ヤンデレ悪役令嬢は僕の婚約者です。少しも病んでないけれど。

霜月零

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「うげっ?!」

 振り返った彼女の顔を見た瞬間、僕はそんなうめき声をあげてしまいました。
 王子としてあるまじき態度です。
 パーティー会場の皆が僕を振り返っています。
 王子たる僕にそんな声を上げられた彼女――ミーヤ=ダーネスト公爵令嬢はその黒い瞳を見開いて驚いています。

「ルペストリス王子……」

 周囲の貴族達も唖然としてみています。
 女の子を見てうめき声をあげるなんてひどいですよね。
 でも僕はまだ10歳です。
 許されるはずです。
 ……許されますよね?
 許してください。
 だって僕、思い出しちゃったんです。

 彼女の顔を見た瞬間、彼女は、ヤンデレ悪役令嬢だと!



◇◇◇◇◇◇



 あれは、なんていう名前の乙女ゲームだったでしょうか。
 前世の僕は、入退院ばかり繰り返していて、まともに学校にも通えなくて。
 病室で本を読んで過ごすだけの僕に、お姉ちゃん達がゲームをいつも持ってきてくれてたんです。
 スマホ系アプリなんかもあって、その時に遊んだ乙女ゲームの一つだと思うんです。
 彼女……ミーヤ公爵令嬢は、乙女ゲームの最後で婚約者を刺し殺しちゃうタイプの悪役令嬢でした。
 黒い瞳と濃い灰色の髪で、顔立ちは綺麗なのに暗い印象の子で。
 常に婚約者たるルペストリス王子を見ていて、ヒロインが近づくと闇の底から響きそうな声で責めるんです……。

『……わたくしには……ルペストリス王子だけなのに……すべてに愛される貴方が……彼に近づかないで……』

 とか。
 ものすっごく怖かったから、顔を見た瞬間に思い出しちゃったんだろうな、と思います。
 
 今まで、僕は前世の事なんか一つも覚えていなくて。
 第6王子として、のんびり生きてて。
 こういう時って、思い出すのは普通、悪役令嬢のほうなんじゃないのかなって思うんだけど。

 前世の僕、本当に時間がいっぱいあったから、人気のweb小説もいっぱい読んでたんです。
 だからいわゆる異世界転生で、悪役令嬢が記憶を取り戻して破滅を回避するお話もたくさん知ってるんです。
 なんで僕のほうが思い出しちゃったんでしょう。
 でも思い出せて幸いだったのかもしれません。
 僕、刺されたくないです。

 前世の僕は、たぶん今の僕よりちょっと上の歳で亡くなってるんじゃないかな。
 全部を思い出せたわけじゃないと思うから、何となくだけれど。

 ゲームでは僕の何歳かの誕生日にヒロインと仲良くしてるのを嫉妬して、ミーヤ公爵令嬢に刺されるんです。
 たぶん、17歳かそこらじゃないでしょうか。
 前世よりはちょっぴり長生きですけれど、できれば、ちゃんと、大人になって、おじさんになって、お爺ちゃんになって、家族を泣かせることなく長生きしたいんです。

 ミーヤ公爵令嬢だって、王子を刺しちゃったら待っているのは極刑です。
 近づくと、お互いにとっていいことがありません。
 出来るだけ、彼女には近づかないでおきましょう。
 
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