異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ

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衝突

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 二人の周りの空気が、ぴり、と張り詰めた。
 不穏な気配を察したのか、周囲の視線がさらに集まってきた。
 なにかあったのか?と、新入生たちがざわつき始めている。
 
 見えない圧が、じわりと滲み出している。


(まずい……めちゃくちゃ機嫌悪いじゃんか)


 普段は冷静で激しい感情は表に出さないアシェルの、こういう姿は珍しい。
 怒っている人間を目の前にすると、逆に自分の頭が冷えてくる。
 俺はただ、ハラハラしながら事態の推移を見守るしかなかった。

 
「なんだって?お前もギデンズだと?」
「フィルとは兄弟だ」

 
 俺とアシェルを見比べて、怪訝そうに眉をひそめる。


 「へぇ……随分、似てないんだな」


 すこし間を置いて、口もとに嘲るような笑みが浮かべた。
 

「なるほど、さては養子か何かか?おおかた、魔術の才を買われて拾われでもしたんだろう。功績欲しさに孤児でも引き取ったのか」

 空気がどんどん冷えていく気がする。

「お前には関係ない」
「なんだと?生意気な奴だ、誰に向かってそんな口をきいている」

 
 カシアンの言葉は止まらない。
 そして、今度は俺へと視線が投げられた。

 値踏みするような視線が、俺の頭から、喉元、指先へとゆっくり滑る。

 
「ああ、それとも、お前じゃなくて金髪の方が養子だったか。面はいいみたいだが……そっちは見た目で拾われた口か?」


 ぎり、っと音がしそうなほど、アシェルの拳が強く握られている。
 嘲笑でゆがんだカシアンの顔。
 あまりの言い草に、俺はだんだん怒りを通り越して、疑問が浮かんだ。
 もともと強気な物言いのキャラではあるが、この様子は一体どういうことなのだろうか。


「その見た目で何をさせられて育ったのか、知れたもんじゃないな。よくこの学院に入れたもんだ」
 

 若気の至り、では済まされない下品な物言い。
 どうしてこんなことを言うのか、カシアンの様子を観察していると、不意に、背筋を撫でるような悪寒を感じた。
 

 驚いて隣を見ると、アシェルが瞳が完全に温度を失っていた。
 そして――アシェルの足元で、空気がわずかに揺らぐ。
 目に見えないはずの何かが、足元から音もなく滲み出しているようだった。


 これは、まずい。


 空気が、震える。顎を引き、敵意むき出しの表情で睨みつけるアシェル。
 さすがにこれ以上はやばい。
 
 
「アシェル、落ち着けっ」

 慌てていさめるが、アシェルの視線はカシアンから逸れない。
 
「なんだ、やる気か?いいぜ、乗ってやるよ。どっちが上かこの場ではっきりさせようぜ」


 一触即発。
 まさかこんな場所で魔術を使う気か?周りには人がいる。相手は一国の皇子だ。
 万が一手を出せば、とんでもないことになるかもしれない。
 
 ど、どうしよう――!
  


「殿下!」



 張り詰めた声が割り込んだ。
 一体どこから?と見てみれば、声の主はルカだった。

 一歩前に出て、足をそろえ、深く頭を下げる。

「わ、私の領地の者が、失礼な態度を取った事、深くお詫びいたします」


 震える声とは対照的に、顔を上げたその瞳は、揺れていなかった。


「このような場での作法に不慣れであったこと、反省いたします。おっしゃる通り、我がマスラークは辺境の領地です。しかし、帝国に忠誠を誓う、誇りある領地でもあります。
 この者たちも、帝国のために働く国民なのです。どうか、寛大なお心で、この場は治めていただけませんか」


 普段は貧乏くじを引きがちな苦労人気質のルカ。だが武闘派の多い領地をいずれ治める伯爵家の若様。
 緊張で震えてはいるが、やるときはやる奴だ。
 無礼を働いたのはどう見てもカシアンの方からだが、そこは問わず、こちらの無作法と頭を下げる。
 しかし、俺たちを下に見られたことにも毅然と言い返す。
 静かで、理性的な言葉は力強かった。


「このっ……!」


 水を差され、大人な対応をされて、これでは立場が無い。
 怒ったカシアンが言い返そうとした、その時。


「そこまでだ」


 制止の声がかかった。

 人の波が割れ、現れたのはカール伯爵と……皇帝セイラスだった。
 突然の皇帝の登場に、その場の全員が息を呑む。
 

「双方、別室に下がれ」

 
 皇帝は俺たちの様子を見て、静かに、有無を言わせぬ口調で、そう告げた。
 付き人だろうか、数人がこちらに来てアシェルとカシアンを引き離す。


 カシアンは舌打ちをして、乱暴に腕を振り払い、踵を返した。


「……実技考査、覚えてろよ」

 
 去り際、振り返って吐き捨てるようにそう言ったのが聞こえ、その背中は人混みに消えていった。
 視界からカシアンが居なくなり、ようやく俺は息を吐く。

 隣を見ると、アシェルも落ち着こうと深く呼吸を繰り返していた。
 

「行こうか」
 

 叔父貴に促され、続いて俺たちも入学祭の会場を後にしたのだった。

 
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