魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

北へようこそ、バケモンども

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 腹いっぱいになったナガン爺さんたちと別れを告げてからのことだった。
 忠告通りに人類最後の手が狩りともいえる道路を進むと、かつてはのどかな田舎だったと思われる光景が見えてきた。
 道に沿って幾つも電柱が立ち並び、その先に朽ち果てた農園の姿がある。
 左右に広がる無駄に広いだけの平坦な土地の姿があったものの、そういった環境を見てすぐ理解した。

「……と、まあそんなことがあったんだ」

 そんな中、俺は頭上に浮かぶとんがり帽子の銀髪ロリにいろいろ話し終えたところだ。
 今まで会ったことをざっくりと話したわけだが、そのお返しは驚きばかりで。

「まあ……大変でしたのね、そんなに様々な出来事があったなんて」
「でもちゃんとやり返したから大丈夫だ」
「それくらい言えるほど余裕そうで安心ですわ、私も一人でいろいろなところを回っていましたけど、イっちゃんたちのことがずーっと心配でしたの」
「俺もリム様のことが時々気になってたよ」
「ふふふ、私は相変わらずです。ウェイストランドを見渡しながらお芋を植えて来ました」
『……またじゃがいも植えてる……』

 リム様は空飛ぶ杖に腰かけながら、穏やかに笑ってくれた。
 とてもうれしそうだけど、俺だってこうやってまた話せてどれほど嬉しいことか。
 ……あと、相変わらずぱんつはいてないこの人。

「……なるほどな、これ全部畑か何かだったのか」

 時間は夕方にさしかかるころだ。
 俺は「干し草セール中!」などと書かれた看板を見上げた。
 もはや誰も手をつけず、面倒を見てくれる人間も滅びて荒れ地に格下げされた土地はどこまでも道路を挟んでいる。

『これ、全部畑なんだ……。管理するのが大変そうだね』

 ミコの言うように文明の力を頼っても難儀しそうな規模だが。

「でっけーですの! これだけ広かったらじゃがいも育て放題ですわね!」

 そこにじゃがいもをかぶせてくるリム様は相変わらずだ。
 終わりなき農地を傍目に、約一名(と一匹)分騒がしくなった一団は進む。

「戦前の話だが、かつては人の手だけではなく機械の手も借りていたそうだぞ」

 西への道路を淡々と歩いていると、退屈さに負けたクリューサが言った。
 その機会というのは道具という意味じゃなさそうだ、なぜなら道の傍らには。

【農業用ドローン販売中! お問い合わせは――】

 などという、人型の機械が親指を立てている派手な広告があったからだ。
 ブラックガンズのお気楽な奴そっくりだ、本当に手を貸してくれるに違いない。

「ちょうどそこの広告通りの奴か?」
『あっ……イージーさんそっくりなのが写ってる……!?』
「そうだ。最初は仕事の負担を減らすためにこぞってアメリカの各地で導入されたが、次第に全てああいうのに置き換わったそうだ」
「ってことは……人類は畑仕事を丸投げできる相手に巡り合えたんだな?」
「それはさぞ素敵な出会いだったろうがな、だからこそ最悪な出来事が起きた」

 と思ったら、こっちじゃ本当に人類のために機械が農業を担ってくれたのか。
 なんだか元の世界のことを思い出してしまうが、クリューサの続きの物言いからしていいオチはないらしい。

「むーん。その最悪の出来事とは何事なのだ?」

 荒廃した田園風景を突っ切っていると、ノルベルトが興味を示してくる。
 すると道すがら佇む電柱を指さした、手袋越しの指はそこにある何かを狙い。

「原因は不明だが、ある時各地で機械が制御不能になった。何もここアリゾナあたりだけじゃないぞ、全国だ」

 内容を確かめに行くと錆びたプレートが貼ってあり、『暴走機械どもに屈するな! レジスタンス募集中!』と150年前の伝言があった。
 残念なことに書かれていた連絡先には小口径の弾痕で読めなくなっている。

「この書き置きからしてただサボっただけじゃなさそうだな」
『レジスタンス……? まさか戦ってたのかな……?』
「全国で一斉に職務放棄するならともかく、中には暴走して人間に襲い掛かるケースもあったそうでな」

 ということは、戦前の人類は最悪の喧嘩相手を得たのか。
 ノルベルトが「なるほど」と看板から離れるそばで、俺は農地の方を見た。
 言葉を耳にしたうえで眺めると確かに人類と不仲になった証拠が見える、何かが倒れていた。

「お~、なんかロボットが倒れてるっす!」

 ロアベアも気づいたようだ、てくてく調べにいった。
 仕方がなくついていけば、そこにあったのは――巨大な二足を持つ何かだ。
 サーチタウンで見たロボットそっくりだ。広い足幅と逆間接の脚部で、トラックのキャビンみたいなのを支えている。
 錆びだらけだが本体の左右には五十口径の機銃が二問あることから、畑仕事には向いてなさそうだ。

「なるほどな、150年前の農業は重機関銃が必要だったのか」
『……クリューサさん、これ武器ついてませんか……?』
「良く見てみろ、残念だがこいつは農業従事者じゃなくて軍のものだ」

 言われた通りその姿を確かめてみれば、本体側面あたりに白い星の印がある。
 かろうじてまだ無事な装甲部分は軍隊色のある緑がかかっていて、確かに軍事目的なのが分かった。

「ここにいらっしゃるのは自動で戦ってくれる軍用ロボットってことか」
「こっちの世界だと戦闘用のロボットがいるんすねえ、あひひひっ♡」

 ロアベアと一緒にこんこんノックしてみるが、空洞音がした。
 よくみるとこじ開けられた形跡があって、中にあるバッテリーやらが頂かれてるらしい。
 それからクリューサはまた元の道に戻って進み始め。

「俺がこの話で伝えたいことはこれから先のこともある、まだ元気に勤務中のロボットがいるってことだ」

 北部に関するよろしくないニュースを伝えてくれた。

「つまりああいうのがまだ稼働してるってことだよな、それ」
「俺のいたヴェガスだと今なお人狩りにいそしむやつがごまんといたが、この様子だと北部にもうじゃうじゃだろうな」
『そんなのがいっぱいいるなんて嫌すぎるよ……』
「ノル様いるし大丈夫っすよ~」

 ミュータントに続いて重機関銃まで搭載してくれた機械までもが待ち構えてる、だとさ。
 ついでだ、ナガン爺さんから聞いたテュマーとやらも聞いてみよう。

「そういえばクリューサ、テュマーって知ってるか?」

 できれば仲良くしたい類のおっかない機械から離れて、俺は尋ねる。

「そうだな、そいつのことも話そうか」

 そして最初に返されたのがとても嫌そうな顔だ。
 全員の興味を引いたのは確かで、俺たちは歩きながら聞くことにした。

「まずテュマーとは何かといわれたら、医療的観点で言えば生ける屍だ」
「ゾンビかよ」
『ぞ、ゾンビいたんだこの世界……!?』
「むーん、こちらにもアンデッドがいたというのか?」
「ゾンビだったら大丈夫っすねえ、頭切り落とせば殺せるっす~♡」
「まあ、この世界にもそういった種族がいらしたのね!」

 一同の反応はまあなんというか、殆どが軽かった。
 フランメリアにもそういうやつがいるのかはさておいて、しかしながらニクだけは耳を伏せて神妙な様子で。

「……知ってるよ。でもあいつらは好きじゃない」

 なんともまあ、ご存じだとわかるリアクションだった。
 そんな快くなさそうな表情にクリューサは興味を示すところで。

「ニク、お前はテュマーのことを何かしっているのか?」
「ん。そういうのと戦うように訓練されてたから」
「なるほどな、北部のアタックドッグだったか。まあこの元シェパード犬がいやがるような化け物だ、それほど厄介なのは間違いない」
「でもあいつらはまだ人間だって、おじいちゃんが言ってた」

 黒い犬っ娘は耳と尻尾でどれだけ不快なのかを表してる。
 口直しにこっちにぺたっとくっついてきた、撫でてやると「ん」と頬が緩む。

「あれか? ウィルスとかで感染したとか……」

 よくある「ゾンビになるウィルス」のことかと思って尋ねるが、クリューサは首を横に振って。

「機械だ」
「機械?」
「お前はナノマシンというのを知ってるか? 目に見えないほど小さな機械のことだ」
『……ナノマシン!? そんなのあったんだ……!』

 ナノマシン? あのSFモノで良く聞く奴が?
 そんなものがあるなんて思わなかったが、それがどうかかわるのか。

「昔は医療目的にナノマシンというものが使われていた、人間の手じゃどうにもならない難病から何までそいつが仕事をしてくれる。いってみれば微小サイズのお医者様というところだな」
「そのお医者様が何か医療ミスでも犯したのか?」
「そうだ。医療にせよ、娯楽にせよ、なんだったら身体補助のためにすら多くの人たちが使っていたが、機械の暴走はそんなものにまで及んだんだ」
『……ま、まさか……』

 さっきの機械の暴走がそのナノマシン、というところまで関わって来た。
 おいおい、まさかとは思うけど……いいよどむミコと同じ気持ちだ。

「カンがいいようだな、ミコ」
『ナノマシンも機械ってことは、じゃあそう言うのを使ってた人たちは……』
「一緒に仲良く暴走しちゃうってことっすねえ、あひひひっ」

 首ありメイドの言葉のつながりは正しかったらしく、クリューサは小さくうなずき。

「ナノマシンがどういう訳か人間を支配したんだ。一説では命令が「理想的な人類への進化」に書き換えられて、遂げようとしただけだと言われてはいるが」
「じゃあなんだ、素敵な人類になるためにゾンビみたいにされたってことか」
「そうだ。その結果がナノマシンのない人間を粛清しようとするゾンビの完成だ」
「ワーオ。ちなみにそいつらのエサは?」
「良かったなイチ、お前の敵だ」
「ああうん、また人肉かよクソ野郎」
『また人肉……!? どうしてずっとこうなんだろう……』

 150年前の人類は機械にすら嫌われた挙句、ナノマシンに支配されて長生きできる身体になったようだ。
 しかも人肉を食うような嗜好をお持ちでらっしゃる、また人肉かよクソが。

「おお、こちらのゾンビは古代の魔物のように獰猛なのだな。であれば遠慮などいらんようだ」
「あひひひっ、ほんとにゾンビっすねえ。まあ首切り落とせば死ぬっていうのが定番なんすからうちにお任せあれっす~♡」
「大丈夫だぞクリューサ、ゾンビは昔から頭を破壊すれば倒せると言い伝えがある。私だったら一人でまとめて五人はいけるぞ」
「人間を食べるなんておぞましい……! 皆さま、やっつけちゃってくださいませ」
「……俺からすればそんな化け物に容赦なく殺意を向けれるお前たちが怖い。まあその意気でこの旅を安全にしてもらおうか」

 そしてノルベルトからリム様まで、あっちの世界の奴らは殺る気満々だ。
 分かったのは遠慮なんていらない点で、お医者様もなんなら「安全のためにどんどん殺してくれ」という呆れようだ。

「うちらがいるし大丈夫っすよ、クリューサ様。とりあえず大体のナマモノは首を落とせば死ぬって法則っす」
「うむ、そのテュマーとやらの出で立ちは気味悪いものだがこれしきのことでオーガは怯まんぞ」

 ロアベアの手で強調されるノルベルトは「いつでもこい」だが、この旅路はいつにもなく敵だらけになりそうだ。

「私は戦えませんので皆さまが頼りですわ! どうか守ってね!」

 杖にまたがってふわふわ気楽に移動してるリム様は完全に俺たちが頼りだ、まあやばいときは空にでも逃げてもらおう。

「リム様は……空で応援しててくれ」
「分かりましたわ! あっでも上覗いちゃだめですよ? ふふふ……♡」
「あとパンツはけリム様」
『まだはいてないのりむサマ……!?』
「魔女は下着なんてはきませんの!!!」
「うちもはいてないっすよ~? あひひひ……♡」
「おお、私もだぞ!」
『……また増えちゃった!?』

 なんで俺は旅の途中にノーパン報告を受けてるんだろう。
 しかもクラウディアもドヤ顔で仲間に加わってきた、畜生俺の周りにはこんなやつしかいないのか。

「……イチ、俺の人生はどこで間違えたんだろうな。どうしてこんな変なやつばかり身近なところに集うんだ」

 クリューサもげんなりしてる、今なら俺たちの気持ちは一つになれそうだ。

「慣れてくれ、リム様って空気読まないしはいてないけどいい人だから」
「はっ!? ニクちゃんはぱんつはいてますの!?」
「……ん。白いのはいてるけど」
「あら、ちゃんとはいてますのねオラッ!×××見せろ!」
「あっ……!? だ、だめだよ、リムさま……っ♡ ご主人が見てる……」
『りむサマ!? お願いだからニクちゃんのスカートめくらないで!?』

 地表まで下りてきたりむサマの魔の手が人の犬っ娘のスカートをめくる一方で、不意に前方から何かが見えてきた。
 道路の横で小さな集落が形を残している――たぶん戦前のものだろう。
 いくつか民家もあって、ちょっとした住宅地が構えられてるようだ。

「みんな。あそこに建物があるんだが……今日はそこで一晩明かさないか?」

 そんな様子を知って最初に言ったのはクラウディアだった。
 言われてみればもう夕方だ、オレンジ色の世界が広がり始めてる。
 このまま強行するとなれば真っ暗な世界を彷徨うはめになるわけで。

「だそうだぞイチ、どうする?」

 そんな物言いに、クリューサが聞いてくる。
 そうだな、安全な旅を心がけたいことだし。

「……分かった、てことでみんな。今日の寝床でも探しにいくぞ」
「……ん、敵を探すならぼくに任せて」

 農地だらけの土地に現れた集落にお邪魔することにした。
 今日のところはここで休もう、焦ることはない。


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