女神の白刃

玉椿 沢

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第7章「白刃は銀色に輝く」

第102話「風が東寄りに吹いてるときは 人にも獣にもいいことがない」

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 ドュフテフルスからフリーデンスリートベルクへ向かうには、二通りの選択肢がある。北へ船でゾルダーテンラーゲーへ渡ってから、陸路に変えて東へ向かうか、最初から東へ向かいトゥーゲントインゼルから船で直接、フリーデンスリートベルクへ向かうか、だ。

 ファンが選んだのは、直接、乗り込むのではなく、北へ向かう事だった。

「来た時と同じだね」

 潮風に目を細めるザキは、違う道があるならば違う道を行きたかったのかも知れないが。

「それが一番、安全ッスからね」

 短くしかいわないファンは、海路は逃げ場がない、と思っている。陸路ならば進路変更も容易いが、船はそう簡単にいかない。特に内海は凪いでいるが、真っ直ぐ東へ行った場合、内海と外海を繋ぐ海峡を渡る必要がある。そこは難所だ。

 ――そんな所で襲われたら、逃げるに逃げられない。

 追い込んで足を止めるだけで終わってしまうような場所へは、今の状況では踏み込みたくないというのがファンの本音だった。

 ――どんなスキルを秘めた精剣せいけんがあるのか見当が付かないしな。

 仮にワールド・シェイカーのように、地形を隆起させるスキルを大規模に扱える精剣があったとすれば、船上でそれを浴びるのは危険も危険。

 とはいえ、これはザキに話したくない。コバックが嫌う。危険な所へ行こうとしている事も、剣士との戦いがある事も承知しているが、子供に戦場の存在を教えたい親などいない。

「東へ行くと危ない所ですからね」

 エルが言葉を引き継いでくれたのは、ファンとしては助かった。

「東は、内海と外海を繋いでる海峡を通らないとダメですから。引き潮と満ち潮でを巻くんです」

 襲われる可能性よりも、難所である事で説明する。

「渦?」

 ザキが目を丸くした。

「渦ッスね」

 ファンは両手を大きく広げ、15人乗り、荷物ならば穀物に直して1000リーベ――成人1000人が1年間に食べる量――を積載できる船の前後を指差した。

「この船と同じくらいの大きさの渦が、この船と同じくらいの速さで回ってるんス。飲まれたら酷い事になるッス」

 外航船ならばいざ知らず、内航船では危険な場所であるが、見た事のないザキは楽しそうなものを想像しているが。

「渦かぁ」

 しかしザキの隣にいるインフゥは、全く違うとてつもないものを想像しているらしい。

「波があるのに、渦を巻くんだ……」

 首を傾げているインフゥへは、ヴィーが説明してくれる。

潮汐ちょうせきによって内海から外海へ海水が流れ込んだり、逆に流れ出したりするんだ。海底の地形で内海と外海の水位差があるから、こういう事が起きる」

 そしてインフゥへは、ヴィーも声を潜めて本当の理由を告げた。

「地形を操るような剣士が来たら、簡単に全滅させられる」

 外航船や軍船ならばいざ知らず、内航船では一溜ひとたまりもない。太古から海運に携わってきているドュフテフルスには、遠く大陸までの航海も可能な外航船や軍船を所有しているが、子爵家の名でフリーデンスリートベルクへ出ている訳ではないのだから、それを出せない。民間の廻船かいせん業者に頼る他に手がなく、民間が所有する船は当然、大帝家が規制している。

 インフゥも言葉を少なくされてしまう。

「……そうですね……」

 この旅は、ファン一座の巡業ではない。


 今までは偶々たまたま、通りがかった場所のもめ事を解決してきたファンだが、今回、初めて戦闘を目的として向かっているのだ。


 ファンとヴィーがムゥチから贈られた新しい衣装が――ムゥチはくまでも衣装だといったが――防具としての性能を備えている理由はひとつ。

 戦闘への備え。

***

 ゾルダーテンラーゲーへ到着しても、ヴィーはフリーデンスリートベルクへ直行させなかった。

 理由は簡単で、

「あと二組、加えますよ」

 大公が選び、書簡を発行した相手は、ファン、ヴィー、インフゥ、コバックの他にもいる。それはファンにも簡単に想像のつく相手だ。

「あァ」

 ファンが想像した通りの相手が、ゾルダーテンラーゲーの玄関口、ゴットテューア港に立っている。

 ヴィーが手を振った。

「ユージン! パット!」

 その二人の剣士は、それぞれの精剣を宿すカラとエリザベスを連れてやってくる。


 あの上覧試合に集まった面々だ。


 決して多勢という訳ではないが、何も知らない相手ではないのだから、言葉は一つだけ。

「心強いッスね」

 ファンはニッと白い歯を見せて笑った。


 ここからフリーデンスリートベルクまでは陸路である。


「馬車も新しくなったし、快適ッスよ?」

 伯父と父親が用意してくれた自慢の馬車だ、とファンは4人を手招きした。
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