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31話 前世の記憶でしょうか…?
しおりを挟む〈婆や! 婆や! 見てみて! こんな綺麗な小石を拾ったの!〉
〈婆や、すご~い! あんな大きい男の人倒しちゃった! なんでそんなに強いの?〉
〈婆や! 私、勉強したくない。えー? しなきゃダメ……私のため? むぅ…わかったぁ…〉
〈婆や、生まれ変わったらなにになりたいの? え? イケメンか美少女になって玉の輿?〉
〈キャーッ! 婆や、お風呂に入ってこないでよぉ… え? なんで鼻血出してるの? のぼせた?〉
〈婆や……婆や……〉
……………
………
……
…
私は自分の頬を伝う、水の流れを感じて目が覚めた。
どうやら私の緑色の、機械のような眼から涙が流れてきたようだ。
なんで涙なんて出たんだろう。
今のは夢だよね?
さっき、夢の中では私は"婆や"って、ツインテールの女の子から呼ばれてた。
でも、その子の顔は思い出せない。
勿論、私の顔も思い出せない。
おそらく、今のは前世の記憶というやつだろうね。
夢に出てきた少女のことを思うと、なんだか無性に懐かしくなるから。
今の夢、私の記憶、それがたしかならば……私の前世の職業は……誰かの使用人や世話人、メイドといった類の仕事だったみたいだね。
通りで、他人と喋る時にどうしても敬語が抜けないわけだわ。
今は朝の5時。
少し早く起きちゃったかもしれない。
今日はロモンちゃんとリンネちゃんの誕生日だ。
前世はツインテールの少女に仕えていたみたいだけど、今、仕えるべき私の相手はその二人。
たくさん、たくさん祝ってあげよう。
でも、やっぱり早く起きすぎた。
暇だ。
……そうだ、どうせ私の前世は使用人やらメイドやらっぽいんだし、それらしく掃除でもしてみるかな?
私は掃除用具を取り出し、自分でも驚くほどのスピードど丁寧さでリビングと廊下をピッカピカにした。その間たったの30分。
……この手際、やはり私は前世、そういう職業だったことは本当に間違いなさそうだね。
それに楽しかったし。
【行動ボーナス! 器用と素早が上がりやすくなった!】
こんなことでも上がるんだ…。
掃除用具を片付けている最中、廊下の方から誰かがこちらに向かってくるのがわかった。
「おぉ、アイリスちゃん。もう起きていたのかね」
【あ! おはようございます。ウォルクさん】
ウォルクおじいさんだったね。
どうして老人ってば、こうも早起きなんだろうか?
「ありゃあ? リビングが……驚くほど綺麗になっとるのぉ…。これ、全部アイリスちゃんが?」
おじいさんはリビングをトコトコと、背筋を伸ばして歩きながら、部屋の隅々をみている。
【はい、そうなんです】
「ほう…またなんで?」
そうだ、今朝に見た記憶の話をしよう。
そうすれば、今後からご飯を作らせてもらったり、掃除・洗濯をさせてもらったりできるかもしれない。
【私が、人間の前世の記憶がある話は…昨日聞いてましたっけ? ウォルクさん】
「ん……あぁ、言っておったの、そういえば」
そうなんだ、てっきりその場にいなかったから聞いてないのかと思った。
まぁ、それならば話は早いよね。
【実は今日見た夢で____】
私は、前世の職業が誰かの使用人だったかもしれないことをおじいさんに話した。
ついでに、今後、家事をやらせて貰えないか訊いてみる。
【というわけで、今後、家事を任せてもらえないでしょうか?】
「ふむ……まぁお願いされなくとも、家事はやって欲しいからの。そういうことなら頼むわい」
【ありがとうございます】
やった!
やっぱり、お掃除していて思ったんだけど、私は家事をしていると物凄く楽しいから、すんなりOKしてもらえて助かった。
まさか前世の私も、来世でも掃除をしているなんて思わなかっただろうね。
「どれ、紅茶でも一杯」
そう言って、おじいさんはさっきまで腰掛けてた椅子を立とうとした時である。
紅茶の美味しい淹れ方の感覚が、かってにスルスルと私の頭の中に入り込んできた。
否、入り込んできたというより、浮かんできたと言うべきかな?
【あ、紅茶、私が淹れますよ!】
「おや、そうかい? あぁ、確かにメイド等の職業の人間は、紅茶や料理もうまいと聞く。現にアイリスちゃんの料理は美味しかったしな…。どれ、紅茶も淹れてみてくれるのか?」
【ハイ!】
ほぼ、意識せずに口走ってしまったけど、結果オーライだね。
私は台所に立ち、湯を沸かし、私の知る限り、朝に飲むには最善の方法で紅茶を淹れ、おじいさんに渡す。
【どうぞ】
「ん、ありがとう。どれ……」
おじいさんは紅茶を一口、喉に通した。
「ほぉ……流石プロと言うべきか……美味い」
【そうですか! ありがとうございます】
私も、ティーカップに紅茶を淹れ、自分の口に流してみたが、確かに美味しかった。
自分で言うのはなんだけどね。
そんなこんなしていたら、気づけば6時10分。
あと50分もすれば、今日の主役達は起きてくるだろう。
そうだ、せっかく誕生日なんだし、朝から凝ったスープでも作ろうかしら?
【ウォルクさん、あと50分ほどでロモンちゃんとリンネちゃんは起きてきますよね?】
「まぁ、そうじゃの」
【なら、私はいまから少し凝った朝食を作ろうかと思いますが、いかがでしょうか?】
「ふむ、任せようかの」
再度、私は台所に立ち、グッツリコトコトと野菜や魔物のダシを煮込む。
この世界では、少々、胡椒が高値なのが気になるから、胡椒は使わずに、味見をしつつスープを作る。
6時50分、スープが粗方出来上がったと同時に、ロモンちゃん、リンネちゃん、お母さんお父さんが起きてきた。
そういえば、今日は4人で一緒の部屋で寝たんだっけかな?
「んー! いい匂いだ……」
「それに、廊下もリビングもピッカピカ…これ、お父さんが?」
「いんや、アイリスちゃんじゃよ」
私は両手に料理を任せて、みんなの前に顔を出した。
【皆様、おはようございます! リンネちゃんとロモンちゃん、お誕生日おめでとうございます!】
「えへへー! ありがとー!」
「アイリスちゃん、ありがとね! ところでこんなにお部屋がピッカピカなの、アイリスちゃんがやったんだよね? どして?」
【それはですね】
私はおじいさんにした説明と同じ説明をした。
お母さんはまた、その話を興味深そうに聞いている。
【と、いうわけなんです】
「なるほどねー! 通りでアイリスちゃん、ずっと敬語なんだねー」
「そうだね、メイドさんって敬語のイメージあったけど、本当に敬語なんだね!」
「はぁ……前世の記憶って、やっぱりあるもんなんだな」
ここで、お母さんは私に質問をしてきた。
「ねぇ、ところでアイリスちゃんは、元は人間なわけだけど……魔物扱いして欲しくないとか、あるんじゃない?」
「あっ! そういえば……」
「確かにね」
おっと、それは考えたことなかったよ。
正直、私は仕える身だったわけだし、今ぐらいの扱いに慣れてるというか、心地いいというか。
つまりは、このままでいいんだよね。
【いえ、そんなことはございません。私は今はロモンちゃんの仲魔ですし、それに皆様は人と同じ対応をしてくれるではないですか。このままでお願いします】
「ん、わかった。アイリスちゃんがそう言うなら、私は今まで通りにするね」
「ぼくも!」
台所の方から、私の手が飛んできて、私の肩を叩いた。
どうやら朝ごはんができたみたいだ。
【どうやら、朝食ができたようです。皆様、お席におつきくださいませ】
「「うん!」」
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