10 / 30
3・出会い
2
しおりを挟む
月のイメージというだけあって、クールで未来的だけどドレスらしいクラシカルな雰囲気もちゃんと残している。
たぶん、彼は頭に浮かんだデザインをダイレクトに絵に起こせるのだろう。
惚れ惚れするほどシャープでクリアな線がそれを物語っている。
「なあ、この服に合う帽子、作ってみたくない?」
一目見せればOKすると思っていたんだ。
どんだけ自信あるんだろう。
でも……このドレスが完成したところ、確かに見てみたい。
そして、わたしの作品がそこに加わる……のか。
「な、やろうぜ」
彼は腰をかがめて、長めの前髪を掻きあげながら、わたしの顔を覗きこんでくる。
やってみたいという気持ちと、無理だという気持ちが交錯する。
「でも、まだ1年だし。わたしたち」
「だから、余計にさ」と都築はすこし語気を強めた。
「グランプリ取ったらスゲーじゃん。伝説になる。でも、さすがに今から1人じゃ、作業量的に無理そうなんだ。頼む。力貸してよ。言ってみればあんたが俺をその気にさせたんだから、責任取ってよ」
「そんなこと言われても……」
うーん。
わたしは彼の姿をじっと見つめて考えた。
なんて自信家、なんて強引。
こんな人、初めて。
でも、この人に認められて、誘われるって……よく考えたらすごいことだよね。
そうだよ。
こんなチャンスをみすみす逃したら、後で後悔するのは必至だ。
「うん、じゃあ……わかった」
そう言うやいなや、都築の表情はパッと輝いた。
「で、でも自信ないから、明日までにラフ描いてくる。それ見てから都築くんが判断してよ。本当にわたしでいいかどうか」
その返事に満足したようで、都築は親しげに目を細めて頷いた。
そんな顔されちゃうと、今まで驚きが勝って引っ込んでいたドキドキが再燃して困る。
「いいよ。それで。じゃ、これ渡しとく」
都築はクロッキー帳を手渡した。
「あと、メルアド教えて」
「うん」
そして、授業が始まる直前、彼から早速メールが届いた。
――ラフ、楽しみにしてるからな!
ふーん。すぐにメール送ってきてくれるなんて、ちょっと意外。
本当の本気ってことなのか……
「朱利、何、にやけてんの?」
隣の席の友だちに言われ、わたしはあわてて携帯をしまった。
***
翌日、校内のカフェで待ち合わせ、徹夜で描いたラフを見せた。
「気に入らなければ、遠慮なく言って」
ちょっと緊張気味に念を押す。
彼は真剣な表情でページをめくりはじめた。
行きつ戻りつしながら、あるページを開いて、それをテーブルに置いた。
「俺の目に狂いはなかったな。とくに、これがいい」
それは十数点描いたなかで、わたしもいちばん気に入っているものだった。
都築はテーブルごしに手を伸ばした。
「改めて、よろしく」
「こちらこそ」
そのとき、気づいた。
あっ、指輪してる。
伸ばされた右手の薬指にシルバーのシンプルなリングが光っているのが目に入った。
イニシャルらしき刻印がされている。
どう見てもペアリングだよね、これ。
いるよね。彼女。
当たり前か。
外見も中身もこんなに魅力的な人だし。
いまさらそんなことにショックを受けている自分に呆れながら、わたしは彼の手を遠慮がちに握った。
「じゃ、また、メールするから」
「うん、わかった」
たぶん、彼は頭に浮かんだデザインをダイレクトに絵に起こせるのだろう。
惚れ惚れするほどシャープでクリアな線がそれを物語っている。
「なあ、この服に合う帽子、作ってみたくない?」
一目見せればOKすると思っていたんだ。
どんだけ自信あるんだろう。
でも……このドレスが完成したところ、確かに見てみたい。
そして、わたしの作品がそこに加わる……のか。
「な、やろうぜ」
彼は腰をかがめて、長めの前髪を掻きあげながら、わたしの顔を覗きこんでくる。
やってみたいという気持ちと、無理だという気持ちが交錯する。
「でも、まだ1年だし。わたしたち」
「だから、余計にさ」と都築はすこし語気を強めた。
「グランプリ取ったらスゲーじゃん。伝説になる。でも、さすがに今から1人じゃ、作業量的に無理そうなんだ。頼む。力貸してよ。言ってみればあんたが俺をその気にさせたんだから、責任取ってよ」
「そんなこと言われても……」
うーん。
わたしは彼の姿をじっと見つめて考えた。
なんて自信家、なんて強引。
こんな人、初めて。
でも、この人に認められて、誘われるって……よく考えたらすごいことだよね。
そうだよ。
こんなチャンスをみすみす逃したら、後で後悔するのは必至だ。
「うん、じゃあ……わかった」
そう言うやいなや、都築の表情はパッと輝いた。
「で、でも自信ないから、明日までにラフ描いてくる。それ見てから都築くんが判断してよ。本当にわたしでいいかどうか」
その返事に満足したようで、都築は親しげに目を細めて頷いた。
そんな顔されちゃうと、今まで驚きが勝って引っ込んでいたドキドキが再燃して困る。
「いいよ。それで。じゃ、これ渡しとく」
都築はクロッキー帳を手渡した。
「あと、メルアド教えて」
「うん」
そして、授業が始まる直前、彼から早速メールが届いた。
――ラフ、楽しみにしてるからな!
ふーん。すぐにメール送ってきてくれるなんて、ちょっと意外。
本当の本気ってことなのか……
「朱利、何、にやけてんの?」
隣の席の友だちに言われ、わたしはあわてて携帯をしまった。
***
翌日、校内のカフェで待ち合わせ、徹夜で描いたラフを見せた。
「気に入らなければ、遠慮なく言って」
ちょっと緊張気味に念を押す。
彼は真剣な表情でページをめくりはじめた。
行きつ戻りつしながら、あるページを開いて、それをテーブルに置いた。
「俺の目に狂いはなかったな。とくに、これがいい」
それは十数点描いたなかで、わたしもいちばん気に入っているものだった。
都築はテーブルごしに手を伸ばした。
「改めて、よろしく」
「こちらこそ」
そのとき、気づいた。
あっ、指輪してる。
伸ばされた右手の薬指にシルバーのシンプルなリングが光っているのが目に入った。
イニシャルらしき刻印がされている。
どう見てもペアリングだよね、これ。
いるよね。彼女。
当たり前か。
外見も中身もこんなに魅力的な人だし。
いまさらそんなことにショックを受けている自分に呆れながら、わたしは彼の手を遠慮がちに握った。
「じゃ、また、メールするから」
「うん、わかった」
1
あなたにおすすめの小説
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
ジャンヌ・ダルクがいなくなった後
碧流
恋愛
オルレアンの乙女と呼ばれ、祖国フランスを救ったジャンヌ・ダルク。
彼女がいなくなった後のフランス王家
シャルル7世の真実の愛は誰のものだったのか…
シャルル7世の王妃マリー・ダンジューは
王家傍系のアンジュー公ルイ2世と妃アラゴン王フアン1世の娘、ヨランの長女として生まれ、何不自由なく皆に愛されて育った。
マリーは王位継承問題で荒れるフランス王家のため、又従兄弟となるシャルルと結婚する。それは紛れもない政略結婚であったが、マリーは初めて会った日から、シャルルを深く愛し、シャルルからも愛されていた。
『…それは、本当に…?』
今日も謎の声が彼女を追い詰める…
アラフォー×バツ1×IT社長と週末婚
日下奈緒
恋愛
仕事の契約を打ち切られ、年末をあと1か月残して就職活動に入ったつむぎ。ある日街で車に轢かれそうになるところを助けて貰ったのだが、突然週末婚を持ち出され……
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
わたしたち、いまさら恋ができますか?
樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。
だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。
身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。
幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。
そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか?
おとなになったふたりの恋の行方はいかに?
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる