魔法の姫と世紀末世界のストレンジャー

ウィル・テネブリス

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広い世界の短い旅路

幸先明るいブルヘッドに向けて。

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「待たせたね、ストレンジャーの協力もあって確かな証言を手に入れたぞ。いやまったくもってくだらん連中だ、こうも話してほしいことをべらべらとこぼすなどなんて粘りのない……」

 レンジャーとニシズミ社の話し合いの場に戻ると、フォボス中尉はとってもいい笑顔だった。
 同行してるタロン上等兵は「ほんと楽しそうだな」と呆れており。

「タロン上等兵ただいま戻りました。今日も中尉殿がはしゃいでやがりましたよ」
「戻ったか。お前らの様子からして裏は取れたようだな」
「ほらみろ、無事に帰ってきたぞイージス」

 ちょうど話し合いが終わったような雰囲気の会議室に戻ってくると、マガフ中佐とダネル少尉が目で迎えてくれた。
 どうもミコとニクがずっと俺を待ってたらしい。黒い犬っ娘がとてとてやってくる。
 他の連中は自由に過ごしてるようだ。窓の外でノルベルトとロアベアがエグゾアーマーの訓練を眺めてるぐらいには。

「ん……おかえりご主人、待ってた」
『……いちクン、変なことさせられてない? 大丈夫?』
「ただいま、隣で立ってるだけの簡単なお仕事だったぞ」

 心配そうな二人と無事に再開すると、そこにオールバックのイケおじの表情が割り込んできて。

「どうだいお嬢さん、ちゃんと約束は守ったよ? 捕虜はブルヘッドに丁重に送り返してあげた、これでいいね?」

 そして渾身の笑顔が優しく約束を果たしたことを告げてくれた。 
 実際のところこいつのせいで三分の二が帰らぬ人になってるがちゃんと事実はある。
 でもまあ、周りはお察しした様子だ。そんな笑みに二人ほど犠牲者がいるだろうと理解してそうだ。

『……ほんとうに何もさせてないんですよね、中尉サン?』
「うんうん、彼は優秀だったぞ。隣で立っているだけで捕虜の心に働きかけるのだから問いかける手間が省けたよ、なあタロン上等兵?」
「怖い顔が二つもあったらそりゃ身の危険を感じると思いますぜ俺は」

 あんまり関わりたくなさそうな角刈り黒人のセリフも相まって、ミコは『そうですか……』と無理に納得したようだ。
 物言う短剣を肩に戻すと、中尉がテーブル向こうのスーツ姿の方へ向かい。

「ホワイト・ウィークスの者たちから証言を得られたようですね、フォボス中尉殿」
「うん、実にね。やつらめストレンジャーを心の底から恐れていたぞ、そちらが求める情報を簡単に手放してくれて逆に困ってしまったよ」
「実にですか。つまりこれで我々の間に共通の敵ができたわけですね」
「そうだな。かの企業はホワイト・ウィークスを介し同盟先のプレッパーズの者たちを害した、そしてシド・レンジャーズに対する敵意が明らかとなった、よって彼らに対処せねばならん。これで我々が戦う大義名分ができたな」

 興味深そうに聞き入るニシズミ社の奴らに、先ほどの質問タイムが詰まったメモリスティックを手渡した。
 向こうは死にぞこないの呪詛がこもったそれに実に満足した様子だ。

「ここにあるのはその確固たる証言だ。満足はできたね?」
「実に。我が社はラーベ社のこのような行いを誠に遺憾に思っております、確かな証言がここに存在する以上、彼らの行動に対し武力を行使するのも厭わないでしょうな」
「そうだねえ、そうでなくちゃ。それで――」
「ええ、かねてより数々の妨害を重ねてきた彼らは現時点をもって明確な敵となったのですから。そしてニシズミ社長は本件に対して、共に戦う者に対して協力を惜しまないとも仰っておりますが」

 スーツ姿の男もいい顔でそれを受け取った。
 けれども口にするのはすらすらと出てくるそんな言葉だ。落ち着いた顔で中尉と向き合い、次第に視線はこっちに流れてきて。

「そしてそこのストレンジャーに手を出したとなれば、彼の背後にまつわるあらゆる者たちに喧嘩を売ったも同然だろうな? スティングとやらで猛威を振るったフランメリアの者たちというのも自ずと奴らに矛先を向けるに違いない」
「そうなりますなあ! そういうことですので、ニシズミ社はプレッパーズやシド・レンジャーズ、またはそれとゆかりのある方々の活動を支援することでしょう、いやはやラーベ社も気の毒なことで……」
「これで君たちは南とのコネも得られるだろうな、ストレンジャー様様じゃないか。そうなるとここ北部部隊にもそちらの支援があるわけだね?」
「ええ、たっぷりと。信頼できるあなたたちに我が社のウォーカーを二両お貸ししますよ」

 ああそうか、そういうことか。
 つまり『ストレンジャーいてくれてありがとう』案件ってことか。
 みんな仲良くラーベ社と敵対した結果、俺たちはこうして仲良しになれたらしいな。

「喜べタロン上等兵! シド・レンジャーズにウォーカーがやって来るぞ!」
「ほんとっすか中尉! やったぜ!」
「イチ上等兵に感謝しろ! これで我々もブルヘッドで合法的に活動できる理由ができたのだからな?」

 俺がもたらした笑顔はずいぶん好戦的だが、円満な話しあいができたようで何よりだ。
 これで話がついたところで、スーツの男たちは一礼してからその場を去っていくが。

「ストレンジャー様、こちらをお納めください」

 ロボット大好きな男がいきなり何かを渡してきた。
 小さなケースにそれはもう丁重に収められた白いメモリスティックだ。それだけで大層なものが入ってそうな雰囲気で。

「なにこれ? 感謝の気持ちでも詰め込んであるのか?」

 出てきたそれの中身を尋ねるも、向こうは「実に」と笑顔で頷いてきた。
 今この場で見てほしいらしい。早速だが左腕のPDAに読み込ませてみれば。

【ニシズミ社-ウォーカー整備、操縦マニュアル】

 と、けっこうな情報量のあるデータが画面に表示された。
 少し小難しいが、ウォーカーの操縦やらについて細かく図解されたものが閲覧者に向けてまとめられている。
 ついでに【電子工作】の経験値も入った。Slevが2から3に上がった。

「それはニシズミ社長からあなたへの贈り物です、どうか旅のお役に立ててください。それでは」

 そして大満足のスーツ姿はにこやかに去っていく。
 付属品の警備兵たちも気さくに別れの挨拶をしてくれて、ニシズミ社の面々はお帰りになったわけだが。

「どうだストレンジャー、北部部隊名物のおっかない中尉殿は」

 その様子をぼーっと見ていたマガフ中佐が、近くの中尉殿を傍目に感想を求めてきた。
 当の本人は「楽しかったね?」と笑顔だが、この一件で人柄は良く分かった。

「ボスに続いて死んでも敵に回したくない部類だと思う」
「いい感想だ。フォボス中尉は情報収集や外部との交渉といった仕事を任されてるんだが、少し過激でな」
「やっぱりここって変人の巣窟なんじゃないか?」
「それをいったらお前だって相当なものだと思うぞ」
「マガフ中佐、イチ上等兵は頭を撃たれて脳の一部が欠けているんだぞ。大目に見てやろうじゃないか?」
「俺はてっきりあの婆さんが比ゆ的な意味で脳が吹っ飛んだと言ってると思ったんだが、もしや物理的な方面で欠けてるなんていわないよな」

 そんなおっかない中尉殿と同類と思われてたが、キャンプ・キーロウの指揮官は人様の脳みそを本気で心配してくれているようだ。
 ダネル少尉もタロン上等兵も「マジかよ」って顔になってきたが。

「ボスの言ってることは全部マジだ。ほらこれ現物」

 バックパックをごそごそして、容器入りの脳みそ(おそらく数十グラムほど)を見せつけた。
 相変わらず銃弾とぷかぷかしてやがる。思えばなんで異世界のピクルス用の容器にぶち込んであるんだろう。

「これが君の脳みそか! けっこうな量を切り取られてるな、いや大した男だなイチ上等兵!」
「現物っておま……おい、なんでお前はそんなおしゃれな容器に自分の脳みそを入れてるんだ……?」
「本当に脳が入ってるな。良かったなストレンジャー、お前はやっぱり俺たちの仲間だ。どこに脳みそを大切に持ち歩く奴がいるんだ」
「うわっ……マジで脳みそ入ってんじゃねーか!? こんなことするのドクしかいねえよな!? つーかなんでお前そんなのまだ持ってんの……」
「脳を撃たれても戦い続けるなんてすばらしい戦士ね、あなたは。ボスが送り込んだのも頷けるわ」

 みんな反応はそれぞれだが、笑顔の中尉と筋肉まみれの准尉以外はドン引きだ。
 俺の頭を吹っ飛ばしてくれた奴はたとえくたばっても許さないつもりだ。そいつのせいでこんな変人だらけの巣窟の一員みたいに迎えられてるんだぞ。
 なんだか腹が立ってきた。決めた、今日こそお前を捨ててやる。

「こいつのおかげでニルソンにいた頃からバケモン見る目でじろじろ見られるようになったんだぞ? くそっ、すげえ腹立ってきた! オラッ荒野に帰れッ!」

 容器に興味津々な中尉を押し退けて、俺は部屋の窓を開けてウェイストランドに脳みそを逃がした。
 ぶん投げると基地のどこかにすっとんでいった。これでお別れだ、元気でやれ!

『いちクン!? やっぱりそれまだやるの!?』 
「あー……とうとうこの基地に自分の脳みそをぶん投げるやつが生まれたな、やっぱりお前はイカれたやつだ、おめでとう」

 マガフ中佐たちの視線はともかく、さようなら、とお別れした。
 ところがこっちに緑髪のメイドさんがてくてく歩いてきた。手にはさっきの青い液体入りの容器がある。

「イチ様ぁ、なんか変な肉片入ったのが飛んできたっす」

 わざわざ拾ってくれたみたいだ。また失敗か。

「それなんだと思う?」
「向こうの世界の漬物の入れ物っすね。保存食かなんかっすか、銃弾入ってるっすけど」
「それね、俺の脳みそ……」
「わ~お」
「何をやってるんだお前たちは」

 こうして家出失敗脳みそが返却された。いつまでつきまとうんだ?
 今日も放棄できなかった脳の一部はさておき、マガフ中佐は気を取り直すと。

「というわけだ。これでお前たちと我々、そして北のニシズミ社の間に共通の敵ができたわけだ。これからブルヘッドへ向かうなら間違いなく奴らは何かしらしかけてくるだろうが」

 相も変わらぬ気だるい態度のまま、けれども背を伸ばしてそういってきた。

「先ほど話した通りだ。北ではそういう事態があればお前たちに支援が向かうし、我々北部部隊も状況によってはラーベ社に対して行動を起こす。そこで頼みがあるんだが」
「いいぞ、ブルヘッド行ってラーベ社ぶっ壊せばいいんだな」
「そんなことをすればブルヘッドが崩壊するぞ。まあ似たようなものだ」

 と、そこにダネル少尉が地図を広げてくれた。
 ここからずっと北へ行った場所、そこにフォート・モハヴィほどじゃないが小さな都市があるようだ。
 もっとも戦前の記録の頃ではあるが。今はどうなってるか分からない。

「お前たちは道中確実に何かしら、奴らからアプローチされるだろう。本当であれば我々が丁重に向こうまで運んでやりたいんだが、それだと不都合でな」
「その言い方からして、俺たちがこの足で向かったほうがいい理由がありそうだな」
「そうだ、頼み事は単純だ。道中襲ってくる奴らをぶちのめせ」

 そこからのお願い事といえば、襲ってくるラーベ社をぶち殺せっていうものだ。
 別に構わないが、俺たちがそんな奴らを相手にしなきゃいけない理由はなんだ?

「あんたのお願いが「向こうからご挨拶に来るから返り討ちにしろ」だって?」
『わ、わたしたちに襲われろってことですよね、中佐サン……?』
「お前たちの強さを信頼した上での発言だ。あいつらの社風からして間違いなくお前たちを狙いにくるだろうが、言ってみれば奴らの本格的な報復になるんだ。だが俺たちシド・レンジャーズがついていけばビビってなにもできないだろう、そこで」
「ストレンジャーズらしく、出会ってすぐにそいつらの出鼻をくじけってか」

 分かった、あいつらの報復第一歩をその身に受けろってことか。
 シド・レンジャーズがいれば手は出せないが、まだ来たばかりの俺たちならしやすいだろう。
 そして意気揚々と出てきたところを俺たちがぶち折れ。そういうことだろう。

「物分かりがいいな、お前は」
「プレッパーズで習ったことだ。あんたもそうじゃなかったか?」
「俺がいたころはそこまで過激じゃなかった気はするがな、だがその強気な態度からして――」
「ああ、得意だしいつも通りだ。あっちへの道のりを作るなら俺たちに任せろ」

 なんだ、いつも通りだな。
 北でラーベ社と堂々と喧嘩をおっ始めるために、俺たちがきっかけになってほしいんだな?
 この返事は良いところに当たったらしく、タロン上等兵がひゅう、と気持ちのいい口笛を出して。

「流石だぜストレンジャー、スティングで戦ってきただけはあるじゃねえか」
「いい経験になったからな。おかげで邪魔されたらぶちのめすのが俺のポリシーだ」
「フハハ、良かろう! 俺様も喜んで、この身をもってお前たちの力になってやろうではないか!」
「まーたイチ様狙われるんすねえ、みんなのデコイっす。あひひひっ♡」
「だそうだぞ、そういうわけで先日助けてもらったお礼をさせてくれ」

 開きっぱなしの扉からにょきっとオーガの顔も出てきた。
 ノルベルトもやる気だ。その後ろで生首を抱えたメイドもだが。

「良かったな中佐、これで俺たちも戦いやすくなるだろうさ」

 ダネル少尉は「面白い奴め」と嬉しそうに肩をぽんぽんしてきた。
 レンジャーたりえない格好の指揮官は、そんな俺たちを見て少し笑って。

「まったく頼もしい奴らがこの世にいるものだ。そういうわけだ、今日はいろいろと付き合ってくれてとても感謝してる。あの魔女殿がお前の昇格を祝ってご馳走を用意してくれたそうだから、旅立つ前にしっかりと腹に入れておけ」

 用の済んだこの場をすたすたと離れて行った。
 「リム様のご馳走だ!」とタロン上等兵も続いた。俺たちも出発前に良く味わっておこう。

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