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第7章「白刃は銀色に輝く」
第104話「知らぬ他国の 花を見た」
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この時、ファンと少年のどちらが救われたと思ったか?
恐らくは双方とも。
ファンは壊滅させられたと思わされた村に生き残りがいた事で、また少年は嘗て剣士を平らげたファンが来てくれた事で、精神的に救われた。
少年に案内された先で、ファンが思わず大声を出してしまうくらい。
「避難してたんスね!」
文字通り避難してきたとしかいい様のない、掘っ立て小屋くらいしかないような場所であるが。
そんな避難した村人の中にあって、一際、大柄な男がファンたちを案内してきた少年の頭を撫でた。
「何とかな」
それは酒場を切り盛りしていた男で、ファンも少年の後を追って小走りになるが、
「随分、待たせてしまっているらしいッスね……」
砕けた口調とは裏腹に、軽く目を伏せてしまう。
伯父である子爵に相談すれば事足りる、と思ってしまったのは自分の不明だと恥じてしまっているからだ。
しかし店主は分厚い拳をファンの胸に当て、
「基本的には、自分たちの事は自分たちで守る事になるっていってたろ」
恨み言がない、とまでは口にできないが、ファンに対し、そんな気持ちをぶつける気は、さらさらない。
「嘘はいってないし、また来るっていった言葉を裏切ってもない。それで十分だ」
店主はもう一度、今度はバシッと乾いた音を立てさせて、ファンの背を叩いた。短い言葉、少々、痛い歓迎だが、ファンにも通じる。
「そういってもらえるなら……」
しかし愛想笑いになってしまっては、背後からエルに頭を叩かれるのだが。
「笑顔を絶やさないのが芸人でしょ」
愛想笑いは笑顔ではない。
「そうッスね、そうだったッスね」
ファンは苦笑いを消し、少々、疲れた顔を見せている村人へ向かって大きく手を振る。
「あれから団員もいっぱい、できる事もいっぱいッスよ!」
ユージンやパトリシアは違うが、インフゥやコバックはファンと共に芸人として共に旅をしてきた。
「ラッパ吹くッスよ。エル!」
「はい」
エルはパンッとを手を叩いた。
「ピアノがないけど、エルの本業は歌ッスからね」
ファンは笑いながら、荷馬車から愛用のラッパを取り出す。スライドを調整してハーモニーを得るラッパで、成人男性の声域に近い音域を持つ愛用品だ。教会音楽に重宝されるため、世俗的な音楽では自重する風潮があるのだが、道化も演じるファンに禁忌はない。
スライドを操作して低音から高音へと駆け上がらせたにラッパの音は、聞く者の心にかつての村を蘇らせる。
ファンが初めて訪れた夜だ。
エルのピアノはないが――、
「はい、はい」
今はザキの太鼓があった。バネ状にした金属を響き線にした両面太鼓は、耳に心地よい高い音を立てる。
ファンのラッパが奏でるメロディと、ザキの太鼓が見せるリズムに乗せ、朗々とエルが歌う。
それだけでなくインフゥがステップを踏み、そのダンスが最も村人の視線を釘付けにした。
ホッホが加わっているのだから。
インフゥに合わせ、股を潜る、膝を飛び越えるなど、犬がリズムを取ってステップ踏む様は、ファンやヴィーが決める軽業の比ではなく観客を沸かせる。
そこへヴィーもラッパを持って参加すれば、音楽は最高潮に達する。
ホッホはインフゥだけでなく、ファン、ザキ、ヴィー、エルの周囲もクルクルと旋回し、或いはジャンプしていくのだが、これが全く音楽を阻害しない。
「はいッ!」
ザキが太鼓を叩く音で、ヴィーとファンのラッパが止まる。野外であるから残響はないのだが、聞き入っていた村人の心中で残響させる、それくらいの力を示していた。
「すっげぇ、すっげぇ!」
店主の甥が頻りに手を叩く。
――いや、自分が本当に得意なのラッパなんスよ。
その言葉が嘘でない事を証明しつつ、もう一つ、村人たちに染み渡る事実がある。
ファンの本業は旅芸人であり、剣士は不本意な副業だ、と。
そしてファンはいつもいう。
「戦乱で赤茶けた地を町や畑に、煤けた顔を笑顔に!」
常に心に置いている言葉を口だ。
「でも、それよりも――」
しかし今は、それよりもいいたい事がある。
店主の甥に近寄り、その目元を拭い……、
「例え瑠理や翡翠になる涙でも、笑顔に勝る輝きはないッスよ」
一時の笑顔であろうとも、この顔をできるのは剣士ではないのだ。
「はい、ファン!」
そこへエルが布に萁を詰めた小さなボールを投げ渡す。
「ほい!」
受け詰めたファンはひらりと上へ放り投げ、2つ、4つ、8つと宙を舞わせるボールを増やしていく。
×字、○字と変化させつつ高さを伸ばし、最高点に達すると逆に低くしていき、8つのボール全てがファンの手持ちに戻ってくると、8つのボールは姿を消し、人の顔程もある巨大なボールに姿を消す。
「はい……よっと!」
ファンがボールを大きく投げ、高く高く上がったところで、ヴィーがナイフを投じた。
「ッ!」
ボールはパンッと弾け、辺り一面に紙吹雪が舞い降る。
「ファン一座、ご当地に再び参上!」
ファンの掛け声に一座が揃って見得を切ると、誰ともなく拍手が起こった。
だが同時に、歓迎されない者も。
「あ、あいつら!」
村人の顔に戦慄が走る。
領主を名乗る者が放った敵だが、ファンは、今でも芸人の姿勢を崩さない。
「無粋ッスなァ!」
同じくヴィーも、今度は自分がトップだと躍り出て、
「では、ここからは初お目見え。大活劇と参りましょう!」
一際、明るくいう。
「抜剣!」
戦いすら、村人に暗い影を落とさせない気概を見せるつもりだ。
恐らくは双方とも。
ファンは壊滅させられたと思わされた村に生き残りがいた事で、また少年は嘗て剣士を平らげたファンが来てくれた事で、精神的に救われた。
少年に案内された先で、ファンが思わず大声を出してしまうくらい。
「避難してたんスね!」
文字通り避難してきたとしかいい様のない、掘っ立て小屋くらいしかないような場所であるが。
そんな避難した村人の中にあって、一際、大柄な男がファンたちを案内してきた少年の頭を撫でた。
「何とかな」
それは酒場を切り盛りしていた男で、ファンも少年の後を追って小走りになるが、
「随分、待たせてしまっているらしいッスね……」
砕けた口調とは裏腹に、軽く目を伏せてしまう。
伯父である子爵に相談すれば事足りる、と思ってしまったのは自分の不明だと恥じてしまっているからだ。
しかし店主は分厚い拳をファンの胸に当て、
「基本的には、自分たちの事は自分たちで守る事になるっていってたろ」
恨み言がない、とまでは口にできないが、ファンに対し、そんな気持ちをぶつける気は、さらさらない。
「嘘はいってないし、また来るっていった言葉を裏切ってもない。それで十分だ」
店主はもう一度、今度はバシッと乾いた音を立てさせて、ファンの背を叩いた。短い言葉、少々、痛い歓迎だが、ファンにも通じる。
「そういってもらえるなら……」
しかし愛想笑いになってしまっては、背後からエルに頭を叩かれるのだが。
「笑顔を絶やさないのが芸人でしょ」
愛想笑いは笑顔ではない。
「そうッスね、そうだったッスね」
ファンは苦笑いを消し、少々、疲れた顔を見せている村人へ向かって大きく手を振る。
「あれから団員もいっぱい、できる事もいっぱいッスよ!」
ユージンやパトリシアは違うが、インフゥやコバックはファンと共に芸人として共に旅をしてきた。
「ラッパ吹くッスよ。エル!」
「はい」
エルはパンッとを手を叩いた。
「ピアノがないけど、エルの本業は歌ッスからね」
ファンは笑いながら、荷馬車から愛用のラッパを取り出す。スライドを調整してハーモニーを得るラッパで、成人男性の声域に近い音域を持つ愛用品だ。教会音楽に重宝されるため、世俗的な音楽では自重する風潮があるのだが、道化も演じるファンに禁忌はない。
スライドを操作して低音から高音へと駆け上がらせたにラッパの音は、聞く者の心にかつての村を蘇らせる。
ファンが初めて訪れた夜だ。
エルのピアノはないが――、
「はい、はい」
今はザキの太鼓があった。バネ状にした金属を響き線にした両面太鼓は、耳に心地よい高い音を立てる。
ファンのラッパが奏でるメロディと、ザキの太鼓が見せるリズムに乗せ、朗々とエルが歌う。
それだけでなくインフゥがステップを踏み、そのダンスが最も村人の視線を釘付けにした。
ホッホが加わっているのだから。
インフゥに合わせ、股を潜る、膝を飛び越えるなど、犬がリズムを取ってステップ踏む様は、ファンやヴィーが決める軽業の比ではなく観客を沸かせる。
そこへヴィーもラッパを持って参加すれば、音楽は最高潮に達する。
ホッホはインフゥだけでなく、ファン、ザキ、ヴィー、エルの周囲もクルクルと旋回し、或いはジャンプしていくのだが、これが全く音楽を阻害しない。
「はいッ!」
ザキが太鼓を叩く音で、ヴィーとファンのラッパが止まる。野外であるから残響はないのだが、聞き入っていた村人の心中で残響させる、それくらいの力を示していた。
「すっげぇ、すっげぇ!」
店主の甥が頻りに手を叩く。
――いや、自分が本当に得意なのラッパなんスよ。
その言葉が嘘でない事を証明しつつ、もう一つ、村人たちに染み渡る事実がある。
ファンの本業は旅芸人であり、剣士は不本意な副業だ、と。
そしてファンはいつもいう。
「戦乱で赤茶けた地を町や畑に、煤けた顔を笑顔に!」
常に心に置いている言葉を口だ。
「でも、それよりも――」
しかし今は、それよりもいいたい事がある。
店主の甥に近寄り、その目元を拭い……、
「例え瑠理や翡翠になる涙でも、笑顔に勝る輝きはないッスよ」
一時の笑顔であろうとも、この顔をできるのは剣士ではないのだ。
「はい、ファン!」
そこへエルが布に萁を詰めた小さなボールを投げ渡す。
「ほい!」
受け詰めたファンはひらりと上へ放り投げ、2つ、4つ、8つと宙を舞わせるボールを増やしていく。
×字、○字と変化させつつ高さを伸ばし、最高点に達すると逆に低くしていき、8つのボール全てがファンの手持ちに戻ってくると、8つのボールは姿を消し、人の顔程もある巨大なボールに姿を消す。
「はい……よっと!」
ファンがボールを大きく投げ、高く高く上がったところで、ヴィーがナイフを投じた。
「ッ!」
ボールはパンッと弾け、辺り一面に紙吹雪が舞い降る。
「ファン一座、ご当地に再び参上!」
ファンの掛け声に一座が揃って見得を切ると、誰ともなく拍手が起こった。
だが同時に、歓迎されない者も。
「あ、あいつら!」
村人の顔に戦慄が走る。
領主を名乗る者が放った敵だが、ファンは、今でも芸人の姿勢を崩さない。
「無粋ッスなァ!」
同じくヴィーも、今度は自分がトップだと躍り出て、
「では、ここからは初お目見え。大活劇と参りましょう!」
一際、明るくいう。
「抜剣!」
戦いすら、村人に暗い影を落とさせない気概を見せるつもりだ。
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