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躊躇い
しおりを挟む「シド・ファッキンダム…よくも、わが娘…ナンシーを誑 (たぶら)かした上、堕天させてくれよったな…。覚悟するがよい」
一欠片の慈悲もない冷酷無慈悲な眼で見下ろして輝く槍を掲げた菩薩を、シドは呻きながら見上げて絞り出すように言葉を紡いだ。
「…ま…待ってくれ…。話したいことが…ある」
「…なんだ…今更、命乞いか」
数秒の静寂が流れる中、ミカエル、ハイタム、ロータムの3人は “ここにきて命乞いとは、やはり悪魔は自分のことが最優先か” と呆れる素振りをしてシドを見据える。
そんな中でナンシーはまさかと声を上げようとしたその時、シドは再度言葉を紡いだ。
「…果ての森で起きた…子供の天使の殺害を…認める」
シドのその言葉に菩薩は眼を見開く…。自分の死に際…魂の滅却の間際に、放たれたその言葉の意味を菩薩は直ぐに理解した。
どのみち滅却されるのならば、己にかけられた容疑を認めて、ついでに戦争を終わらそうと…。
この男は嘘をついている…。
その言葉を聞いたナンシーは、静寂を切り裂くようにシドはやってない!シドはそんなことやってない!!と何度も何度も声を張り上げた。
「…貴様は」
「俺が天使の子供を拐って殺したんだ」
「言質は取ったぞ、菩薩」
「……」
「早く殺れ…デカ女」
こんな悪魔が存在するのか…。堕天使ならともかく、悪魔が…。あの利己的で卑劣で私利私欲の権化と言っても過言ではない悪魔が…。
こうも己以外のことに命まで捨てられるのか…。
ナンシーのことを捨てて必死に命乞いをするのだと思っていた…。
みっともなく命乞いするところを見せつけて、所詮は悪魔などこんなものだとナンシーに諦めさせたかった…のに。
此奴のこの眼は本物の覚悟を決めた眼…。
この男を殺すために此処に来た。娘同然に大切にしてきたナンシーを堕天させたのだ…。
絶対に許すことはできぬ…。
生まれてきたことを後悔させるほどの苦しみを与えて殺すつもりでいた…。
殺すのはナンシーの為…。
殺すのはわらわの怒りを収める為…。
そして、戦争犯罪人の容疑がかけられているこの悪魔を殺し、結果的に戦争を終わらせることが出来る…筈だった。
此奴の吐いたその言葉が無ければ、何の迷いもなく滅却していたであろうに…。
迷いだと…何を迷うておるのだ…。
結局は此奴を人柱にしてしまうのが…正解なのか…。
絶対的正義の元に…。
何が…、何を以て絶対的正義なのか…。
シドの思いとは裏腹に、菩薩は ” なぜこのタイミングで斯様な言葉を吐くのだ。“ という口惜しい念を募らせた…。
菩薩の最期の一撃を止まらせるには充分過ぎるワードだった…。
しばらく目を閉じていた菩薩は、ゆっくりと目を開いて握り締めている槍に力を込め、千切られた腕を抑えて踞るシドを見据える。
「…貴様の覚悟は……相わかった…」
「それは…ハハ…どうも」
「…貴様のような悪魔が居たことは記憶に止めておく故」
「待って!!観ちゃん!その人を…シドを殺さないで!!」
「ナンシー…元気でな」
子供のような顔で微笑んだシドを見て、ナンシーは声にならない声で咆哮し、涙を溢す。
ナンシーの声を…叫び続ける言葉の内容を噛み締めるように聞き続ける菩薩は、自らの躊躇いを払拭するように右手に力を込めて高々と槍を掲げる。
「覚悟せい!!シド・ファッキンダム!!」
菩薩の怒号と共に、掛け出したナンシーの右腕はブチブチと音を立てて千切れた。
一瞬の不意をつかれたハイタムとロータムは慌ててナンシーを抱えて止める。
ロータムと繋がれていた天枷には、主を失った前腕が血塗れでぶら下がっていた。
ハイタム、ロータムに取り押さえられても尚、自ら右手を千切り飛ばした痛みなど物ともせずにナンシーは暴れて咆哮し続ける…。
「観ちゃんはっ!!自分の信念をねじ曲げてでもシドを殺すの?!シドは戦争を終わらす為に嘘を言ってる!!観ちゃんだって分かってる筈なのに!!」
荒れ狂うナンシーの言葉が胸に突き刺さる。ナンシーの為に信念をねじ曲げた事は事実。
その結果ナンシーは堕天してしまった。
戦争犯罪人の処罰は名目上で、ナンシーを堕天させたシド・ファッキンダムを殺し、魂の滅却が目的だった。
圧倒的な顕現力で八つ裂きにし、圧倒的な赤手空拳で瀕死まで追い込んだ…。
そして止めの一撃のところで、嘘の自白…。
信念をねじ曲げてでも、シド・ファッキンダムを人柱にすることを選択したのは、ナンシーの為だった。ナンシーが堕天してしまった今、この悪魔を人柱にする必要はあるのか?
殺してしまいたい。魂までも滅却したいのは…わらわの怒りのみ…。
此奴は…此奴は!純粋にナンシーを護っただけだというのに…。わらわは…わらわは…。
「おおおおおおおおお!!!」
喉が枯れるほど咆哮した菩薩は握りしめた槍を思い切り地面に突き刺した。
その一撃は岩盤深くまで突き抜け、震動と共に地中からマグマが吹き出すほどだった。
吹き出したマグマに掌を添えた菩薩は瞬時にそれを凍結させて留め、小高い丘を創り出した。
「…気が逸れた。…終いだ」
「…どういう…事だよ…デカ女」
「…言葉通りだ。チンピラ…全く以て煩わしい」
「おい菩薩。気は確かか?こんな悪魔一匹如きの命など塵に等しいではないか」
「…すまんな、ミカエル…。頼むから主は動かんでくれ」
またお人好しな病気が始まったかと呆れたようにため息をついたミカエルは、少し不貞腐れたように分かったよと頷いた。
身の丈を常人ほどに縮めた菩薩は取り押さえられているナンシーの方へゆっくりと歩み寄り、ハイタムとロータムに解放を命じた。
ナンシーの千切れた右腕を菩薩は優しく手に取る。
「わらわの刻印が刻まれてもよいか?」
「…うん」
菩薩が傷口に手を添えると、瞬時に腕が再生し、同時にナンシーの背中には後光と蓮華座の刻印が刻まれた。
菩薩が包み込むようにを抱きしめると、ナンシーはボロボロと涙を溢して嗚咽する。
子供のように泣きじゃくるナンシーを抱きしめる菩薩も涙を滴らせた…。
200年余り一緒に過ごした…。これまで過ごした200余年の歳月の出来事が頭のなかを駆け巡る…。
「もっと、もっときちんと主と話をするべきだった…。わらわが不甲斐ないばかりに、主を…主を堕天させてしもうた…。すまぬナンシー」
「…全部、私の為にしてくれたことだよ…。観ちゃんは…何時も、何時でも、何よりも誰よりも私を優先してくれた…。親不孝でごめんなさい…」
…親不孝…。自分のことを母だと思ってくれている事がなにより嬉しかった。ナンシーの両親を死なせてしまい、ずっと自責の念があった。
身寄りの無くなったナンシーを引き取って、自分なりには一生懸命やってきたつもりでいた…が、堕天してしまう…、堕天させてしまったことが悔しくて申し訳なくて…身を斬られるよりも辛かった…。
どこで間違えたのか、何を間違えたのか…。ナンシーを優先させる余り、とった行動が総て裏目に出てしまった…。
「…でも…どうしても、シドを、シドを助けたかった」
「…命をかけるほどに。彼奴を…想うておるのか」
その問いかけに対して頷いたナンシーを静かに抱きしめながら、いつの間にかこんなにも大人になったのだと、成長を感じる反面、寂しい気持ちが溢れた…。
もはや天界に連れ帰ることを無理強いしたところで、誰も幸せにはならないと悟った菩薩は今一度、ナンシーに意思確認をした…。
数秒の沈黙の後…。
ナンシーは ”ごめんなさい“ とだけ言葉を発した。
菩薩はもう何も云うまいとゆっくりと瞳を閉じて頷き、ナンシーの両肩に手を添えて涙を溢す。
「然らば…今生の別れとなろう…。」
「嫌だよ…。嫌…。今生の別れなんてしない」
「…我が儘を…我が儘を言うでない。悪魔と神は相容れぬ存在…。そう易々と会うことは出来ぬのは、主も分かっておろう」
涙に濡れる菩薩の顔をジッと見つめて、ナンシーはゆっくりと抱きついて胸に顔を埋めた。
ナンシーを包み込む温かな菩薩はいつもと変わらない、安心と安らぎを与えてくれる。
「…聞いて。観ちゃん」
「…何だ。ナンシー」
「…私とシドは…悪魔を辞めるの」
「…悪魔を…辞める…?」
不可解な言葉だ。シドと居ることを選択したナンシーが悪魔を辞める?ならば天界に戻るということなのか。それならば願ってもないことだが、つい先刻ここに残ると言ったばかりだ。
シドと悪魔を辞める?そうナンシーは言った。シドと?不可解な表情を浮かべる菩薩に、ナンシーは口を開く。
「シドと話し合って決めてたの…私とシドは…死神になる」
「…まことか…それは」
「…ああ、本当だ。ナンシーが堕天して…すぐに決めた事だ」
千切られた腕を治癒しながらヨロヨロと立ち上がったシドがそう言うと、全員が一様に驚き、戸惑いを見せた。
「貴様は上位悪魔の地位も名誉も全て捨てて…堕悪(ダラク)して…死神に成り下がるというのか」
「死神なら…地獄の地位にとらわれず、自由に行き来ができるだろう」
「…確かに…死神ならば悪魔の地位も何も関係なく、死神隠し(人間界で言うところの神隠し)の業務上で天界に来ることもあるが…死神…とな」
天使の階級は九つあり、熾天使、智天使、座天使、主天使、力天使、能天使、権天使、大天使、天使。
悪魔は3階級で、その中で細かに、魔王、魔神、皇帝、大王、君主、公爵、侯爵、総裁、騎士等の呼び名がある。
本来は天使も悪魔も上下はないのだが、死神は壊力も顕現力も低い者が多いため、下級悪魔や下級天使などから軽視されている。そのため雑務とされる死神隠しなどを熟なしている。
主天使(ナンシーは、堕天前は力天使で天罰部隊統括)を筆頭とする天罰部隊と業務内容は似ている部分はあるが、天罰はその名の通りで、天変地異のような自然災害などを巻き起こすのに対して、死神隠し…所謂、神隠しは的を絞った対人になる。
天界、地獄界を含めて、“ そんな面倒な業務は死神がやればいい ” という風潮があるために、死神は人間と精霊以外からは軽視される存在となっている。
地獄天使クラスの壊力を持ち合わす死神など前代未聞…。
天界よりもある意味で自由度が高く、また階級や壊力が直接的に威厳や威光に影響するため、自らの意志で堕悪する悪魔など居る筈もないというのが常識的な見解である。
故に菩薩が、死神とな…と戸惑うのは至極全うな反応である。
「…死神の地位が低くて、地獄では使い走りみたいなのが多く、天界でも下に見られているのは解ってる…。でも観ちゃんに会えれば私はそれでいいの」
「おい…。シド・ファッキンダム。貴様は本物の愚か者なのか?ナンシーを堕天させただけで飽き足らず、どこまで彼女を不幸にする気なのだ…。返答によっては私が貴様を滅却することになるが…」
「やめてミカエル。不幸かどうかは私が決めること。私はシドと居たいし、観ちゃんにも会いたい。もちろんミカエルにだって会いたい。だから死神になることに賛同したんだよ」
「しかし、そうは言ってもだな…。悪魔や天使達の死神への当たりはきついのだぞ」
「…ではミカエルに問うがの。死神への当たりが強いのは、高々666万~1億壊力の下位悪魔辺りだが…。上位悪魔クラス相当に中る5億超えの壊力を持つシド・ファッキンダムとナンシーにどこの下位悪魔が喧嘩を売るのだ?」
「…確かにそうだが…死神…か」
「わらわも確かにそれは思うがの…。本音を言えば地獄で暮らしやすい堕天使で居てもらいたい…。更に言うなら天界に連れ帰りたいのだが…。それはもはや叶わぬ故…。地位も階級も捨てて会いに来てくれるのならば…不本意だが致し方あるまい」
ナンシーはシドと2人で居たい。けれども菩薩とは会いたい。光属性以外の種族で天界に出入りするのは精霊と死神。
精霊は天界よりもどちらかと言えば人間界に深い関わりを持つことが多い。
さすがにシドが天使になるといのは不可能なので、自ずと死神という選択になった。
ナンシーが堕天した直後は、天界に帰ったほうがいいと言うシドに対して、頑なに拒否したため、それなら2人で死神になろうかと話したという。
遺言とまではいかないが、菩薩がやってきて、もし自分が死んだら天界に帰れとナンシーは念を押されていたそうだ。
顛末を聞いた菩薩は、ナンシーから聞いていた事、更に自分自身が実際に関わって感じた部分も含めて、悔しいがこの悪魔を認めざるを得ないと判断した。
区切りをつけるように、フゥとため息をついた菩薩は自分自身に言い聞かせるように “ 致し方ないのう ” と、寂しそうに小さく呟いた。
「本来ならば、シド・ファッキンダムを滅却した後に試みようとしたのだが…。ハイタム」
呼ばれたハイタムは、腰に着けていた巾着から丸められた黒い珠のような物を取り出して菩薩に手渡した。
「…それは」
「シドの言霊だ…。此れが呪言ならば2つに別けることが出来る」
「…そんな事が出来るのか。神様ってのはすげぇな」
「それが出来るのは、命を司る神である菩薩だから出来ることだ」
「言霊に命を与える」
そう言い放った菩薩は唇から金色の息吹を吹き込む…。すると丸まった言霊がピクピクと動き出した。
菩薩はそれを掌で転がすと、小動物のように動いて分離し、1つはシドの口元に吸い込まれていった。
もう1つの言霊はヒラヒラと小鳥のように菩薩の周りを飛び交い、人差し指を差し出すとそこに止まってフニフニと蠢いている。その言霊の発する黒く濁った色合いを見た菩薩とミカエルは同時に同じ言葉を発した。
「…この言霊色は…呪言だな」
ミカエルは面倒くさそうに眉を潜めたのちに、シドのほうへチラリと目を向け、面倒くさそうに口を開いた。
「菩薩に感謝しろ。貴様の疑いは晴れた。私ならこんな面倒なことなどせずに、貴様を滅却していたがな…」
ミカエルの言葉に少々イラつきながらもシドは、初めから呪言だって言ってただろうと言おうとしたが、その言葉は飲み込んで小さく呟いた。
「…チッ。 偉そうに言いやがってナルシストが」
「…何か言ったか」
「なーんにも言ってないですよぉ。ミカエルさぁん」
小バカにするように振る舞うシドを小突きながら、ナンシーがミカエルを宥めている。
そんなやり取りを横目に菩薩は、言霊に自分の指先から金色の繊維のような物を創り出して、蠢く言霊に纏わせた。
「さすがに天界からでは遠すぎて無理だが、ここ地獄界という同じ空間ならば、もしやと思うてな…」
「…それは俺の為にか」
「たわけ。ナンシーの為だ」
「よいか?主は今から主の言霊を創りし者の元へ返り、その者をわらわの元へ連れてくるのだ」
菩薩の細胞から創られた繊維と結び着いた言霊は、上空を少し漂ったのちに方向を定めたように飛び去って行った。
「あの言霊の主がわらわの壊力を超える者なら連れては来れぬが、そうでないのなら必ずここに連れられて来る」
「何故だ?」
「わらわの結んだ繊維は、わらわの細胞を糸状にしたもの…。わらわよりも壊力が低い者には絶対に断ち切ることが出来ぬ」
「それなら大丈夫だ。ここに来る奴はもう分かりきってる」
「ロットン・ファッキンダム…か」
薄暗い地獄界の渦を巻くような雲に目を向け、暫し待とうと腰をおろした菩薩はシドにも腰を下ろすように促す。
「…シドよ」
「…なんだ」
「正直わらわの思いは複雑だ…。正解というものがわからぬ」
「それはそうだろうな。俺がアンタの立場だったら、俺を殺したくなると思うぜ」
「…殺そうとしたのは事実。そして主の覚悟がわらわの一撃を止めたのも事実だ。もう結果は揺らがぬ。だがな…、とても祝福する気分になど到底なれぬ」
「…だろうね」
「今一度聞くが、死神になるのは本気か」
「それは本気だ。俺は元々そういう悪魔の地位などに興味が無いってのもあるが、ナンシーとアンタは会える状態のほうが絶対にいいと思うからさ」
「相わかった…。ならば…主はわらわと盃を交わせ」
「盃だと?」
「待て待て菩薩。盃の意味分かってるだろう?死神になるとは言え、闇の者と盃など…」
「菩薩様。神と死神では身分が違いすぎるよ。しかもコイツはナンシーを堕天させたんだよ。私とロータムは賛成できないよ」
「ナンシーが選んだ道とはいえ、菩薩様がそれを認めたとはいえ、私も盃までは…如何なものかと思うよ」
「そんな堅苦しいモノではない。わらわは此奴を配下にしようなどとは考えてはおらぬ。ハイタムもロータムも険しい顔をするのはわらわの為だとは思うが、目を瞑うてはくれぬか」
生きとし生けるこの世界で共通する契り事の慣習に盃を交わす儀礼が在る。
人間社会の中でも、盃を交わして大事な約束事を取り交わしたり、契りを結ぶ儀式として定着している。
殊更、天界や地獄界では盃の意味合いは非常に重く、この身を尽くし生涯を捧げるという事の約束事に中る。
何百、多ければ何万という組織、宗派、集団と、種類は違えど盃を交わすとはその組織に加わるというのが通例である。
当然ながらハイタムとロータムは菩薩と親子の盃を交わしている。
「この盃はわらわの組織、宗派の一員になるものとは違う。わらわと主の1対1としての盃だ。意味は分かるな?」
「ナンシーを泣かすなってことだろ?」
「…平たく言えばそういうことだ。主が口先ではないのは理解しているがの…。強制はせぬがな…」
「…わかった。受けるよ。それでアンタの気が済むなら」
御神酒がなみなみと注がれた盃をシドと菩薩は手に取り、同時に口許へ運んだ。
その様子をミカエルは怪訝な表情で、ハイタムとロータムは些か納得のいかない表情を浮かべながら御神酒を飲み干すシドを見据える…。
天界に於ける菩薩の立場、階級…。神として君臨し、多くの部下を抱え、天界の中でも一大勢力の一角として幅広く認知され、絶対神 ” 理 “ (ことわり)の近くで名を連ねる神として数えられる1人でもある菩薩。
先の戦争で “ 理 ” の意識を初めて変えた神としても広く知られている。
その菩薩の盃が如何ほどの重さを持っているのかを知っているが故の心の表れだった。
裏を返せば菩薩がどれほどナンシーを溺愛しているかがよくわかる行為なのだと、改めてハイタムとロータムは理解した。
「アイツ呑み切ったな…。薄っぺらい気持ちで菩薩様の盃は受けれない筈だ…。」
「…ナンシー。菩薩様と、あのシドって奴に超愛されてるよ」
ハイタムとロータムの言葉にナンシーは頷きながら、自分がどれほど愛されてるのかを身に沁みる思いで涙を溢していた。
「ナンシーを頼むぞ」
「任せろよ。菩薩ちゃん」
「ちゃん?」
この無礼者と息を巻くハイタムとロータムを左手で制止しながら菩薩は、わらわを ” ちゃん “ 付けで呼ぶとは。と高らかに笑い声を上げた。
ミカエルはそのシドの太々しく無礼な振る舞いに先刻から眉をひそめたまま佇んでいる。
「…しかし神様ってのは強いな…。正直もっと喰らいつけると思ってたよ」
「まあ、まだまだ鍛練は必要だろうて…。聞くがシドよ…。腕を千切られたくらいならば、まだ反撃の余地はあった筈だが、何故わらわを1度たりとも殴らなかったのだ」
「…もう勝てねぇと悟ったからだよ。ま、言い訳するなら俺は女は殴らないってことだな」
シドの言葉に、先刻蹴られたロータムが苛立ちを見せながら声を上げた。
「おい!ぶざけんなよ、この野郎!!女は殴らないだと?!お前、私を蹴っただろう」
「あー…。お前はオッパイが無いから女と認識してなかった。悪い悪い」
「なん…だと…てめぇ…。私が…一番…気にしてる…ことを…」
ハイタムとロータムは褐色の双子の姉妹で、顔は瓜二つで全く見分けがつかないほどだが、2人を知る誰もが見分けがついてしまう。
その理由を誰よりも分かっているハイタムが、やや嘲笑うようにロータムを宥める。
「まぁまぁ…落ち着きなよロータム~」
「アンタはその無駄にでかいモノがあるから落ち着いていられるんだろうが!!オッパイが無くて女と認識されなかった者の気持ちはわかんないだろう!!なんで双子なのに私だけオッパイ育たないんだよ!!」
宥めるハイタムに構わず、涙目になってロータムが喚き散らかす最中、更にシドは止めの一言を吐いた。
「ハイタムはでかいのにな…。双子でこうも違うもんかね」
「お前!シド!!天界に来たら、私が赤手空拳の稽古つけてやる!!ボコボコにしてやるから覚悟しとけよ!!」
「…言霊が宿主を見つけたようだ」
菩薩の一言に皆の表情は一様に変わった…。
同じ頃、ベルゼブブの居城で顔役達と会食をしながら、大きな態度で振る舞うロットンは高らかに笑っている。
今頃シドは死んでるか、瀕死の筈だ。どの道、呪言の痕跡は解明出来ないから、シド殺されるか、天界で処刑される。
誰も真実に辿り着けずに戦争は終わり、俺は陣頭指揮を取ったことで功績が評価されて階級が上がる筈だ。
一石二鳥どころの騒ぎじゃないぜと上機嫌で酒を煽っている最中、ベルゼブブ達の前を金色の糸と融合した言霊がヒラヒラと飛び交い、禍々しいテーブルに着地した。小動物のように右に左に揺れながらチョモチョモと歩いて回る。
「…言霊だな」
「これは…呪言だな」
ベルゼブブのその言葉に、目を見開き、まさかと思った瞬間、言霊はロットンの口の中へ吸い込まれた。
結合していた金色の糸が舌に絡みつく。
「あががっ?! なんあ…おえあ…」
菩薩の絡めた糸がロットンの身体を引き摺る。
「なんあ…こえっ!!…きっ…切れねぇ!!」
やむを得ず、自らの舌を歯で千切り飛ばしたが、直ぐさま糸は喉笛に突き刺ささって侵入し、口から這い出て首に纏わりついた。ロットンは嘔吐きながら畜生などと毒づき、ベルゼブブの居城から引き摺り出されて行く…。その様を幾人もの悪魔はせせら笑いながら見送っていた。ロットンはベルゼブブの威光を笠に着て、酷く横柄な態度を取っていた為に他の悪魔から嫌われていたのは言うまでもない。
「…俺の予想は確信に変わりそうだな…」
そう呟いたベルゼブブは掌から水晶玉を創り出してテーブルに置き、ロットンの様子を観ながら近くに居た側近に、ロットンの実兄ライドン・ファッキンダムを呼ぶように命じた。
居城から引き摺り出されたロットンは驚異的な速度で引き寄せられて行き、ものの5分程度で菩薩達の前に姿を現した。
血反吐を吐き、嘔吐きながら悶絶するロットンを見据えて菩薩は口を開いた。
「此奴が…ロットン・ファッキンダムか…」
………続く。
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