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一章
挿話 あなたの虜2 ※永瀬視点
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戯れる程度で終わらせるつもりだったのに、思った以上に長引いてしまった。
触れた瞬間、堰を切ったように想いが溢れ出して歯止めが効かなくなったせいだ。
しかしそれは香澄も同じだったらしい。初めは戸惑っていたのが、そのうち積極的に求めてきた。
乱れる息、火照る肌、恍惚に溶ける瞳。
そんな顔を見せられたらもっと喘がせたくなるのは当然のことで、本能のまま突き進みたい衝動に駆られたが、生憎ゴムは手元にないし、腹も空いている。
やるべきことをやって、全て終わった後でゆっくり堪能するほうがベターだろう。
だから断腸の思いで離れようとしたのに、それを引き留めたのは、他でもない香澄だった。
怪訝に見やると、香澄が潤んだ瞳で見上げながら声を震わせた。
「やだ…離れたくない」
その懇願は、色んな意味で永瀬に深く突き刺さった。
体中の血流がどくどくと一箇所に集中していくのを感じて、彼は苦しさに眉を顰めた。
ただでさえもう痛いほど滾っているというのに、こんな風に誘惑されたら今にも爆発してしまいそうだ。
(クソ可愛いすぎる)
永瀬が無言になったのは内心悶えていたからだが、香澄はその沈黙を躊躇いと解釈したらしい。
なんとかその心を繋ぎとめようと、彼の唇にキスを押しつけた。
「やめないで、もっとして…」
そう言って、啄むようなキスを何度も仕掛けてくる。
機嫌を窺うように不安げだが、それは全くもって無用な心配だった。
だって、心底惚れている女からのキスが嬉しくない男などこの世界にいない。
故に、永瀬もそのキスを拒むことができない。
「んっ…んん…っ」
重なる唇から漏れる吐息。
その艶かしい喘ぎ声は、お互いの理性をどんどん奪っていく。
気付けば、香澄の白い脚が永瀬の腰を囲むように絡みついていた。まるで、絶対に離さないとでも言うように。
(えっろ、どこでこんな技覚えてくんだよ)
息継ぎの合間に永瀬が唇を離すと、最初の抵抗が嘘のように熱を帯びる瞳と目が合った。
その目が訴える切実な想いに気付いて、永瀬は口の端を上げて尋ねる。分かり切った答えを、どうしても聞きたくて。
「でも、このままだとせっかくのご飯が冷めちゃうんじゃない?」
「…いま食べたいの?」
「そりゃ、せっかく作ってくれたんだし、腹も空いてるし」
「…先に私を食べるんじゃ、だめ?」
(だから、いちいち言うことが可愛いんだって)
甘えるように上目遣いで言われて、彼は思わず苦笑した。
対する香澄の瞳は真剣そのもの、打算なしでこんな台詞を吐くとは末恐ろしくてしょうがない。
「どうしようかな」
答えなんか考えるまでもなく決まっているくせに、わざと意地悪を滲ませて言ってみたら、香澄が顔を歪ませた。悲しそうに、今にも泣きそうに。
その表情に罪悪感を感じないわけではないが、それよりも今は縋らせたかった。
もっと求めてほしい。息すらできなくなるほどに溺れてほしい。
そうして香澄にとっての生きる理由になりたいと、心底願う。
だけど一方で、今はまだそのことに気付かないでほしいとも思っていた。
やがて気付いた時には何もかも手遅れで、一ミリも逃げることが許されないのだと思い知ればいい――自分と同じように。
「私じゃお腹いっぱいにならないのは分かってるけど… 満足させられるように頑張る、から」
香澄はシャツの裾を引っ張りながら上目遣いで訴えた。
それが却って煽っているだけとも知らずに。
「紘司が欲しいの…お願い」
淫らな格好で瞳を潤ませて放たれたその一言の破壊力たるや。
その瞬間、永瀬の意地はあっさり撃破され、理性は粉々に砕け散った。
まあそのどちらも香澄相手に守り切れたことなどほとんどないのだが、それにしたって弱すぎやしないかと自分に失笑する。
「…しょうがないな」
言いながら、彼は香澄の髪を撫でて微笑んだ。
――そう、しょうがない。
どうしたって彼女を愛しく思うこの気持ちに抗うことなどできない。ならばらいっそ潔く降参して全て受け入れよう。
好きになってしまったから。手に入れてしまったからには、もう手放せない。
例え何を失ったとしても、最後に香澄が残るならそれでいい。
「そこまで言われたら、断るわけにはいかないよな」
もったいぶるような答えでも、香澄にとっては喜ばしい返事だったらしい。
不安げだった表情が途端に安堵で綻んだ。
その笑顔はまるで太陽のように眩しくて――この笑顔ひとつで簡単に男を虜にできるということに、果たして彼女自身は気付いているのだろうか。
(相変わらずギャップがエグい、誰にも見せたくないこんな可愛い顔)
今も職場では淡々としていて、付き合う前と同じくらいの他人行儀を貫いているというのに。
それが二人きりになった途端、こうやって愛が欲しいとせがんでくる。
素直な欲情を自分だけに見せてくれることが、堪らなく嬉しい。
永瀬は観念したように、香澄の耳に、頬に、唇にキスを落としていく。
そのくすぐったさに香澄は笑ったが、残念ながら彼が優しくできるのはここまでだ。この先、そんな余裕は瞬きする間に消えてしまうだろう。
「ベッド行こうか」
「…うん」
願いが聞き届けられて彼女は満足気だ。
だがこのままでは当然終われないし、何より、愛する彼女の期待には全力で応えなければ。
永瀬は香澄をそっと抱き上げるともう一度キスをして、そのまま寝室へと消えて行った。
触れた瞬間、堰を切ったように想いが溢れ出して歯止めが効かなくなったせいだ。
しかしそれは香澄も同じだったらしい。初めは戸惑っていたのが、そのうち積極的に求めてきた。
乱れる息、火照る肌、恍惚に溶ける瞳。
そんな顔を見せられたらもっと喘がせたくなるのは当然のことで、本能のまま突き進みたい衝動に駆られたが、生憎ゴムは手元にないし、腹も空いている。
やるべきことをやって、全て終わった後でゆっくり堪能するほうがベターだろう。
だから断腸の思いで離れようとしたのに、それを引き留めたのは、他でもない香澄だった。
怪訝に見やると、香澄が潤んだ瞳で見上げながら声を震わせた。
「やだ…離れたくない」
その懇願は、色んな意味で永瀬に深く突き刺さった。
体中の血流がどくどくと一箇所に集中していくのを感じて、彼は苦しさに眉を顰めた。
ただでさえもう痛いほど滾っているというのに、こんな風に誘惑されたら今にも爆発してしまいそうだ。
(クソ可愛いすぎる)
永瀬が無言になったのは内心悶えていたからだが、香澄はその沈黙を躊躇いと解釈したらしい。
なんとかその心を繋ぎとめようと、彼の唇にキスを押しつけた。
「やめないで、もっとして…」
そう言って、啄むようなキスを何度も仕掛けてくる。
機嫌を窺うように不安げだが、それは全くもって無用な心配だった。
だって、心底惚れている女からのキスが嬉しくない男などこの世界にいない。
故に、永瀬もそのキスを拒むことができない。
「んっ…んん…っ」
重なる唇から漏れる吐息。
その艶かしい喘ぎ声は、お互いの理性をどんどん奪っていく。
気付けば、香澄の白い脚が永瀬の腰を囲むように絡みついていた。まるで、絶対に離さないとでも言うように。
(えっろ、どこでこんな技覚えてくんだよ)
息継ぎの合間に永瀬が唇を離すと、最初の抵抗が嘘のように熱を帯びる瞳と目が合った。
その目が訴える切実な想いに気付いて、永瀬は口の端を上げて尋ねる。分かり切った答えを、どうしても聞きたくて。
「でも、このままだとせっかくのご飯が冷めちゃうんじゃない?」
「…いま食べたいの?」
「そりゃ、せっかく作ってくれたんだし、腹も空いてるし」
「…先に私を食べるんじゃ、だめ?」
(だから、いちいち言うことが可愛いんだって)
甘えるように上目遣いで言われて、彼は思わず苦笑した。
対する香澄の瞳は真剣そのもの、打算なしでこんな台詞を吐くとは末恐ろしくてしょうがない。
「どうしようかな」
答えなんか考えるまでもなく決まっているくせに、わざと意地悪を滲ませて言ってみたら、香澄が顔を歪ませた。悲しそうに、今にも泣きそうに。
その表情に罪悪感を感じないわけではないが、それよりも今は縋らせたかった。
もっと求めてほしい。息すらできなくなるほどに溺れてほしい。
そうして香澄にとっての生きる理由になりたいと、心底願う。
だけど一方で、今はまだそのことに気付かないでほしいとも思っていた。
やがて気付いた時には何もかも手遅れで、一ミリも逃げることが許されないのだと思い知ればいい――自分と同じように。
「私じゃお腹いっぱいにならないのは分かってるけど… 満足させられるように頑張る、から」
香澄はシャツの裾を引っ張りながら上目遣いで訴えた。
それが却って煽っているだけとも知らずに。
「紘司が欲しいの…お願い」
淫らな格好で瞳を潤ませて放たれたその一言の破壊力たるや。
その瞬間、永瀬の意地はあっさり撃破され、理性は粉々に砕け散った。
まあそのどちらも香澄相手に守り切れたことなどほとんどないのだが、それにしたって弱すぎやしないかと自分に失笑する。
「…しょうがないな」
言いながら、彼は香澄の髪を撫でて微笑んだ。
――そう、しょうがない。
どうしたって彼女を愛しく思うこの気持ちに抗うことなどできない。ならばらいっそ潔く降参して全て受け入れよう。
好きになってしまったから。手に入れてしまったからには、もう手放せない。
例え何を失ったとしても、最後に香澄が残るならそれでいい。
「そこまで言われたら、断るわけにはいかないよな」
もったいぶるような答えでも、香澄にとっては喜ばしい返事だったらしい。
不安げだった表情が途端に安堵で綻んだ。
その笑顔はまるで太陽のように眩しくて――この笑顔ひとつで簡単に男を虜にできるということに、果たして彼女自身は気付いているのだろうか。
(相変わらずギャップがエグい、誰にも見せたくないこんな可愛い顔)
今も職場では淡々としていて、付き合う前と同じくらいの他人行儀を貫いているというのに。
それが二人きりになった途端、こうやって愛が欲しいとせがんでくる。
素直な欲情を自分だけに見せてくれることが、堪らなく嬉しい。
永瀬は観念したように、香澄の耳に、頬に、唇にキスを落としていく。
そのくすぐったさに香澄は笑ったが、残念ながら彼が優しくできるのはここまでだ。この先、そんな余裕は瞬きする間に消えてしまうだろう。
「ベッド行こうか」
「…うん」
願いが聞き届けられて彼女は満足気だ。
だがこのままでは当然終われないし、何より、愛する彼女の期待には全力で応えなければ。
永瀬は香澄をそっと抱き上げるともう一度キスをして、そのまま寝室へと消えて行った。
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