異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ

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ぴよぴよ

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 耳元で優しい声がする。



『どうした、今日は妙に甘えん坊だな』


(ん?……こ、これは!)



 俺が何度も、何度も寝る前に聞いてたアシェルのボイスだ。聞きなれた低くて深い声が耳をくすぐる。
 甘いバリトンボイス。俺様な言い回し。
 くうぅ――……かっこいい……。
 


『いいだろう。今日だけは俺様の腕の中で眠ることを許す』

(あ……ありがたき幸せぇ……!!)



 あぁ――推しボイスで睡眠導入されるぅ——……。

 




「……ねえ、君!しっかりして!」


 このまま、まどろみに身を任せてしまおうかと思っていたら、さっきとは違う、声変わりしていない少年の声が割って入った。

 
(……あれ……?アシェル?)



 薄く目を開けると、
 目の前で心配そうな赤い瞳が覗き込んでいた。

 
 ……そうか、俺、アシェルを掴んで、飛んで、落ちたんだった。
 さっきまで飛んでいた空は、今はずっと高いところにあって、見上げる俺の周りを囲むように木々の葉っぱが揺らいでいる。柔らかな木漏れ日が清々しい。

 俺は大きな木の根元にもたれかかるような姿勢で意識を失っていたらしい。
 アシェルが、小さな手で俺の肩をさすって起こしてくれたようだ。



(あぶねぇ…睡眠導入がうっかりお迎えになるところだった……)


「良かった……目を覚ましたんだね」


 ほっとした様子で肩をなで下ろすアシェル。
 明るい場所で改めて、その小さい姿の細部を見て取ることが出来た。
 ボサボサの髪は木漏れ日を受けて淡く紫にきらめき、大きな赤い瞳は俺を心配してか、涙でうるんでいる。
 声はあの色気ある低音じゃなく、少年らしい柔らかい音色で……これはこれで……可愛い。

 

(うわ……推しの幼少期、現物……尊……)


 俺が知るキービジュアルの姿とは違うけれど、雰囲気や輪郭に面影があるようで、これが大きくなったらあんな爆イケに育つのかと思うと感慨深い。
 思考が溶けてホァァ……っとしていると、



「君が僕を助けてくれたの? 怪我はない? 痛むところは?」



 矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
 俺も慌てて答えようとした。



「ピヨピヨ!ピピピーピョー」
(大丈夫大丈夫! そっちこそ怪我は—――)



「どうしたの?」



 自分では問題なく言葉を発したつもりが、耳に入ったのは想像と違う甲高い鳥の鳴き声だった。
 アシェルもぽかんとこちらの様子をうかがっている。
 少しの間の沈黙ーーー。




「ピピピッ!? ピョッ!!?」
(ええぇ!?!?なんだこの声!!!)



 驚いて羽をバタつかせる俺を見て、アシェルが驚いてなだめてくれる。


「わっ……!だ、大丈夫だよ!僕は何もしないから、落ち着いて、ね?」



「ピフーー……」
 喉から間抜けな溜息しか出ない。


 卵状態から苦節、数日なのか数カ月なのかもうよく覚えてないが………やっと、やっと!自由に動いたり意思疎通が出来るようになったと思ったのに……。



 落ち着き、項垂れている俺をじっと見て、アシェルは不思議そうに首をかしげている。



「この森に落ちてから、さっきまで僕も意識がなったんだよ。先に僕の方が起きたんだ。横を見たら君が隣で寝てたんだけど……。さっきまで僕と飛んでいたの、君?」


「ピヨヨ!」
(そうそう俺です!)


 思い返せば、咄嗟のこととはいえ我ながらドラマチックな逃走劇だったと思う。
 調子に乗って飛び続けて着地は上手くいかなかったけど……まあ無事にあの場を切り抜けられたということで大目に見てほしい。


 俺はにっこり笑って自慢げにドンッと胸を叩いた。
 腕が羽になっているからなのか、可動域が人間の頃と違って多少違和感がある。思ったよりポンと力なく叩くことになった。
 が、その少しの衝撃でも背骨から腹にかけて痛みが走る。
 思わず背を丸めてうずくまってしまった。

 

(痛って……落ちた時にどっか打ったなこりゃ……)



「大丈夫!?やっぱりどこか痛いの?」
 

 アシェルが俺の腕あたりをそっと撫でた。
 心配そうな顔で、怪我がないか確かめるように指先を這わせる。


(……ん?)


 俺に触れるアシェルの手が妙に大きい気がする、というか、触られた場所が小さい。
 飛んでた時は、大きく風を掴めるくらいの大きい翼が腕に会った気がするんだが?


 恐る恐る自分の体を見る。

 
 地面に投げ出されている足先には、その辺の木の枝くらいの小さな鉤爪が。
 発達した筋肉の上を魔力に満ちた羽が覆って太ましかった脚が、今は細く、短くなってる。

 両腕はふわふわの羽に包まれているのは変わらないが、墜落の衝撃でかなんだか薄汚れていて輝きを失っている様に見えるし。
 振り返ればさっきまで羽ばたかせてた背中の巨大な翼も、全部消えている。

 肩幅も狭い。
 視界が低い。
 体も軽い。



(……俺、ちっさくね?)

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