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孵化
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暗闇の中で、時が過ぎていく。
アシェルは、まだ寝息を立てていた。
時おり咳き込んだりしているが、それでも手を離そうとしない。でっかい湯たんぽを抱いてるみたいな感じなんだろうか、頬を寄せてスリスリしてくれる。
(大人アシェルはとんでもないイケメンだったよなぁ?となると、ちびっ子アシェルの顔も気になる……!!絶対可愛い……!!)
1人で悶々と妄想にふけったまま、数時間ほど経った頃だろうか。
扉の向こうが急に騒がしくなってきた。
荒々しい声と足音が複数。どんどん近づいて来る。
バンッと扉が開く大きな音が響いた。
音に驚いたのか、俺を抱いていたアシェルがビクッと震える。
「おい! いたぞ!」
「良かったぁ~~~てっきり逃げたのかと……。」
「勝手に移動されては困ります!大事な被検体なんですよ!」
「す、すいやせん、言うことを聞かない罰のつもりで……!」
「おい、朝だ! 起きろ!」
気配にして5~6人はいる様子だ。
ドタドタと部屋に人が雪崩れ込んできて、各々が騒いでいる。
重い靴音と怒号が、薄暗い部屋を満たした。
「や、やだ……」
掠れた声でアシェルが呟いた。
両手の鎖が鳴り、彼は本能的に俺を抱きしめる。
「もう……やだ……行きたくない…………」
その声は震えていた。
「何だここは、ちったあ片付けろってんだ……おい、動くなよガキ!大人しくそこにいろ!」
周りのものを蹴散らし踏みつけるように音を立てて大柄な男がアシェルの元まで近寄ってくる。
「なんで……僕ばっかり……」
男は大きな手を伸ばして今にも掴みかかろうとする。
「もういいよ……僕も……みんなも……ぜんぶ、ぜんぶ消えてしまえばいい……」
泣いているでも、怒っているでもない。
呆然としたような、諦めの声。
小さくも確かに、紡がれた細い糸のようなつぶやきが口から放たれた次の瞬間、空気がざわめいた。
アシェルの魔力だ。
彼の感情に呼応するように、体中の魔力が沸騰して湧き上がる。部屋に溜まっていた魔力も巻き込んで周囲の空気までもが荒れ狂い始める。
部屋中のものがガタガタと鳴り始め、アシェルの体がどんどん熱くなっていく。
全身をこわばらせ、力んで震えるアシェルの両手足の手錠が弾け飛んだ瞬間、ドス黒い炎のようなオーラが周囲に湧き上がった。
——あの“暴走”だ。
(だめだ! アシェル!!)
心が悲鳴を上げた。
原作で聞いた“あの場面”が、まざまざと蘇る。
全てを焼き尽くし、世界を呪う、あの始まり。
(どうする……! くっそ!どうにかならないか!)
無意識でがむしゃらにもがこうとしても、なんの手応えもない。俺には手足が無いんだから。
なにかしなきゃ、動かなければ。
うごけ………
………………動け!!!
体の奥の、ずっと底の方で何かが弾けた気がした。
全てを出し切る気で無い腹に力を入れる。持てる気力を総動員して、周囲へ放つ。
外へ!もっと外へ!!殻の、外へ!!!
ーー。
まぶしすぎるほどの閃光が視界を満たす。
爆発のような光の奔流だ。
世界が音もなく白く塗りつぶされていく。
どこか甘い風が吹き抜け、金属が軋み、誰かの叫びが遠ざかる。
耳が鳴るようなキン……とした静寂の中で、ゆっくりと殻が裂ける音がした。
アシェルは、まだ寝息を立てていた。
時おり咳き込んだりしているが、それでも手を離そうとしない。でっかい湯たんぽを抱いてるみたいな感じなんだろうか、頬を寄せてスリスリしてくれる。
(大人アシェルはとんでもないイケメンだったよなぁ?となると、ちびっ子アシェルの顔も気になる……!!絶対可愛い……!!)
1人で悶々と妄想にふけったまま、数時間ほど経った頃だろうか。
扉の向こうが急に騒がしくなってきた。
荒々しい声と足音が複数。どんどん近づいて来る。
バンッと扉が開く大きな音が響いた。
音に驚いたのか、俺を抱いていたアシェルがビクッと震える。
「おい! いたぞ!」
「良かったぁ~~~てっきり逃げたのかと……。」
「勝手に移動されては困ります!大事な被検体なんですよ!」
「す、すいやせん、言うことを聞かない罰のつもりで……!」
「おい、朝だ! 起きろ!」
気配にして5~6人はいる様子だ。
ドタドタと部屋に人が雪崩れ込んできて、各々が騒いでいる。
重い靴音と怒号が、薄暗い部屋を満たした。
「や、やだ……」
掠れた声でアシェルが呟いた。
両手の鎖が鳴り、彼は本能的に俺を抱きしめる。
「もう……やだ……行きたくない…………」
その声は震えていた。
「何だここは、ちったあ片付けろってんだ……おい、動くなよガキ!大人しくそこにいろ!」
周りのものを蹴散らし踏みつけるように音を立てて大柄な男がアシェルの元まで近寄ってくる。
「なんで……僕ばっかり……」
男は大きな手を伸ばして今にも掴みかかろうとする。
「もういいよ……僕も……みんなも……ぜんぶ、ぜんぶ消えてしまえばいい……」
泣いているでも、怒っているでもない。
呆然としたような、諦めの声。
小さくも確かに、紡がれた細い糸のようなつぶやきが口から放たれた次の瞬間、空気がざわめいた。
アシェルの魔力だ。
彼の感情に呼応するように、体中の魔力が沸騰して湧き上がる。部屋に溜まっていた魔力も巻き込んで周囲の空気までもが荒れ狂い始める。
部屋中のものがガタガタと鳴り始め、アシェルの体がどんどん熱くなっていく。
全身をこわばらせ、力んで震えるアシェルの両手足の手錠が弾け飛んだ瞬間、ドス黒い炎のようなオーラが周囲に湧き上がった。
——あの“暴走”だ。
(だめだ! アシェル!!)
心が悲鳴を上げた。
原作で聞いた“あの場面”が、まざまざと蘇る。
全てを焼き尽くし、世界を呪う、あの始まり。
(どうする……! くっそ!どうにかならないか!)
無意識でがむしゃらにもがこうとしても、なんの手応えもない。俺には手足が無いんだから。
なにかしなきゃ、動かなければ。
うごけ………
………………動け!!!
体の奥の、ずっと底の方で何かが弾けた気がした。
全てを出し切る気で無い腹に力を入れる。持てる気力を総動員して、周囲へ放つ。
外へ!もっと外へ!!殻の、外へ!!!
ーー。
まぶしすぎるほどの閃光が視界を満たす。
爆発のような光の奔流だ。
世界が音もなく白く塗りつぶされていく。
どこか甘い風が吹き抜け、金属が軋み、誰かの叫びが遠ざかる。
耳が鳴るようなキン……とした静寂の中で、ゆっくりと殻が裂ける音がした。
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