、ついていけるかな……)

 黙っていれば絵になる男。それは間違いない。王子らしい気品も、見た目の整い方も、エリーゼからすれば「本物」だった。

 だが、それを台無しにしているのが本人の言動だ。

「ボクの髪、今朝の陽光で一段と金色が冴えて見えるんだ。やっぱり自然光が似合う顔立ちって、得だよね!」

 などと、まるで自己紹介の続きかのように話しかけてくる。

(知らんし。ていうか、あたし、今は剣を探す方が大事なんだけど)

 エリーゼは心の中で何度も突っ込んでいた。

 だが、不思議なことに――まったく嫌いにはなれなかった。

 アリスターの話は突飛だし、言動はしばしば面倒臭いし、自己評価は天井知らずだ。でも、それがどこか憎めない。イケメン特権だからなのか? いや、それだけではない。

(……ある意味、真っ直ぐなんだよね)

 嘘をついていない、というよりも、「自分の中の真実を全力で信じ切っている」タイプ。正直すぎるのだろう。

 だからこそ、彼の語る追放の話も、単なる被害妄想とは言い切れない。何かしら、政治的な思惑や宮廷内の力関係があったのかもしれない。

(それにしても……「流浪の美青年」って、自分で言う?)

 旅の仲間としては、やっぱり癖が強すぎる。でも、もし本当に剣も魔法も使えるなら、いざというときは頼りになるだろう。

 そして何より、こんな人物が一緒にいたら、退屈だけはしないはずだ。

「なあ、エリーゼ君。キミの瞳も綺麗だ。まるでルビーのような赤紫色だね。まるで、ボクと出会うために生まれてきたような――」

「はいはい、そこまで!」

 ついにエリーゼは声を張り上げた。

 驚いた様子のアリスターが目をぱちくりさせる。

「……さすがに、ちょっと、やりすぎです!」

「そ、そうかい? でもボクは、感じたことを言っただけなんだけど……」

 しょんぼりするその顔が、また少しだけ罪の意識をくすぐってくる。

 エリーゼは、軽くため息をついた。

「……少しずつでいいので、黙っている時間も覚えてください。そしたら、一緒に旅してもいいですから」

「本当かい? ああ、エリーゼ君……! キミはボクを救ってくれる、まさに運命の乙女……!」

「……いきなり台無しにしないで!」

 エリーゼは天を仰ぎながら、ようやく口元に笑みを浮かべた。

(まあ……少しくらいなら、うるさくてもいいかな)

 桃色の髪を風になびかせて、彼女は再び歩き出す。

 その隣では、金髪の元王子が、ひとり語り続けていた。

 ――自分の美しさと不遇な運命について。

 ……長い旅になりそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?

向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。 というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。 私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。 だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。 戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...