憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA

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一章

23. 唯一無二の愛で満たされた世界

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「気持ちを打ち明けあったところで、もうそろそろいいかな」

にやりと笑いながら、永瀬の手が香澄の腰をなぞった。
その表情には明らかな欲情が浮かんでいたので、香澄は気まずく視線を逸らしながら「あの、まだ聞きたいことが」と制止した。

「なに、まだあんの?」

永瀬が呆れたように言ったが、香澄にはどうしても確認しておきたいことがあった。

「昨日の出張のことなんですけど…その、どうして同行したのが天沢さんだったのかなって…」
「ああ、それ?ただの業務都合だよ。イレギュラーケースにも即時対応できて翌日不在でも他の案件に大きな影響がなさそうなメンバーが誰かなってスケジュール確認したら天沢だった、それだけ」

あっさりとしたその答えに香澄は「…なるほど」と息を吐いて頷いた。
明らかに安堵した様子の香澄を見て、永瀬がにやりと笑う。

「他に何か意味があると思った?」

彼ならきっと推測できているはずなのに、なんとも意地悪な言い方だ。香澄は口を尖らせた。

「だって…狙われてるから気をつけてって言ったのに、よりよってなんでって」
「嫉妬した?」
「べ、別に…」
「嫉妬でしょ?」

やけに嬉しそうな声。
どうしても嫉妬したと言わせたいらしい。

「い、意地悪」
「嫉妬だな」

香澄は断固認めないが、否定しないことに永瀬は満足げだ。

「実を言えば、少しはそう思ってくれるといいなっていう期待がなかったわけじゃない。ついでに言うと、敢えてあの夜連絡しなかった。そしたら俺のこと一晩中考えてくれるかなとか思って」
「な…!?」

最後の一言は、さすがの香澄も聞き流すことができなかった。
非難めいて永瀬を見上げたが、永瀬はそれすら楽しんでいる。

「どうして…!あの夜、どれだけ私が不安だったか…っ」
「うん、分かってる。でもさっき言ってたじゃん、それで気持ちを確信したって。よかったよ、俺の狙い通りになって。何も思われなかったら逆にどうしようかと」

つまり彼は何もかも承知の上で、香澄を試していたのだ。
まさかあの夜の不安さえ、彼の思惑通りだったとは。

「もう…ひどい、信じられない!」

嬉しそうに笑う永瀬が憎たらしくなって、香澄は頬を膨らませるとぷいっと顔を背けた。
すると永瀬は「拗ねた顔も可愛い、超興奮する」と勝手なことを言いながら、香澄の頬や瞼、最後は唇に啄むようなキスを落としはじめた。

「俺が天沢に靡くわけないじゃん、とっくの昔に香澄に参ってるんだからさ。そもそもああいう派手なタイプは好みじゃない。でも不安にさせたことは謝る、本当ごめん。少しでも俺のこと意識してもらいたくて必死だったんだよ。全力でお詫びするから許して」

言いながら、大きな手が確かな意思を持って胸を弄り始めた。
謝罪を隠れ蓑にしているが、明らかに良からぬ意図を感じ取って、香澄はたしなめるようにその手を握って止めた。

「ま、まだ終わってませんから!その日の夜は?天沢さんと何かありました?その、告白されたりとか…」
「まあ…されたかな」

予想通りの返事に、香澄の胸がざわつく。
ではあの時、望田が言っていたことはやはり本当だったのだ。

「…それで?」
「断ったよ、決まってる。他に好きな子がいるって。そしたらなんか逆切れされて、相手は香澄なのかって問い詰められた。そういうのばっかり変に鋭いの何なんだろうな。で、否定も肯定もしなかったら、D社の契約書失くすような女のどこがいいんだって急に言い出して」
「あ…」

その話を聞いて、香澄はようやく合点がいった。

あの契約は永瀬自ら取ってきた新規案件だった。
複雑な契約条件ゆえに、通常営業事務が行う見積書や契約書の作成も彼自身が手掛けたと聞いている。
しかも社内稟議や案件管理上ではK社名義、契約書上だけその統括会社のD社名義というイレギュラー案件でもあった。
つまり紛失した契約書の社名を知っているということは、すなわちあの契約書を手にして、中身を見たということなのだ。

「なるほど、それで彼女の仕業だったと気付かれたんですね」
「そういうこと。…他にも色々嫌がらせ受けてたって?」

窺うように覗き込まれたが、香澄は気まずく視線を逸らしただけだった。
しかしそれだけで永瀬は察したようだ。はあ、と深いため息をつくと香澄の髪を労わるように撫でた。

「そうか。気付いてやれなくてほんとに悪かった。軽めに脅しといたし、今後は大丈夫だと思う」
「お、脅す?」

髪を撫でるその手は優しいのに、彼の口から出たのはなんとも物騒な言葉だった。
香澄は眉を顰めたが、永瀬は当然だと言わんばかりの表情で続けた。

「他人の悪口言う前に鏡見てみろ的な?次に香澄に嫌がらせしたらただじゃおかない的な?ついでに男漁るような女に興味はないって言っといた」
「ええ…」
「初めてだよ、女相手にキレたの。俺もまだまだだな、アンガーマネジメントできてるつもりだったのに。けど香澄を馬鹿にされたら、どうしてもスルーできなかった」
「そ、それで天沢さんは…」
「俺に告白したことも忘れてビビって震えてたよ?顔真っ青にしてさ。無駄に高いプライドへし折ってやったから当然かな。あれからやけに避けられてる気がする」

さもおかしそうに笑う彼に、香澄は思わず顔を引きつらせたが、ようやく納得した。
なるほど、それで出張から戻ってきた彼女はあんな怯えた目をしていたのだ。

だが一方であの強気な天沢を一変させるほど彼が激怒するなんて、正直香澄には想像できない。
そもそも彼の怒る姿を、まだ見たことがない。
いつか彼の逆鱗に触れてしまう日が自分も来るのだろうかと思って不安になっていたら、その気持ちを読んだように永瀬が言った。

「ごめん、こんな話して不安にさせたな。けど香澄に俺がキレるとかあるわけないよ、俺の一番大事な人なんだから。それをあいつが侮辱してきたから反撃しただけ」

さらりとすごく恥ずかしいことを言われた気がして、なんと答えたらいいものか分からずに香澄は俯いている。
照れて目を瞬かせる彼女が愛しくて、永瀬はその頬に優しくキスをした。

「…天沢に限らずだけど、何か言われたり嫌がらせされたりしたら俺に言ってほしい。何も言われない方が辛い」
「はい…ありがとうございます」
「うん。他に聞きたいことは?」
「大丈夫、です」
「了解。じゃあ今度こそ、いいね」

待っていましたと言わんばかりに香澄のTシャツの中にするりと入り込んできた手。
どうやら彼の中で、劣情の炎は未だ全く途切れていなかったらしい。
それどころかお預けを食らったこと、何より香澄の想いを知ったことで一層燃え上がってしまったようだ。

「あ、あの、永瀬さん…っ!」
「いい加減、呼び捨てとタメ口ね。できなかったらその度にキスマークつけてやるから気を付けて」
「え!?あの、そんなの困りますっ」
「はい一回」
「わあ!ちょっと待って、い、いまはまだ練習、ノーカン!」
「仕方ないな。じゃ次から本番ね。大丈夫、香澄は優秀だからすぐ慣れる」
「いや、あのでもそんな急には…っ、ああんっ」

ブラも着けていない無防備な姿では、何の抵抗もできやしなかった。
あっという間にキャミソールごとTシャツを捲り上げられると、露わになった乳房に永瀬がしゃぶりつく。
胸の先を舌で転がされれば、取り戻したはずの理性がたちまち蒸発していった。

「あっ、んっ、いやぁ…っ」
「イヤなわけなくない?もうこんなに硬くしてさ」

的確で執拗な愛撫にたちまち身体が反応して、勝手に蜜が溢れ出す。
いつの間にか尖った彼の欲望を下半身に擦るようにして押し付けられたら、抑えていた劣情が顔を出した。
堪えられない本能を前に、香澄はやがて降参せざるをえない。それほどまでに心も体も、彼を求めているのだ。
やがてついに香澄は観念し、彼の首に腕を巻き付けた。

どちらからともなく唇が重なって、言葉にならない愛情をキスが伝えていく。
幾度口付けを交わそうと、この瞬間のキスが一番特別で愛しく思えるのは何故だろう。
果てしない想いを形にして、言葉にして、態度で示して。
比類なき愛情で、二人だけの世界を埋め尽くして。
そんな願いを抱えて、二人は何度もキスを交わすのかもしれない。
暗かった過去きのうさえ、明るい未来あしたで塗りつぶしていく――そんな予感を確信に変えてしまうほどに優しく甘い、幸せな口づけを。

「香澄」

甘い余韻の中で永瀬が名を呼び、促すように覗き込んだ。とても優しく、愛情だけをたたえた瞳で。

「俺の名前、呼んでみて?」

彼がそんな艶やかな声でねだるものだから。
どうしようもなく愛しさが募って、胸が苦しくなった。

「…紘司ひろし…」

勇気を出して口にしたら、永瀬がこれ以上なく嬉しそうに笑った。
ただそれだけで、香澄の心は満たされていく。

どうかこれから先もずっとそうでありますように。
あなたの隣で、誰より多く、その名前を呼べる人になれますように。
愛の言葉を、いつまでも伝えていけますように。

香澄は彼の柔らかい頬に手を添えてそっと撫でた。
彼の瞳に映る自分は、とても幸せそうに微笑んでいる。

――こんな幸福に満ちた景色を、世界を見せてくれてありがとう。

これまでの感謝と、これからの期待。
その両方を込めて、香澄はもう一度深いキスを贈った。
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