女神の白刃

玉椿 沢

文字の大きさ
36 / 114
第3章「星を追った。ツキはなかった。花は咲いた」

第36話「センチになって 可愛いあのこの 夢を見る」

しおりを挟む
 躍り出た長身は、軽業ではファンをしのぐヴィーだ。身体の重心移動と跳躍を組み合わす事で、より高く、そして連続で飛び続けてくる。その上、最も手近な剣士が、ファンたちへスキルを降らせようと見下ろす形になっていた事がわざわいした。

「へぐ……」

 ヴィーが剣士の頭に手を掛け、呻き声すら押しつぶして着地する。その瞬間も、手にしている剣を一閃させ、切っ先が届く範囲にいた剣士の首を掻き切っていた。

 剣士が一斉にヴィーに向き直るのだが、精剣からスキルは放てない。

「待て! 放つな!」

 衛兵は必死の声を上げさせられた。

 ヴィーはするりと身体を滑り込ませ、領主の方へ移動していたからだ。無差別に攻撃スキルを放てば、流れ弾が領主に当たる。

「なら、斬りかかってくればいいだろう?」

 精剣も刃物だぞというのは、ヴィーの嘲笑だ。嘲笑を浴びせても、接近戦で活きるスキルを宿した精剣がないのでは剣士は来ない。純粋な剣技でヴィーに勝る事など不可能なのだから。

 斬り込んでくる気配がないと確信したヴィーが視線を巡らせる。領主は声を掛けるだけしか考えられていない訳ではないのだろうから、昇降する仕掛けがあるはずだ。それも隠すような仕掛けではあるまい。

 ――それか!

 ヴィーの目が、天蓋から伸びている赤い紐を捉えた。頭上から降りてくる自分に天使や神を投影しようとしているのだろう、と思わされる、派手さだった。

 紐を引いて仕掛けを操作すれば、ここへファンやパトリシアが昇ってくる。

「待て!」

 紐を握ったヴィーへ領主の声が届いた。

「ここまで土足で上ってくるのは、見上げた度胸だ」

 そんな言葉で顔を向けさせられたヴィーは、軽く首を傾げる。

 何をいおうとしているのか分からなかったからだ。

「時間稼ぎですか?」

 だからそういうと、紐を引いた。ゴグッと低い音がして、仕掛けが動く気配がする。水力なのか、それとも重量物を落下させる事で運動エネルギーを得ているのかは分からないが、壁の一部が分かれて隠されていた階段が姿を見せる。

 下は、既にファンと村人が制圧してしまっていた。敵と諸共に葬ろうとしていたのだから、衛兵など散り散りだ。

「上がれ上がれ!」

 領主のところまで詰めてしまえと、村人が気炎を吐く光景は、領主にとって悪い夢か?

 領主へと歩を進めるヴィーも、それをいう。

「酷い夢ばかり見ているだろう? 特に最近は」

 酷い夢が眼前に来たのだ。

「案外、自分のしている事が何を招くか自覚しているし、最近、地方領主を討った剣士の噂まで聞いた訳だ」

 Lレアの精剣を宿す身であるから、そうそう討たれるような事はないとたかくくっていられるのは、剣士の道理――精剣を得る事こそが命題だ――を知っている相手だからこそ。それに対し、伝え聞くフミを討った剣士は、Hレアの精剣を渡すというフミを無視し、アンコモンの精剣を振るって斬ったという。

「その剣士に対する恐怖が収まらないのでは?」

 ヴィーのいう通り。自分たちと違う行動原理を持ち、実際に行動する者に対する領主の恐怖は大きいという一言では収まらない。

 ――当然だ!

 領主はギッと歯軋りした。

 何もかもを奪われ続ける戦乱時に生まれ、既に何も持っていないにもかかわらず、何か持っているはずだと辱めを受けるだけだった少女時代。

 それを埋めるかのように、自分の身に宿ってくれたLレアの精剣。

 それを振るうに値する剣士と出会い、結ばれ、やっと手に入れた地位。

 夫となり領主となった剣士が不意の病にたおれた時、それらを守った自分を、誰にとがめられる資格があろうか!

「本来、私がいるべき場所、生きるべき時なのに……」

 歯軋りが大きくなる領主の気持ちは、ヴィーが言い当てる。

「そうでもしなければ、守れなかったか」


 全ては自分の身を守るため――。


 その時、領主がヴィーの表情に何かを見たのは逆光のためか?

「今ならば、許してやろう」

 取引できると思った。

「もしもその気があるのなら、我が精剣を操る資格もやる。奴らを斬り捨てるというのなら」

 ヴィーの技量にLレアの精剣が加われば、ファンもパトリシアも、何ならこの場にいる全員を血祭りに上げる事も可能だ。

「剣士になりたいのだろう? Lレアがあるぞ」

「そうだねェ」

 ヴィーの顔がフッと階段の方へ向けられた。

「精剣……欲しいねェ。とても、とても……」

「そうだろう! なら――」

 領主が身を乗り出した。

 だから次にヴィーから出て来た言葉を聞いたのは、領主だけだっただろう。

「とてもとても欲しいけれど、どうにも非時には届かない……」

 ヴィーの目には、Lレアが輝いて写っていない。

 だから剣が閃いて――。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル
ファンタジー
 異世界に降り立った刀匠の孫─影打─が読みやすく修正され戻ってきました。ストーリーの続きも連載されます、是非お楽しみに!  主人公、帯刀奏。彼は刀鍛冶の人間国宝である、帯刀響の孫である。  亡くなった祖父の刀を握り泣いていると、突然異世界へと召喚されてしまう。  召喚されたものの、周囲の人々の期待とは裏腹に、彼の能力が期待していたものと違い、かけ離れて脆弱だったことを知る。  そして失敗と罵られ、彼の祖父が打った形見の刀まで侮辱された。  それに怒りを覚えたカナデは、形見の刀を抜刀。  過去に、勇者が使っていたと言われる聖剣に切りかかる。 ――この物語は、冒険や物作り、によって成長していく少年たちを描く物語。  カナデは、人々と触れ合い、世界を知り、祖父を超える一振りを打つことが出来るのだろうか……。

科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜

難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」 高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。 だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや—— 「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」 「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」 剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める! 魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」 魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」 神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」 次々と編み出される新技術に、世界は驚愕! やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め—— 「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」 最強の頭脳戦が今、幕を開ける——! これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語! ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

魔法使いの国で無能だった少年は、魔物使いとして世界を救う旅に出る

ムーン
ファンタジー
完結しました! 魔法使いの国に生まれた少年には、魔法を扱う才能がなかった。 無能と蔑まれ、両親にも愛されず、優秀な兄を頼りに何年も引きこもっていた。 そんなある日、国が魔物の襲撃を受け、少年の魔物を操る能力も目覚める。 能力に呼応し現れた狼は少年だけを助けた。狼は少年を息子のように愛し、少年も狼を母のように慕った。 滅びた故郷を去り、一人と一匹は様々な国を渡り歩く。 悪魔の家畜として扱われる人間、退廃的な生活を送る天使、人との共存を望む悪魔、地の底に封印された堕天使──残酷な呪いを知り、凄惨な日常を知り、少年は自らの能力を平和のために使うと決意する。 悪魔との契約や邪神との接触により少年は人間から離れていく。対価のように精神がすり減り、壊れかけた少年に狼は寄り添い続けた。次第に一人と一匹の絆は親子のようなものから夫婦のようなものに変化する。 狂いかけた少年の精神は狼によって繋ぎ止められる。 やがて少年は数多の天使を取り込んで上位存在へと変転し、出生も狼との出会いもこれまでの旅路も……全てを仕組んだ邪神と対決する。

処理中です...