起きたら猫に!?~夫の本音がだだ漏れです~

水中 沈

文字の大きさ
1 / 2

1 猫になっちゃった!

しおりを挟む
「本当は私を愛していないんでしょう!!」

アネットがそう叫んで自室に閉じこもったのは昨日の事。
サロンに出す花を薔薇で注文していたのに、夫であるマリウスが勝手にチューリップに変えてしまったのだ。
おかげで必死に準備していたサロンは微妙な空気のまま終わった。

私に何の相談も無く花を変えるだなんて!
しかも、これが一度目ではない。

外出しようと誘われ、綺麗なドレスで着飾ったのに。
馬車ではなく馬に乗せられ、重たいドレスを汚さない様にするのに必死だったこともある。

きっと、きっと彼は私の事が嫌いなんだわ!

ベッドの枕は涙でびしょ濡れになった。

そして翌朝――――

窓から差し込み光で目を覚ました私の視界に入って来たのはピンクのフワフワな肉球だった。
ああなんて柔らかそうな…と思っていたら、私の動きに合わせて肉球が動く。
体を伸ばすといつものベッドなのに、やけに広く感じた。

視線をずらすと、窓辺で小さな妖精がいたずらっ子の様に笑っている。

(まさか!)

急いでベッドから飛び起きて、絡みつくシーツに四苦八苦しながら鏡へと向かう。
転がる様に鏡の前に立った私は悲鳴を上げそうになった。
なんと、鏡の前にいたのは。

「猫!!???」
 
にゃにゃっ!!と猫の鳴き声が部屋に響く。
私は白猫になってしまっていた。
十中八九、先ほどの妖精の仕業だろう。

「妖精の悪戯」

巡り合えば幸運を引き寄せるという噂があるけれど、実際に悪戯されると迷惑でしかない。
そう長くはもたないと聞いているけれど、いつになったら人間に戻れるのか見当もつかなかった。

困ったわと、部屋の中をうろつく。
もうすぐ侍女が朝食を持ってやって来る時間だ。猫になっただなんて、誰も信じてくれないだろうし…
それに、喋ろうとしても口から出るのはにゃーという可愛い声だけ。

コンコンと控えめなノックの音が聞こえ、僅かに扉が開く

「奥様、朝食を…」

(侍女は猫が苦手だわ!見つかったら大変!)

侍女の声を聞く前に、私は開いたドアに向かって走った。



「猫だ!!」

「猫がいる!!!」

廊下を走る私を見て執事と侍女が驚く声が耳にこだます。
キーンと耳に響きその音に、私は更に驚き、パニックになった。
体中の毛が立ち、尻尾がピンとなる。

(誰も、誰もいないところへ、早く!)

尻尾を踏まれそうになりながら、走って走って…どのくらい走っただろうか。
人気のない部屋にサッと体をねじ込んだ。
そうしてようやく、静かになった。

(ああ、良かった)

ホッのもつかの間。
山ほどに積まれた本のその向こう側で、カリカリと筆記用具の音がした。

恐る恐る覗いてみると、そこには真剣な面持ちで書類にペンを走らせるマリウスがいた。
彼はまだ私の存在に気付いていないようだった。

(ここも駄目ね)

別の場所に移動しようと踵を返すが、誰かが閉めてしまったのか、扉が完全に閉まってしまっている。

(せめて、手があれば開けられたのに!!)

猫の前足では扉は開きそうにない。
それでも。と開かない扉に奮闘していると、その音に気が付いたのか、マリウスが椅子から立ち上がった。

「何だ?」

(ああ、神様お願い…)

出来るだけ小さく、見逃してもらえるように尻尾を丸くする。
しかしその効果は無く、夫は扉の前で固まる私を見つけてしまった。

「なんだ、猫か」
 
マリウスはそっと私を抱き上げ、私の顔を覗き込む。
暫くじっと私を見つめたのちに、小さく。

「猫ならいいか」

と呟いて、私を部屋の奥へと連れていく。
どさりと椅子に座った彼は、私を自分の足の上に座らせて、背中を優しくなでながら「猫よ」と問う。


「私は妻を愛しているんだが、どうやったら上手く伝えられるだろうか…」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷遇・婚約破棄の上、物扱いで軍人に下賜されたと思ったら、幼馴染に溺愛される生活になりました。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
恋愛
【恋愛151位!(5/20確認時点)】 アルフレッド王子と婚約してからの間ずっと、冷遇に耐えてきたというのに。 愛人が複数いることも、罵倒されることも、アルフレッド王子がすべき政務をやらされていることも。 何年間も耐えてきたのに__ 「お前のような器量の悪い女が王家に嫁ぐなんて国家の恥も良いところだ。婚約破棄し、この娘と結婚することとする」 アルフレッド王子は新しい愛人の女の腰を寄せ、婚約破棄を告げる。 愛人はアルフレッド王子にしなだれかかって、得意げな顔をしている。 誤字訂正ありがとうございました。4話の助詞を修正しました。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

おにょれ王子め!

こもろう
恋愛
レティジアは公爵令嬢で、王子フリードの婚約者。しかし現在、フリードとの関係はこじれまくっている。 見た目は気が強そうだが実は泣き虫なレティジアは人知れず毎日涙を流し、フリードはなんだかイライラしている。 そんな二人の前に現れるのは……!

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

【完結】理想の人に恋をするとは限らない

miniko
恋愛
ナディアは、婚約者との初顔合わせの際に「容姿が好みじゃない」と明言されてしまう。 ほほぅ、そうですか。 「私も貴方は好みではありません」と言い返すと、この言い争いが逆に良かったのか、変な遠慮が無くなって、政略のパートナーとしては意外と良好な関係となる。 しかし、共に過ごす内に、少しづつ互いを異性として意識し始めた二人。 相手にとって自分が〝理想とは違う〟という事実が重くのしかかって・・・ (彼は私を好きにはならない) (彼女は僕を好きにはならない) そう思い込んでいる二人の仲はどう変化するのか。 ※最後が男性側の視点で終わる、少し変則的な形式です。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

伯爵令嬢の婚約解消理由

七宮 ゆえ
恋愛
私には、小さい頃から親に決められていた婚約者がいます。 婚約者は容姿端麗、文武両道、金枝玉葉という世のご令嬢方が黄色い悲鳴をあげること間違い無しなお方です。 そんな彼と私の関係は、婚約者としても友人としても比較的良好でありました。 しかしある日、彼から婚約を解消しようという提案を受けました。勿論私達の仲が不仲になったとか、そういう話ではありません。それにはやむを得ない事情があったのです。主に、国とか国とか国とか。 一体何があったのかというと、それは…… これは、そんな私たちの少しだけ複雑な婚約についてのお話。 *本編は8話+番外編を載せる予定です。 *小説家になろうに同時掲載しております。 *なろうの方でも、アルファポリスの方でも色んな方に続編を読みたいとのお言葉を貰ったので、続きを只今執筆しております。

処理中です...