魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

中尉と一緒に尋問タイム♡

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 個性豊かな顔ぶれから引きはがされ、連れてゆかれる先は基地の片隅にあるような建物だ。
 意識しなければ見落とすほどこじんまりとしており、その表につく駐車場にはトラックがタイヤを休めていた。

「君は面白い人間だな。なるほど世の中がこうも変わるのも頷けるわけだ」

 そんな遠くに構える場所への最中、フォボス中尉はにこやかさを向けてくる。

「中尉、そいつは俺が面倒ごとをこの世にもたらしたことを知った上で言うセリフか?」

 男二人で仲良く歩きながら、俺はすぐ隣の機嫌のいい物言いに尋ねた。
 ずっと向こうの小さな建物にはニシズミ社の戦闘服姿が何人か佇んでいる。

「面倒ごと? 君はウェイストランドの血の巡りを良くしてくれただけだろう?」
「俺は何時からマッサージ師も兼業するようになったんだ」
「この世界はずっと凝り固まっていたのだよ。賊や人食いども、そしてライヒランドの恐怖が人々の中に染み付いたまま、世界の情勢は変わらず滞っていた。さてそれはなぜだと思う?」

 ゆっくりと会話を楽しむように歩く中尉についていくと、そんな質問をゆるりとされた。
 ストレンジャーという人間が来る前のここがどうだったのか、正直言って俺自身良く分からない。
 分かることは水も食料も乏しい荒地が続き、人々が戦前の人類が残した遺産を漁り、ライヒランドみたいな悪者がさぞ栄え続けたことぐらいだ。

「あんたらがいくら頑張ってもそれ以上変わりようがなかったからか?」

 だからこそだ。思うにそれがこの世界の限界だったんじゃないか?
 シド・レンジャーズだの擲弾兵だの、少しでも捨てたもんじゃない世界にしようと尽力した人間を俺は知っている。
 そんな奴らが人類のため必死に戦い続けても、ウェイストランドが行きついた先は行き止まりだったのかもしれない。

「その通りだ、イチ上等兵。それが戦後の人類、ひいては我々が行き着く先は前の見えない暗黒だったのだ。いずれ遠い先はこの我々ですら民から奪い人の味を覚えるような未来があると思うほどにな」

 だが中尉殿は俺の返答に実に喜ばしい様子だ。
 その言いぐさは人様の面倒ごとがこの世の救済になった、みたいなのが何とも複雑な気持ちにさせられるが。

「だったら俺のおかげで先輩どもが人喰い集団にならなくてよかったよ」
「君が来た影響はあまりにも果てしないものだ。留まるか引くかの二択しかなかった我々に豊かな土地を与え、更に君自身がなした所業は再びこの世を動かしたのだからな」
「ああ、向こうの世界で普通に暮らしていた奴らの身柄と引き換えにな」
「聞いた話だとその向こうの世界とやらの連中も、我々と同じようじゃなかったか。血に飢え戦いを求める者たちに生きる場を与えた君を相当ありがたく思っているそうだな」

 そこに剣と魔法の世界から連れてこられた連中が、この世をたいそう愉しんでいるという有様だ。
 中にはこんな世界に根付くつもりのやつだっていたが、世界を滅茶苦茶にしたことには依然変わりない。

「確かに俺はこっちに食い物や水を与えたのかもしれないけどな。家族みたいなやつらと引き離されて、みんなの場所に早く帰りたいって思ってるやつもいるんだぞ」

 俺はいつものように肩に手を触れた。でも鞘はそこになかった。
 確かに、俺はこの世界でいろいろやらかしてはいるさ。
 でもどんなに邪魔者をぶち殺し戦車を壊しても、けっきょくのところゴールは一つだ。

「君の肩にいた相棒のことだな」
「仲のいい仲間が三人いるらしいぞ。俺がどんなにこの世界に貢献してたとしても、そいつらから取り上げるようにこっちの世界に無理やり引きずり込んだクソ野郎だって事実は変わらない」
「なんだ、私にお悩みの告白か。いくらでも聞いてやろう」
「じゃあ今からのことはミコには言わないでおいてくれ」
「女性の扱いは君より心得てるぞ、大丈夫大丈夫」

 ミセリコルデという物言う短剣を向こうに届けて元の姿に戻す。
 そして俺はまあ適当に過ごしながら、ノルテレイヤに纏わる真実を探っていくことになるだろう。
 あいつのお友達にいざあった時にどう口にするかはまだ何も考えちゃいない。でもこれだけははっきりしてる。

「正直連れ戻すのが怖いよ。あいつを待ってる仲間の元に連れて行ったとき、俺は何を言われて、何を言えばいいのかわからないんだ」

 仲間たちにあの短剣を届けて『はい、円満に終わり』だなんてありえない。
 怖いさ。ゴールが近づいてる今だから分かる、この旅の終わりが怖い。
 今なら嘘をついて都合のいいことばっか話して、お互い良い気持ちで別れるような逃げ方すら思いつくほどだ。

「イージスには帰りを待つ人がいるというわけか。それはご家族か何かかな?」
「そんなもんだと思う。四人で一緒に暮らして飯を食うぐらいの仲だそうだ」
「君はその仲から彼女を引き抜いてしまったわけだな」
「ああ、んで帰るべき場所に連れて行ったときにどう謝罪するか悩んでる」

 別に悩み事がいくら増えようが止まる気はないさ。
 俺が世界の真理に深く関わるやつだとしても、とんでもない事実が内側に眠っていても、この足を止めるつもりはない。
 でもな、ミコを待っている奴らに届けたとして、俺はそいつらにどんな顔を向ければいいんだ?

「そうだな、向こうの世界とやらは平和なのか?」

 建物に向かいつつ、中尉は興味と共に尋ねてきた。

「こっちの世界に水と食い物が出てくるほどにな」
「そうか、つまり平和な世から彼女を切り離してしまったのだな」
「ひどい落差だろうな。いきなり地獄に叩き込まれたようなもんだと思う」

 今はいない相棒についてそう答えてると、少し考えたフォボス中尉はうなずいてから。

「なら聞こうかイチ上等兵。その足で踏みしめた旅路を、君はなかったことにしたいかね」

 人の好さそうな顔でそう言葉を聞きだしてきた。
 言われて振り返る。この世界であったいろいろな出来事は必ずしも良いことばかりじゃなかった。
 なかったことにしたい事実だって山ほどあるさ。でも、それがあってこそストレンジャーがここにあるのは確かだ。

「……俺にはできないと思う」
「それはなぜか自分で言えるかい?」
「俺自身が真実でできてるからだ。シェルターでくたばり損ねてからずっとな」

 すぐに答えは出た。
 この感覚で見聞きしてきた事実があってこその俺だ。クソみたいなものもあれど、それでも俺はみんなとこの世を共にした。
 それをあとあと都合よくなかったことにするなんて、今まで世話になった人たちに不義理を返すようなものじゃないか。

「ならばそれが君の答えだ、その気持ちを向こうで伝えなさい」

 そいつのどこに触れたのかは謎だが、中尉はほほえましくうなずいた。

「具体的にどう伝えるか今からゆっくり考えとくよ」
「君のことだ、あれこれ考えるよりいざその時の気持ちで向き合うのが身に合ってるだろう?」
「今は忘れろってか」
「そうだ、今はまず君らしくあってもらわないと困るのだ」
「親切なやつだな」
「もちろん、だってこれから男三人で尋問するんだからね」

 アドバイスどうも中尉。おかげでずっと後の方針が定まったよ。
 俺はウィンクを決めるお茶目なイケおじに「どうも」と軽く返した。

「だがやはり君は素晴らしいぞ。あのライヒランドの脅威をたった一人で崩したのだからな」

 歩きながら中尉が続ける。
 別にあれは俺一人の功績じゃないと言おうとしたが。

「君がこの世に解き放たれた時点で奴らは滅亡への一途をたどる他なかったのだ」
「俺の知り合いどもが後々こぞっていらっしゃったからか?」
「いいや、単純に君が横やりを入れつづけてきたからだ。そもそもだが、どうしてライヒランドの者たちは西側の方まで手を回したと思う?」

 違う、とフォボス中尉は西にあるコミュニティを思い出させてきた。
 クリン、ガーデン、キッド、サーチ、そんな場所が広い土地に点々とあるような場所だったな。
 そこへあいつらは手を加えようとしてたが、そんな遠く遠くに広がった街をいちいち占領していけるんだろうか?

「人食いカルトだとかミリティアと一緒にそっちのほうに身を構えようとしていた、って思ったけど違うだろうな」
「そうだ、それはスティングに対して『わが手が及ぶ場所だ』と示したかったからなのだ」
「なるほど、つまりあいつらは『俺たちはこんな遠くまで手を回せるぞ』とアピールしてたのか」
「そういうことだ。いずれ侵略する西側の土地を弱めるために一芝居うったようだが、君がぶち壊したわけだ」
「そりゃ恨まれるわけだぜ、ねえ中尉殿」

 男二人の会話にもう一人追加された。
 追いついてきたタロン上等兵が混ざってきたようだ。

「うむ、本来であれば奴はスティングを攻め込み、あとはさながら暗黒時代の蛮族どものように略奪しながら我が身を賄い西へ西へと進むはずだった。だがどうだ、全て台無しだ。西側の連中は誰一人とライヒランドを受け入れない意志で固まっている」
「俺が歩いただけでそのザマかよ」
「皮肉にも奴らを困らせたのは西側の弱さなのだよ」
「西の弱さ?」
「広大な土地に点々と、それもさほどつながりもなく独立したコミュニティが離れ離れにあるだけだった。単体なら脆弱なそれを密接な関係にまでつないでくれた奴がおるのだ。誰だと思う?」
「ここにいそうだな」
「そう。それだけなら西の広い地は奴らの良い餌場で済むはずが、誰一人屈しようともしない強固なアイデンティティを得たわけだな」

 つまり俺が歩いただけでスティングへのアピールも今後の侵攻も台無しになって、あいつらは勝手に自滅したのか。
 そういう中尉殿の顔は今日一番の笑顔を浮かべてる。もはや内容量が吹っ切れて悪人面になるほどに。

「あの恐ろしい老婆が君を放った瞬間にすべては決まっていた。そして奴らが消え、活発になったこの世にまた混沌が訪れようとしてるのだ。なんとも面白い話だと思わんか?」

 フォボス中尉はとても楽しそうだ。
 ライヒランドの敗北よりも、次なるウェイストランドへの脅威に期待しているかのようにだが。
 そんな楽しそうなお姿を間近に見てると、ついてきた黒人兵士がタブレット端末を構えだしていた。

「……何してんだお前」
「いや、怖いお顔が二つも並んでるもんで記念撮影を」

 どうも俺たちの顔を記憶しておこうという魂胆らしい。
 何やってんだこいつ。しかしおっかない中尉は向き合ってよい顔をキメていて。

「タロン上等兵、きれいに撮れ! これは上官命令だぞ!」
「了解です中尉殿。はい笑って~」
「イチ上等兵、きれいに映るぞ! さあ早く!」

 無理やりこっちに合わせるように指図してきた。言われた通りにどうにか笑顔を作るも。

「取れましたぜ中尉……ってなにこれ、こっわ」

 角刈りの黒人がさっそくとれたての一枚を見せてくれた。
 妖しくにこやかな顔を浮かべるコートを着た男に、客観的に見れば悪鬼みたいなぎくしゃくした笑顔の何かが映ってる。

「自分でうつっといてなんだけど夢に出てきそうだ」
「ああ、心霊写真みたいだぜ」
「私の笑顔に君の強い顔、ぴったりじゃないか! お駄賃を上げよう!」
「へへっ、後で食堂に飾っときますかい?」
「いいだろう、ダネル少尉のいたずらのレパートリーが増えるぞ」

 俺はともかく自分の姿に満足した中尉はタロン上等兵にチップを弾んだ。
 少し離れたところではこっちを見て「なんだあいつら」と怪訝にするニシズミ社の警備兵が立っていたが。
 
「さて、お話もできて君のお悩みも解決したぞ。とことん付き合ってくれるな?」

 何かが待ち受ける建築物の手前、オールバックの男はとっても穏やかに笑んできた。

「オーケー、ためになるお話のお礼をさせてくれ」
「いいぞイチ上等兵、じゃあ……一緒にドキドキしちゃおっか?」
「タロン上等兵は?」
「俺は中佐と少尉に見張ってこい言われて来ただけだ、お好きなように」

 どうもこれからドキドキするようなことをするそうだ。
 俺たちは仲良く、警備兵たちの間を通り抜けていった。



 外でニシズミ社の奴らが守るそこは、昔はちょっとした休憩所だったのかもしれない。
 だが今やその内観は薄暗くて、おそらく使い道が見つからずに長く放置されていたことが分かるほど汚れていた。

「フォボス中尉、いらっしゃいましたか」

 小さなホールにたどり着くと銃を持ったレンジャーたちが待っていた。
 数名ほどのそいつらは一緒についてきた俺を少し訝し気にしており。

「待たせたな、捕虜の状態は?」
「三名ともまだ生きておりますが……なぜストレンジャーが?」
「これから男三人の話し合いがあるんだ。彼に協力してもらうんだよ」

 どうしてお前も、という顔をされたが中尉のスマイルにかき消された。
 なんだかレンジャーたちは萎縮してるようにも見える。

「さて。これから君に頼むことは単純だ」

 その姿を追い越し、ある部屋の前にたどり着くと中尉が振り向く。
 錆のあるドアの向こうに誰かが待ってるそうだが、どうすればいいのか。

「まず何を聞き出すのか教えてくれないか?」
「ここからの会話は録音されていることを頭に入れておけ。中に居る者にラーベ社との関りや、ブルヘッドにいるであろう残党についての情報を吐かせるぞ」
「残党って、あいつらまだ残ってやがるのか」
「当り前だろう、ことを成す奴らもいればそれを操る者も山ほどいる。そいつらについてお伺いしようじゃないか」
「洗いざらい吐いてもらうってわけだな」
「大丈夫、現役の人に現場の声を聞くだけだ。君は何かあるまでそばにいてくれればそれでいい」

 気のせいじゃないが、目の前の男はいい笑顔をしてる。
 「さあいこうか」とねっとり言われてついていくと、開いたドアの先で。

「……ひっ……!?」
「……ぅ、うぅ………あぁ……」
「す、ストレンジャーだって……!?」

 椅子に縛られた奴らが三名いた。
 「私がホワイト・ウィークスです」と主張させるために白いアーマーをまだ着せられたままで、俺たちの姿を見て全員が怯えている。
 だがそのうちの一人は見覚えがあった。
 顔は目隠しされてるが、片手斧がきれいに頭にぶっ刺さった女性がいるからだ。

「……俺を呼んだ理由がなんとなくわかったよ」
「そうだろう? さて、君たちにホワイト・ウィークスについて尋ねたいんだが」

 やっぱりろくでもないことをするんだろうな。
 あたりにはどう見てもそういう用途としか思えない工具やらが並んでいて、ちょうどその使う相手が3人もいるわけだが。

「い、いくらでも話してやるから俺たちを解放しろ!」
「早くほどけ! お、俺たちの後ろにはラーベ社があるんだぞ!?」

 二人の男が気強くそういってきた。
 まだ尋問は始まってないようだが、相手は三人もいる。

「……で、どうお尋ねするんだ? 男三人で話そうにも――」

 どう手をつけるか、と尋ねた瞬間だ。
 フォボス中尉はにっこりとしたまま、すたすた斧の刺さった女性へと近づいて。

「大丈夫だ。言っただろう? 男三人のお付き合いだよ」

 ごりゅっ。
 頭から生えたそれに手をかけて、わざとえぐるように引き抜きやがった。
 乱暴に柄を引っ張られた女性が「ぎゅっ」と変な声を出して、力なく頭を揺らして。

「――はっっっっ?」

 すぐ隣でそんな様を見せつけられたホワイト・ウィークスのやつが固まった。
 そこへまた斧を抜くと、フォボス中尉はいい笑顔のまま。

「ちょっと数が多すぎた。これでちょうどだね」

 恐怖に引きつるそいつの脳天めがけて、ぶんっ、と斧を叩き込む。
 「んぎゃっ」と甲高い声を上げてそいつは痙攣した。雑に、奥深く刺さった刃にくたばったことは明らかだ。

「あっ、えっ、なっ、うっ、うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「さあこれで男同士腹を割って話せるぞ。たっぷり語り合おうじゃないか?」

 ……俺は何を見せられてるんだ。
 頭をカチ割られた死体二つ分の隣で、最後の生き残りを前にゆったり座る中尉を見て思った。

「……フォボス中尉、尋問じゃなかったのか?」
「男三人にしただけだよ。さて、君に質問するのはラーベ社との関りと君たちの抱える残党についてだ、答えてくれるな?」

 人のドン引きにもお構いなし、半狂乱の男のペースにも合わせず淡々とそいつは尋ねる。

「い、いうか、いうもんか! お、俺を殺しにきたんだな!? 話したら殺すつもりだな!?」
「ちゃんと向こうに帰すと約束したんだ、殺しはしないよ」
「嘘だ! 嘘だッ!! お、俺たちをぶち殺すためにこんな場所に連れて来たんだ! そうじゃなきゃストレンジャーがいるなんて……」

 おかげで男は答えてくれそうにない状態だ。
 それでも中尉はこっちを手で制しつつ、淡々と尋ねる。

「もう一度君に聞こう。ラーベ社とどんな関係なのか、そしてホワイト・ウィークスの残党はブルヘッドのどこにいる?」
「……言えるかよ……!」
「そうか、言葉にでないか。いやしかし困った、私がだめならこの――」

 ひどいものを見せられてると、フォボス中尉がちらっとこっちを目にする。
 それに伴って男の視線がこっちに合わさって、びくっと背筋を引くのが見えて。

「悪鬼のごとく死を振りまく御方に頼まなきゃならないな。ん?」

 誰が悪鬼だ。
 どうも手伝ってほしいらしい、少し乗ってやるか。

「まさかあんた、こいつをいたぶり殺すために俺を呼んだのか?」
「なんだ、そういうのはお好きじゃない?」
「好きにみえるか?」
「そうか、じゃあこうしよう」

 適当にあわせると、中尉殿は足元の工具に手を伸ばす。
 いろいろあるぞ。ドリル、ナイフ、ハンマー、ノミ、至れり尽くせりだ。

「私と一緒にはじめての拷問だ」
「通過儀礼ってか?」
「そうだ。不安か? 私は得意なんだ、一緒にドキドキしよっか?」
「……じょ、冗談だろ、おい、シド・レンジャーが拷問だなんて」
「ちなみに中尉」
「なんだいイチ上等兵」
「俺は敵をぶちのめすのが専門でいたぶり抜くのが仕事じゃない。つまりその」
「はじめてか。誰にだって初めてはあるものだ、じゃあここで童貞を散らそうじゃないか」

 ちらつかせるそれに手を伸ばすが、やれと強く勧められてしまった。
 少し痛めつけてほしいんだろうか。そういうわけで電動ドリルを手にした。

「よし、良く聞け。お前に言うセリフはこの世でたった一つだ」

 まあなんとかなるだろう、中尉もいるし。
 そういうわけで初めて拷問道具を手に、せめて申し訳なさそうな顔を作って挑むことにした。

「先に謝っておく、本当にごめん。えーとじゃあまず……」
「ま――待ってくれ! 待て! 話す! 全部話すよ! だから頼む、やめてくれェェ!」

 が、その前に答えてくれた。

「ラーベ社だよ! あいつらけっこう前から南の出来事で浮ついてる間に、ニシズミ社に妨害工作をしかけるって目論んでたんだ! んで俺たちはあいつらの支援を受けて、こうして活動してたんだよ!」
「じゃあお前らの残党は? まだいるのか? どこだ?」
「ブルヘッドの工業地帯だ! 俺たち実働部隊は減っちまったが、バックにまだラーベと深くつるんでるやつらがいる! なあ! だから――」

 ドリルをぎゅいぎゅいやってると、あっけなく応え始めた。
 それからあれこれ話してくれると、涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら洗いざらい吐いてくれて。

「なるほど、それで全部かい?」

 良く答えてくれたそいつに、フォボス中尉が笑顔で尋ねる。
 男はぶんぶん首が取れるほどに頷くと、聞きだせるものは聞きだせたらしく。

「そうか、じゃあ君は自由だ。お前たち! このお客様を丁重にブルヘッドまで送ってやれ!」

 納得のいった中尉がそういって、外の兵士たちを連れて来た。
 いきなりの言葉に戸惑いつつ、そして転がる二つの死体にドン引きしながら、レンジャーたちは震える男を引っ張り出していく。

「おっ、お前ら……簡単に済むと思うなよ!? ラーベの奴らが必ず復讐しにくるぞ、忘れるなよ!」

 自由を得て少し余裕ができたのか、そいつは去り際に忠告とも罵倒とも言い難いそれを残して去っていく。
 そうして残されたのはこのスマイルなおっさんと、ドリルを手にしたストレンジャーだ。

「……で、逃がしていいのか?」
「なんだ、不安かね」
「まあな。ああいう手合いは報復するタイプだぞ」
「そうしてもらわなきゃ私が困るのだよ」
「どういうこった」

 でもあんな奴を逃していいんだろうか。
 あの口ぶりにバックにいるやつらから、後日何かするのは明らかだ。
 だが、フォボス中尉は笑いを崩さない。それどころか愉快に白い歯を見せて。

「これは宣戦布告だイチ上等兵。円滑に事を進めるには奴がブルヘッドに戻り、この恐怖を広めてもらわねばならないのだ」

 そういったのだ。
 ああそうかい、こいつはやっぱりイカれてやがる。

「……あんた、わざわざ喧嘩売るためにこんなことしたのか?」
「我々がニシズミ社と結託した以上、ブルヘッドの世論のために共通の敵ははっきりさせた方が都合がいい。それに」
「それになんだ」
「やつらも喧嘩を売ってくれなきゃ、我々シド・レンジャーズは正義の戦いができないだろう?」

 オールバックの男はニヤァ、と深い笑みを作って見せてくれた。
 夢に出て来そうな特大級のそれを見せつけられて、流石の俺も言葉を失う。
 あまりものの兵士すらドン引きする中、そいつは親しく肩を叩いてきた。

「流石世間が噂するだけあるな、実にいい演技だったぞ」
「いや割と本気でやるつもりだった」
「そうかそうか! それもまた一興だったのだがな! 偉いぞ! うちにきたら最上級曹長に昇格させてやってもいいぞ!」

 これで任務は完了だ。近くで「おいおい……」と嫌な顔をする兵士と共に、俺はその場を後にした。


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