異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ

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決意

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大きく深呼吸……をするようにして、なんとか冷静さを取り戻す。
 

少し落ち着いた所で、改めてアシェルの様子を伺ってみることにする。
卵状態の俺からは相変わらず魔力の形しか読み取れない。集中してよく見てみれば、彼は両手を手錠で繋がれているみたいだった。
子供らしい丸みを感じられない細い両腕を伸ばして、俺のことをゆるゆると撫でてくれている。動くたびに、たゆんだ鎖が重そうにガチャリと鳴る。
 


「……あったかい」



 アシェルがどんな表情をしているのか俺には分からないけど、その声色はとても穏やかで……。
 少し微笑んでいるみたいに聞こえたその声を聞いた瞬間、胸が詰まった。


アシェルの魔力に触れて、見た記憶がある。
彼が過ごしていたのはきっとこの世界のどこよりも残酷な場所だ。
誰にも助けてもらえず、使い潰され、笑うことも、泣くさえも許されていなかった。


元居た世界の知識をよく思い出してみる。
何度も繰り返し聞いたセラピアのシナリオで語られていた内容。


 主人公に少しづつ心を許していくアシェルが、自分の幼少期の話をしてくれるシーンがあった。
 ポツポツと話してくれた内容は詳しく描写されていたわけじゃないけど……幼いうちに彼は両親に売られ、その力の強さを悪意ある人間に利用された過去を持つ、といった感じだったはずだ。

やがて魔力は暴走して、彼を利用しようとしていた人たちもろとも周囲を焼き払って、彼は初めて自由の身になる。人間を憎み、世界を焼く、復讐の果てに自らを“魔王”と名乗った……それが、俺がかつて推していた魔王アシェルだ。


 でも、目の前にいるこの子だって、アシェルだ。
 きっと、まだ魔力の暴走を起こしていない、魔王になる前のアシェルに会えている。
 傷だらけで、俺がキャーキャー騒いでた、俺様な魔王の印象なんてひとつも感じない。
 小さく震えて、俺の殻が発する少しのぬくもりにすがる小さな少年……。



(……放っておけるわけがない。)



俺は、心の奥で静かに誓った。
なんの因果か分からないけど、俺は今、この世界で、この場にいる。
 

 この子を、魔王にさせはしない!
 推しだろうと知ったこっちゃない!闇落ちなんてさせてやるもんか!
 子供はたくさん飯を食って!よく遊んで!あったかいベッドで寝かせてやるもんだ!
 今まで苦労した分!楽しい思いも!嬉しい思いも!たくさんして欲しい!
 
 
もしも未来のシナリオを変えられるとするのなら、今だ。俺に出来ることがあるなら、なんでもする。違う未来を、もっと明るい世界を見せてあげたい。


 ガラクタの山を這いながらアシェルが近づいてきた。
 手錠が当たらないように両腕を回して俺を抱えるようにすると、すぐに小さく寝息を立て始める。


 寄り添ってくれたアシェルを、抱きしめ返してやれる腕が無い。卵の自分を心底悔やんだ。
 
 
 
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