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第68話 酒場「黒鮪亭」クロマグロ亭
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【酔漢と金髪の魔法使い】
ロゼリアの港で海鮮を堪能した後、スプレーマムの一行は宿の近くにある酒場「黒鮪亭」に足を運んでいた。夜も更け、酒場には賑やかな笑い声と酔客の歌声が満ちていた。
「ふーっ、お腹いっぱい。タコのから揚げ、美味しかったね!」
エリーゼは上機嫌に笑いながら、空になったジョッキを卓上に置いた。桃色の髪が肩で揺れ、その瞳はどこまでも澄んでいる。
「ボクは、あの牡蠣のグラタンが絶品だったと思うな。まあ、素材の旨味を引き出せる料理人に感謝、ってやつだね」
アリスターはくるりと指を回し、ウィンクを一つ。相変わらずの軽口で、隣のダリルは渋い顔をしていた。
「……拙者は、あまり酒場という場に馴染みがなくてな。こう、騒がしすぎて……」
「まあまあ、ダリル君、そう固くならずに。今夜くらいは楽しんでも罰は当たらないよ?」
和やかな雰囲気に包まれる一行。しかし、ひとつ向こうの席で、それは起きた。
「よう、姉ちゃん。さっきから見てたんだが……一緒に飲まねぇか?」
酒に酔った中年の男が、エリーゼの隣にずかずかと入り込んできた。目は据わり、酒臭い息が彼女の顔にかかる。
「すみません、お誘いは嬉しいですが、わたし、仲間と飲んでるんです」
エリーゼは穏やかに断る。だが男は聞く耳を持たなかった。
「そんなこと言わずによぉ、もっと楽しくやろうぜ? なぁ、なにもしねぇって」
言いながら、男の手がエリーゼの肩に伸びる――その瞬間だった。
「……おいおい、それ以上はやめておいた方がいい。君、センスがないね。レディへの接し方としても、男としても」
軽やかな声が割り込む。金髪の魔法使い――アリスターが椅子から立ち上がり、ゆっくりと男に歩み寄ってきた。彼の顔には余裕の笑みが浮かび、その瞳は、しかし氷のように冷たく澄んでいた。
「誰だ、お前……!」
「ボク? 名乗るほどの者じゃないけど、彼女の仲間だよ。それから──魔法使い、でもある」
アリスターの指先が、わずかに光を放った。男が怯んだ瞬間、椅子の脚元に微かな火花が走る。
「なっ……なにしやがった!」
「ただの静電気さ。だけど次は、君の膝下あたりが痺れる程度の『雷のささやき』をお見舞いすることになるかも。あくまで、君がしつこくしたら……だけどね」
アリスターの口調は軽い。しかし、酒場の空気がピリリと張り詰めた。周囲の客も何事かと様子を窺う中、酔漢の男は顔を真っ赤にして立ち上がると、何か捨て台詞を吐いてその場を去った。
「……ちっ、覚えてろ!」
「あー、そういう捨て台詞、三流ってバレるからやめた方がいいのに」
アリスターはため息交じりに首をすくめ、何事もなかったかのようにエリーゼの隣に座った。
「大丈夫だった?」
「……うん、ありがとう。助かったよ、アリスター」
エリーゼは頬を赤らめて笑う。その笑顔に、アリスターは一瞬だけ目を見張った。
「ったく、ああいう連中ってどこにでもいるんだね。こんな素敵なレディに手を出すなんて、見る目がないにも程があるよ」
「ふふ、言いすぎだよ。でも、ほんとに助かった。わたし、剣は振れるけど……お酒の場での立ち回りは、まだまだ初心者だから」
「そんなことないさ。君は堂々としてた。……ボクはね、誰かを守るために魔法を使うって決めてる。君が困ってたら、そりゃあ動くよ。……仲間だからね」
アリスターの言葉に、エリーゼはゆっくり頷いた。その笑顔は、港の灯のようにあたたかく、どこか切なさも帯びていた。
「ねぇ、アリスター」
「ん?」
「もし……わたしが誰かのために、命を張らなきゃいけない日が来たら。そのときも、助けに来てくれる?」
「……そんなの、言うまでもないさ。たとえ世界の果てでも、ボクが迎えに行くよ。君がここに帰って来られるように」
「……うん」
二人のグラスが、静かに触れ合う音が響いた。
それは酔いどれた喧噪の中にあって、ひときわ澄んだ約束の音だった。
ロゼリアの港で海鮮を堪能した後、スプレーマムの一行は宿の近くにある酒場「黒鮪亭」に足を運んでいた。夜も更け、酒場には賑やかな笑い声と酔客の歌声が満ちていた。
「ふーっ、お腹いっぱい。タコのから揚げ、美味しかったね!」
エリーゼは上機嫌に笑いながら、空になったジョッキを卓上に置いた。桃色の髪が肩で揺れ、その瞳はどこまでも澄んでいる。
「ボクは、あの牡蠣のグラタンが絶品だったと思うな。まあ、素材の旨味を引き出せる料理人に感謝、ってやつだね」
アリスターはくるりと指を回し、ウィンクを一つ。相変わらずの軽口で、隣のダリルは渋い顔をしていた。
「……拙者は、あまり酒場という場に馴染みがなくてな。こう、騒がしすぎて……」
「まあまあ、ダリル君、そう固くならずに。今夜くらいは楽しんでも罰は当たらないよ?」
和やかな雰囲気に包まれる一行。しかし、ひとつ向こうの席で、それは起きた。
「よう、姉ちゃん。さっきから見てたんだが……一緒に飲まねぇか?」
酒に酔った中年の男が、エリーゼの隣にずかずかと入り込んできた。目は据わり、酒臭い息が彼女の顔にかかる。
「すみません、お誘いは嬉しいですが、わたし、仲間と飲んでるんです」
エリーゼは穏やかに断る。だが男は聞く耳を持たなかった。
「そんなこと言わずによぉ、もっと楽しくやろうぜ? なぁ、なにもしねぇって」
言いながら、男の手がエリーゼの肩に伸びる――その瞬間だった。
「……おいおい、それ以上はやめておいた方がいい。君、センスがないね。レディへの接し方としても、男としても」
軽やかな声が割り込む。金髪の魔法使い――アリスターが椅子から立ち上がり、ゆっくりと男に歩み寄ってきた。彼の顔には余裕の笑みが浮かび、その瞳は、しかし氷のように冷たく澄んでいた。
「誰だ、お前……!」
「ボク? 名乗るほどの者じゃないけど、彼女の仲間だよ。それから──魔法使い、でもある」
アリスターの指先が、わずかに光を放った。男が怯んだ瞬間、椅子の脚元に微かな火花が走る。
「なっ……なにしやがった!」
「ただの静電気さ。だけど次は、君の膝下あたりが痺れる程度の『雷のささやき』をお見舞いすることになるかも。あくまで、君がしつこくしたら……だけどね」
アリスターの口調は軽い。しかし、酒場の空気がピリリと張り詰めた。周囲の客も何事かと様子を窺う中、酔漢の男は顔を真っ赤にして立ち上がると、何か捨て台詞を吐いてその場を去った。
「……ちっ、覚えてろ!」
「あー、そういう捨て台詞、三流ってバレるからやめた方がいいのに」
アリスターはため息交じりに首をすくめ、何事もなかったかのようにエリーゼの隣に座った。
「大丈夫だった?」
「……うん、ありがとう。助かったよ、アリスター」
エリーゼは頬を赤らめて笑う。その笑顔に、アリスターは一瞬だけ目を見張った。
「ったく、ああいう連中ってどこにでもいるんだね。こんな素敵なレディに手を出すなんて、見る目がないにも程があるよ」
「ふふ、言いすぎだよ。でも、ほんとに助かった。わたし、剣は振れるけど……お酒の場での立ち回りは、まだまだ初心者だから」
「そんなことないさ。君は堂々としてた。……ボクはね、誰かを守るために魔法を使うって決めてる。君が困ってたら、そりゃあ動くよ。……仲間だからね」
アリスターの言葉に、エリーゼはゆっくり頷いた。その笑顔は、港の灯のようにあたたかく、どこか切なさも帯びていた。
「ねぇ、アリスター」
「ん?」
「もし……わたしが誰かのために、命を張らなきゃいけない日が来たら。そのときも、助けに来てくれる?」
「……そんなの、言うまでもないさ。たとえ世界の果てでも、ボクが迎えに行くよ。君がここに帰って来られるように」
「……うん」
二人のグラスが、静かに触れ合う音が響いた。
それは酔いどれた喧噪の中にあって、ひときわ澄んだ約束の音だった。
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