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第83話 エリーゼ、アリスターたちを追いかける
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エリーゼは短く息を吸った。敵の包囲を振り切った今、躊躇う理由はなかった。
「――行くわよ!」
叫ぶと同時に、エリーゼは井戸の縁から身を投じた。足元の石を蹴り、空気の冷たさを裂くように落下する。壁面に残された苔と水の匂いが鼻を突いた。瞬く間に視界が闇に包まれ――やがて、着水の衝撃が身体を襲う。
冷たい。
その一言に尽きた。全身を貫くような水温が、思考を一瞬奪い取ったが、それでも彼女の目は閉じない。両腕を広げ、水をかき分けながら浮上する。
(大丈夫……みんなは、この先に……!)
水路に備えられた側道を探り、手をかけ、濡れた石の感触を頼りに身体を引き上げる。呼吸を整えながら、細い灯りの差す方向へ進む。水音が反響し、しばしば足元が滑りそうになりながらも、エリーゼの足取りに迷いはなかった。
その先――水の滴るトンネルを抜けた先、わずかに広がった空間の向こうに、懐かしい背中を見つけた。
「――みんな!」
呼びかけに、三人の影が振り向く。アリスターの金の髪が、灯りを受けて輝いていた。
「エリーゼ……! よかった!」
アリスターが駆け寄り、真っ先にエリーゼの両肩を掴んだ。その瞳が、安堵に潤んでいるのが分かる。
「無事だったのか……本当に、無事だったんだな!」
「うん、ちょっと水浸しだけどね」
エリーゼは笑った。全身が濡れそぼり、髪も肌も滴っていたが、その笑顔には曇りがなかった。隣でダリルも、安堵したように手を合わせて祈るような仕草を見せる。
「……拙者、てっきりもう……いや、良かった。心底、良かったでござる」
「おいおい、濡れネズミじゃねぇか」
最後にマスキュラーがやって来て、ふっと鼻で笑いながらも、彼なりに優しい声をかけた。
「風邪ひくぞ。あとで焚き火でもして乾かせ」
「ありがとう、みんな……ほんとに、ありがとう」
その場で四人はしばらく言葉もなく、ただ互いの無事を喜び合った。命がけのすれ違いを越えた後の再会――それは、言葉では言い尽くせないほどの安らぎを彼らにもたらしていた。
やがて、アリスターが小さく咳払いをして、奥の通路へと視線を向ける。
「……でも、まだ終わってない。この先に、目的の扉があるはずだ」
「うん、行こう」
再び歩き出した一行。湿った通路はやがて乾いた石床へと変わり、空間も徐々に広がっていった。壁に取り付けられた燭台の灯りが導くように道を照らし、装飾の施された柱が等間隔に並ぶ。
(この感じ……古い神殿跡ね。でも、まだ使われてる)
エリーゼは警戒しながらも進む。重厚な空気が漂い、奥へ行けば行くほど、周囲の静けさが重く感じられた。
やがて彼らは、巨大な扉の前へとたどり着いた。
それは、まるで神殿の聖域を守る最後の門のようだった。二階建ての家ほどの高さを誇る両開きの大扉は、金属と魔石で装飾され、中央には神聖文字のようなものが浮かび上がっている。青と白を基調としたその意匠は、どこか厳かで――同時に、息をのむほど美しかった。
「ここが……」
ダリルが思わず息を飲んだ。
「間違いない。この奥が、例の神殿の中枢区域だ」
アリスターが頷く。その表情は、明確な緊張と興奮に染まっていた。彼の手にした魔道具が、扉の前でかすかに震えている。
「魔力反応がある……誰かが中にいるか、あるいは……何かが目覚めてるかもな」
「準備はいいか?」
マスキュラーの問いに、三人はそれぞれ頷いた。
「うん。わたし、もう迷わない」
「拙者も……聖女様の想いを無駄にはせぬ」
「さて……」
アリスターが扉の前に進み出て、両手をかざす。術式を唱えると、扉の神聖文字が淡く輝いた。
――ごぉぉぉぉん。
音もなく扉が震え、静かに開き始める。重厚な音が通路に反響し、四人は息を呑んでその先を見つめた。
だが、扉の向こうにはまだ闇が広がっていた。光が届かない奥には何があるのか分からない――それでも、彼らの足取りは止まらなかった。
「行こう」
エリーゼが小さく呟いた。
その声は、どこまでも澄んでいた。不安も恐怖もある。だがそれを抱いたままでも、彼女の足は前へ進める。なぜなら、隣に信じられる仲間がいるから。
互いの顔を一度だけ見合わせた四人は、揃って扉の先へと足を踏み出した。
それは、安堵と、そして新たな試練への扉だった。
「――行くわよ!」
叫ぶと同時に、エリーゼは井戸の縁から身を投じた。足元の石を蹴り、空気の冷たさを裂くように落下する。壁面に残された苔と水の匂いが鼻を突いた。瞬く間に視界が闇に包まれ――やがて、着水の衝撃が身体を襲う。
冷たい。
その一言に尽きた。全身を貫くような水温が、思考を一瞬奪い取ったが、それでも彼女の目は閉じない。両腕を広げ、水をかき分けながら浮上する。
(大丈夫……みんなは、この先に……!)
水路に備えられた側道を探り、手をかけ、濡れた石の感触を頼りに身体を引き上げる。呼吸を整えながら、細い灯りの差す方向へ進む。水音が反響し、しばしば足元が滑りそうになりながらも、エリーゼの足取りに迷いはなかった。
その先――水の滴るトンネルを抜けた先、わずかに広がった空間の向こうに、懐かしい背中を見つけた。
「――みんな!」
呼びかけに、三人の影が振り向く。アリスターの金の髪が、灯りを受けて輝いていた。
「エリーゼ……! よかった!」
アリスターが駆け寄り、真っ先にエリーゼの両肩を掴んだ。その瞳が、安堵に潤んでいるのが分かる。
「無事だったのか……本当に、無事だったんだな!」
「うん、ちょっと水浸しだけどね」
エリーゼは笑った。全身が濡れそぼり、髪も肌も滴っていたが、その笑顔には曇りがなかった。隣でダリルも、安堵したように手を合わせて祈るような仕草を見せる。
「……拙者、てっきりもう……いや、良かった。心底、良かったでござる」
「おいおい、濡れネズミじゃねぇか」
最後にマスキュラーがやって来て、ふっと鼻で笑いながらも、彼なりに優しい声をかけた。
「風邪ひくぞ。あとで焚き火でもして乾かせ」
「ありがとう、みんな……ほんとに、ありがとう」
その場で四人はしばらく言葉もなく、ただ互いの無事を喜び合った。命がけのすれ違いを越えた後の再会――それは、言葉では言い尽くせないほどの安らぎを彼らにもたらしていた。
やがて、アリスターが小さく咳払いをして、奥の通路へと視線を向ける。
「……でも、まだ終わってない。この先に、目的の扉があるはずだ」
「うん、行こう」
再び歩き出した一行。湿った通路はやがて乾いた石床へと変わり、空間も徐々に広がっていった。壁に取り付けられた燭台の灯りが導くように道を照らし、装飾の施された柱が等間隔に並ぶ。
(この感じ……古い神殿跡ね。でも、まだ使われてる)
エリーゼは警戒しながらも進む。重厚な空気が漂い、奥へ行けば行くほど、周囲の静けさが重く感じられた。
やがて彼らは、巨大な扉の前へとたどり着いた。
それは、まるで神殿の聖域を守る最後の門のようだった。二階建ての家ほどの高さを誇る両開きの大扉は、金属と魔石で装飾され、中央には神聖文字のようなものが浮かび上がっている。青と白を基調としたその意匠は、どこか厳かで――同時に、息をのむほど美しかった。
「ここが……」
ダリルが思わず息を飲んだ。
「間違いない。この奥が、例の神殿の中枢区域だ」
アリスターが頷く。その表情は、明確な緊張と興奮に染まっていた。彼の手にした魔道具が、扉の前でかすかに震えている。
「魔力反応がある……誰かが中にいるか、あるいは……何かが目覚めてるかもな」
「準備はいいか?」
マスキュラーの問いに、三人はそれぞれ頷いた。
「うん。わたし、もう迷わない」
「拙者も……聖女様の想いを無駄にはせぬ」
「さて……」
アリスターが扉の前に進み出て、両手をかざす。術式を唱えると、扉の神聖文字が淡く輝いた。
――ごぉぉぉぉん。
音もなく扉が震え、静かに開き始める。重厚な音が通路に反響し、四人は息を呑んでその先を見つめた。
だが、扉の向こうにはまだ闇が広がっていた。光が届かない奥には何があるのか分からない――それでも、彼らの足取りは止まらなかった。
「行こう」
エリーゼが小さく呟いた。
その声は、どこまでも澄んでいた。不安も恐怖もある。だがそれを抱いたままでも、彼女の足は前へ進める。なぜなら、隣に信じられる仲間がいるから。
互いの顔を一度だけ見合わせた四人は、揃って扉の先へと足を踏み出した。
それは、安堵と、そして新たな試練への扉だった。
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