憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA

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一章

挿話 あなたの虜1

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「あ、おかえり」

香澄は味噌汁をかきまぜるお玉を置いて、仕事帰りの恋人を出迎えた。
ネクタイを緩めながら「ただいま」と微笑む永瀬は、仕事帰りであっても目が眩むようなイケメンだ。
付き合ってもう半年以上経つというのに、未だにその笑顔を向けられると胸がドキドキしてしまう。

「いい匂い。ありがとう、ごはん作ってくれた?」
「うん。肉じゃが、嫌いじゃないよね?」
「大好物、超楽しみ」
「ならよかった」

付き合って間もない頃と違って、砕けた話し方も呼び捨てもすっかり慣れてきた。
基本的に会うのは週末が中心だが、互いの仕事が落ち着いていれば平日でも香澄は永瀬の家に通っている。
多忙な彼と少しでも一緒にいたいのは勿論のこと、永瀬の部屋の方が会社から近い上に駅近で部屋も広いので、つまるところ快適なのだ。
最近は香澄の私物も増えて、突然彼の家に泊まってもなんら困ることがない。
だからその気になれば暮らすことだってできるのだが――香澄は敢えてそれを避けていた。

「そうだ、これ忘れないうちに返しておくね」

チャリン、と音を立ててテーブルの上に置かれたこの部屋のスペアキー。
昼間、書類提出を装って香澄に渡されたものだ。
永瀬はそれをキーケースにしまいながら、ちらりと彼女へ視線を向けた。

「ずっと持ってていいのに」

その言葉に、香澄が気まずそうに視線を逸らした。

「でも…毎日来れるわけじゃないから、失くしそうで」
「ならここに住んじゃえば?」
「……。」
「まだ不安?」

見抜かれて、香澄は少しの間を置いて小さく頷いた。
実は、こんなやりとりは初めてではない。

合鍵をもらうということは、いつでもこの部屋に来ていいということだし、その先には当然、彼の言う通り同棲という未来があるのだろう。
でも付き合ってたった半年で生活を共にする覚悟がまだ香澄は持てずにいた。
というのも、香澄は進学を機に一人上京してきたため、実家が地方にある。
つまり何かあったときに身を寄せる場所がない。

勢いで同棲を始めて、後悔しないだろうか。価値観が合わず、別れることになったら?
新しい家を探すにも時間がかかるし、職場も同じなのだ。あまりに気まず過ぎる。

もともと石橋を何度も叩かないと渡れない性格ということもあって、間違いなく大丈夫という確信を得るまで――それこそ結婚とか――、香澄は彼の提案を濁し続けている状況だった。

「紘司のこと、疑ってるわけじゃないの。でも…どうしてもまだ踏ん切りがつかなくて。もう少し、待ってほしい」

俯いて呟くと、近づいてきた永瀬が香澄の顎に手を伸ばし、顔を上向かせた。
見上げた先にある瞳は、いつだって優しい。

「分かってる。ごめん、急かしてるつもりはない。もちろん、待つよ。今だって夢みたいに幸せだし」

その一言に安堵して、香澄は永瀬の背中に腕を回した。
背伸びして顔を近づけたら、二つの唇が重なる。

「…夢じゃないでしょ?」
「うん、よかった。夢オチだったら泣いてた」

悪戯っぽく尋ねたら冗談が返ってきて、香澄は思わず声を上げて笑った。
そんな彼女に永瀬は微笑み、もう一度キスを求める。
素直に受け入れる香澄、それはやがて深くなって、甘い沈黙が続いたのだが――永瀬の手が香澄の服の中にすべりこんできたので、香澄は慌ててその手を掴んで止めた。

「待って、ご飯…」

困り顔で香澄は見上げたが、永瀬はもう止められないと言わんばかりに、頬から耳、首筋へと、キスを落としていく。

「だってそんな姿で誘われたら我慢できないよ」
「誘ってませんけど…」
「エプロン姿で抱きついてきたうえキスしてきたのは香澄だろ?それを誘ってるっていうんだよ、一般常識」
「ええ?あっ、ちょっと…っ」

ぐっと抱き上げられ、ダイニングテーブルの上に乗せられたかと思ったら、脚の間に永瀬が割り込んできた。
スカートがはだけて脚が露わになる。脚を開いたような姿勢が恥ずかしくてたまらないのに、永瀬がいるせいで身動きが取れない。
香澄は困惑して見上げたものの、反論する間もなくキスで視界を塞がれた。
その隙にエプロンを剥ぎ取り、トップスを脱がせた彼は、またその次の瞬間にはもうブラのホックを外しにかかっている。なんと行動の早いことだろうか、いっそ感心すらしてしまう。
だがここまで来ると彼を宥めるのは至難のわざである。そして本音を言うなら…嫌じゃ、ない。

「あ…っ、ん…っ」

香澄の胸を暴くなり、永瀬はその先端を口に含んだ。
舌の先で転がされたら、たちまち理性が霧散していく。
大きな手が下に降りてきて、太ももをなぞる。
香澄の中心に近づきそうで近づかない焦れったい愛撫に、愛されることに慣れた身体が勝手に疼きだした。
それは理性より正直で衝動的だ。もっと先を欲しがって、瞬く間に熱が上がった。

「お、やる気だね?」

急かすようにワイシャツのボタンに手をかけた香澄を、永瀬がにやりと見下ろした。
その余裕顔が悔しい。
優しいのに、意地悪。だけど、愛に満ちている。
そんな彼に敵う術を、残念ながら香澄は持ち合わせていない。
だからせめてもの反撃で、香澄は彼の首の後ろに腕を回すとぐっと顔を近づけた。

「…知ってる?煮物って一度冷ましたほうが味が染み込んで美味しくなるんだよ」

言ったら、永瀬がははっと笑った。

「そういうことならいくらでも協力するから任せて」

そうして交わしたキスはさっきよりも濃厚で長くなる。
やがて湿ったショーツの中に潜り込んできた指は迷いなく蜜壺の中に侵入してきて、優しく、けれども淫らな音をたてて掻きまわし始めた。

「あ、んん…っ」
「もうとろっとろじゃん」

意地悪な言葉と共に、ぐっと押しこまれる指先。
快感を加速させるような衝撃に、香澄は思わず喉を反らした。

「…あんっ!そこ、いやぁ…っ」
「またまた。気持ち良さそうな顔してよく言う」
「ああ…っ!」

胸を揉まれながらその先端を愛撫され、下は何本も指を咥えさせられて。気付けば自分から腰を振り始めている。
まるで身体中の血がざわめきだす感覚。掴まれているのは心臓だろうか、子宮だろうか。

「は、んん…っ!やぁ…っ、それダメぇ…っ」
「はいはい、もっとしてってことね」

永瀬は香澄の弱いポイントを完全に把握していて、今夜もあっさりと快楽へ追い込んでいく。
部屋が明るいことも、ここがダイニングだということも、今はどうでもいい。
この一瞬を、大好きな人の温もりを、ただ感じていたい。

そのうち堪らなくなって、香澄は自分からキスを仕掛けた。
こんな風に求めたりして、はしたないと思われるだろうか。引かれたりしないだろうか。
そんな心配もなくはないが、きっと大丈夫という確信の方が強い。
それは永瀬に愛されているという自信、この半年間で彼が与え、育ててくれたもの。

もっと、もっと愛して欲しい。深く、苦しくなるくらいに。
そうして思い知らせて。あなたは私のもので、私もあなたのものだと。

しばらくは永瀬もそれに応えてくれていたが、一体どうしたのだろう、彼は突然何かを思い出したようにふと顔を離すと、香澄の瞼や額にキスを落とした。
それはいつも永瀬が行為の終わりにすることだったので、香澄は急に心細くなった。
予感は的中し、馴染みかけていた熱が離れていく。それはまるで身体の一部を奪われるかのように耐え難く辛くて――香澄は咄嗟に手を伸ばし、永瀬の腕を掴んだ。

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