どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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能ある鷹は爪を隠す

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息が弾んで少し胸が苦しくなったが、不快だとは思わなかった。
風を切って全速力で走りきるのは何年ぶりになるのか。

そんな素朴な疑問を抱えたことは、つまり"普通の少年"であるということだ。



「店長、遅れてすみません!」

店の扉を開けて、真っ先に店長に頭を下げる。店長はおかしそうに時計を指差した。

「五分前だぜ」

確かに時計は17時55分を指していた。

「それにしてもどうしたんだ?そんな息上がらせて」

「……ちょっと攻防戦を」

「?、まぁいいけど…。」

とにかく息を整えて、すぐに着替える。
黒いパンツに白いシャツ、こげ茶のカフェエプロン着用の、ここ俺のバイト先。

駅から徒歩5分、平日、休日、構わず夕方から夜にかけて大繁盛する結構有名なレストラン、実は誓先輩のお兄さんのお店だ。

だから誓先輩もたいてい手伝っている。

「冰澄ー!!五番テーブル!!」

「はい!」

出来立てのオムライスとハヤシライスとお子様ランチを一気に手に取り、テーブルに運んでいく。

「冰澄ーー!!」

「はーい!!」

怒涛の時間だ。
なだれ込んでくる客の案内をして料理を出して、誓先輩も慌ただしく動いている。


そんな中でだ。


「冰澄お客さん案内してー!!」

店長に言われ、料理をお客さんの元へ運んでから急いで玄関まで駆けた。

「いらっしゃ……うっ」

こんな忙しい時に!

心の中での悲鳴が騒がしい店内の音にかき消された。
目の前に堂々と立っているのは政宗さんと北谷さんと片桐さんとその他もろもろ。

「冰澄ー!!」

店の多くからは助けを求める声が。
俺は勇気を振り絞って営業スマイルを浮かべた。

「三名様でよろしいですか?」

「……ああ」

案外すんなり答えた政宗さんに営業スマイルを向けたまま「ご案内します」と言って店の奥の一つだけ隔離されたところに入れておいた。

「冰澄ー!!!助けてー!!!」

誓先輩の声に気が遠くなりそうになったがなんとかその場に踏みとどまった。

「ご注文が決まったらどうぞ遠慮なくお呼びください」

メニューをパッと置いて誓先輩の方へ走った。

「はい、戻りました」

「ランチが5個も!5個も!」

泣きそうになりながらものすごいスピードで作り終えていく誓先輩には頭が下がる。
とにかく手伝うため、シャツの袖をまくった。

「冰澄!オムライス追加!」

「はい」

卵を割ってるうちも政宗さんをチラチラと注意して見る。
オムライスが完成に近づいた頃、もう一度政宗さんを見た。

おなじ従業員としてバイトしている、女性の前園楓さん(年齢不詳)の背中が見えた。政宗さんは隠れて見えなかったけど、北谷さんや片桐さんは嬉しそうに笑っている。

……知り合い?

楓さんはすごく優しくて女性にしては173と高身長だけど、スタイル抜群だ。
普段はすごく女性らしいけど、何か困った時があれば男らしくリードしてみんなをまとめてくれる。俺は純粋に人として楓さんが好きだ。

楓さんたちは数分話して、楓さんがテーブルを離れた。

不意に見えたのは政宗さんが嬉しそうに安堵するような笑みを浮かべるところだった。

「………見たことない」

不意に溢れた言葉は喧騒に消える。

「冰澄、大丈夫かぼーっとして」

誓先輩のお兄さんで店長の、梅之介さん、梅さんと呼んでいる。
梅さんは俺を見るなり言った。梅さんが厨房に戻ってきたということは客もそれなりに落ち着いたということだ。顔をあげればやはり目の前のカウンターに人はごった返していなかった。

「……ちょっと疲れてたみたいです」

薄く笑みを浮かべ、俺は料理を盆の上に乗せて梅さんに渡した。

騒がしい店内で耳鳴りがするような気がした。
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