どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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能ある鷹は爪を隠す

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カタカタと震えだした体を自分で抱きしめた。

「冰澄さん……?」

片桐さんが怪訝そうな顔を浮かべた。

ちらちらと叔父さんの顔が見えるから厄介だ。"心"は何も思わなくても、体は防衛本能を持っている。だからこそ最も怖いものに触れた時、震えるのだ。

「……冰澄、大丈夫か」

政宗さんの足音、政宗さんの大きな手が俺に伸びていた。


…あ。


重なって見えたのは叔父の顔とそれに伴う暴力の影だった。

「っ…!!」

顔を守るよう腕を顔の前で交差させた。
それは長年で身についた体の習慣だった。

「…殴らねぇよ」

大きな手が俺の手をゆっくりと下げた。

「俺は、お前のことを絶対に、殴らない」

確かめさせるように俺に言った政宗さんの手が俺の頭を撫でた。

「俺はお前を、殴らない、いいな?」

幼い子供に教えるように、丁寧に、優しく、緩やかに、ゆっくりと。

俺はやっとの事で頷いた。

「……片桐、変更だ。こいつを一人にはできない。それと、あのクソ医者をマンションの方に呼べ。カウンセリングくらいはできる。」

「おい、待てよ」

片桐さんが返事をするよりも早く、梅さんが口を開いた。

「なんだ」

「……どこの医者かしらねーが、精神科医ならこいつには主治医がいる。そいつ以外には診せたって無駄だ。そいつをここに呼ぶ。」

「ならさっさと呼べ」

政宗さんは俺を支え座らせながら吐き捨てるように言った。

「相変わらずほんとえらそうねあんたって。」

「黙れ」

「はいはい。とりあえず説明、さっさとしなさいよ」

政宗さんに対して堂々と物を言える楓さんに驚いた。


「どこから聞きたいんだ」

「……お前らと冰澄の関係性について。金絡みかどうか」

「俺と冰澄の関係は、恋人。察しのとおり金絡みの出会いだ」

「あの糞男の借金か?」

「冰澄の叔父が原因なのは間違いない」

政宗さんの言葉に梅さんは舌打ちをこぼした。

梅さんは叔父さんをひどく嫌っている。それは俺のことを思ってだと言っていたが、それでもそんなことを抜いても、梅さんは叔父さんのことを嫌いになった。
お世辞にも普通の人とは言えない叔父なのだ。

「あいつはどこいった、もう我慢ならん」

「残念だが、夜逃げした。こっちで探しちゃぁいるが……おかしなことに形跡一つも見つからない」

「夜逃げ?…ふざけんな、んなの…ふざけんな!!」

「波津の人格を知ってるなら話は早い、最初は冰澄もどっかに売って金にしようかとも思ったが…、冰澄には命を救われた身でな。

その誠意と…恐ろしいほどに美しく真っ直ぐな背筋に興味を持った。」

梅さんに言ったはずの言葉は俺の心に入り込んだ。政宗さんは小さく笑って俺の頭を撫で回した。

大きな手に今までそんなことをされたことがなかったからか、暖かいものが身体中を包んだ。

「冰澄は、納得したか、お前といることに」

「本人にしかしらねぇよ」

「……冰澄」

梅さんは俺を見て眉を下げた。
俺は小さく頷いただけだった。

「俺からも一つ聞いていいか」

政宗さんが、灰皿にタバコを押し付けてから梅さんを見た。政宗さんがだれかに何かを尋ねるなんて、イメージがなかったから、純粋に驚いた。

「……お前は味方か敵か?」

「冰澄に危害を加える奴が敵だっていうならノーだ。俺も冰澄の誠意とやらに救われた1人だからなぁ……冰澄に危害を加えるなんて考えられねぇ。」

「ならいい」

納得したような表情で政宗さんは、もう一本タバコを吸った。



「冰澄くんは?なにかもっと説明して欲しいこととかないの??」

楓さんが何気なくそんなことを言った。
本当はたくさんあるのだけれど今は楓さんと政宗さんの関係にしか頭がいかない。

俺は勇気を出して口を開いた。

「楓さんと政宗さんは知り合いですか?」

俺の質問に二人ともきょとんとしてからふっと笑った。

「「誰が知り合いだふざけんな腐れ縁に決まってんだろ」」

綺麗に二人揃って今度は俺がきょとんとする番だった。

「え、と」

「ああ、ごめんね。口悪くなっちゃった。
実はね、あたしと政宗は同級生なんだ。」

「同級生!?」

「うん、そうそう、結構腐れ縁でさ。学校じゃいつも火花ばちばち、出会えばドンパチって感じかな」

楓さんは声を出して笑った。
同級生、そんな発想はなかった。仲がいいわけだ。

「なんだと思った?あたしと政宗」

「……恋人さん?」

「ふっ……ふはっ、ははは、ざまぁ、あんた恋人として認識されてなかったみたいね。ざまぁみやがれ」

楓さんは政宗さんを見ながら爆笑した。それと比例するように政宗さんの眉間のシワが濃くなっていく。

「イケメンはいつか上げて落とされるのよ、クソくらったわね。」

「黙れ化け物」

「なんとでも言えばいいわよ。どうせあんたは認識されてなかった負け犬だもの。」

「あ゛?」

二人の間に火花が散って見えた。
いつもより黒い笑みで人を貶す楓さんにいつもの面影はなかった。

「ケバい化け物が」

「はっ、落ちぶれたイケメンが。顔だけね。ざまぁみろ。いっつもあたしをオカマオカマけなした罰が帰ってきたのよ!」

ビシッと指をさして高らかに笑う楓さんの言葉に椅子をから落ちそうになった。

「え!?」

「あら?もしかして気づいてなかった?あたし男よ。」

「俺の通ってた高校はこのへんじゃ有名な不良男子校だ。」

驚愕の事実と政宗さんの補足説明に眩暈を覚えた。
大学生だと思ってた人が二十代で、女の人だと思ってた人が男の人で、政宗さんの同級生さんで、俺のバイトの先輩で…。

「俺……なんで気づかなかったんでしょう」

「そう落ち込むな冰澄、俺も最初わかんなくて口説いてた!」

「先輩…」

「もっと言えば楓っち、子供いるし!」

「……ダメだ」

「冰澄ー!」

眩暈で椅子から落ちかけた俺を政宗さんが受け止めてくれた。

「冰澄くん、子供って言っても養子なのよ。あ、冰澄くんもうちの子になったらきっと楽しいわよ 。おいでおいで。」

「黙れ化け物。冰澄は俺のだ。勝手に触るな勝手に喋るな勝手に見るな。」

「独占欲もここまで行けば呪いね。冰澄くん苦労してるのね…。」

はぁと俺を見てため息をついた楓さんを見て俺のキャパは限界を超えた。

「まぁでもよかったはこの糞になんとかクソを食らわせてくれたわね」

「それは……俺が恋人って…そもそもお金から始まった関係ですし…」

「最初は、だ。」

政宗さんは少し、むくれた顔で俺の額にキスをした。


「今は、違うぞ。何億積んだってお前を手に入れたくなるほどに愛してる」


こういうのは俺のキャパを軽く粉砕してくるのだ。
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