どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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「冰澄、」

ゆっくりと瞼が開くと二、三回開閉した。揺れる視線が俺に定まると小さな声で冰澄は俺の名前を呼んだ。

「大丈夫か」
「すみません、いつもいつも…」
「そんなこと気にするな。」

普通に話してはいるが、疲れているのは一目瞭然だ。

「夢みたいなのを、見てたんです」
「…嫌な夢か」
「嫌なのかな、よくわからなかったんですけど、たぶんいい思い出だったんだと思います。」
「叔父の夢か?」

冰澄は俺の言葉に小さく目を瞬かせた。苦笑をこぼす彼の手が何かを探すように動いた。
俺はとっさにその手を握りしめた、小さく細く冷たい手だ。

「ねぇ政宗さん。辻間さんにお礼言わないと。」

「……なんで。お前が会長のこと知って」

「叔父さんが、辻間会長に頼んだって。叔父さんが全部計らってたんですよ政宗さんと俺が会うこと。…政宗さんもなんとなくわかってたんですよね?」

その通りだとすんなり喉から出れば何より楽だろう。けれど出すことができなかったのは俺の意地と我儘だ。

辻間治仁(ツジマハルヒト)は、俺の組が傘下に入る辻間会の現会長であり、波津真也の後見人である。波津真也は大企業の生まれだったが早くに両親を亡くした、それと同時に両親の親しい友人だった辻間治仁から支援を受けていた、妹-冰澄の母親とともに。

「辻間会長のとこの右腕に波津真也について調べてもらうよう頼んだ…。俺の組だけじゃ限度があったからな、その時右腕は、驚いた顔をしてたよ。」
「…おじさんは、辻間さんの」
「そうだ。辻間会長は波津家のことはなんとしても隠し通したかった。自分と、まぁヤクザと繋がりがあるなんてマイナスだからな。これが波津真也がこっちの世界に片足入れてたってことだ。」

借金でも、犯罪でもない。ただ後見人がヤクザだった。ただそれだけだった。

「俺が波津真也のこと探ってんの聞いた辻間会長に会った。ダリオとお前が会った3日前くらいだったか。そのときに全部聞いた。波津真也が就職してからは縁を切っていたらしい。だから、気付かなかったそうだ。」
「おじさんが、」
「ああ、波津真也とお前の母親が……、お前の父親と、接触してたことに。」

冰澄は俺の手を強く握ったまま俺を見つめた。


-「おいおい、そんなことになってんのか。おい、あいつが死んだって?…俺はなんか間違えたか?こんなんだったら縁なんて切らねぇほうがよかった、縁なんざ切るもんじゃねぇなぁ…。」
-「オヤジ、あの…。波津真也は、どうも妹の恋人の方に殺されたらしいんです。」

遣る瀬無い表情を隠すことのできない、老いた1人の男は厳格な瞳を向けた。

「辻間会長にな、言った。波津真也の妹の恋人、お前の父親が関わってる、そう言った。」
「辻間さんは俺の父親を知ってるんですね?」
「…有名だからな、もちろん波津真也と関わりがあるとは知らなかったみたいだ。」

会長に冰澄の父親であろうと推測していた男の名を告げれば、会長はとうとう片手で顔を覆ってしまった。
それほどに悔いたのだ。彼等と縁を切ったことを。間接的に己が、”そいつ“と波津を関わらせたということに。

「会長がな、“あの子達を自分の子供のように思っていた。だから一個会社をやった。容易いことだ。そこ繋がりだろう。全部、俺のせいだ。”、意味がわかるな?」
「なんと、なく…。」
「冰澄にはまだ難しいな、でも会長は、」

辻間会長は、裏社会では大きい存在だ。それと同じような存在が世界にはちらほら見える。そして彼等は均衡を保てるよう必ず接触している。

-「辻間会長、俺んとこにいま、波津真也の甥がいます。わかりますよね。あなたが俺とその子を会わせたんですよね」
-「……真也が、最近連絡してきた。雫ちゃんは死んだと、でも雫ちゃんの子供を引き取って暮らしていると。理由は聞かないで欲しい、関わらせたくない、理由は聞かないで、甥を、政宗、お前と会わせてくれ、と。」

会長の手引きと波津真也の頭脳とずる賢さの勝利だろう。俺と冰澄は出会った。借金を回収するだけの理由で、俺はひきこまれたのだ。

「おれ、政宗さんのこと、巻き込んじゃったかも、ですね…」

冰澄の弱々しい声に首を横に振った。
鼻にツンと香る病院の独特の匂いが、妙に刺激する。俺よりも細く小さく白い手を握ることしかできなかった。

「正直、波津と、冰澄の問題は厄介だ。普通なら関わりたくねぇ。」
「おれ、」
「…でも関わらねぇわけにはいかないんだよ。」

美しい目が、日本人離れした瞳が大きく俺を写した。

「片付けるぞ、冰澄。お前が、過去に泣かられんのは、胸くそ悪りぃからな。俺がお前をずっと手元に置いとくためにもな。」

不思議と口角は釣り上がる。冰澄はそんな俺を見て、目を細めた。うっすらと浮かぶ笑みが、どうやら俺を突き動かしているらしい。

「おれ、ずっと。いたいなぁ。って、おもったんですよ。だから政宗さんと、ずっといたいなぁって。」

外から聞けば冰澄の今の言葉は、文法も訳がわからないものだったのだろうが、俺にはその真意が十分と伝わっていた。包み込んだ手はいつもよりも冷たいが、じわじわと俺の熱が伝わっていき、広がった。
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