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9 王太子妃
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地方官からの推挙にて、年齢、教養、美貌、品性、そして特技のあるものがプロフィールと共に絵姿が届けられる。中央の大臣の娘から正室を選ぶことはない。王妃の親戚の権力によって、王朝が覆ることがあるため花嫁は中央の権力から遠いものが選ばれる。また王妃になったからと言ってその家族が、おのれの能力の発揮以外で権力が与えられることはなかった。
初代の王、武王によって才能のあるものは尊ばれており、家柄や、重臣の家族とい理由で高い地位を得られることはない。おかげで地位を保つために大臣たちは、己の子息子女を甘やかすことなく教育している。また貧しい家庭でも何かに秀でていれば、どんな出自であろうと地位や出世が保障される。国家の基盤になっている『唯才是挙』は求賢令で出されたときに混乱を招き、うまく適合されないものだったが今ではすっかり定着している。
発布された当時は目に見える技術だけに限定されがちであったが、時間をかけ、ゆっくり浸透していき、人々は己の適材適所を見つけることができている。誰でも何か一つはできるものがある。幼いときから『才』を意識していることによって、それを育み自己実現が伴うおかげで、今の王朝は全盛期を迎えている。
数多居る花嫁候補の中から東の地方長官の娘、呂桃華が選ばれた。桃華は豊かな艶のある黒髪を持ち、透明感のある肌に小さな赤い唇がさくらんぼのように愛らしく乗っている。そして美しい指先は楽器の演奏も巧みだった。
王太子妃決定の知らせを受けた夜、家族は喜び大宴会を行う。近隣の庶民たちにも酒と馳走を振る舞い、小さな村は新年のようなお祭り騒ぎになった。
その喧騒の中、当人の呂桃華は青い顔でため息をついている。
「姉さま、もっと喜ばないと」
双子の妹である李華が声を潜めて耳打ちする。
「まさか、選ばれるなんて……」
「名誉なことだわ。いずれ王妃になるのよ?」
「王妃なんて……」
姉の桃華が暗く沈む理由は、杏華にもよくわかっていた。桃華には下っ端役人の恋人がいるのだ。このことは両親も知らない。杏華のみ知っていることだった。
「一ヵ月もすると中央から迎えが来るわ。今のうちに話し合っておかないと」
「……」
桃華は首を横に振り「やっぱり嫌だわ……」とつぶやき、杏華の手を取る。
「ねえ。杏華が行ってくれないかしら?」
「えっ!?」
「父上も母上も区別がつかないときがあるのよ。あなたが行っても絶対にばれないわ」
「で、でも。この王太子妃選びは、占術ででも選ばれてるのよ? 人が違えばいくら双子だとは言え……」
合理主義で現実的な政治と、占術による神権政治が結びついていることを、地方長官の娘といえども重々承知している。
「だって、だって生まれた時間がほんの一刻違うだけなのよ?」
「で、でも、欺くのよ? それも王や王子、国をよ?」
あまりにも畏れ多いことに杏華は震える。
「じゃあ、もう、彼と駆け落ちするしかないわ……」
「姉さま!」
目の前の恋に冷静な判断ができない姉の桃華を、杏華は心配しながら、反面呆れてしまった。桃華が駆け落ちなどしてしまえば、家族全てに責任が降りかかる。今では、身を割くような極刑はなく、父親の職を剥奪されることもないであろうが、この王太子妃を選ぶために使った莫大な経費を要求されることになる。そうなれば杏華はとにかく裕福な商人のもとへ嫁ぐことになるだろう。
「ねえ、お願いよぉ」
昔から桃華は自分の意見を曲げることはなく、すべて押し通してきた。本人に悪気はないようだが、これは杏華にとって脅迫とも思えるお願いだ。
「姉さま……」
国を欺くか、賠償金で苦しむか。なぜ自分がこのような選択を強いられているのか杏華には訳が分からなかった。ただ姉に対して、今まで積もっていた鬱憤が憤怒に変わることがわかる。
「いいわ。代わりに行ってあげる。でも、後でもう一度入れ替わることは絶対にできないのよ?」
「もちろん、承知してるわ」
青白い顔がみるみる桃色に紅潮し喜びにあふれてくる。事の重大さをまるで分っていないような姉に杏華は殺意すら覚える。若い身空でもう墓場まで持っていく秘密を抱えてしまった杏華は、とにかくばれないことだけを考え始めた。
初代の王、武王によって才能のあるものは尊ばれており、家柄や、重臣の家族とい理由で高い地位を得られることはない。おかげで地位を保つために大臣たちは、己の子息子女を甘やかすことなく教育している。また貧しい家庭でも何かに秀でていれば、どんな出自であろうと地位や出世が保障される。国家の基盤になっている『唯才是挙』は求賢令で出されたときに混乱を招き、うまく適合されないものだったが今ではすっかり定着している。
発布された当時は目に見える技術だけに限定されがちであったが、時間をかけ、ゆっくり浸透していき、人々は己の適材適所を見つけることができている。誰でも何か一つはできるものがある。幼いときから『才』を意識していることによって、それを育み自己実現が伴うおかげで、今の王朝は全盛期を迎えている。
数多居る花嫁候補の中から東の地方長官の娘、呂桃華が選ばれた。桃華は豊かな艶のある黒髪を持ち、透明感のある肌に小さな赤い唇がさくらんぼのように愛らしく乗っている。そして美しい指先は楽器の演奏も巧みだった。
王太子妃決定の知らせを受けた夜、家族は喜び大宴会を行う。近隣の庶民たちにも酒と馳走を振る舞い、小さな村は新年のようなお祭り騒ぎになった。
その喧騒の中、当人の呂桃華は青い顔でため息をついている。
「姉さま、もっと喜ばないと」
双子の妹である李華が声を潜めて耳打ちする。
「まさか、選ばれるなんて……」
「名誉なことだわ。いずれ王妃になるのよ?」
「王妃なんて……」
姉の桃華が暗く沈む理由は、杏華にもよくわかっていた。桃華には下っ端役人の恋人がいるのだ。このことは両親も知らない。杏華のみ知っていることだった。
「一ヵ月もすると中央から迎えが来るわ。今のうちに話し合っておかないと」
「……」
桃華は首を横に振り「やっぱり嫌だわ……」とつぶやき、杏華の手を取る。
「ねえ。杏華が行ってくれないかしら?」
「えっ!?」
「父上も母上も区別がつかないときがあるのよ。あなたが行っても絶対にばれないわ」
「で、でも。この王太子妃選びは、占術ででも選ばれてるのよ? 人が違えばいくら双子だとは言え……」
合理主義で現実的な政治と、占術による神権政治が結びついていることを、地方長官の娘といえども重々承知している。
「だって、だって生まれた時間がほんの一刻違うだけなのよ?」
「で、でも、欺くのよ? それも王や王子、国をよ?」
あまりにも畏れ多いことに杏華は震える。
「じゃあ、もう、彼と駆け落ちするしかないわ……」
「姉さま!」
目の前の恋に冷静な判断ができない姉の桃華を、杏華は心配しながら、反面呆れてしまった。桃華が駆け落ちなどしてしまえば、家族全てに責任が降りかかる。今では、身を割くような極刑はなく、父親の職を剥奪されることもないであろうが、この王太子妃を選ぶために使った莫大な経費を要求されることになる。そうなれば杏華はとにかく裕福な商人のもとへ嫁ぐことになるだろう。
「ねえ、お願いよぉ」
昔から桃華は自分の意見を曲げることはなく、すべて押し通してきた。本人に悪気はないようだが、これは杏華にとって脅迫とも思えるお願いだ。
「姉さま……」
国を欺くか、賠償金で苦しむか。なぜ自分がこのような選択を強いられているのか杏華には訳が分からなかった。ただ姉に対して、今まで積もっていた鬱憤が憤怒に変わることがわかる。
「いいわ。代わりに行ってあげる。でも、後でもう一度入れ替わることは絶対にできないのよ?」
「もちろん、承知してるわ」
青白い顔がみるみる桃色に紅潮し喜びにあふれてくる。事の重大さをまるで分っていないような姉に杏華は殺意すら覚える。若い身空でもう墓場まで持っていく秘密を抱えてしまった杏華は、とにかくばれないことだけを考え始めた。
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