華夏の煌き~麗しき男装の乙女軍師~

はぎわら歓

文字の大きさ
82 / 127

82 『銅雀台』

しおりを挟む
 軍師省に復帰した星羅は、郭蒼樹はもちろんのこと、教官の孫公弘にも歓迎され、大軍師である馬秀永にも直々にねぎらいの声を掛けられる。息子の徳樹は、京湖が面倒を見ている。『金虎台』内に設置されている託児所もあるが、京湖の希望で徳樹を預けている。

「また子供の面倒を見られるなんて嬉しいわ」
「ほんとう? 大変じゃない?」
「星羅と京樹二人に比べたら全然平気よ」
「それならいいんだけど」

 頼もしい京湖のおかげで、星羅は安心して勤めに精を出す。徳樹も好奇心は旺盛だが、気性はおとなしいようで癇癪を起したり暴れたりすることはなかった。星羅が実の母に育てられていなくとも、京湖から愛情を存分に注がれており、京樹と比較されたこともなかったので恵まれた育児環境だったと思う。

 胡晶鈴のことは毎日考える。どこでどうしているのか、会えるのか。彼女の存在はある意味星羅の目標になっている。実の母に会いたいというよりも、会わなければならないと思っている。
 人恋しくなったり、寂しくなると京湖を思い出し、顔を見に行った。京湖のことは毎日考えない。心細いときだけ京湖のことを思うのは都合が良いのだろうかと一度、兄の京樹に聞いたことがある。寂しいときには胡晶鈴を思い出すべきなのだろうかとも尋ねた。
 京樹は自分も同じで何かあれば、いつもは気にかけていない母、京湖を思うと答えた。その答えを聞くと、星羅にとって『母』は京湖なのだと実感した。ただ京樹は、弱っている時だけ母を思い出すということは、京湖には伏せておこうと笑った。


 王になった曹隆明と妃たちが『銅雀台』に越してしばらくすると郭蒼樹から、郭家が祝いに参るので一緒に行かないかと誘われた。

「ほんとうにいいのかな」
「ああ、こんな機会はほぼない。逃すと数年待つかもしれないぞ」
「そうねえ」
「徳樹も見せることができるし」

 星羅は自分の産んだ子を、祖父になる隆明に一度だけでも見せたいと願う。また『銅雀台』に上がることにも非常に興味があった。

 当日、星羅は男装をして郭家と共に『銅雀台』へ参る。郭家と親戚の柳家の人たちは合わせて10名ほどいるが、星羅と赤子をみても特に関心を寄せてこない。

「あの、挨拶しようと思ったけど」

 参加させてもらったことの礼を述べたいと郭蒼樹に耳打ちする。

「いや、いい。俺の友人だと伝えているし特に何もしていないからな」
「そうなの?」
「ああ、心配するな。うちは礼儀にはこだわりがないのだ。何か良い策があれば、父が聞こうとするだろうが」

 笑っていう郭蒼樹に、星羅は郭家は一風変わった家族だと、大人しく端のほうで混じっていることにした。

 高くそびえる『銅雀台』を前にして星羅は目を細めて見上げる。ここにはかつてこの王朝を興した高祖が住んでいて、今は王の曹隆明が住んでいるのだ。

「籠を使うか?」

 すでに星羅と郭蒼樹以外は籠に乗って石段を上がっている。3名ほどまとまって乗っている籠もあるので、スピードは歩く程度だ。

「いや、自分の足で登りたい」
「そういうと思った。じゃあ俺もそうしよう」

 若い二人にこの程度の高さは億劫ではない。ただ星羅は徳樹を抱いているのでいつもより体力を使う。

「ほら、徳樹をよこせ」

 息が荒くなってきた星羅から郭蒼樹は徳樹を抱き上げる。

「すまない」
「いや平気だ。徳樹も楽しいようだぞ」

 表情がついてきた徳樹はきゃっきゃと声をあげている。その隣で一台の籠が止まり「あたしはここから歩くわ」と一人女人が出てきた。
 柳紅美だった。

「あ、こんにちは。紅美さんもきていたのね」
「ええ、もちろん」

 柳紅美は星羅をじろっと見た後、郭蒼樹とその腕の中の徳樹を見て「まるで夫君みたいですわね」と一言つぶやいた。

「そうか?」

 そっけなく答える郭蒼樹に柳紅美は不機嫌な様子を見せる。気づまりな空気に、星羅は足元の石段を見て黙ってあがる。
 柳紅美は並んで歩いていた、郭蒼樹と星羅の間にしっかり入って、二人の会話を妨げている。いつも軍師省で話し合っているので話せなくても平気だが、この女人からの嫌がらせに慣れていない星羅は居心地がとても悪かった。剣で戦うほうがよほど気が楽だ。

「さて、着いたな」

 郭蒼樹の言葉と、次の段がないことで星羅は最上段に来たことを知る。振り返って周囲を見渡す。

「すごい眺めだ。ずっと遠くまで見える」
「ああここから都が一望できる」

 都の地図で、全体像を把握していたが、リアルな全体像はまた格別の感動がある。そして都よりももっと遠くの空を見つめる。夫、陸明樹の赴任地のほうを見る。隣は西国、そして広大な砂漠を越えると浪漫国があるのだ。

「さあ、中に入るぞ」
「あ、うん」

 徳樹はいつの間にかすやすやと寝息を立てていた。

「さすが、大物だな」

 郭蒼樹は一段と優しい目で徳樹を見てから皆の後をついていく。その姿を柳紅美は忌々しそうに睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

黒騎士団の娼婦

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

処理中です...